半年後には

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カカサス,成人向,短編,僧侶パロ,小説僧侶と稚児シリーズ,エロ描写有

 カカシが勢いに任せて宣言した事が気にかかっていた。
「一年後にはサスケを僧侶に」
 それは、俺がカカシの稚児として世話をしなくなることを意味している。
「遊びじゃない」
 カカシはそう言った。その言葉の意味は何なんだろう。もしも、本気で俺の事を好いているという意味であれば、俺が僧侶になった後カカシはどうするつもりなんだろう。
 しかし宣言通りに、あれ以降カカシは今までよりも熱心に俺に様々な事を教えてくれるようになった。それはとても有難い事だと思う。
 半年後に、僧侶への昇格が掛かった試験がある。それに合格すれば晴れて僧侶の仲間入りだ。とは言え、階級は一番下からだけど。念願が叶うと言ってもいい。
 念願が叶うのだから、今こうして熱心に教えられている事は好ましくまたとない機会、なのだけど後ろ髪を一筋引かれているように思えてしまう。僧侶になれば、カカシから離れなければならないと。
 夜伽は相変わらず続いていた。口付けの時間が長くなったような気がするのは俺の思い違いだろうか。
「カカシは本気で俺を僧侶にする気なのか。」
 教えの歴史を紐解く書物を開きながら何気なくカカシに尋ねた。返ってくる答えはわかっている。それでも確かめたかった。
「遅かれ早かれサスケはそうなる、これだけ優秀な奴をいつまでも稚児のまま飼い慣らす程うちの寺は余裕はないよ。あとまぁ、宣言しちゃったからにはそれなりに成果を示さないとね。」
 蝋燭の火が揺れる中、書物に書かれていることにひとつひとつ補足するその言葉を俺は筆を走らせて白い紙に書き残していく。
「そうか、……俺が僧侶になったら、あんたの稚児も卒業だな。」
 言葉にしたものの、カカシはそれに対して返事をしなかった。
「今は雑念を捨てな。」
 雑念……煩悩……少し前まで馬鹿にしていたそれが今俺の頭の中にあるのが癪だ。
 いつの間にかカカシとの生活が当たり前になっていて、いつの間にかカカシと過ごす時が嬉しく感じるようになって、間近でその声を聞くことも、しょっちゅうまぐわうことも、僧侶になればなくなると思うとやはり少しの引っ掛かりを感じる。
「……しかしこんなにも勉学に励む必要があるのか。他の僧侶は……何と言うか、こんなにも……」
「ああ、質が悪いね。阿呆ばかりでうんざりする。サスケには試験で三階級は飛ばして貰う。その後の半年で上の下まで上がって貰う。」
「……飛ばし?」
「俺が育てるのにただの僧侶から始めさせるわけないでしょ。試験の段階で中堅程度の階級から始めて、その後折を見て俺が推薦するからその都度階級を上げていきなさい。」
 中堅、というと海野先輩と同じだ。いきなりそんな階級の僧侶になれるものなのか。……と思ったが、よくよく考えてみたらカカシは俺よりも若くして僧侶となりいきなり説法をして回れる階級だった。つまり紺色よりも上の階級だった。「飛ばし」というのははじめて聞いたが、そういう事なんだろう。
 一刻の間密度の高い教えを受けて、布団に入る時間になり書物を閉じた。
 布団を出そうと立ち上がろうとしたら、隣にいたカカシが俺の頬に手を添えて口付けが始まる。
 まだ布団も敷いてないのに――そんなことも、唇を重ねて舌を絡め合ううちにどうでもよく思えてきた。いつからだろうか、口付けが気持ちいいと感じるようになったのは。
 下衣がはだけられて後ろの孔に指が添えられる。いつの間に通和散を用意していたのか指はぬるりと入ってきて内側を刺激する。口付けをしたままピク、と反応する身体。ゆっくりと身体を倒されて座布団を背に横たえられる。
 解放された口からは中を刺激されるたびに声が漏れ出て俺の中心は硬く芯を持ち始めていた。
「は、……あっ、ん、カカシ、……っぁ、あっ」
 こういう事も半年後僧侶になればする事はなくなる。カカシはそれで良いのだろうか。引っ掛かりを感じているのは俺だけだろうか。
 後ろからされる事が多かった、けど今は目の前にカカシの顔があって残り少ない蝋燭がその顔をゆらゆらと照らしている。
 いつもの気の抜けた顔のように見えてそのまなざしは俺を熱っぽく見つめていた。ねちっこく内側を刺激するいつもと違ってカカシも早々に下衣をはだけてそれを孔に添えてぐっと押し込んでいく。ぬるっと中に入ったそれはゆっくりと奥まで入ってきて、そしてカカシは俺の身体を抱き寄せた。後ろから抱きしめられる事はしょっちゅうだけど、前からなんではじめてだ。
 ぎゅっと力が入った手、うなじにかかる息、カカシがか細い声で言う。
「……俺だって手放したくなんかないよ……」
 小さな声、でも確かにカカシはそう言った。
「サスケだからだよ」
「遊びじゃない」
 あの言葉は、本当に? 本気で?
