いつか

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成人向,長編,原作軸,完結済み,カカサス小説エロ,シリアス,モブサス描写有

崩してはいけない(side S)

 またカカシの家にセックスに通う日々が始まった。でも今までとは違う。ただセックスするだけだった今までとは違う。よく会話をするようになったし、お互いに顔を見ながらするようになったと思う。カカシが興奮してるのがわかると何故だか俺も興奮する。そしてどんどんボルテージが上がっていって俺は何度も激しくいく。カカシはそれが嬉しいみたいだった。そんなセックスに俺は溺れていった。荒く息を吐きながら「気持ちいい……?」と聞いてくるカカシの声は色気があって頭がクラクラする。まるでその色気に酔ってしまったように俺も「もっと」と言ってしまう。今までは暗黙の了解のようにカカシは俺の求めるセックスをしていた。でも今はお互いに確かめ合いながら、気持ちを高め合いながら、ああ俺たちは今こころから深く繋がっていると感じる。そんなセックスは身体もこころも満たされて幸せな気分になれた。
 カカシもそう思っているんだろうか? あの日、カカシはこんなセックスを続けていたら本気になるかもしれないと言った。本気で好きになるかもしれないと。今の俺ならその気持ちがよくわかる。セックスをしながら俺はカカシからの愛情のようなものを感じている。それが嫌なわけじゃない。むしろ心地いい。でも怖くもある。カカシじゃなくて、俺の方が本気になってしまわないか、なんて。
 だから今までカカシがするだけして会話もほとんどせず深く踏み込んでこなかった理由が理解できてしまった。カカシは本気になってはいけないと思っているんだ。だったら俺も本気になるわけにはいかない。カカシにその気がないのに、俺一人だけ本気になったって、馬鹿みたいじゃないか。
 それなのに毎日のようにやることはやりに来るんだから俺はカカシとのセックスからもう抜け出せないと感じていた。カカシにはその気はない、本気になるな。そう思うたびにもやもやとしたものが胸に広がっていく。俺はもしかしたらもう、とっくにカカシのことを……いや、そんなわけがない。カカシから感じる愛情のようなものもきっと俺のこころが作り出した錯覚だ。でもその錯覚が得難くて、感じたくて、今日もカカシの家に来ていた。もうパックンは来ていない。完全に俺の意思だった。
 
