金曜の約束

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成人向,中編,現代パロ,完結済み,カカサス小説エロ

出来心だった

 サスケはアプリを開きかけて……一週間前のカカシの言葉を思い出していた。
『俺を呼びな』
 LINEを開くと、まだ何もやりとりをしていないまっさらなトーク画面が現れる。
 こちらから誘うのは躊躇われた。
 ただ、あの日の甘いキスを思い出すと、顔が熱くなる。
「今日」
 と入力して、また消す。
「本番はなし」
 また消す。
 ……呼び出しにくい。
 アプリなら気軽に投稿できるのに。
 悩んでいる間に、下校時間を知らせるチャイムが鳴った。
 下駄箱で靴を履き替えていると、そこに紙の束を抱えたカカシが通りがかる。
「あ、うちは。ちょうどいいところに。資料運ぶの手伝ってくんない?」
 いつもの先生ヅラしたカカシ。
 もう下履きに履き替えてしまっていたが、サスケは「わかった」と頷くと、もう一度上履きを履き直した。
「悪いね、この時期面談が多いからさ。」
 ということは、今運んでいるのは誰かの個人情報。
「……生徒にそんなもん運ばせていいのかよ」
 …しまった。
 うっかり、素が出てしまった。学校では優等生を演じているのに。そしてカカシもまた、学校ではいい先生を演じているのに。
 カカシはさして驚きもせず、「へぇ……」とだけ言う。
「すみません、言葉が悪かった。いいんですか、生徒に個人情報運ばせて。」
「うちはなら誰にも何も言わないだろ。信頼してるってことだ。」
「そうですか」
 確かにこの紙の束に何の興味もなかったし誰かに言うつもりもなかった。
 ふと、視線を感じてカカシを見上げると、普段学校では見せない意地の悪い顔でサスケを見下ろしている。
 サスケはすぐに視線を逸らし、生徒指導室に向かった。
 
