俺たちの3ヶ月

16,129文字約32分11 View

カカサス,成人向,中編,原作軸,小説エロ描写有,シリアス,平和IF

 退院してから我が家に帰って、乱雑なリビングを片付けてから浴室の掃除を始めた。
 何回出したのかわからないけどカピカピにに乾燥してこびりついているそれに熱いシャワーをかけながら、次にサスケに会ったときに何て言おうか考える。
 とりあえずは謝らないといけない。あと傷になっているところがどんな感じなのか。あのバーは検挙されたよっていう報告。あとは……
「おい邪魔するぞ」
 そのサスケの声が玄関から聞こえてきてチャイムくらい押せと思いつつ、今はサスケにはそんな偉そうな事は何も言えない立場だ。
「掃除中だけど何か用事ー?」
 勝手知ったる顔でサスケが風呂場まで歩いてくる。シャワーのお湯を止めてサスケの方を向いたら、訝しげな目を向けられていた。
「……どうしたの、うちに来るなんて。」
「今日退院だって聞いていたから。俺には顛末を聞く権利があると思うが。」
「……さいですね。」
 リビングに場所を移した。
 やけに詳しく聞きたがるサスケにいつどこでなんのためになにをしたらいつからどうなってああなった、と事細かに説明しては合間合間に謝罪の言葉を挟む。
「つまり、俺以外でも誰かがあの時訪問していたら同じ目に遭ったし、それがなければ外に出て見境なしに誰かを襲っていたかもしれないわけか。」
 呆れたような非難しているような複雑な表情で総括するサスケにその通りですと頭を下げる。
「あんた本当に上忍か? 脇が甘すぎるだろ。もし最後のパターンになってたら取り返しつかねえぞ。」
「返す言葉もない……。」
「ったく、俺だったから良かったものを……。」
 ため息をつきながら腕を組み呟いたその言葉に、それはどういう意味だ、とサスケの目を見る。が、至って普通の非難の目だ。
「サスケだったから良かったてのは、どういう……?」
 サスケは呆れ果てたと言わんばかりのクソデカため息をついた。
「あのなぁ……もしナルトやサクラだったらどうなってたと思う。サクラなんてトラウマどころじゃ済まねえぞ。あのふたりに俺がしたような対処ができたとも思えない。他の人も同様。上忍レベルならともかく。こんな住宅地で暴れるあんたをいっときでも抑え込める奴なんているのか?」
 返す言葉もない。
 けど、サスケはつまり、トラウマにはなってない、と言いたいのだろうか。あんな事があったのに俺を心配してくれてたみたいだし。
「その、サスケは……その後どうなの。身体、とか、大丈夫……?」
「大丈夫じゃねえに決まってんだろ用足す度に痛いし薬塗るのだって毎回苦労してるんだぞ。」
 う……、やっぱり、全治3ヶ月だもんな、そりゃ、そうだよな……。せめて何か出来ないだろうか……。
「ええと……なんか俺にできる事あったら……何でもする。ごめん、本当に申し訳ない。」
 終始しおらしくしている俺を見て少しは気が晴れたのだろうか。険しかった顔はだいぶ和らいだように見えた。
「なら、薬塗るの手伝えよ。毎日朝と晩に俺の家来い。」
 薬、塗る、というと、もちろん尻の穴の中、だよな? 裂傷があるとは聞いたけど。確かにひとりでは大変そうだ。
「わかった、手伝う。サスケよりか奥まで塗れると思うし。」

 こうして朝晩サスケの家に通う日々が始まった。尻の穴に薬をつけた指を入れるんだけど、一番入れやすい姿勢をお互いに考えてみて、仰向けに寝転んだサスケが膝を抱える格好が一番いい、とわかったのはいいんだけど、俺にはその姿勢がセックスの時の女性のとるそれにしか見えなくて、いや薬を塗るためなんだけど、穴に指を入れるわけで、一応内蔵だし薬だし、と思って素手のままよりはいいだろうと用意したものもコンドームだし、相手がサスケでなければ欲情してもおかしくないよな、と思いながら恐る恐るコンドーム越しに薬のついた指を入れて、時々痛みなのか顔を引き攣らせるその様子も見る人が見たら要するにその、エロい。
 指を抜いたときに「終わったか?」と聞かれるのも何だか変な意味に捉えそうになってしまう。
 その度に俺は自分がしでかした事を思い出せ、と頭を冷やす。
 サスケは俺で良かったと言ったけど、本当にそうだなと思う。ナルトやサクラだったら何も出来ず一晩中でもやり続けていたかもしれないし、一般のそこらの人だったら暴れまくった挙句通報で駆けつけた部隊に拘束されてたのがオチだ。でもって牢屋の中にチェックインしていたのは間違いない。
 
