闇に咲く

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全年齢,中編,原作軸,完結済み,カカサス小説シリアス,ほのぼの

もっと強く

 朝起きると目の前にカカシの顔があってびっくりする。
 そうか、そういえばカカシの家に泊まりに来たんだった。
 時間を見ると朝の五時だ。カカシは朝早いと言っていたけど何時に起きるんだろうか。
 サスケはそろっとベッドから降りて洗面所に向かう。顔を洗ってタオルで拭き終えると、いつの間にか背後にカカシがやってきていた。
「だから、家の中でくらい気配消すのやめろよ。」
「はは……癖みたいなもんだから。」
 カカシに洗面台を譲ると、カカシも顔を洗い始めた。
 サスケは寝室に置いてあるバックパックから服を出して着替え始める。今日から新しい修行。嫌でも胸が高まる。
 寝室を出るとカカシはキッチンに立っていた。
「朝食用意してるから座って待ってな。」
 サスケは昨日言われた「次」ってこういうことか、と思いながらダイニングテーブルについた。
 オーブントースターがチン! と音を鳴らす。カカシは皿を二枚用意してトースターからこんがり焼けた食パンを取り出し、バターを載せた。そのまま皿を置いてコンロの前に移動し、フライパンに卵液を流し込む。フライパンがジュウ、と音を立てた。どうやらスクランブルエッグらしい。
 しばしのち、カカシはトーストとスクランブルエッグの載った皿をテーブルに運んできた。トーストの上のバターはすっかり溶けて表面にじわっと広がっている。カカシは最後に冷蔵庫から牛乳を取り出すと、ふたつのコップと一緒にテーブルの上に載せた。
「ん、じゃ、食べよっか。」
 カカシの言葉を待って、サスケは手を合わせる。
「いただきます。」
 コップに牛乳を注ぎ込んで一口飲んでからスクランブルエッグの皿に手を伸ばす。スプーンですくって食べると、ふわふわで味わい深く普通に卵を炒めただけではないらしいことが分かった。
「これうまい、どうやって作ったんだ?」
「牛乳とかマヨネーズとか……ま、色々入ってる。俺の秘伝レシピ。」
 ふぅん、と言いながらトーストを手に取りかじると、バターのいい香りが鼻腔に抜けていく。
 がつがつ食べるサスケを見ながら、カカシはふっと笑った。
「あんたやっぱり料理上手だよな。」
 後片付けを手伝いながら隣で皿を洗うカカシに話しかける。
「昔はちゃんと自炊してたからねぇ。」
 洗った皿をサスケに渡すと、サスケはタオルで皿の水分をふき取っていく。
「夕食もまた食べにおいで」
 そう言われて、思わずカカシの顔を見た。カカシはサスケに目線を向けて「どうした?」と言う。
「いや、良いのか? もう二回もご馳走になってるから……」
「朝飯はご馳走には入らないよ。」
 ニコッと笑いかけて、最後の皿を洗い終えた。サスケがその皿を拭くと、カカシは食器棚に皿とコップを入れていく。
 ……いよいよ、新しい修行だ。
「準備してくる」
 寝室に向かうサスケに、カカシが声をかける。
「忍具とかは何もいらないよ、身ひとつで大丈夫。」
「わかった。」
 サスケはアームカバーをつけて、足にバンテージを巻いていった。
 
 崖の上ではまずカカシが技の見本を見せて、それができるようになるために必要なステップを説明する。
 まずは雷の性質変化を覚えることからだ。当然だが簡単にはいかなかった。最初に火遁の術を父さんに披露した時のことを思い出す。最初は散々だったが、あのときだって練習を重ねてできるようになったんだ。今回もできるはずだ。
 
 もっと、強く。
 
 ふたりの頭によぎっていたのはうちはイタチの存在だった。
 サスケの復讐の相手。
 あいつは強い。――強すぎる。
 雷切だけではなく、瞳術もしっかりと使いこなせるようにならなければいけない。
 せっかく強力な技を身に着けても、見切られたら意味がない。サスケがいずれイタチに勝つために、教えてやりたいことは山ほどあった。
 