 俺だけじゃなく、カカシもこの関係が終わることを内心では……。
 でも、カカシは知っていたはずだ。遅かれ早かれ、俺はじき僧侶になってカカシの稚児ではなくなることを。
 ……もしかして、だから戯れのように装っていたのだろうか。いずれ終わることがわかっていたから、ただの僧侶と稚児の関係を崩さないようにしていたのだろうか。
「っあ、あっ! んぁっ、あっ!」
 抱きしめられながら始まった律動、この俺を抱きしめる腕の意味を思うと目に熱いものが込み上げてくる。
 俺だって。
 俺だってこのカカシとの生活が終わるのは嫌だ。
 どうすればそれがカカシに伝わるだろうか。俺はその背中に手を伸ばして抱きしめようとした。けれどカカシはするっと腕を抜いて上半身を上げてしまい、その手は空を切る。
 消えかけている蝋燭が照らしたカカシの顔は葛藤に揺れていた。カカシがふっと息を吹きかけて、蝋燭の火が消える。月明かりしかなくなった部屋の中、俺は座布団の上で揺さぶられながら、カカシが今どんな顔をしているのか気になっていた。
「っカカ、いっ、ぁあっ! いくっ、っあ、ああっ!!」
 俺だって、抱きしめたかった。カカシに俺の短い腕は届かない。
 全部出るまで下半身がこわばって、奥に入っているカカシのその先端からじわっと熱いものが広がるのを感じる。
 乱れた息を整えていると、乱れた息のままのカカシがまた口付けをする。頭の後ろを支えられて、深く、深く。
 今日のカカシはどこかおかしい。
 いつもの欲求をぶつけるようなまぐわいではなく、まるで俺を愛しむような……。
 それが単なる気まぐれなのか、俺のことを本気で想っているのか。長い口付けが終わって、カカシから解放された俺は下衣を整えて押し入れの布団を取り出す。
 何かカカシに言うべきだろうか。
 それとも言わないべきなんだろうか。
 カカシも俺も無言のまま、布団を一式部屋の中央に敷いた。太ももに温かいものが伝って落ちてきて、手拭いを股に挟んでいなかったことに気づく。部屋の端に行き下衣を下ろして手拭いで太腿の液体を拭いそのまま股に挟んだ、と想ったらその手拭いが後ろからすっと抜きとられる。
 ……またするのか、とため息をつきながら、求められることを嬉しいと思う自分もいる。手を引かれてさっき整えたばかりの掛け布団が放り出されたそこに横になり、後ろを向かされていつものまぐわいが始まった。
 こうして寝不足の頭で目が覚めるのも、あと半年の間。
 後ろから俺を抱きしめられているその手首を、俺はぎゅうと握りしめていた。
 
 2回で済むわけがなくやっぱり睡眠不足の頭でカカシに起こされる。
 慌てて顔を洗うための桶に水を汲みに行って、服を整えてから食事を取りに行く。
 そういえば、忘れていたけどこの食事もカカシに合わせているわけだから、僧侶になったら他の僧侶と混じって食堂で取るようになるのか。
 そう思うと目の前の食事が特別なもののように感じる。
 チラとカカシの顔を見てみると目が合った。慌てて視線を下げて料理を見る。
 カカシは何で俺を見てたんだろう。もしかしてずっと見ているのだろうか。自然と背筋が伸びる。
 でも、何のためにカカシは俺の食事を見ているのだろうか。
 
 わからないことだらけのままだけど、今日もどこかに説法に出掛けるらしい。
 食事を終えたお盆を片付けて身なりを整え、カカシの法衣も確認してから、カカシが凛とした所作で車に乗り込むのを確認してから俺もできるだけカカシと同じように車に乗り込む。
 今日は近場らしいから車の中でも何もしないだろう。
 カカシの隣に腰を下ろして背筋を伸ばし、目的地に着くのを待ちながら、俺が僧侶になったらカカシは別の稚児をつけるのだろうか、と思うと何だか嫌な気持ちが込み上げてくる。
 他の稚児にも俺と同じようなことをするのだろうか。……そんなの、嫌、だな。
 でも今のところ、カカシのような上級僧侶に見合う稚児はうちの寺にはいない。……いないけど、カカシが望めば他の寺から来るかもしれない。そうなったらカカシは、また……。そんなこと、考えたくない。
 そこまで考えて、俺はカカシを独占したままでいたいのか、と思い至った。何故そんなことを、考え、て……俺は、カカシのことが?