 一ヶ月半サスケの家にそうやって通って、医者から薬はもう良さそう、だけどワセリンはまだ続けるようにと言われたらしい。
 それでやっぱりワセリンを塗りにまたサスケの家に通うんだけど、ぬるりとワセリンのついた指を入れているとやっぱり思ってしまう。これはエロい。
 女の子じゃなくて良かった、とこころの底から思うと共に、いやサスケでも十分エロいとも思ってしまう。
 努めて冷静に処置をしていたつもりだったけどある日サスケから言われてしまった。
「あんた……薬塗るとき変な事考えてんだろ。」
 図星を突かれて思わず「そんな事ないよ」と口走ったがその焦り方がまずかった。
「……正直に言え。」
 大真面目な顔で聞いてくるサスケに嘘や誤魔化しはきかなさそうだった。
「……ごめん、でもちょっと思い浮かぶだけで何もしないから。」
「……へぇ、あっそ。」
 信用されていない……いや、まあ、それも俺がした事だから仕方がないんだけど。
 暗部の時のお面を付けたいくらいだ、そんな事を見抜かれるなんて恥ずかしいにも程がある。
「で、何を思い浮かべてんだよ。」
 そこツッコむの? 何て答えればいいかほんとわかんないんだけど。端的に言えば伝わるだろうか? いやそれ言うってどうなの。
「……セックスするときみたいだな……と。」
 尻の穴にワセリンのついた指を入れながら言うセリフではない……。
 ぬる、と指を抜いてゴムを外し、ゴミ袋の中に入れる。
 サスケが下着とズボンを履いて、起き上がった。
「したいのか?」
 飛び出したセリフに一瞬思考が止まる。
 したい、ええと、それは、セックス、のことを、言ってる? サスケは何を考えてるんだ?
「ええと、ごめん、何の話?」
「セックスがしたい気分になるのか、と聞いてる。」
 それを聞いてどうするつもりなの。俺はどう答えるのが正解なの。
「……正直、エロいなとは思う。けど、もうサスケに手を出したりはしない。そのせいで薬塗らなきゃいけなくなった訳だし。」
 サスケは顔色を変えずに「そうか」と呟いて立ち上がった。よくわからないけど納得してくれたらしい。
 
 サスケの家からの帰り道、古本屋を見かけて中に入ってみた。天井近くまである本棚には所狭しと本が並んでいる。おや、と気になるタイトルが平積みにされていて手に取った。
『先生必携! 生徒を伸ばす魔法の声かけ術』
 パラパラ、と中身をめくって、金額を確認して、買ってみようかなと関連書籍が近くにないか見てみたらその本の下にあったタイトルに目を疑った。
『男のイカせ方~男色のすゝめ』
 普通はある程度ジャンルごとに本置くだろ、生徒を伸ばすの本の下にこれはおかしいだろ。
 と思いつつ、少しだけ興味を惹かれてその本も手に取ってぱらぱらめくる。……表現が具体的すぎて生々しすぎる……。
 俺には縁がないとその本は置いて、先生必携の方をレジに持って行った。
 
