先頭車両

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成人向G,長編,現代パロ,完結済み,カカサス小説エロ,モブサス,変態,性癖強め,暴力的描写有,玩具,自慰

望んでいたもの

「サスケ、少し話がある。」
 夕食が終わって食器を片付け終わったサスケに、イタチが声をかける。真剣な声色に、サスケはすぐテーブルについた。
「はたけカカシの弁護士から、示談の話があった。」
 示談……?
「つまり、はたけカカシは反省していて金も渡すから、罪に訴えるのはやめてくれ、という話だ。」
「反省? カカシが?」
「どう思う、サスケ。」
「……中身による。本当にあいつが反省なんてしているのか?」
「さあ……どうかな。示談の内容はこうだ。二度と自分からサスケに接触しない。反省の気持ちとして示談金を二百万出す。」
「二百万? ……そんなに?」
「暴行事件の示談金としては破格らしい。まあ、腐っても医者で社会的地位もあるだろうから、前科がつくのはまずいんだろう。」
 二百万あれば引越して完全にカカシからも離れることもできる。それにカカシが俺に関わることもなくなる。
「俺なりに調べたが、示談を断って刑事裁判になったとしても、下される罰は六ヶ月以下の懲役か五十万円以下の罰金……示談よりも罰金の額が軽い上に、懲役が終わった後もサスケに接近することができてしまう。だから俺は、示談を受ける方がサスケにとってメリットがあると考えている。」
「……確かに。でもその示談って、具体的にどうすればいいんだ?」
「一般的には示談の条件を相手の弁護士と交渉する。……まあ、交渉と言っても向こうは最初から高額の示談金を示してきたのだから、俺たちがするのはイエスかノー、どちらなのか意思表示をするだけだ。サスケが他にも条件をつけたい場合は、それを示談条件にするよう交渉する。」
 サスケは拳を握りしめた。
「……わかった。示談を受ける。条件の追加は、……少し、考えさせてほしい。」
「こころが決まったら、教えてくれ。」
「明日までには答えを出すよ。」
 
 部屋に戻って、サスケは深く息を吐いた。
 てっきりそのまま裁判にかけられるのかと思っていた。
 示談。
 弁護士。
 二度と接触しない。
 ……もしカカシがその約束を破ったら?
 カカシに何か罰が下るのか?
 掲示板の書き込みは、証拠にならなかった。カカシは掲示板の書き込みに関与していないと主張している。
 ということは、今後も同じように何を書かれるかわからない。俺を痴漢しろと書くかもしれない。
 ただ、そもそも俺は本当に、カカシを、カカシから、離れたいと思っているんだろうか。
 今朝改めて思い知らされた。俺をめちゃくちゃにしてくれるのは、満足させてくれるのは、カカシしかいない。
 それを望んでいる俺がいる。
 でもまた元の普通の生活に戻りたいと思う俺もいる。
 示談を受ければ……元の普通の生活に戻れる。
 ……戻れるのか? 忘れられるのか?
 現に俺は自ら掲示板に書き込んで、今朝自ら痴漢されに電車に乗った。痴漢だけじゃ満足できずにトイレで見ず知らずのおっさんとセックスまでした。
 そんな俺が、後戻りなんて、出来るのか。元の生活に戻れるのか。
 ……いや、戻るんだ。カカシさえいなければ俺の頭が狂わされることなんてなかったんだ。
 カカシさえ、俺に関わってこなければ。
 
 部屋の扉を開けてリビングに行くと、兄さんはまだテーブルにいて何やら紙を見ていた。
「兄さん、示談の条件を追加する。」
「わかった、言ってみろ。」
「示談の条件を破った場合、五百万円支払う。」
 いくら医者でも、そんな何百万もほいほい出せるほど金持ちってわけじゃないだろう。これである程度拘束力を持たせることは出来るはずだ。
 兄さんは頷いた。
「いい条件だと思う。さっそく明日伝えに行ってくる。」
 
 追加の条件は、あっさり通った。
 カカシはもう俺に興味を持っていないのかもしれない。訴えられるリスクがあるとわかった以上、金輪際近付かないと考えるのは普通のことだ。
 二百万円が振り込まれた通帳を見て、これで終わったんだと実感した。
 引越し先は兄さんと一緒に決めた。
 なるべく学校に近く、電車ではなく自転車で行ける範囲。志望する大学に進学しても通いやすい場所。
 