 違う、そんなんじゃない。カカシはあくまで俺の師で、ちょっと煩悩が多すぎる、厄介な……厄介だけど、俺はそんなカカシと過ごす時間が好きで、それはつまり……。
 ガタン、と車が止まる。ひとつ隣の村だ、やっぱりすぐに着いた。
 俺は先に降りて足元の小石をよけ、少ししてカカシが車から身を乗り出す。
 小さな小さなボロボロの寺の本堂には、既に十人ほどの人が集まっていた。
 説法を始める時間は30分先だ、けどカカシは穏やかな顔でそのひとりひとりの手を取って挨拶をして回る。
 本堂へ上がり小さな御本尊様に手を合わせてから、どんどん集まる人々にカカシは言葉をかけ続けた。
 そして十分に人が集まってから、傍に正座する俺の背に手を添える。
「このサスケは私の一番弟子で、何十回と私の話す様を見てきております。今日は最初に少し、サスケの説法を聞いてやってください。」
 何の心の準備もしていなかった俺は頭が真っ白になった。カカシを見上げると、穏やかな笑みを俺に向けている。
 こんな舞台を用意されたのでは、喋るしかない。
 しかしいったいどんな話を……確かこの村は一度戦の後に逃げてきた兵の略奪を経験している。それに因んだ話……カカシが喋っていたこと……。
「……サスケと申します。此度は私のような未熟な者にも語る機会を下さり感謝いたします。……人は時に愚かな行いをするものです。しかしその愚かな行いにもそれなりな理由がございます。命からがら戦場から脱し生き残るためなら何でもする修羅と化した者も、平穏に暮らしていればそんな行いをすることは無かったことでしょう。その者には罪はなく、その者を修羅にした戦こそが罪なのです。然し乍ら、その修羅により傷つき平穏を絶たれた者がいるのもまた事実。奪われ傷つけられたものが戻ってくる事はありません。ただその事実にいつまでも囚われていては見えるのものも見えなくなってしまいます。赦す、という事は簡単には出来ません。しかし仏様は全ての者を赦し涅槃へ通じてくださいます。…………」
 10分程だろうか、集まった民衆の顔をそれぞれ見ながら、喋りっぱなしではなく人々の反応を見ながら、時にひとりの女性に向かって話しながら、何とか最後まで話し通すことができた。
 頭を下げると、拍手が起こる。俺は頭を下げたまま、胸に込み上げるものを感じていた。
「サスケ、面を上げなさい。……斯様に私の一番弟子はなかなかに優秀で、まだ僧侶にもなっておりませんが、じきに私に代わってまた此方へ赴く時が来るやもしれません。そのときはまた話を聞いてやってください。幼いながら、しっかりと芯があり、また民のこともよくわかっております。……さて、本題に入るとしましょう。本来説法とは実在の出来事を仏門の教えに照らし解釈したものを話すことが一般的ではありますが…………」
 カカシの説法が始まって、それに聞き入りながら俺もカカシと同じように民を前にして話す時が来るのだと改めて思った。その練習の舞台をカカシは用意してくれたのだ。近い将来、僧侶になる俺のことを思って。
 
 その日の夜も向かい合ってまぐわいが始まった。一番最初にされたときとはまるで逆のその熱い視線に胸の鼓動が早くなるのを感じる。
 その目、あの言葉、カカシはもしかして、嘘偽りでなく、俺に対して……。
 確かめたいような、確かめてはいけないような、気持ちが揺れる。だってカカシの言うことが本当なら、俺たちは半年後の試験の後……こういう関係では、なくなってしまう。
 それがわかっているからなのか、カカシはもうそういうことに言及する事は無くなった。ただ、正面を向いたまままぐわうことが増えたと思う。俺はどこを見たらいいのかわからなくて天井に視線を向ける。あの目を見てしまったら俺の中の何かが変わってしまいそうな気がした。だから見てはいけない、そう思っているのにその天井に向けた視線を遮るようにカカシは俺の顔を自分に向けて、そして口付けをする。
 今まで口付けなんて滅多にする事はなかったのに、あの日からカカシは後ろからじゃなくこうして正面を向き合ってまぐわいながら口付けをすることが増えた。