 夕方にはサスケはチャクラが切れて肩で息をしていた。性質変化は結局まだできていない。
 クタクタに疲れているサスケと一緒にカカシの家に戻ると、カカシはサスケに声をかけた。
「乾燥機の中に昨日の服入ってるから、シャワー浴びておいで。」
 汗でドロドロになっているサスケは素直に頷いて洗面所に向かう。乾燥機の中にはサスケの服とバスタオルが入っていた。それを取り出してから汚れた服を脱いでいった。
 シャワーから上がり、リビングに出ると、カカシがキッチンで料理している姿を見つける。カカシはサスケが来たことにすぐ気が付いた。
「疲れてるでしょ、夕食食べてから帰りな。」
 そう言いながら、料理を続ける。
「二日連続は悪ぃよ。」
「いいの、俺が食べてほしいの。」
 そう言われてしまうと、何も言えない。
 サスケは寝室のバックパックに汚れた服を詰め込んで、リビングのソファ横まで持ってくると、忍術書の続きを読み始めた。しばらくすると、お米が炊ける良い匂いが漂ってくる。ピー、ピー、と音を立てたのは多分炊飯器だろう。
 カカシはミトンで炊飯ジャーからお釜ごとご飯を取り出すと、また何やらコンロの前でフライパンを振っったあと、オーブンレンジの扉を開ける。中に入れてタイマーを回すと、サスケの隣にやってきた。
「あと十分くらい待っててね。」
「わかった。」
 カカシもイチャパラを取り出してページをめくる。
「それ、何回読んでんだ?」
「数十回。何回読んでも面白い。」
「……飽きないのか?」
「飽きないねぇ。」
「ふぅん……。」
 すぐ隣に座りながら、お互いにそれぞれの本に目を滑らせる。ふたりとも、すぐ隣に人がいるのに気にならない。気を遣わない。なんだか心地いい空間だった。
 オーブンレンジがチン、と音を立ててカカシが立ち上がり、サスケも忍術書をしまってダイニングテーブルに向かう。
 テーブルにスプーンが並べられて、ミトンを手にカカシが持ってきたのはキツネ色に焼けたチーズが上に載っている……これは何だろう。
「鮭ときのこのクリームドリア。熱いから気をつけてね。」
 ドリア? 食べたことがない。
 サスケは手を合わせて「いただきます」と言うと、スプーンを持ってドリアの器に触れようとする。
「あ、だめだめ、熱いから。やけどするよ。」
 カカシに制されて、手を引っ込めた。スプーンですくうと、ベシャメルソースの絡んだごはんに、ほぐされた鮭としめじ、そしてチーズが層になっている。ふうっ、ふぅっと冷ましてから口に入れる。
 ソースの絡んだごはんにブラックペッパーがアクセントになっていて、鮭ときのこはバター焼きだろうか。これもごはんとよく合う。チーズはとろっとしていて味に深みを出していた。
「……うまい。」
「ほんと? よかった。」
「あんた今すぐ忍者廃業しても洋食屋で食っていけるぞ。」
「廃業しないし洋食屋もやんないよ。」
「現役引退したら考えといた方がいいぜ、そのくらい美味しいから。」
「ん~……だって洋食屋だとずっと厨房でしょ? 俺はおいしそうに食べてるところが見たいし。」
「そうなのか?」
「うん、だからサスケに食べさせるだけで満足。」
 あっという間にドリアを平らげて、器をつん、と触る。暖かいけど持てないほどではない。
 器をシンクまで運んで洗い、タオルで拭くと、サスケはソファの横にあるバックパックを背負った。
「カカシ、ありがとう。飯もうまかったし、修行も。明日からも頼む。」
「いいよ、気にしなくて。明日六時に集合ね。おやすみ。」
「わかった。おやすみ。」
 靴を履いて、玄関の扉を開けると、サスケは家路についた。

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