 その一方で、サスケは玩具を捨てられないでいた。早く家に帰った日にはデスクの奥から引っ張り出して指で慣らし、玩具を挿れて激しく動かした。何度も何度も中イキを繰り返してはその余韻に浸り、そしてまたスイッチを入れる。
 その次の日は決まって痴漢されに電車に乗った。いつの間にかサスケを痴漢するグループが出来上がっていて、時には数人に輪姦された。見張りや壁役がいるときは電車内でもガンガン腰を振られ、サスケ自身も腰を振って何度も絶頂した。
 それなのにどこか満たされない。何かが足りない。頭がおかしくなる程の快感を感じられない。積み重なっていく想い。その想いの向こう側にいる人影。
 今回もだめだった、そう思う度にこんなことはもうやめようと考える。それでも頭に刻まれた快楽は消えてくれない。あの男が刻み込んだ快感を求めて、サスケはまた玩具に手を伸ばす。虚しさを募らせるだけだと知りながら、それでもこの玩具が何かを繋ぎ止めてくれているような気がして。
 
 でも。自ら痴漢に遭いに行くのも、引越しが済めば終わりだ。もうラッシュアワーに電車に乗る事はなくなる。
 新居のサスケの部屋に置かれた家具と五つの大きな段ボール箱。その箱の中には捨てられなかった玩具が入っていた。
 これを使った翌朝、俺は何人と関係を持ってきただろうか。何度イカされてきただろうか。何度期待を裏切られただろうか。
 いい加減、自分でもわかっていた。何を期待して掲示板に書き込んでいたのか。何を期待して痴漢ごっこやセックスをしてきたのか。本当に欲しいものは何なのか。わかっていながら、見ないふりをしてきた。気づいていないふりをしてきた。脳裏にチラつく人物から目を背けてきた。けれど。
 もう、無視し続けることはできない。目を背け続けることはできない。唯一それを繋ぎ止めてきたこの玩具で一旦、けじめをつけに行こう。
 荷解きをしながら、サスケはあの場所に行くとこころに決めた。
 何を言われるのかわからない。どう扱われるのかわからない。でもそれできっと、直接顔を見て話をすれば、この絡まった結び目はほどけて消える。
 
 次の日の放課後、サスケは新宿にいた。
 受付に保険証を出して「初診です」と告げる。問診票には何も書かなかった。
 平日の午後四時、待合室はほとんど人がいない。
 程なくして、白い服を着た女性に名前を呼ばれる。
 サスケは立ち上がって、診察室の扉を開けた。
 白衣を見に纏ったカカシは、サスケの顔を見てもさして驚きもせず、「荷物はそちらのカゴに置いてお掛けください」と事務的に告げる。
 椅子に座って、手をぎゅっと握った。
「それで、今回はどうされました?」
 俯く。顔を見れない。ここでは俺とカカシは、ただの医者と患者。
「……中が、疼くんです。」
「中? お腹の中?」
「お尻の奥が、……あの感覚が、……忘れられない。」
 カカシは大きくため息をついた。
「……あのねぇ、うちはサスケ君。どこも悪くないなら来ないでくれる? それに俺は接触禁止……」
「俺の方から来ちゃだめだって約束はしてない!」
 ポーカーフェイスを保っていたカカシがわずかに目を開く。カカシは机に肘をついて頬杖をついた。
「じゃあ聞くけど、何の用事で来たわけ?」
「忘れられないんだ、あんたとのセックスが。誰とやっても、何人とやっても、満たされない。足りない。何回イッでも満足できない。」
「俺のせいって言いたいの? 人を警察に訴えておいて? ……っていうか、何人とやったのよこの短期間に。ほんっと淫乱で変態だね。ちんこがないと生きていけなくなっちゃった?」
 嘲笑を含んだ言い方に、サスケが思わずカッとなる。
「あんたがっ! 俺をそういうふうにしたんだろ!」
「声でかいって。診察室でそういうのやめてよ。それで何? 俺に責任とれとでも? お前は所詮俺のおもちゃだよ。その癖に俺に噛みついてきた。壊れたからって直してやる義理はないね。次のおもちゃを探すだけだ。」
「……あんたのおもちゃでいい、特別になろうなんて思わない。ただもう一度だけ、これで最後でいい、もう一度俺を……」
「それでまた後から訴えられるのはごめんだね。抱いてなんかやんないよ。」
 医者の顔からカカシの顔になっていた。頬杖をつきながらサスケに嘲笑と侮蔑の眼差しを向けている。その目はもう、サスケには興味がないと告げている。
「……今、すぐにでも抱いて欲しい。それができないのもわかってる……でもあんたのいない世界はもう考えられない。これを……持ってくれてるだけでもいい。」
 サスケは握りしめていた左手をカカシに向けて伸ばした。手を開いてその中にあったものをカカシの手の中に落とす。カカシはそれを見ると、目を見開いた。
「……リモコン? もしかして入れてんの?」
 サスケはまた俯く。
「それを、どうしても良い。捨ててもいい。スイッチを、入れても、……。」
 カカシはため息をついてサスケに目をやる。もう興味を失った目ではない。いつかのカカシと同じ目だ。
「声、出さないでよ。」
 ダイヤルを弱に回した。
「ふっ……く、んっ……!!」
 サスケは前屈みになって震え始める。
 カカシはまた頬杖をつきながらその様子を見ていた。
 中まで回す。
「っあ、……っ! は、うっ……っ!」
 ビク、ビク、と震えながら少し顔を上げてカカシを見る。目が合うと、カカシは少しだけ口角を上げた。
 カチ、とリモコンが鳴る。強になった。
「っう、くっ、……っ! ……カシっ、カカシっ、カカシ……っ! ……っ! はぁっ、カ、カシっ……! カカシっ……カカシ……! っん、……くっ……カカ、シっ」
 サスケは快感に震えながら、カカシの名前を呼び続ける。何度も。何度も。何度も。
 