 それが何を意味するのかわからないままその唇を、舌を受け入れているうちに俺はその口付けに夢中になってしまう。俺の知らなかった気持ちいいことがまだあったなんてと最初は戸惑ったけど回数を重ねるにつれ今日もするだろうかと期待するようになった。
 思わず口にしそうになる言葉を飲み込んでカカシの熱い視線を浴びながら戸惑い、そしてこの先のことを思うと目頭が熱くなってしまう。
 もう、カカシとこうする事はなくなる。
 その日が近づくにつれ胸に込み上げる気持ちは強くなって、でも俺は僧侶になることが夢でカカシはその夢を後押ししてくれていて、そして夢が叶うと同時に俺はカカシから離れなければならなくなる。
 最初は痛くて仕方がなくて声を出すふりなどして嘲笑され、早く終わってくれと願いながら受け入れていたこの行為はいつの間にか当たり前になり、そして俺自身も望むようになり、カカシという人物に対してどう考えれば良いものか悩みながら遊びじゃないという言葉に胸が高鳴って、そうしているうちに俺にはどうにもできないくらいにこの気持ちは膨らんでしまった。
 カカシが好きだ、離れたくない、このままずっとそばにいたい。
 そんなことを言おうものならカカシも困ることだろう。カカシに課せられた役目は俺を僧侶にすることであって恋仲になる事ではない。
 そもそも稚児に過ぎない俺は元来僧侶の慰み者でしかないのにこんな思いを抱いたって報われることなんかない。
 わかっていてもカカシの目を見ながらまぐわっているとどうしてもこの思いが溢れ出そうになってしまう。
 カカシがそんな目で俺を見るからつい期待してしまうのだ。もしかしたら、僧侶になった後も、と。
 僧侶に僧侶がつくなんて今の寺では見たことがない、そんな事はありえない。期待なんてしちゃだめだ。この関係はじき終わるのだから。
 そう思いながらカカシを受け入れていると涙が出そうになってしまう。熱くなる目頭をぐっと堪えていつものように振る舞おうにもいつもどうだったかなんて覚えちゃいない。
 いっそこの胸の内をぶちまけてしまいたい、泣きながらカカシに縋って離れたくないと喚きたい。そんなことをしても困らせるだけなのはわかっている。わかっているけれどこのまま終わるなんて嫌だと訴えたかった。カカシが好きだ、離れたくない、そう言えたならどれだけ胸のわだかまりがなくなることだろう。
 刻一刻とその日は近づいていて、いよいよ残り一週間を切ったところでカカシは俺に手を出すことをピタリとやめてしまった。
 どうして。
 なんで。
 カカシは俺と視線を合わせることさえしなくなってしまった。
 相変わらず勉学は熱心に教えてくれている。しかし俺の顔ではなく書物に視線を落としながら書かれている内容を補足する。
 この記述に至った背景には斯様な出来事があり……と説明するカカシの言葉を残らず拾って筆を走らせながら、こころに虚無が生じているのを感じていた。そしてその虚無は数日後、もっと大きくなっていることだろう。夢と引き換えに俺は大切なものを失う。仏様が目の前にいたとすればそんな俺に何とお声をかけて下さるだろうか。
 人を愛しむことは正しい事だと教わった。それであればカカシは……カカシは俺とのまぐわいをやめることはなかっただろう。つまるところ遊びではないとは言えカカシにとって俺の存在は愛しむほどのものではなかったという事だ。
 虚無が大きくなって行く……。
 
 俺ばかりが、この想いを抱えている。
 俺ばかりが、想いを募らせている。
 その事実を突きつけららているようで、それならばいっそ寝食を共にするのも終わりにしたかった。
 しかし変わらず同じ布団で寝て、同じ食事をとって、ただカカシはもう俺に触れることはなくなり、俺を見ることをしなくなった。
 それが刃のように胸に突き刺さり胸の中に血溜まりができていく。
 冷静になれ、今は僧侶になることを、飛ばしで階級を上げることを第一に考えなければ熱心に教えてくれているカカシのしてきたことを無碍にしてしまう。想いが叶うことがないならば、せめてカカシの一番弟子として立派な僧侶にならなければいけない。