 少し埃っぽいその部屋のデスクに紙の束を置く。
 今日はもう帰ろう。
 と思っていたら、カカシが生徒指導室の扉に内側から鍵をかけた。
「……え」
 戸惑っているとカカシが近づいてきて、思わず後ずさるが、そこにはデスク。
「サスケ、今ここで舐めてよ。」
 いつもの笑顔で、応接椅子に座り、サスケを手招きする。
 言ってることと表情のギャップについていけない。
「キスと、ディープキスと、フェラと、ごっくん。出来るよね?」
「っここで? 今?」
「そう、今、ここで。」
 部屋の扉にある窓は曇りガラスで外からは見えない。
 この部屋は三階にあるから外から見られることもない。 
 音さえあまり出さなければ、問題なさそうだった。
 サスケは手招きするカカシの前にしゃがむが、カカシが「こっち」と言ってサスケをカカシの太腿に跨らせ、手はカカシの首の後ろに回される。
 ……股間に固いものが当たっている。
 いつからおっ勃ててたんだ、こいつ……!
 そこに、カカシのキスが降ってきた。額、頬、耳……そして、口。
 やはり甘く優しいキスにサスケは心臓が高鳴るのを感じる。
 今まで会って来た男たちは俺を好き勝手にしてきた。
 臭くて気持ち悪いキス、不潔なチンコ、無理矢理のイマラチオ、正直、毎回今日はどんな気持ち悪いことをされるんだろうと思うとうんざりして嫌だった。
 最初にカカシに犯されたときも、教師とはいえやっぱり他の男たちと同じで、汚い奴なんだと思っていた。
 それなのに……一週間前に「共犯になる」と言ってからのカカシはまるで違う。
 あの日たまたまそういう気分だったのかもしれない、と思ったけれど、今しているキスはやっぱり甘くて優しい。
 チュッ、クチュ、と喰むようなディープキスが終わり、顔を離すとサスケは顔を真っ赤にしていた。
「……なに。キスそんなに良かった?」
「っそんな、こと……!」
 カカシがサスケの耳を舐め、その中に舌を差し込み、クチュ、と音を出しながら舐める。
「っぁ」
「声出てんじゃん」
 耳元で囁かれるとゾクゾクする。
 おかしい、こんなのやっぱりおかしい。
「やっぱりフェラじゃなくて素股にしよ。脱いで。」
 サスケがカカシの上から退くと、ズボンとパンツを下ろした。カカシはスラックスをずらすと、しっかりと勃ち上がったそれが露わになる。
 カカシはソファの脇に置いてあった鞄からローションを取り出して局部に塗った。
 ……なんで鞄にローション入ってるんだよ……。
 再び手招きされ、サスケはカカシの上に跨る。カカシのローションでぬらぬらと光るそれを太ももで挟むと、ゆっくりと前後に動き始めた。
「だからさぁ……もっとこう……」
 カカシがサスケの腰を掴んで大きくグラインドさせる。
 ぬるぬるとしたそれは尻の穴に引っかかってはサスケのものを刺激する。
 入り、そう……っ!
 ぬちゅ、ぬちゅと音を立てながら、尻の穴に引っかかるたびにゾク、とする。
 サスケのそれもカカシのものに刺激されてすっかり勃ち上がっていた。
 そこに、カカシが手を伸ばして、ローションで濡れついたサスケの中心をゆっくりと刺激し始める。
「っちょ、それはっ」
「オプションにないからだめ? いいじゃない、ちょっとくらい。」
「……っ! だめ、だっ」
 扱く手が早くなる。
「サスケは気持ちよくなりたくないの?」
 ……演技で気持ちいいふりをしたことはある。でもサスケにはそんな気持ちは微塵もなかった。目の前の相手を満足させて金をもらう。それだけが目的だったから。
「っ、は、だめだって、っ言ってんだろ……っ!」
 しかしカカシが手を止める気配はない。
 サスケの腰の動きが止まる。
 カカシはサスケの腰に手を添えて、ぐいと押した。ちょうど、カカシのものがサスケのお尻に来るように。
「っおい、っ、本番はなしだぞ、わかってんのか」
「うん、オプションにはなかったね。」
 ぬぷっ
 先端がサスケの中に入る。
「っ、てめ……‼ 終わりだ! もうっ……‼」
 サスケが立ちあがろうとしたら、カカシはサスケの肩に手を置いて立てないよう押さえつけ、腰を動かしてまたぬるりとサスケの中に少し挿入する。
「っ……‼」
「ああ、まだ指で慣らしてなかったね。ごめんごめん。」
「そういう問題じゃねえっ‼」
 サスケは中心を扱く手を払いのけて、カカシの肩を押して距離を取り、無理矢理立ち上がった。
「何なんだよっ……! くそっ‼ あんたに頼ろうと思った俺がバカだった……‼」
 制服を着込んで、足早に扉に向かい、鍵を開けて外に出る。
 そのまま昇降口まで行くと、すぐに靴を履き替えた。
 今までに本番を強要されたことがないわけではない。
 ただ、カカシを信頼しかけていたところで約束を破られたショックが大きかった。
 なにが、『俺を呼べ』、だ。
 結局は自分がやりたいだけじゃねえか……‼
 もう何も信じられない。
 スマホを取り出しアプリを開く。
『今日の夜、空いてる人いますか』
 すぐにメッセージが送られてきた。
『僕は今夜OKだよ! オプション車の中でフェラとごっくんしてもらっていい?』
 誰でもいい、キモいオヤジでも金さえくれるのなら何だってやってやる。
『返信ありがとうございます。オプション了解です。駅前の噴水で、十九時でどうですか?』
『もう少し遅い時間がいいカナ。二十時でもいい? 水色の軽自動車で行くねっ』
『大丈夫です、わかりました』
 アプリを閉じていつものコンビニに向かう。
 