「……それはちょっと、ずるいでしょ……。」
 
 カカシは立ち上がり、白衣を脱いで椅子に掛けた。診察室を出て受付にいる事務に「ちょっと二時間くらい出かけてくるから、一旦表閉めといて。」と言って診察室に戻り、椅子の上で震えながらまだカカシの名前を口にしているサスケの玩具のスイッチを切る。
「立って。行くよ。」
 はぁっ、はあっ、
 真っ赤な顔で肩で息をするサスケの手を引いてクリニックを出た。そのまま歌舞伎町方面に歩いてあのラブホに入る。
 部屋に入るとすぐにサスケのズボンと下着を下ろして玩具を引き抜いた。
 そのまま部屋の入り口でカカシは自分のものを出してゴムもつけずに後ろからサスケの中にグッと挿れる。
「あっ……!!」
 腰を掴まれ、抽送が始まった。
「ぅあっ! あ、あっ! あっ、カカ、んぅっ! あっ、あっ!」
「ねえ何人とやったの。どこで? どうだった?」
「あっ、わからっ、あぅっ! あ、あっ、電車と、トイ、あっ!」
「覚えてないくらいたくさんしたんだ? 電車でヤッて気持ちよかった?」
「気持ちっ、あ、あっ! よかっ……! ぅあっ! あっ! でもっ、あっ! 足りなくてっ、……っ!」
「満足できなかったんだ?」
「ッカシ、カカシじゃないとっ、カカシっ、カカッ」
「そんなに俺にして欲しかったんだ? 訴えたくせに?」
 抽送が一層激しくなる。
「あぅっ! あ、あっ、あっ! か、あっ!」
 ずっとカカシが欲しかった。ずっとこうして欲しかった。
 おもちゃでも何でもいい、あんたに振り回されたい。心をかき乱して欲しい。
 俺には、カカシしか、いない。
「あ、いく、あっ! はぁっ、あ、あっ! いくっ、カカシ、カカシっ!」
 ビクンっとサスケの身体が震える。中が断続的にキュウ、キュウ、とカカシのものを締め付ける。
「っく……」
 カカシもまた、サスケの奥に精を放った。
 中にじわっと温かいものが広がるのを感じて、サスケは多幸感に包まれる。
 そしてカカシもまた、久しぶりの射精の余韻に浸っていた。
 繋がったまま二人で荒い息を吐く。
「ずっと……こうしたかった。誰としても、こんな風にイケなかった……。」
「……好きとかどうとか、言わないでよ? お前はただの俺のおもちゃ。それ以上でもそれ以下でもない。」
「おもちゃでいい、俺のこころをかき乱して頭をぐちゃぐちゃにしてくれるだけでいい……それ以上のことは、望まないから……。」
 ぬる、とそこからカカシのものが抜けていく。
 カカシはサスケの手を引いてベッドに誘導した。
「俺にあれだけのことをしといて、二回や三回で済むと思わないでね。」
「俺を、……ぐちゃぐちゃにしてくれれば、何だっていい。」
 サスケの後頭部に手が添えられる。
 その唇に、カカシのそれが重なった。
 