 後ろ髪を引いていたのはいつの間にかひとふさどころではなく、俺の頭ごと引くようになっていた。
 
 明日、俺はカカシのそばから離れる。
 その夜、布団に入る前に俺は正座してカカシに頭を下げた。
「これまで、多くのことを教わり、感謝申し上げます。カカシのおそばにつかせて頂いた事は、かけがえのない経験となり……、……大切な、……、」
 目頭が、また熱くなる。最後まで言え、言うんだ。
「……大切な記憶として、一生忘れる事はございません。今まで、……ありが……とう、ござい、まし、た。」
 ぱた、と畳に水滴が落ちる。だめだ、泣いちゃだめだ。この涙腺がおさまるまで、何を言われても顔を上げてなるものか。
 しかしカカシは何も言わなかった。俺は頭を上げられないまま数刻経って、目にぎゅっと力を入れて面を上げると、一週間ぶりにカカシの視線とかち合った。
 カカシは難しい顔をしながら視線を逸らしてため息をつく。
「どれだけ俺が我慢してきた事か……それを台無しにするような真似をしてくれたものだ……。」
 独り言のように呟いたその言葉の意味を尋ねようか悩んだ。独り言に口を挟むのは無粋だ。しかし俺に向けて言ったのであれば何か答えなければならない。
「選択肢は二択……然し片方は取るわけにはいかない。それがサスケのためだ。けど俺の本心はその片方を望んでいる。……いや、サスケの将来を思うなら……。」
 悩んでいる?
 選択肢とは何だ。
 いつにない様子のカカシに何と声をかけたら良いのかわからない。
「……俺は今するべき事をするべきだ。」
 結論が出たのだろう、カカシはいつものように布団の左側に寝そべり、隣をぽんぽんと叩いた。
「……お邪魔します。」
 俺はその布団の右側に、カカシに背を向けて寝転がり布団をかける。
 カカシはそれ以上、何も言わなかった。触れてもこなかった。
 俺たちの関係は、今夜で終わる。
 
 睡眠不足でない朝を迎えて、まだ眠るカカシを起こさないようするっと布団から出て顔を洗う水を汲みにい 行く。
 こうして世話をするのも今日まで。
 一緒に食事をとるのもこの朝が最後。
 その最後のカカシとの時間を心に刻み込んで、俺は本堂で行われる試験に向かった。
 カカシは「見せつけてやりな」とだけ俺に声をかけた。言われなくたって、カカシから学んだ全てを、見せつけてやる。
 読経から始まり、住職の問答、そして仏門とは、という抽象的な問いに対する答え。
 しどろもどろに答える者が多い中、俺は堂々と語るだけ語り尽くした。
 お前らなんかとは違う、俺はカカシの一番弟子なのだから。そこらの僧侶なんかよりもずっと教えを理解している。
 半日に渡る試験が終わり、後は沙汰を待つばかりとなった。
 昼食を終えて再び本堂に集まった稚児達はこそこそと話しながら住職が来るのを待っていた。
 ……下らない、堂々と待てばよいものを。
 暫くして現れたのは若い僧侶だった。しかし法衣は紺色だ。見かけない顔だがおそらく優秀な部類なんだろう。
「落第者より名を呼ぶ。」
 張りのある声でその僧侶は5人の名を呼んだ。
 名を呼ばれた5人は立ち上がり、本堂から去っていく。
「次、僧侶に昇格した者。」
 2人しか残っていないのだから、俺を含む2人の名が呼ばれるのだろう。と思ったら、俺の名は呼ばれなかった。
 そのもうひとりは、ひとりの僧侶と共に別室へ案内された。
「最後、特例昇格の者。うちはサスケ。」
「はい。」
 特例昇格……飛ばしのことだろうか。
「私と共に来い、法衣を渡す。」
 その紺色の僧侶について歩いていくと、たくさんある部屋のひとつに案内された。
「本日よりこの部屋を自由に使ってよい。あなたの法衣はこれだ。」
 その色は、その僧侶と同じ紺色だった。
「知っているだろうが、一応言っておく。同じ色でも階級が八段ある。あなたは紺色の二階級目、中僧部のひとつ下の階級だ。通常僧侶は一番下の階級から始めるが、あなたは六階級飛ばしてこの色の法衣を着ることになる。……あのはたけ様のお弟子だ、やっかみは少ないだろうが、全く無い事もないだろう。しかし本日の試験のように堂々としていれば良い。胸を張れ。」
