先頭車両
痴漢
サスケが都内の進学校に通い始めて三ヶ月。
駅員が扉の中に人をぎゅうぎゅうに押し込んでやっと扉が閉まるような身動きの取れないラッシュアワー。
そんな中、サスケはいつも学校の最寄駅の改札に一番近い先頭車両に乗っていた。
そんな混雑ぶりだから通学カバンのリュックはお腹の方で背負うが焼け石に水、といった感じだ。乗り込んだ後三十分以上このぎゅうぎゅう詰めの中で電車に揺られるのにも慣れてきた頃だった。
駅に着いては人の波が扉に流れて行き、新しい人の波が押し寄せてくる。
その勢いに押されて運転席のある壁際に追いやられたサスケは人に囲まれるよりは壁際の方がいいな、とぎちぎちに人が詰まった車内で考えた。
扉が閉まり、また動き出す電車。学校の最寄駅まであと二十分。
サスケがいる側の扉はそれまで開かないから、人波に翻弄させられることもなさそうだ。
と、そんな折だった。
お尻に何か当たっているのを感じる。
誰かの荷物でも当たってるんだろうか、と思ったらその何かはすす……とお尻の形を確かめるように動き、そして一瞬離れたかと思うと今度は手のひらでお尻を揉み始めた。
……痴漢?
その手は前にも回ってきてサスケの局部を撫で始める。
……痴漢、だ……!
振り向こうにも身動きが取れずどこのどいつだかわからない。痴漢だ! と叫ぼうかと思ったが男のサスケが痴漢だと言って誰が信じるだろうか。それに、叫んだところで、誰かが助けようとしたところで、このぎゅうぎゅう詰めの車両の壁際にいるサスケをどうにかすることは出来ないだろう。
リュックを抱き抱えていた手で痴漢の手を掴もうとするがそんな身じろぎすらできない混雑ぶり。
痴漢の手はそうしている間にもズボンのチャックを下ろしてサスケのものをパンツ越しに触り始めている。
ゾワッとしながらも抵抗らしい抵抗をすることができない悔しさ。
さわさわと動いていたその手はパンツまで下ろしてそれを直接扱き始めた。若いそこはその刺激を拾うと嫌でも反応してしまう。
サスケは少しずつ芯を持ち始めたそこに戸惑いを隠せない。見ず知らずの誰だかわからない痴漢に扱かれて勃ってしまう自分が恥ずかしかった。
固く芯を持ったそこに満足したのか痴漢の手は離れていった。ほっとしたのも束の間、次は両手が伸びてきてズボンのベルトを外し始める。
(……っ!? )
何をするつもりなんだ。って言うかこのまま電車降りたら俺が露出狂みたいになるじゃねえか!
ズボンとパンツを少し下げてその手が次に向かったのは尻の方だった。その手はお尻を揉みしだきながら時折後ろの穴をくにくにと押して思わずサスケの身体がピクンと反応する。
もう一方の手はまたサスケのものを扱き始める。その先端にカウパーが滲み出ていた。
荒くなりそうな呼吸を堪えるが、前の手が滲み出ているカウパーに気がつくとそれを亀頭に塗り広げ、ぬるぬると尿道口を刺激し始める。
「……っく、」
思わず漏れてしまう声。この混雑だ、誰にも聞かれてないはず。
すると背後から、首元に吐息がかかる。
「……気持ちいいでしょ? ……もっとしてあげる」
ゾクゾクッと背筋を嫌悪感が駆け抜けた。
硬く勃ち上がったそれを扱く手が早くなる。
「っ……! は、っ」
周りに気づかれないように静かに浅い呼吸を繰り返す。
だめだ、だめだ、このままだと。こんな得体の知れない男に、電車の中で。
強制的に高められていく恥ずかしさ、悔しさ、情けなさに顔が熱くなる。追いかけてくる射精感。
「っく、は、ぁっ、……っ!!」
ピクンと跳ねながらそこはついに精を吐き出した。
はぁっ、はっ、はっ……
電車内という公共の場で顔もわからない男に扱かれていってしまった恥ずかしさに俯き、静かに呼吸を整える。
射精して満足したんだろう、前を触っていた手は離れていった。
と思ったら、尻を揉んでいた手が離れて前を触っていた手が尻の割れ目に指をそわせる。
「っ……!!」
ぬる、とした感触。俺が出した、精液か?