「それで、サスケはこれからどうしたいの。俺からはお前に連絡もできないし会いにも行けないよ。」
 脱ぎ捨てられた服を拾いながらカカシが尋ねる。
「俺から、連絡する。また会いにくる。」
「来るのはいいけど次からは診察時間外にしてくれる? また診察室で騒がれても迷惑だし。」
「わかった。……これからも会っていいって事だよな?」
 拾った服を着込みながら、サスケも尋ねる。
「俺は別にいいよ。好きにしな。ただ、他のおもちゃが見つかったらお前みたいな厄介者は用済みだからね。」
 サスケはズボンを履きながら口をぎゅっと結んだ。
 厄介者。そりゃそうだ、俺はカカシを訴えたんだから。示談を破ったら五百万の件もある。……用済みになっても、仕方ない。
「なぁ、聞いても、いいか。何であんたは俺を騙してまで俺に恩を売ろうとしたんだ。」
「何の話?」
 ワイシャツのボタンを留めながら、カカシはサスケの方を見もしない。
「掲示板であんたは俺を囲むように手引きしただろ。」
「知らないね。俺は掲示板になんて何も書いちゃいないよ。」
 警戒、されてる。それもそうだ。現に俺はカカシを訴えたんだから、証拠になりうることは言わなないつもりなんだろう。
「……録音も録画もしてないし俺はもうあんたを訴えたりしない。だから本当のことを教えろ。」
 カカシはサスケを一瞥して、またボタンを留め始める。
「……最初に言ったでしょ、身体の相性抜群だって。だから恩を売って俺のおもちゃになるように仕向けただけ。実際、サスケは俺のことが忘れられなくて今日わざわざ来たわけでしょ?」
「俺があんたのおもちゃになったとして、その後はどうするつもりだったんだ。」
「おもちゃは遊ぶためのものでしょ。そういうこと。でも、俺のおもちゃに勝手に手出されたのはちょっと苛ついたね。」
「何の話だ……?」
「サスケがやってきたことだよ。どこの馬の骨かもわからないおっさん達にヤらせてたんでしょ? それもたくさん。」
「っ誰のせいでそんな事したと思って……!」
「でもまあ、そのおかげでサスケが俺のところに戻ってきたんだから、別にいいんだけどね。」
 ジャケットを羽織り、服を着終わって、カカシはサスケを見下ろした。
「……でも俺のおもちゃになったからには、もう他の男に手ぇ出させるな。」
「……勝手に俺をあんたのものにするな。」
「いいや、お前はもう俺のものだよ。診察室で自分が言った言葉覚えてない? 一発目終わった後俺に何言った? ……お前は俺から離れられないよ。何でかわかる?」
 サスケのシャツを着込む手が止まる。
「お前が、俺のおもちゃだからだ。」
「そんな理屈……めちゃくちゃじゃねえか。」
「俺が普通の真っ当な人間じゃないことはサスケ、お前もよくわかってるでしょ?」
 カカシが部屋の入り口に落ちているカードキーを拾いに行く。
 サスケはボタンを留めて、シャツをズボンの中に押し込んだ。
「……まぁ、俺に会いに来る度にわかるよ。俺の手の中から抜け出せないってことが。」
 カードキーと一緒に落ちていた玩具を拾って、サスケに向けて放り投げる。
「これもその証拠だ。まさか入れてくるなんてねぇ。」
 愉しそうに笑いながら、ジャケットのポケットからリモコンを取り出した。
「使うでしょ? 返しておくよ。」
 投げてよこされたリモコンをサスケは左手でパシッと受け取る。
 サスケは何も言えなかった。
 カカシの本性を知っても驚きはしなかった。
 そして自分がカカシのおもちゃだということも、否定することができなかった。
 こころも、身体も、カカシにぐちゃぐちゃに翻弄されて振り回されることを望んでしまっている。カカシの手のひらの上でなら何をされたって構わない。
 ……俺はもう、カカシから逃れることは、出来ない。
 
「ほら、ぼーっとしてないで帰るよ。うちの事務、時間にはうるさいからさ。」
 扉を開けて待っているカカシの元に向かい、靴を履く。少し悩んでから、差し出された手を取った。
 俺はカカシのおもちゃ。それ以上でもそれ以下でもない。カカシの言葉を頭で反復させる。
 ……おもちゃでいい。おもちゃで構わない。それ以上のことは望まない。ただただもっと俺をぐちゃぐちゃに掻き回して、奈落のような快楽に突き落として欲しい。
 
 もう先頭車両に乗ることはない。
 でも俺はもう、普通の日常には戻れない。
 全てを狂わせたこの男に、俺はついて行く。その道の先に、何があったとしても……。
 
 地下鉄で電車に揺られながら、サスケは笑っていた。
 スマホを取り出して、フリーメールのアカウントを削除する。望んでいたものが、やっと手に入った。だからこんなものはもう、必要ない。ブックマークからあの掲示板も削除した。これからは、カカシがいる。カカシが望むものを与えてくれる。俺を弄んでくれる。ぐちゃぐちゃに掻き回してくれる。
 カカシだけがいてくれれば、他のものは何もいらない。
 
 薄暗いトンネルの中を、電車はガタガタと音を立てながら、走り抜けていった。

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