雨が過ぎ去るまで

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その他,全年齢,超短編

 突然空が暗くなってきて、ああこれはひと雨くるなと地上に雨宿りできる場所がないか探していたら、岩肌に少し大きめの洞穴があるのを見つけてそこに降り立った。
 中に入った瞬間ザッと雨が降り出して、顔が濡れるところだったと安堵していたら穴の奥から聞き覚えのある声がする。
「全くなんで俺様がこんなことを……」
 僕がいることに気がついていないようだった。穴の奥を覗き込むと頭にヘルメットとヘッドライトをつけたバイキンマンがツルハシで穴を掘っている。
「何をしているんだい?」
 急に声をかけたからか、バイキンマンはビクッと驚いて振り向いた。
「アンパンマンこそ俺様に何の用だ!」
「バイキンマンに用があるわけじゃなくて……雨を凌いでるだけさ。」
 外に目を向けるとバイキンマンも顔を覗かせる。
「濡れたら飛べないってのも不便なもんだな。別にここにいてもいいけど俺様の邪魔はするなよ!」
 再び洞穴の奥に向かっていきツルハシを振り下ろし始める。
 何をしているのかはわからないけど邪魔をしたら悪いなと思って入り口に近いところに腰を下ろした。
 空は暗くなるばかりで雨が止む気配は一向にない。
 しばらく降り頻る雨を眺めていたら、奥からバイキンマンがやってきてツルハシを放り投げ、僕の隣に座った。
「ふひー、疲れたから今日はもうやめだ!……腹、減ったな……。」
 僕は少しだけ考えて、頭を少しもぎ取ってバイキンマンに差し出した。
 差し出されたアンパンのかけらを見てバイキンマンは丸い目を一層丸くする。
「何してるのか分かってんのか、俺様はバイキンマンだぞ!貴様の敵の!」
「敵とか味方とか、お腹をすかせてる人の前では関係ないよ。」
 ずいとアンパンのかけらを突き出すと、バイキンマンはしぶしぶ受け取った。
「君のほうこそ、お腹が減ったらどんな悪いことをしてでも食べ物にありつこうとするのに、何で僕を襲わないのさ。」
「俺様は俺様のしたいようにする、それだけだ。施しを受けるなんて俺様のプライドが許さない。」
 ぐぅ、とお腹の鳴る音がする。
「強がってないで食べなよ。足りないならもっと……」
「そんなことしたら空を飛べなくなるだろ!どこまでお人好しなんだ、まったく吐き気がする!」
 ふいと顔を背けながら、バイキンマンは手に持ったアンパンのかけらを一口かじった。一口かじったら、次々と頬張ってあっという間に食べてしまった。
 足りないだろう、と思って僕はまた頭からアンパンのかけらをもぎ取ろうとしたら、その手をバイキンマンに掴まれる。
「吐き気がするって言ってんだろ!施しのつもりならやめろ!」
「施しなんかじゃないよ、お腹をすかせた人をお腹いっぱいにしてあげるのが僕の役割で運命だから、だから君も食べなよ、バイキンマン。」
 頭に伸ばした手を無理矢理床に下げられる。
「それなら俺様の運命はアンパンマン、貴様を倒すことだ。今から勝負しろ!」
 勝負と言ったって。
 かたや顔の欠けた僕、そして何の武器も機械も持っていないバイキンマン。洞穴の外は土砂降りの雨。
「わかった、それならジャンケンで勝負だバイキンマン。君が勝ったら僕を好きにしたらいい。その代わり僕が勝ったら僕の好きにさせてもらうよ。」
 呆れたような顔を見せてから、キッと僕を睨みつける。
「乗ってやる。勝負は一回きりだぞ。」
「よしやろう、じゃーんけーん……」
「……」
 二人とも突き出した手は丸い。
 この手でジャンケンの勝負なんてできるわけがないのだと、バイキンマンは気が付かなかったらしい。
「あはは、引き分けだね。」
「バカにしてるだろお前!」
 ひとしきり笑った後、少し勢いの弱まった雨音を聞きながらバイキンマンに微笑みかけた。
「じゃあお互いに勝ち、ってことで僕は君に頭を食べさせてお腹を満たす。君は僕のアンパンを食べて僕を弱らせてやっつける。どう?」
「それじゃあ俺様が一方的に有利なだけだ、そんなやっつけ方をしても嬉しくも何でもない。」
 頭からまたアンパンをもぎ取ってバイキンマンに押し付ける。
「僕は君のお腹を満たせるのなら、やっつけられたって構わないよ。」
 背に腹は変えられないらしい、バイキンマンはアンパンのかけらを受け取って、また一瞬で平らげた。
「雨が止んだら、一緒にジャムおじさんの工房に行こうよ。たくさんパンを食べられるよ。」
「……俺様なんかに、パンを作るわけがない。俺様はアンパンマン、貴様の敵だ。貴様の敵だということは、貴様の周りの人間にとっても敵だ。腹が減ったら奪い取る。騙し取る。盗み取る。それが俺様だ。」
 バイキンマンは小雨になった外に向かって行って、木陰に置いてあるいつものUFOみたいな乗り物に乗り込んだ。
「あばよ、今日はやっつけるのは勘弁してやる。次会う時は必ず倒してみせるから覚悟しておけ!」
 
 飛び去っていくバイキンマンを見上げて、明るくなった空に気がつき、膝に手を当てて立ち上がるとフラッとする。頭が欠けているせいだろう。飛ぶことはできるだろうか?
 ガツガツとパンを食べるバイキンマンの姿を思い出して、ふふッと笑う。
「運命……か。」
 僕はお腹がすいた人にアンパンを差し出す。そういう運命だから。
 でもバイキンマン、今日の君は僕を倒すという運命に抵抗していたよね。
 変えられないのかな、あがなうことは許されないのかな、ぼくたちの運命って。
 ううん、きっと運命は変えられる。変えてみせる。ぼくも抵抗するよ、バイキンマン。君の敵という運命から。
 決意を胸に、空にかかった虹に向けて、地面から飛び立った。

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