お尻の穴をくにくにと押した後、本来出すのが役割のその中にぬるりと指が一本入ってくる。
「や……っめ、……っ!!」
サスケはなんとか抵抗しようとするが少し身じろぐだけで精一杯だ。
腸壁をなぞりながら指はどんどん奥に進んでいく。その異物感に顔が歪む。
ぐにぐにと何かを探しているように動き回る指がある一点をグッと押すとサスケの身体がビクンと震えた。
「っあ……!」
何が起きているのかわからないサスケはそこを指で押しつけられるたびに痺れるような感覚が走るのを息を殺しながら耐えるしかなかった。
指がもう一本増えて二本になるがあいかわらずそこ一点をしつこく撫で付ける。
「はぁっ、はぁっ、っあ」
異物感よりもそこが拾う痺れるような感覚の方が強くなっていく。
「っぁ、はぁっ、っ……!」
小さくビク、ビク、と震えながら顔を伏せて壁に頭をつける。
「……気持ちいい……?」
背後からかかる吐息に小さく首を振った。
気持ちいいだって? そんなわけが……
リュックを抱える手に力が入る。すると胸ポケットに固い感触。スマホだ。恥ずかしいなんてもう言ってられない。すぐにメモ帳アプリを開いて『痴漢です助けてください』と打ち込み左隣の人にそれを見せるが、無視される。
そうしている間にまた指の数が増えていた。相変わらず一点をぐにぐにと押しながらも中を押し広げるようにうごめきはじめた。
まさか、まさか、もしかしてこいつ。
嫌な予感がし始めた。指だけで終わるわけがない。
ゆっくりと拡げられたそこから指が抜ける代わりに熱くて固いものがあてがわれる。
うそ、だろ……!
ずぷ、と侵入してくるそれに思わず「ひっ」と声が出る。
少しずつ入ってくるその質量に強い異物感や圧迫感を感じながら、サスケの呼吸が荒くなる。
「……全部は入らないね、残念」
浅く入っているその存在感。どうやらこれ以上は入らないらしいが、それが喜ばしいかというと、そんなことは全くなかった。
予想通り動き始めた背後の男。しかしぎゅうぎゅう詰めだからかあまり動かさずゆっくりとした浅い抽送を繰り返す。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、っあ、」
その浅い抽送をされる度に、ちょうどさっきからねちっこく触られていた一点が刺激される。
サスケは声が出そうになるのを堪えながら、呼吸だけが荒くなっていく。
時折ガタン、と電車が揺れるとそれは中にぐっと入って思わず「あっ……!」と声が漏れた。
スマホの画面を誰かに見せようとするがサスケは壁を向いてリュックを前に抱えて立っている。左隣の人には無視された上に右隣の人は背中を向けていて見せられない。
学校の最寄駅まであと十分。
駅に着いたらサスケがいる方の扉が開く。でも下半身丸出しで出るわけにもいかない。
となったら十分以内に後ろの男が満足するのを祈るしかない。
電車が駅のホームに滑り込んだ。開く扉に殺到する人波、この隙に逃げられないかと壁際から離れようとするが背後の男がサスケを囲うように両手を壁につき身動きが取れない。入れ替わるように押し寄せる人々。サスケの周りの人も入れ替わった。今度こそスマホで……!
扉が閉まると、再び抽送が始まった。
「はぁっ、あっ、は、っ!」
サスケは左隣に来た長身の男に画面を向ける。その男はしばらく自分のスマホを触っていて気がついてくれなかったが、めげずに視界に入れようと腕を伸ばすと、サスケのスマホに気がついてそのメモを読み、サスケの方を向いた。
荒い息をしながら頬を染めて時折声を漏らすサスケと目が合う。男が確かめるようにサスケの背後を見るが、ぎゅうぎゅう詰の中ではサスケが何をされているのか確認することはできない。ただ一人の男が背後にピッタリとくっついて、はぁはぁとただ満員電車で苦しいだけではない呼吸をしていることだけはわかった。
男が自分のスマホをタップし始める。
ガタン、と電車が揺れた。ググっと奥にそれが入る。
「……ぁっ、」
長身の男が自分のスマホ画面をサスケに向ける。
『どうしたらいい? 引き剥がすだけでいい? 捕まえる?』
サスケは悩んだ。できたら捕まえてほしい。鉄道警察に突き出したい。でもそうすると証拠を出したり聴取をされたり学校には遅れるだろうし、何よりサスケを助けようとしてくれているこの人にも迷惑をかけてしまう。
サスケはメモ帳にまた入力して左隣の男に見せる。
『引き剥がすだけでいいです』