 事件から2ヶ月経って、そろそろワセリンも要らなくなるんじゃないかなと思ったけど、サスケによるとワセリンはまだ続けるらしい。まあ、3ヶ月だもんな、と納得してサスケの家に通う日々はもうしばらく終わりそうになかった。
 しかしここにきて、最初にサスケが塗って欲しいと言っていた場所とはどうも違う位置を指示されるようになった。傷の場所が変わるわけがないし、でも塗って欲しいということはその部分をワセリンで保護しなければいけないんだろう。
 よくわからないながら、指示された通りにワセリンの着いた指を塗る、と、時々サスケが腕で口元を隠す。
 ……何だ?
 思考を巡らせて何だか既視感があるような気がする、と思い至ったのはあの古本屋で少し立ち見した本だった。
 サスケに指示されている場所が正に「イカせ方」に書いてあった所で、ちょっと待てと指を抜く。
「……終わったのか?」
 いつものように訊いてくるサスケのその言葉が今までと違う意味に聞こえてくる。
 これはサスケに確認しておいた方がいいのだろうか、いや、訊いたほうがいいよな。
「ねえ、このワセリンっていつまで必要なの?」
「……さぁな。医者がいいって言うまでだろ。」
「サスケ、正直に言って欲しいんだけどさ。俺が指入れるのってもしかして、気持ちいい、とか、ある?」
「……。」
 否定しない、ということはそうです、って言っているようなものだ。ワセリンの処置がまだ必要かどうかはさておき、サスケはこの朝晩の処置で……。
「……気持ちいい、んだね?」
「……。」
 黙ったままふいと横を向く。それはサスケ、肯定って事になるけど、……ん、肯定、ということは、俺にあんな酷い目に遭わされたのに、今こういう事をして欲しがるということは……ちょっと待って?
「あのさ、ごめん、誤解だったらいけないと思って聞くんだけど、もしかしてサスケはそういう事に興味がある……の? そういう事ってのはつまりええと……セックス、みたいな、……。」
 そんなわけないだろ、と言ってくれ。じゃないといろんな点と点が全部繋がってしまう。
 サスケは俯きながら、気持ち頬を染めて頷いた。
 えっ、頷いた……? 興味、あるの? もしかして薬塗るの手伝えってのも最初から、そういう意図があった? もっと言えばあの日に俺の家を訪ねてきた用件は……。
「その、それって、いつから……?」
「……。」
 黙りこくったサスケから情報を引き出すのは難しそうだった。
 ワセリンの蓋を閉めていつもの場所に置き、俺自身気持ちを整理したくて「また夜ね」とサスケの家を後にする。
 いつから、の答えはなかった。もしかして結構前からなのか?
 あの日俺の家に来た理由、聞いてなかった。サスケは何のために俺の家まで来たのか。
 ああいう事をしたいのは俺だからなのか、誰でもいいのか? あの少し染まった頬は恥ずかしさなのか、それとも照れなのか。
 試しに夜の薬を医療忍者の誰かに任せてみようか、もしそれをサスケが嫌がったら、サスケは俺に好意を寄せていて、俺とセックスをしたいのだと判断できる。
 ……しかし、判断できたとしてその後はどうすればいいのか……。
「わかりました、直腸内創傷痕のワセリン保護ですね。」
 若い男性の医療忍者に住所とサスケへの手紙を渡して行かせた。
 サスケがどうするのか気になりながら、彼が処置を終えて戻ってくるのを待っていたら、思いの外早く戻ってきた。ということは。
「すみません、手紙も渡したんですけど『なら、今日はいい』と断られてしまって。」
「そ、悪かったね手間取らせて。」
 ……これで、確定してしまった。サスケはよりにもよってあんな事をした俺と、そういう事をしたがっている。
 好意を寄せられている、と思うとあんな目に遭いながら病院で俺を心配していたことも俺だからよかった発言も繋がる。
 その好意を俺はどうしたらいい、サスケにはまだ早いと突っぱねるべきか、傷を負わせた責任だけは取るか、それとも一度しっかりと話し合うべきだろうか。
 今日の様子だと話し合いに応じてくれないかもしれない。サスケの考えは何となくわかったけどそれに対して俺がどうするべきかが定まっていない状態で話し合っても意味がない。
 あのときのことはほとんど記憶に残っていない、けどサスケが俺を呼ぶ声だけは耳に残っている。
 あんな目に遭いながら俺を心配するあの声があったから少しだけ意識が戻って結果どうにかなった。サスケの言う通りサクラやナルトだったらやめてとか助けてとかしか言わなかっただろう。
 サスケがあのとき来てくれたことでこんな言い方はあれだけど被害を最小限に抑えられたのは偽りのない事実だからそこは感謝の念を抱いている、ただその前提にはサスケが俺に思いを寄せていたという事実もまた存在するわけで。
 感謝してるし申し訳ないとも思ってる、けどそれ以上の感情は持っていないのが俺のサスケに対する気持ちであって、つまり話し合いをするにしてもサスケの望むことは実現しないから諦めなさい、と諭すことになる。
 ……確かに薬を塗る体制だとか表情だとかはエロいと思った、思ったけどそれは本当は思っちゃいけないやつで教え子に手を出すなんて絶対にやっちゃいけない。……やっちゃってるけど……。
 もしかしたら俺のそういう行為とか態度とか言葉がサスケをそういう気持ちにさせてしまった一因なんだろうか。と思うと責任を取らなければいけないような気になってくる。
 けど責任って……サスケの望み通りにするってこと? どこまで求められるのかはわからないけど、それはやっぱり違うような気がする。
 散々考えて考えて結論が出ないまま朝になって、またサスケの家に向かいながらどうしようかと悩んでいた。
 鍵のかかっていない扉をノックしてから開けると、玄関のすぐ目の前にサスケが立っていて「こっちだ」と布団の上に歩いていく。
 ズボンを下ろして仰向けになるサスケを横目に机の上にあるワセリンの蓋を開けてコンドームを取り出しワセリンを適量すくって布団の上に乗るとサスケはいつものように膝を抱くように尻を露出させる。
 その尻だけを見たらこのアングルは確かにエロいと思う。ただし女性器がない分そんなに恥ずかしい格好でもない。その穴に指をそわせてぬぷ、と中に差し込むと昨日までと明らかに何かが違う。なんだか柔らかくてスッと中に指が入る。もしかしてこれ、サスケが自分で……慣らした、とか?
「もう少し、内側……」
「あのね……傷痕はそこじゃないでしょ。」
「……でも今塗って欲しいのは傷痕じゃない。」
 自分で多分、慣らしてたくらいだからそういう事を期待……してるんだろう。いっそ指示通りに気持ちよくさせてやれば満足するのだろうか?
 サスケがワセリンを塗って欲しがっているところはここ数回でわかっている。試しに撫でつけてみるか?
「っ……、」
 今日は腕で顔を隠しもしない。眉を寄せて息を呑む。丸い円を描くように指でそこを押してみたらピク、と肩が揺れた。……感じている、やっぱり。これ以上はだめだ。
 指をずっと抜いてゴムを外した。サスケが膝を下げる。
「もう、終わり……か?」
「サスケ、勘違いしているなら正しておくけど……俺はサスケに欲情したりはしないし、傷の処置の手伝いしかできない。そういう事をしたいと興味を持つ年頃なのはわかるけど、相手は俺以外にしなさい。」
 ……俺以外にしなさい? 自分で言っておいて引っ掛かる。つまり別の男にしてもらえと俺はサスケに言ったわけで。それは……良い、のか?
「……ごめん、語弊がある言い方だった。訂正する。サスケにはそういうことはまだ早い。もう少し大人になってからにしな」
「俺はあんなのだけ記憶に残したままなんて嫌だ。」
 昨日は黙りこくっていたのに、俺の言葉を遮ってサスケが口を挟んだ。
「あんな薬でおかしくなったあんたとのセックスだけが記憶に残ったままなんて嫌だ。ちゃんとした……薬とかじゃないカカシとのセックスで上書きしたい……この落とし前も、つけろよ、カカシ、それも何年後かまで待てって言うのか。」
 あ、そ、うか、サスケだったから良かったと、サスケが自分で言ったから俺もサスケだったから良かったんだと思って見過ごしていた。あんな経験をさせてしまってショックなわけがないし平気でいられるわけがないんだ。どこかで俺はサスケに甘えていたのかもしれない、サスケが俺に対して、ある意味寛大で居てくれたから。あの記憶を消してやる事が出来ないのなら、上書きをしてやるのが……落とし前……?
「何とか言えよ、俺は何年もあの記憶を引きずったまま待たなきゃいけないのか。」
 それは……あまりにも気の毒だ。けど、だからと言ってセックス、というのは……。
「……セックスってのは好きな相手とするものだ、俺にはサスケに対してそういう感情は持ってない。」
「……あんたがどうだろうと、俺はいい。」
 サスケは多分俺に、好意を寄せているから、俺の気持ちがどうであれやり直したい、んだろう。けどそんなセックスで本当にいいのか、サスケは。納得できるのだろうか。真剣なまなざしはそれでもいい、と俺に言っているかのようだった。
「……一回だけ、だよ。今日の夜に。」