 勉強していたらあっという間に時間になった。
 時間ちょうどに噴水に行くと、水色の軽自動車を見つける。運転手は……メッセージの印象とはまるで違う、ガッチリした体型の、少し強面の男だった。
 サスケが運転席の窓をノックすると、窓が開いて「助手席、乗って」と言われる。
 助手席前に回って扉を開けると、中に入った。
「ここじゃあれだから、ちょっとドライブしようか。」
 サスケはこくりと頷くと、シートベルトを着ける。
 走り始めた車は、止まる気配もなく知らない道に入っていった。
 
もう周りはすっかり闇の中だった。フェラするだけなら近くの公園か、神社あたりかと思ったが、もう三十分以上車を走らせている。
「あの……どこまで行くんですか?」
 運転手に話しかけると、「海までだよ」と答えが返ってくる。
 海? 山道を越えて行く海はサスケの住む街から三時間以上はかかる。
「どうして海まで……?」
 運転手は答えない。
 カカシの言葉が脳裏を横切る。
『こういう出会い系アプリを使ってやって来た子どもを誘拐し、隣国に売り飛ばす奴らがいる。』
 まさか、もしかして。
 嫌な予感がする。
 
 不意に、車が止まった。
 もう営業していない古いラブホテルの駐車場だった。
 男はドスのきいた声でサスケに話しかける。
「お前は俺の『商品』だ。抵抗したり逃げようとしたら殺す。が、できれば手荒な真似はしたくない。痛い目に遭いたくなかったら大人しくそのまま乗ってろ。いいな。」
 サスケの脚が、震えた。
 横顔しか見ていなかったが、ジロリとサスケを見るその目は間違いなく人を殺したことのある感情のない目だった。
 どこかもわからない古いラブホテルの駐車場。
 スマホを取り出そうものなら何をされるかわからない。こんな場所に誰も助けに来てくれる人なんていない。

 再び走り出す車。
 抵抗したら殺される。
 逃げようとしたら殺される。
 このまま海まで行けば隣国に売り飛ばされる。
 助かる方法は……ない、……?
「今日は運がいい。上玉だ。高く売れる。」
 運転手が独り言のように呟く。
 身体が震えるのを手で抑えようとするが、その手も震えていた。
 カカシの忠告をちゃんと聞いていれば。
 アプリを開かなければ。
 今更後悔しても、もう遅い。
 車はひたすら暗い山道を走っていく。
「……俺は、売られたら、どう、なるんですか。」
 震える声で尋ねる。
「さあな。俺の仕事はコンテナに引き渡すまでだ。」
 動悸がする。息が苦しい。誰か、誰か、……
 
 車が更に三十分ほど走ったところだった。
「……邪魔な奴がいるな」
 運転手が呟く。
 暗い山道を走る軽自動車の後ろに、銀色のセダンが走っている。
 軽自動車が路側帯に止まり、銀色のセダンを先に行かせようとするが、銀色のセダンも軽自動車の前に止まった。
「……」
 運転手は黙ってジャケットの内側からピストルを取り出すと運転席を降りる。
 ……逃げるなら、今しかない。
 シートベルトを緩めた。
 でも、あの運転手はピストルを持ってる。
 逃げようにも、助けを求める相手はあの銀色のセダンの運転手しかいない。
 でも、その運転手もきっとあのピストルで殺される。
 どうしたらいい、どうしたら。
 ピストルを持った運転手が、セダンの運転席をノックする。
 すると、バン! と勢いよくその扉が開き、扉に押されて運転手が思わずよろけた。
 そこに、セダンから出て来た人物が体当たりして二人は地面に倒れる。
 パン! とけたたましい音が響いた。
 ピストルの音だ。
 しかし誰にも当たらなかったらしく、続いてゴン、ゴン、と鈍い音が響いてくる。
 暗がりでよくわからないが、セダンの人物が運転手に馬乗りになって殴りつけているようだった。
 サスケは唾をごくりと飲み込みながら見守る。
 下敷きになっていた運転手が動かなくなり、セダンの人物が立ち上がった。
 助かっ……た?
 震える手で助手席の扉を開け外に出る。
「ったく、危険だってあれほど言ったのに……」
 聞き覚えのある声。緊張していた身体から力が抜けて、地面にペタ、としゃがみ込んだ。
「……なんで、ここに……」
「見張ってるって言ったでしょ……。お前はのこのこと車に乗り込んじゃうし。山道で発信機の電波が届かなくなった時は流石に焦ったけど、一本道で良かったよ。ほら、立てる?」
 手が差し出される。見覚えのある大きい手。
 思わず泣きそうになった。もうダメかと思った。助けなんて来ないと思ってた。
 サスケは差し出された手を握る。
「カカシ……」
「これでちょっとは懲りた? ……でもま、俺も悪かったよ。ごめんな。」
 ぐい、と手を引かれ、サスケが立ち上がると、ボコボコに殴られて気を失っている男を尻目にセダンに乗り込む。
「怖かった? もう大丈夫だよ。」
 頭に置かれる、大きな手。
「……っ!」
 涙が溢れてくる。
 もうだめかと思った。殺されるかと思った。このまま海まで連れていかれて売り飛ばされるんだと思った。
 でも、来てくれた。
 危険を冒してまで、俺のために。
 ポロポロ涙をこぼすサスケを見て、カカシは「あらら」と言いながら後部座席からティッシュを取り出してサスケに渡す。
「ともかく、帰ろっか。」
 カカシがハンドルを握り、元来た道に向けて車を走らせた。
 