それを見た長身の男は、「ちょっとすみません」と言いながら超満員の車内を少しずつ動いてサスケの背後に周り、背後にいた男を強引に押し除けて代わりにサスケの背後に落ち着いた。押し除けた男を伺うと一瞬ズボンの隙間から勃起したそれが出ているのが見える。
背後に回った長身の男は後ろの人を押しながら少し屈み、サスケのパンツとズボンを上げた。
(ああ……助かった………)
サスケはほっと一息ついた後、呼吸を整えようと深呼吸する。
『大丈夫? 何された?』
後ろから伸びてくるスマホ画面を見て、どう言えば良いのかわからなかった。手コキされて射精させられた挙句後ろにちんこ入れられたなんてとても言えない。
『ありがとうございます、もう大丈夫です』
とだけ打ち込んで背後に見えるようスマホを向けた。
息を整えていると、もうすぐ学校の最寄駅だ。
ほっとしてスマホを胸ポケットに入れる。
開く扉に向かう人波に紛れてホームに出ると、ベルトを締めていないことに気がついてリュックを前に背負ったままトイレに向かった。
改札に向かう階段の左横の通路を歩くと右手にトイレがある。
男子トイレの個室に入り、リュックを下ろしてズボンを見るが、幸運なことに精液はパンツもズボンも汚していなかったようだった。
服を整えて男子トイレから出ると、そこには長身の男が腕を組んで壁にもたれかかっている。
「……?」
「ああ、ごめんね。勝手についてきて。さっきスマホの画面でやりとりした子だよね? 俺、はたけカカシ。」
痴漢から、助けてくれた人だ。
改めて見ると本当に背が高い。目が覚めるような銀髪が印象的な、三十歳くらいの人だった。
「その節は本当にありがとうございました。助かりました。俺はうちはサスケです。」
「いや……いいのよ、お礼とかは。俺もあっち側の人間だし。」
あっち側の……?
意味がわからず困惑していると、カカシはもたれかかっていた壁の隣にある多目的トイレの扉を開けた。サスケは背中を押されて二人で多目的トイレの中に入る。
「そんな綺麗な顔じゃ、痴漢したくもなるよね。」
ガシャンと鍵を閉められ、二人きりになった空間でサスケは狼狽えた。
(あっち側……痴漢、する側……? まさか……この人が? )
「それであのクソ野郎にはどんなことされたの?」
「答えたく、ないです……それより、何でここに俺を?」
「言ったじゃない、俺もあっち側だって。」
思わず息を飲み込んだ。
扉側にカカシがいる。逃げられない。
「サスケはさ、女の子とお付き合いした事あるの?」
「ない、ですけど……」
「じゃあ、男は?」
「えっ?」
「男とも付き合ったことはない?」
「ないに、決まってるじゃないですか。俺男ですよ」
「ふぅん……」
カカシは目を細める。
「ちんこ」
「は?」
「さっき、挿れられてたでしょ。」
「……………は、い。」
「俺も挿れたい」
「そうで………え?」
「聞こえなかった? 俺も挿れたいって言ったの。」
にこ、と爽やかに笑いながら言っていることがえげつない。
「いや、あの、それはちょっと……」
「嫌なの?」
「嫌に決まってるじゃないですか……!」
「ふぅん……でもこんな可愛い子があんなクソ野郎に無理矢理ヤられて喘いでたなんて考えただけでエロいじゃない? 俺勃っちゃったんだけど。」
可愛い? エロい!? 勃っちゃった……!! ?
変態、なのか、この人……っ!
「だから助けてあげたお返しにセックスしない?」
「は? え? セック……ス……!?」
「学校何時から?」
「八時半からですけど……」
「じゃ、間に合うように終わらせようか。」
ごく自然にそう言うと、カカシはジャケットを脱ぎ始める。……やばい、やばい、やばい。サスケは慌ててその手を掴んで待ったをかけた。
「嫌だ、俺はセックスなんかしない、そこどいてくれ。出る。」
「なんで? あのおっさんは良くて俺はダメなの?」
「電車では身動き取れなかったから……!」
「じゃあ、身動き取れなくすればいいんだ?」
「は!?」
何でそうなるんだ、やっぱりこいつやばい、まともじゃない。
カカシを押しのけて扉の鍵を開けようとするが、細身に見えるのにサスケの力ではピクリとも動かない。
カカシはジャケットを脱いでオムツ台に置くと、シュル、とネクタイを外してサスケの手を掴んだ。
「っ離せ!」
手首にネクタイを巻いてギュッと縛ると、暴れるもう片方の手も掴んで同じように縛り上げる。
「学校に間に合うようにしてあげたいからさ、なるべく抵抗しないでくれる?」
サスケはジャケットが置かれているオムツ台に手をつくように誘導される。必然的にお尻を向ける姿勢になる。