 以前立ち寄ったあの古本屋に立ち寄る。あの本はそのままの場所にあった。会計をして読み込む。お互いにろくな知識もなく挑んだって良いことはない。あのときの記憶を上書きするのなら、せめて少しでも良い気持ちにはさせてやりたい。男となんてやった経験はないからこそ、少しでも知識を身につけていかないと。
 本を読み込んで、イメトレをして、……夕方になってから大人のそういう店に立ち寄ってローションを買った。
 その紙袋を手にサスケの家の戸をノックする。
「入るよ。」
 気持ち緊張した面持ちのサスケが待っていた。その頭を撫でる。
「心配しないで、ちゃんと尻拭いするから。しっかり上書きする。安心して。」
「……ガキ扱いすんなよ。」
 頭の上の手を退けながら、視線を逸らす。ワセリンのときは恥ずかしがるそぶりを見せなかったのに、何だか新鮮な反応ではある。そんな風では、こっちまで緊張してしまう。
 ふたりとも緊張してちゃできるもんもできない。とりあえずはリラックスさせたい……けど恋人同士でもないからキスするのも何だし、この場合どうしてあげるのがいいんだろうか。
「……一緒にお風呂でも入る?」
「さっきシャワー浴びた……。」
 んん……お風呂はだめか。と思ったら、サスケが俺のベストの裾を引っ張る。
「布団……だろ、するの。」
 ……ちょっと可愛い、などと思ってしまってはだめだ。これはあくまでもサスケの中から嫌な記憶を払拭するためであって。
「そうだね、布団……行こっか。」
 俺は先生としての立場を崩しちゃいけない。俺のせいで酷い目に遭ったサスケのこころのケアのためにするんだから。
「いつもと同じ、でいいか。」
「服、脱いじゃおうか。」
 黙って脱ぎはじめたサスケを見て、俺も服を脱ぎ始める。子どもの身体……こんな子に俺は力ずくで無理矢理入れてやり続けたのかと思うと申し訳なさでいっぱいになる。
「……ごめん、サスケ。」
「今はそれはいい。脱いだぞ。」
 一糸纏わぬ姿のサスケは普通の男の子だった。本当にしてもいいんだろうか。何とも言えない背徳感を覚えながら、布団の上に移動するサスケを後ろから抱きしめる。
「何して……」
「緊張、してるでしょ。俺の胸の鼓動伝わる?」
「……少し、早い。」
「俺も緊張してるの。抱きしめるってのは心理的作用があって……」
「そういう解説はいい。……キスはしないのか。」
「キスは、サスケがちゃんと好きな人とするときまでとっておきなさい。」
「今が……いや、何でもない。あんたにはそういう気持ちは、ないんだったな。」
 いつも通りが一番きっといいだろう。と思って布団に仰向けにさせる。ワセリンじゃなくローションを指に纏わせて、いつものようにそこに指を入れる。いつもと違うのはぬるりとしていることと、お互いに裸でいることと、目的を持って指を入れていること。
 朝と同じように、中は柔らかかった。本で読んだ通りの場所、サスケからいつも指定される場所をマッサージするようになでながら指を出入りさせる。
 今日は膝は抱えさせずに立たせるだけにした。サスケの表情や反応がよく見えるように、撫で方を変えてみたり奥の方にも指を入れてみたりと色々試してみて、サスケが反応したところをじっくり愛撫していく。
 息を呑んで声を殺しながらも、表情を見た感じでは感じてくれていそうだった。我慢せずに声出してもいい、と言うべきか、そのまま様子を見るか考えながら続けていると、「……っぁ、」と小さく漏らす。
 ……ちょっと強めに押したから? 同じように強く、少しずつ強くしていくとサスケは戸惑いながら声を漏らしはじめた。
「ぁ、あ……っ、んっ、……っぁ、」
 ……男の子でも、喘ぐんだな……。
 という謎の感慨に浸りながら、サスケの緊張がほぐれるようにその愛撫を続けていたら、サスケの中心も反応しはじめた。
「サスケ……気持ちいい?」
 見たらわかるけど、言葉のコミュニケーションも大事だ。義理でするとはいえセックスなんだし。
 サスケは控えめに頷いた。
 その様子がまた初々しくて可愛いと思ってしまう。……終わるまではもうそう思えてくるのはほっとこう、その方が俺も気分が上がる。
 サスケの中を愛撫しながら自分のも扱いて入れるための準備を始める。指の数を増やしてみるとサスケの反応が気持ち大きくなった。中は柔らかいしローションでぬるぬるしていて、もう挿れても良さそうだったけど一応、サスケが挿れてと言うまでは待つことにする。
 女性のGスポットと同じなら……もっと強く、早くしたらイク、だろうか。中心はしっかり勃ってるし。
「早くしてもいい?」
 戸惑う視線が俺の顔に向けられる。涙目……のその目を見て俺は指を激しく動かした。
「――っ! あっ、あ! だ、めっ、いっ、っあ! いく、っぁ、だめ、あ、っ!!」
 きゅうっと中が締まって何回かに分けて射精した。全部出終わって少ししたら、また中が柔らかく弛緩する。
 ……これなら、いける。タイミング的にも今だ。
 くたっとして息を吐くサスケの様子を見ながらゴムをつけてローションを垂らす。いく時のサスケの声で興奮したそこはしっかりと勃っていた。
 準備を整えて、声をかける。
「挿れるよ、いい?」