 緊張と恐怖と安堵で混乱していた頭が落ち着いて来たところで、サスケが尋ねる。
「ところで、発信機ってなんだ。いつどこに付けたんだ。」
 カカシは動揺する様子もなく平然と答えた。
「お前の家行った時。鞄の中。」
 ……やっぱりこいつ、変態だ。変態教師だ。
 と思ったところで、新たな疑問が生じる。
「あんたまさか……他の生徒にも付けてるのか?」
「いんや? サスケだけだけど?」
「なんで俺だけ……」
「だって……気になるじゃない。」
「……は?」
 サスケがカカシの顔を覗き込んだ。相変わらず、まっすぐ前を見ながら涼しい顔をしている。
「サスケがクソみたいなおっさん相手にするかと思うとさ、ムカつくでしょ。」
「なんだよその理屈。……意味わかんねえ……」
「……わかんなくていいよ。」
 カカシはサスケをチラと見て、フと笑いかけると、再び運転に集中し始めた。
 
 車がサスケのアパートの前に止まる。
 ……帰ってきた。……帰って来れた。
 サスケがシートベルトを外し、外に出ようとするとカカシから声がかかった。
「サスケ、オプション1。」
 一瞬言っている意味がわからなかったが、キスのことだと気づいて思わずクハッと笑う。
「金はいらねえよ」
 ――触れるだけのキス。
「……今回だけだからな。次は金貰うぞ。」
 そう言い残して、今度こそ助手席から出て行った。
 しかしすぐにサスケが運転席側に回ってきたので、カカシは窓を開ける。
「今日は……助かった。ありがとう。
……でも! オプションにあること以外は今後一切するな‼ わかったか‼じゃあな!」
 ポイ、と渡されたのは鞄に仕込んでいた発信機。
 受け取ると、カン、カン、カンと音を立てながらアパートの外階段を登って行く。
 カカシは苦笑しながら自分の家に向けて車を発進させた。
 ……わかんなかったかなぁ……サスケが特別だってことが。
 
 でも、カカシも反省していた。サスケがまたアプリを開いたのは、俺が約束を守らなかったせいだ。
 追いかけられて、無事に保護できたから良かったけど、相手がピストルを持ってたなんて撃たれるまで知らなかったし、うまく虚をついて押し倒せなかったら下手したら自分もやられてた。サスケも助けられなかっただろう。今回うまくいったのはたまたま運が良かっただけだ。
 つい出来心で……の結果がこれ。
 反省せずにいられるだろうか。
(…もう、サスケから誘いがあるまでは、我慢しよう)
 カカシはまだメッセージのない、まっさらなトーク画面を見て、スマホをしまった。