「っやめ……!!」
さっき整えたばかりのズボンに手をかけられ、ベルトが外されてパンツとズボンを下ろされた。
背後でベルトを外す音が聞こえる。続いて衣擦れの音。
「ああ、ローションがあったほうがいいね」
ごそ、と鞄の中を探っている。
その間に逃げようにも腕は縛られているし下半身も丸出しじゃどうにもならない。できる限りの抵抗をしようと身体を起こして扉に向かうが。
「あー、こらこら。」
あっさりと襟首を掴まれてまたオムツ台に連れて来られる。
「や、やめっ……!」
ピタ、とお尻にぬるついた熱いものがあてがわれた。
カカシはサスケの腰に手を添えると、ゆっくりとそれを中に沈めていく。
「っあ、く、」
電車の男とは比べ物にならない異物感と圧迫感。
「ああ、キツくていいね。」
その言葉を皮切りに、カカシは腰を動かし始めた。
「っま、やめ、やめっ! 、っく、」
「このあたり?」
カカシがあの一点をグリっとそれで擦り付ける。
「っぅあ!」
痺れるような刺激。さっきの電車の男と同じところを擦りながら腰を動かす。
「あっ、はぁっ、……っあ! ……っ、あぅ!」
「当たりだね?」
腰の動きが早くなる。
ピストンの度にそこを刺激されて、サスケはビクンと震えながら口から漏れる声を抑えることができない。
「やっ、ぁあっ! はっ、あっ、ぅあっ……!」
「ほら、やっぱりいい声で鳴くじゃない。」
「ちがっ! っあ、やめっ! ぁっ、あ、あっ!」
ピストンがどんどん早くなる。ひっきりなしに脊髄を駆け抜ける甘い痺れの正体が快感なんだとは、認めたくなかった。
「っは、気持ちい……っ」
陶酔したような甘い声が背後から降ってくる。
その優しい響きに、頭がクラクラした。
待て待て、違う、今されてるのはレイプであって、合意もしてなければ好きな相手なわけでもない。なのになんでこんな――
「……ああ、もっとじっくりしたいところだけど、時間もないしもう出すよ……っ」
「あっ、んっ! あ、あっ、はっ、ぁ、あぁっ!」
一層ピストンが早くなったかと思うと、奥に突きつけられ、中でビューッビューッとカカシのものが迸る。
「……っあ、あ、っ」
ググっと奥に押し込み、吐精が終わるとカカシはゆっくりそれを引き抜いた。
サスケが荒い息で背後を伺うと、カカシはゴムを外して結んでいた。それを汚物入れに捨てると、トイレットペーパーでそこを拭いてからスラックスを上げてベルトを締める。
オムツ台にもたれかかったままのサスケの手首のネクタイも外すと、また自分の襟首に巻き付けて締めていった。
手が自由になり、サスケもまだ落ち着かない息のままズボンとパンツを上げて服を整える。
「あんたっ、なん、なんだよっ、わけわかんねえし、ああもうっ!」
頭をかきむしるサスケにカカシはにこ、と笑いかける。
「俺サスケのこと気に入っちゃった。サスケも気持ちよかったでしょ? 身体の相性抜群……」
「気持ちよくなんかねえよっ! 男にちんこ突っ込まれて気持ちよくなんかなるわけねえだろ!!」
「へぇ、あんなに喘いでたのに? 気持ちよくなかったの?」
「あんたが変なとこばっか擦るからだろ!」
「それをねぇ、世間では、気持ちよかった、って言うんだよ。」
笑顔で言うカカシに、サスケの顔に熱が集まる。
「ま、とにかく身体の相性は抜群なんだから、これからも仲良くしよう? K高生のうちはサスケ君?」
「仲良くなんか、するわけねえだろ……!!」
「じゃあ何、あのまま電車で知らないおっさんに中出しされたかった? そういうプレイが好きなの?」
「好きなわけっ……!」
「でしょ? それを助けてあげたんだよ? 俺。ま、お礼は今のでチャラだけど。」
お礼、と言いつつやってることは電車の男と同じだ。
こいつも所詮クソ野郎の仲間だ。
「俺はちゃんとセーフセックスするし、何なら毎日同じ電車に乗ってサスケが痴漢に遭わないように守ってあげることもできるよ?」
「はっ、手首縛り上げて無理矢理しておいて守ってあげるだ? 笑わせんなよ……!」
「……ところで時間、大丈夫?」
腕時計を見る。走れば間に合う時間だ。
「とにかくっ! 今日あんたを通報しない事を幸運に思ってろ! もう二度とごめんだ!!」
サスケは鍵を開けて早々に立ち去った。
カカシもジャケットを着込んで鞄の中にゴムとローションをしまう。
「……うん、やっぱり仲良くしたいねぇ。また俺に助けられるように仕掛けてやろうかな。」
カカシはスマホを取り出すと、痴漢募集の掲示板を開いて、口角を上げた。