 閉じていた目が開かれて俺の方を見た。……少しでもサスケが感じますように……。
 ぬぷ、とそれを沈めていく。ゆっくりと時間をかけて、ここまでかな、というところまで挿れた。……小さい……。俺はこんなサスケに、酷い事をしてしまった、んだ。罪滅ぼしになるのかわからないけど、少しでもいい思い出にしてやらないと。
「サスケ、入ったよ……大丈夫?」
 短い呼吸をしながら、サスケはまたぎゅっと目を閉じて頷いた。
「だい、じょうぶ、……。」
 ……あまり大丈夫ではなさそうな答えだ。無理もない、指の何倍もあるものが入ってるわけで。
「……無理しないで、やめてもいいんだよ?」
 その問いかけにはぶんぶんと首を横に振った。あの経験と比べたらマシだということなんだろうか。
 ゆっくりと穴が大きさに慣れるように小さく動かしながらサスケの様子を見守る。だんだんと眉間にこもる力が弱くなっていく。女の子でさえ最初から気持ちよくなるのは難しいのだから、「痛くない」をクリアできれば及第点だろう。
 少しずつ動きを大きくしていく。少しずつ、少しずつ。サスケの顔のこわばりはだいぶマシになった。この調子で少しずついこう、無理をさせちゃだめだ。
「ッカカシ、は、少しは、……」
「……俺なんかより自分のことだけ考えな。サスケのための時間なんだから。」
「……もう、だいじょう、ぶ、だから、……」
 動いてもいい、と言いたいんだろうか。表情はだいぶ柔らかくなったけど。試しに抜ける寸前まで引いて、ゆっくり奥に押し進める。はぁっと息を吐く。眉にも力は入ってない。……大丈夫、みたいだ。
 ゆっくりとした抽送を始めた。ええと、本に書いてあった通りに……指で刺激していたところも、刺激できるように。
 横を向いたサスケの前髪をかき分ける。……この表情は……。
 そこをぐっとなでつけるように腰を動かした。荒くなる呼吸。……これはどっちの意味だろう。左側しか見えない表情で判断してもいいのなら、良い方で捉えても良さそうだった。ゆっくりと動いていたのを、様子を見ながら早くしていく。少しずつ表情が変わっていく。荒く息をしながら、サスケは小さい声を出した。何て言ったのかわからないくらい小さい声。だんだんと聞き取れるようになっていく。それは指を入れていた時と同じ色の声だった。
 ……よかった……。
 少しずつ動きを早くして、普通のセックス、よりも気持ちゆっくりとした抽送にサスケが応える。
「っ、は、っぁ、……あ、」
「……サスケ、気持ちいい……?」
 頷く横顔、漏れる声、表情。
(やばい……変な気分になる)
 はあっ、はあっ、という息が、自分のものだとわかったとき、サスケに欲情しているのだのと理解して、俺はどこかスイッチが入ってしまった。
「……あ、え、あっ、っん! カカ、っ! あっ、あ、ぁあっ!」
 腰を早くしてももうサスケが顔をしかめることはなく、むしろ快感に耐えるような表情で高い声を上げる。
 何のためにセックスをしているのか、その目的も忘れてもっとその顔を見たくて、声を聞きたくて腰を打ちつけた。
「あっ、は、あっ! あ、っぅあ、カ、カシ、ぃっ!」
 名前を呼ばれてハッとなった。理性がどこかにいきそうになっていた。相手はサスケだ、教え子の、子どもの。今しているのは償いのための行為であって、自分が気持ちよくなって終わり、そんなものじゃない。
「サスケ……っ、気持ちいい……?」
 涙で揺れる瞳、小さく頷く顎、俺の動きに少し遅れて震わせる喉。
 ああ、もう……なんでこうも男を煽るような仕草ばかり見せるんだ……!
 今こうしているのが自分で良かったとこころから思う。他の奴だったら殺してしまいかねない。こんなサスケを絶対に他の奴なんかには見せたくない。このサスケは俺だけの……俺だけの……?
 何を考えてるんだ俺は、それじゃあまるでサスケのことを。
「ッカシ、っあ! きもち、いっ! ぅあっ、あっ!」
 気持ちいいなら、もっと……もっと激しく突いて、射精するくらいに……! ああだめだ、俺も、気持ちいい……っ!
 アナルセックスがこんなに気持ちいいなんて。膣とは違う程よい締め付け、サスケも気持ちいいと言っていて。ハマってしまいそうな自分がいて怖い。
「あ゛っ! だめ、っい、出るっ! い、くっ、あっあ!!」
 何だっけ、そうだ、トコロテン……名前なんてどうでもいい、サスケがイクなら俺も一緒に……!
 一際激しく腰を打ちつけるとサスケはビクッと身体をこわばらせてその先端からまた白濁液を飛ばした。その中はぎゅううっと締め付けて、その気持ちよさに俺も中で射精する。
 ……サスケの中で、いった……。
 大きく息を吐くサスケの唇を奪いたいと考える頭をぶん殴りたい。これは償いであってサスケと俺はそういう関係じゃない。何度も自分に言い聞かせてもサスケのうるんだ瞳を見ると目を奪われてしまう。
 だめだ、もう終わり、早く抜いて綺麗にして……。
 まだ時々ぎゅっと締まる中からそれを抜いてゴムを外して結んで捨てる。
 サスケは目元に左上腕を置いて息を整えていた。
 ウェットティッシュで汚れたところを拭き取っていく。サスケのそれも綺麗に拭いて、服を着ながらサスケが落ち着くのを待った。
 