「……ありがとうございます。ときに、貴方の名を尋ねても宜しいでしょうか。」
「日向ネジ、同じく飛ばしで紺色から始めて二年目になる。普段は別の寺に居るが後進育成の為暫くこの寺に留まる。よろしく頼む。」
「よろしく、お願い申し上げます。」
「着替えたら本堂へ。では。」
 日向ネジと名乗った僧侶は音を立てずに歩き部屋の外に出て襖を閉めた。
 稚児の服を脱いで、紺色の法衣を身に纏う。
 まさか、いきなり紺色になるなんて。カカシは褒めてくれるだろうか。それともまだまだだと、また教えてくれるだろうか。……いや、僧侶になったからには如何に上級僧侶と言えどもう教えを乞う事は出来ない。
 ……もう、カカシと関わる機会もほとんどない。
 ……嬉しい、はずなのに。喜ばしい、はずなのに。ポタポタと涙が溢れ出る。
 もう、あのカカシとの生活には戻れない。それが心残りで、つらくて、寂しくて、たとえ俺の一人芝居だったとしても、伝えるべきだった。カカシが好きだと。離れることがつらいと。でも、ちゃんと立派な僧侶になってカカシの目の前に戻ってくると。伝えるべきだった。
 声を出さずに泣いて、泣いて、部屋に手拭いがあるのを見つけて、ああ、いつもこれを股に挟んでいたよなと思うとまた泣けてきて、その手ぬぐいで目を拭った。
 そのとき、部屋の襖が開く音がした。
 慌てて手拭いをぐちゃぐちゃに丸めて隠し、開いた襖を見るとそこには――カカシがいた。
 紺色の法衣を見たカカシは、俺に歩み寄り、その胸に俺の顔を押し付けて髪を撫でた。
「流石だね、よく頑張った。これからが本番だ、頑張りな。」
 また涙が溢れそうになる。会いたかった、抱きしめて欲しかった。でも、どうしてカカシがここに?
「そんな泣き腫らした顔で住職の前に出ていくつもり? 大丈夫、一言言っておいたから時間はある。」
 どういう意味? 時間、?
「サスケが紫まで上がるまでは、引き続き俺が教えることになった。というかした。だから今夜からまた、色々教える。……そのついでに、寝る部屋を共にする事も許可を得た。先は長いし厳しく教えるけど、いいね?」
 それは、つまり、この先しばらくカカシと……。
「そんな、異例だ。そんな許可どうやって。」
「俺は異例尽くしの僧侶だからね。ちょっとは無理言ったけど、この寺に上級僧侶が増える事を良しとしたようだ。」
「どうして、そんな無理を……。」
「決まってるじゃない」
 肩に手を添えられて、カカシの胸から顔が離れる。その顔を見上げると、穏やかな笑顔がそこにあった。
「サスケともっと一緒に居たいから。サスケが好きだから。」
 ……胸に、込み上げる想い。
 同じだった、カカシも俺と同じだった。
「俺も、カカシのことが……っ!」
「……知ってるけど、聞かせて?」
 もう、溢れる涙を堪えることができなかった。
「カカシが好きだ……一緒に、居たい……!」
「……僧侶になったからには、一人前だ。泣くもんじゃない……けど、今だけは泣きな。たくさん我慢してきたんでしょ。」
 俺は、ぼろぼろに泣きながらカカシに抱きついていた。紫まで、なんて何年かかるかわからない。その何年間、ずっと夜は共に過ごせる。それがこんなにも、嬉しい。それだけ俺の中でカカシの存在は大きくなっていて、俺のこころの多くを占めていた。
「さあ、そろそろ本堂に行ってきな。ああ、目は擦っちゃだめ。ぽんぽん、って拭けば赤くならないから。」
 カカシが手ぬぐいで涙を優しく拭き取る。乱れた法衣を整えて、俺は姿勢を正した。
「カカシ、ありがとう……。」
「サスケが優秀さを見せつけた成果でもある、俺の進言だけじゃこう上手くは行かなかったよ。さあ、俺の大事な一番弟子のサスケ、その法衣姿を他の阿呆共に見せつけてやんな。」
 いつぶりだろうか、俺はカカシに笑って見せた。
「わかってる、俺はカカシの一番弟子だから。」

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