ヒーローの独言
ああ、君か。
まあ、座りなよ。
僕?
うん、ちょっと酔ってる。
だってさ、愛と勇気だけが友だちだなんて言っておいて、やってることはただの暴力だ。
彼だって、お腹をすかせているだけで、お腹いっぱい食べるために手段を選ばないだけなんだから、お腹いっぱい食べさせてあげたらいいんじゃないかって……親、なのかな、その人に聞いてみたんだ。
そしたらさ、なんて言われたと思う?
「彼は君の敵として生を受けた邪悪な存在だから、共存なんて出来ないんだよ。」
そのときはじめて知ったんだ、僕と彼が生まれたときのことを。
確かに僕たちはそんな星のもとに生まれてきたのかもしれない。
彼は確かに邪悪な考えを持っている。
でもそんな運命なんていくらでも変えられると思うんだ。
だってもしも僕と彼が逆の場所に生まれ落ちていたら、僕は孤独の中でお腹をすかせながら育って、なんで僕だけと祝福され愛されて育った彼を呪って、邪悪な考えに染まっていたかもしれない。
たまたま愛情深い人に育てられて、仲間にも恵まれて、役割があって、必要としてくれる人がいて、だから僕は僕として認められている。
僕は周りの人たちがいるからこそ僕でいることが出来るんだ。
けど彼は違う。
周りに誰もいなかったし、僕を倒すという運命だけを原動力にしていろんなロボットや機械を作って努力している。
彼の本来の性格は勤勉家で、努力家で、一途で、きっと仲良くなれたらいい奴なんだと思う。
そりゃあ悪いこともするだろうけど、それにも増して愛情にあふれた人たちが周りにいたら、そんなこともしなくなると思う。
そう思うのに、僕が出会う彼はいつもお腹をすかせているのに、悪いことをしている、ただそれだけの理由で僕は彼に暴力を振るう。
こんな僕のどこに愛なんてあるんだろう。
彼ひとり救うことができない僕のどこに勇気があるんだろう。
そう思うとさ、飲まずにいられなくなっちゃってね。
ふふ、酔ってるってのは嘘だよ。
いつ出動しなければいけないかわからないからね。
これはただの牛乳。
うん、確かにそうだよね。
ヒーローって孤独だ。
救いたいのに取る手段は暴力、やってることは排除。
本当はみんなひっくるめて全員を幸せにしたいのに、悪だから、敵だからという理由だけで拳を握りしめる。
全員が幸せになれる世界……そんな理想が叶ったなら……どんなに素敵な世界になっているだろう。
でもそんな理由は……きっと周りの人たちが許してくれない。
彼のしてきた悪行を簡単に許してくれる人ばかりじゃない。
愛情深い人たちだと信じてきた、けれど彼に対してだけは誰もが冷たい目を向ける。そんな中で、彼が運命に逆らってみんなと仲良くしたいだなんて思わないだろう。
……結局、僕は彼と戦うしかなくて、排除するしかなくて、そうすることでみんなの称賛を集めて……僕だけがお腹をすかせた彼を殴り排除することが本当に正解なのか悩み続けている。
……ヒーローって本当に孤独だね。
誰が言い始めたのか知らないけれど、よく言ったものだと思うよ。
平和を望むのに戦わなければいけないジレンマを抱えながら、僕たちは最後のひとりを倒すまで戦い続けなければならない。
彼にもお腹いっぱい食べさせてあげたいのは僕だけで……みんなは彼のいない世界を望んでる。
正義ってなんだろうね。
僕はただ、お腹をすかせている人がいない世界を望んでいただけなのに、どうしてこうなっちゃったんだろう。