 サスケが起き上がって、俺の方を見て服を着こみ始める。斜め下に視線を向けたまま、何か言いたげに、でも何も言わずに服を着終えて、俺の方を見た。
「……嫌な記憶、上書きできた?」
 いつもの笑顔で笑ってみせる。俺にとってはなんて事ない事柄だと伝えたかった。サスケに特別な感情があろうと、俺にとってサスケはそういう存在にはなれないよと。
「出来た、……あんたは?」
 話を振られて、あの日のことはほとんど覚えていない俺は上書きするような記憶もないんだけどな、とどう答えるか少し考える。
「……俺のことはいいの、サスケがどうだったのかが大事。上書きできたのなら、……よかった。」
「良くない……あんたはどうだったんだ。気持ちよかったのか。少しはいい記憶になったのか。」
 サスケは一体何を知りたいんだろう。その裏にある考えはなんだ。
「まあ、気持ちよかったけど……セックスってそういうものだからね。他の……女性とするセックスとそう変わらないよ。」
 サスケを特別扱いするのは違う、と思う。被害者という面では特別だけどそれ以上は踏み込むべきじゃない。
「変わらないなら、俺でもいいってことだな?」
 想定外の返事にサスケの目を見る。真剣なまなざしとぶつかり合った。話をそっちに持っていきたいのか。
「んー……元々そんな猿みたいにやりまくってるわけじゃないしもうしばらくはいいやって感じ。サスケはしたいの? 一応そういうお店もあるけど、まだ若すぎるから大人になるまで我慢しなさい。」
「あんた以外なんて考えてない!」
 突然の大声に少し驚いた。
 普段は……空気を読んで大人が望む答えを言うような子なのに。……それだけの想いがサスケの中にあるからなんだろうか。こうなってしまってはしようがない。はぐらかさずに本気で説得しないと、この話は終わらない。
「……あのね、勘違いしないで欲しいの。今日サスケの相手をしたのは、あくまで俺がサスケを傷つけてしまったからであってそこに特別な感情はない。だから記憶を上塗りできたのであれば、もう目的は達成したの。もう俺がサスケを相手にする理由はない。」
「俺はあのときあんたにやられながらあんたが涙をこぼしながらごめんって言ったときからもうあんたのこと忘れるとかそういうの出来ないんだ! いくら上書きされてもあの時のあんたの顔がずっと離れなくて何とかしてやらないとって、あんたのことまじめに考えてるの俺だけだって、あんたが気持ちよかったのは嬉しかった、けどもうしばらくはいいってんならそれでいい。俺はただカカシのそばにいたいだけだ。カカシだって上書きできただろ、俺に酷いことして終わりじゃなくて俺をちゃんと気持ちよくさせることができて良かったって、思わなかったのか。……そこまであんたのこと考えてるのはきっと俺だけだ、俺があんたが好きだから。」
 一気に、爆発したかのように畳み掛けてサスケはなんか言ってみろよとでも言いたげに俺をじっと見つめる。
「……待って、ひとつずつ、ね。まずあの日のサスケに酷いことした時の記憶は俺ほとんどない。お風呂場に閉じこもってたところにサスケが来た……のは覚えてる、けどそこまで。だからその時のことを言われても俺はなんとも答えようがない。」
 言われた言葉を頭で反復させる。
「次、……ええとつまり要するに、サスケは自分のためじゃなくて俺がサスケに悪いことをした、っていう罪の意識を和らげようと薬塗るのを手伝えと言ったり……セックスもした、ってことでいいの? その理由は俺が好きだから?」
 頷く小さな顎。
 俺はふぅ、と息を吐く。
「結論として……、サスケが俺を好きなのは嬉しいけどその気持ちには応えられない。ただ俺のためにあれこれ考えてくれたことは……ありがとう。でもこれからはそんなこと考えなくて大丈夫だから。今日のセックスでお互いにこの件はもう終わり、で、いいね?」
 有無は言わさない。何人も部下を持って動いてきた、指揮官として部下を言い聞かせる時に使ってきた声色と表情、そして雰囲気。
 正しいのは俺、逆らうお前は間違っている、何故なら兵卒は指揮官に従って動くものだから。そういうときに使う言葉の武器。サスケとも……上司と部下の関係だ、セックスをしようがそれは変わらない。
 俺のその言葉にそれを感じたんだろう、俺とサスケがそういう関係になることはないと。サスケは静かに「わかった」と俯いた。
 持参したものを片付けて、なるべくサスケの方は見ないように玄関に向かった。
「……本当はもうワセリンもいらないんでしょ? 今日が最後、ね。」

 サスケはどんな顔をしているんだろう。なんて事は考える必要はもうないのに。ずるずると引きずっちゃだめだ、それがサスケのためでもある。俺なんかに思考のリソースを割くよりも、サスケは強くなる方にスイッチするべきだ。でないとあのイタチにはいつまでも追いつけない。
 扉の外に出てからも、引きずっちゃいけないと思いながらサスケが俺のことをずっと考えてくれていたことが気にかかって、それなのに俺はこんな態度で良かったのだろうかともやもやしながら呆然と家に向かっていた。
 サスケに酷いことをしてしまった事実は消えない、サスケに何をしてやろうがあの日俺がしてしまったことは許されるものじゃない。
 なのに許さないどころか俺の心配をして俺のことを考えて、俺を好いてくれていたのに、酷い仕打ちをしてしまったような罪悪感がのしかかってまとわりつく。
 家に帰ってから、靴を脱いで電気もつけずに俺は膝と手を床についていた。目の前にポタ、と落ちる水滴。
「……ごめん、サスケごめん、ごめん……。」
 こうするべきだった、これでよかった、そのはずだ。そうだろ。俺とサスケがそういう仲になるのは間違ってる。だからこうするのが正解だった。
「……ごめ、……」
 ずっと俺のことを考えてくれていたという事実がずっしりとのしかかる。それなのに俺は、サスケに何を返してやれたんだ。セックスだけじゃないか。それも、これで終わりだという最後通告付きの。
 でも俺は、その想いに応えてやれない。それは俺が上司だからで、先生だからで。……俺はずっとサスケのそばにいてやれるわけじゃない。いずれはサスケも中忍になって、分隊長の立場になって、俺の下から巣立っていく。だから応えてやるわけにはいかない。サスケには目指すものがあって、俺がそれを邪魔するような事はあってはならない。だからこれで……。
「……いいことなんて、何もない……。」
 理性と感情が混じり合って頭の中が混沌として何がよくて何が悪いのかもよくわからなくなってきた。
 俺を想ってくれている子どもを突き放した、俺がさっきしたのはそういうことで、でも俺は……。
「……寝よう……今何か考えたところでろくな結論は出ない……。」
 自分でもよくわからなくなってきた、なんでこんなに苦しい気持ちになっているのかも、罪悪感も、正しいことをしたはずなのに何が俺の頭をこうさせているのかも、……一旦寝て、リセットしよう。それがいい……はずだ。
 
 自分の考えや判断に自信がなくなるなんていつぶりだろうか。サスケのためにと思ってやってきたことは本当はサスケが俺のためにしてくれていたなんて、それが俺に対する気持ちからだなんて、それじゃあ少しでもサスケの傷を早く癒やしてやりたいと思っていた俺の行動はサスケにとってなんの癒しにもなってなくて俺はただ一方的にサスケの気遣いだとか優しさに乗っかっていただけで俺サスケになにも……何も返してやれてない、なんの償いもできてないんじゃないのか。それなのに俺はサスケにもう終わりだと告げて出てきて。
 あのとき確かにそうするのが正しいと信じて確信を持ってサスケにそう接したのにもうわからない、本当に正しかったのか、本当にあれでよかったのか。
 
 ……寝室に……行って、眠ろう……。今は冷静になれない。感情的になったらだめだ。……朝起きてから、いやもっと後でもいい、結論を出すのは……。
 額当てを外す。手の中を滑り落ちてカランと床に転がった。それを拾うのも億劫で、グローブも額当てと同じように床に脱ぎ捨てた。
 膝立ちのまま口布もベストも脱いで床に放って、そのまま床に服を脱ぎ散らかして寝室に向かってベッドに倒れ込んだ。
 寝て起きたらきっと、少しは……冷静に考えられる。
 頭の中のモヤモヤをひとまずどかして眠る事に集中した。そうやって眠ったのに起きる寸前に見た夢は、サスケとセックスをしながら好きだと語りかける夢だった。アラームの音が鳴る前に目が覚めて、キスをする寸前で夢が途切れて現実に戻り、頭を抱えてため息をつく。
 サスケは俺がサスケに対して罪の意識を持っていたのを、罪を償う機会を作って和らげようとした、実際に俺はサスケの中のトラウマのような記憶を上書きしてやることで少しでも償いができると考えた。
 サスケはただ俺が好きだから身体を重ねたいと思ったわけじゃなくて俺のことを心配して慰めようとしてくれた。
 俺がとった対応は間違っていた? いや、間違いじゃない。だってサスケはまだ子どもだしああいうことをするには早すぎる。……逆に言えばああいうことをしなければサスケの想いに応えても問題ないんだろうか。あんなにも俺のことを気遣って心配して想ってくれているのに俺は本当に正しい事をしたのだろうか。
 想いを寄せられて断ってきた回数はそれなりにあるけどこんなにも尾を引いてこんなにも罪悪感を感じたことなんて今まで一度もなかった。
 ……それって俺もサスケのことが気がかりだと感じているってことじゃないのか。昨日の夜罪悪感に耐えきれず涙をこぼしながら謝罪の言葉を口にしたのは、あの事件以上にサスケに悪いことをしてしまったと感じたのは俺にもサスケに対して何らかのそういう気持ちがあったからじゃないのか。
 ……でも気持ちがあるからと言って何をしてもいいわけじゃない。ましてやセックスなんて……いや、サスケは……ただ俺と一緒にいたいだけだと、言っていた。
 それだけだったら。それだけなら。いいんじゃないのか。一緒に過ごす時間を増やすだけなら。サスケがそれでいいのなら。……サスケの気持ちに応えてやりたい……。
 
 昨日浴びなかったシャワーを身体で受け止めながら、自分の中で決意が固まっていくのを感じる。自分の気持ちに逆らってまで一般的に正しいとされる事をするよりも、そんな倫理観は捨ててあの小さな身体を抱きしめたい。
 身体を拭いて服を着て装備を身につけて、いつものあの場所に行った。
「……お前なら、すぐに決断できたんだろうな。リンを助けると言ったときみたいに。」
 石は何も答えない。当たり前だ。でもここにはお前の名前が刻まれていて、唯一お前を感じられる場所なんだ。
「正しいとか正しくないとか、ごちゃごちゃ考えすぎなのかな、俺って。」
 きっとオビトなら世間から批判を浴びた父さんのことだって何も考えずに間違ってないって言い続けたんだろう。俺にはそれができなかった。
「先生とか、上司とか、上忍とか、……そういう立場全部捨ててしまいたいって時々思うよ。」
 ただのひとりのはたけカカシだったら、俺は一体何をするだろうか。
「……今日は早めに行くね。迎えに行きたいんだ。お前にちょっとだけ背中を押して欲しかっただ。」
 石碑から一歩後ろに下がって、少し俯いてから顔を上げてあの場所へ向かった。この時間ならまだ、家にいるはずだ。

 ノックをしてから扉が開くのを待った。少し開いたその隙間から見えた顔は少し目を見開いていて、扉を開けながらサスケは一歩後ろに下がった。
「ワセリンなら、あんたの言うとおり、もう必要ない……。」
 何をしにきたのか測りかねているんだろう、昨夜あんなふうに立ち去った俺がまたやってきたのだから。
「……何から話せばいいのか、自分でもよくわかってないんだけど……とりあえず、上がってもいい?」
 サスケは頷いて中に入るよう促す玄関に立つ俺と、その前に立つサスケ。ゆっくりと腕を上げてサスケの背中にまわして抱きしめた。
「ごめんね、ありがとう。まずこれを言いたかった。」
「……そんなのもういい、そんなことのために」
「俺もサスケと一緒にいたいって、一晩考えて自分の気持ちに気がついた。義理とかじゃなくて、加害者と被害者とかじゃなくて。」
「……はっきり言ってくれ、何を言いにきたんだ。」
「ごめんね、俺もサスケのことが好きで一緒にいたい。昨日はごめん、ほんとにごめん。」
 細い身体を抱きしめながら耳の後ろに顔をうずめる。サスケは暫く黙ったままそれを受け入れて、そしてゆっくりと手を俺の背中にまわした。
「……本当、でいい、んだよな、……信じても……。」
「うん、俺はサスケが好きだ。……今まで、ありがとうね。俺もサスケに返したいんだ。サスケが俺を想ってしてくれたことを。」
 俺たちの3ヶ月がもうすぐ終わろうとしていた。
 傷を癒すためと思っていた3ヶ月、それはサスケからの想いを受け止め続けた時間だった。
 だからこれからは俺が……、いや、一緒に……サスケと時間を重ねていく。先生とか上司とか、そんなのは考えない。今一番大事なものはそんなものじゃないって、わかったから。

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