 玄関をノックするが、反応がない。留守か? と思ったら、いつものようにもう鍵は開いていた。ということは、中にいる? 靴を脱いで玄関を上がり寝室に行くとそこにはベッドで寝ているカカシの姿があった。そういえば昨日任務があるって言ってたな。帰ってきて疲れてそのまま眠ってしまったんだろうか。
 カカシの寝顔を見ながらベッドサイドに腰をかけて声をかける。
「カカシ」
 声をかけてもまだ起きない。瞼を見ると眼球が動いている。夢を見ているようだ。どんな夢を見ているんだろう、と思ったらカカシは小さな声で呟いた。
「……サスケ、好き……」
 俺は聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がしてその場から去ろうと立ち上がる。しかしその腕をカカシが掴んでいた。
「……ごめん、寝てた。」
 カカシは今呟いたことを覚えていないようだった。胸がドキドキしている。今呟いたことがカカシの本音なら、カカシから感じていた愛情のようなものはもしかして、本当の?
「……眠りが浅かったみたいだな。もう少し寝たらどうだ。」
「いや、サスケとセックスする方が良い。おいで。」
 掴まれた腕を引き寄せられて、俺は再びベッドに腰を下ろす。
 カカシは布団をまくってそのまま俺を抱き寄せて、また布団をかけた。後ろから抱きしめられると、波の国でのことを思い出す。
「長い……夢、見てた。長い夢だった。」
「どんな?」
「……内緒。」
 温かい布団の中で、カカシの体温を感じる。うなじにキスをされて、シャツがたくしあげられて、胸の突起に触れられると思わず身体が反応する。
 口に指を入れられて、ズボンがずり下ろされて、まるであの時の再現をしているみたいだった。俺は唾液をいっぱい絡ませて指を舐めると、カカシが口から指を抜いてお尻に沿わせる。少しの抵抗感を感じながらゆっくりと中に指が入ってくる。やっぱりローションと比べるとぬるっとすんなりはいかない。いかないなりにカカシは少しずつ挿れたり抜いたりしながら的確に俺のツボを押してくる。最初はいつもみたいに優しく。少しずつ中が慣れてきたら徐々に強く。
「っぁ、は……、んっ……」
 そうしている間にも、カカシはうなじにキスをして、そのまま舌を這わせて耳を口に含みクチュッと湿った音を立てている。
 俺はどうしたらいいのかわからず、胸の前で手をぎゅっと握った。さっきのカカシの寝言が頭について離れない。カカシは本当に俺のことを……? それともよっぽど変な夢でも見ていた?
「カカシっ、っあ、もう挿れ、」
「ん……もういいの? まだあんまり……」
「いい、からっ、んっ、早く……!」
 俺は確かめたかった。カカシは本当に俺のことが好きなのか。カカシから感じる愛情のようなものは本物なのか。それを知ったとき、感じたとき、俺はどう思うんだろう。どうするんだろう。何を言うんだろう。わからない。けれど今のカカシとの関係は壊したくなかった。
 ゆっくりと指が抜けていってカカシの熱いものがそこに触れる。ああ、早く奥まで挿れてくれ。そう思ってもカカシは最初に挿れるときはいつもゆっくり慣らしながら奥へと進めていく。俺の中を傷つけたりしないようにしてくれている配慮なのに、いくらでも傷ついていいから早く奥まで挿れて欲しいとじれったさを感じてしまう。
「んっ……、あっ……っ」
 胸の前でぎゅっと握っていた手をカカシの手が包み込む。胸がまたドキドキと拍動し始める。いつものカカシの気遣いが、優しさが、全てがあの一言に集約されているような気がしてしまう。
『……サスケ、好き……』
 奥までそれが納まってカカシは後ろから抱きしめながらうなじにキスをする。
「カカシ、前……こんな抱き方したら本気になるって言ったの、今はどうなんだ」
「……心配なの? ……あのときと何も変わってないよ。」
 それは好きになってないということだろうか、それともあの時点ですでにカカシは俺のことを好きだったんだんだろうか。カカシの顔を見られないから表情が伺えない。
 ゆっくりと始まった抽送に俺は思わず声を漏らす。すぐ耳元で聞こえる荒い呼吸、抱きしめる手の温かさ、そこをなぞりながら奥に突く律動。それだけじゃ足りない、もっとカカシを感じたい。
「カカ、シっ、顔……っ、見ながら、したいっ……」
 カカシは腰の動きを止めた。
「今日はなんて言うか……積極的? そういう気分?」
 カカシがそれを抜いて邪魔だと言わんばかりに布団を押し除けた。俺は仰向きになると服を脱いでいく。カカシも服を脱いでゴムとローションを着けてから俺の膝を折って俺の目を見る。ああ、カカシは今、俺に、興奮してる。
 それはぬるっと中に入ってきた。さすがにローションは滑りやすさが違う。カカシはどんどん腰の動きを早めていく。俺はあられもない声を出しながら気持ち良くて頭がはたらかなくなってきた。その間もカカシの熱いまなざしが俺に注がれている。その目は単にセックスに興奮しているだけじゃない、何か別のものを感じる。愛情のようなもの、と表現してみたけれど、こうして見ると少し違う気がする。恋慕……そう、まるで恋焦がれているような、そんな想い。カカシは性欲が強いと言っていたけれど、第七班を受け持つ前はどうしていたんだろう。くのいちを同行させていたんだろうか。その人にも同じ目を向けていたんだろうか。それともこのまなざしを向けるのは俺だけなんだろうか。
 カカシの激情がぶつけられているかのような激しいセックスが好きだった。ただ気持ちいい、もっと、と伝えようにも喘ぐばかりでなかなか言葉にならない。でもカカシはそんな俺の気持ちもお見通しだった。
「もっと、激しくが良い?」
 まともに喋れない俺はこくこくと頷くと、カカシの腰の動きが一層早くなる。暴力的な快感が頭を埋め尽くしてもうカカシを感じること以外何も考えられなかった。身体中が熱くなってきて、あ、いく、と思ったらビクンと俺の身体が跳ねて中が痙攣しているかのようにカカシのものを締め付ける。情欲に染まっていたカカシの顔がふっとゆるみ目が細められた。カカシは奥に挿れたまま身体を倒し、俺の背中に腕を回して抱きしめる。俺もカカシの首に腕を回して抱き寄せた。
「気持ち良かった?」
「……すごく」
「俺も……いっちゃいそうなくらい」
「……止めなくていいのに」
「もっとサスケを感じていたいし、サスケを感じさせたいの。」
 ……なあ、あんたは俺のこと、好きなのか。
 言いそうになって、口を結ぶ。聞いたところではぐらかされるか、本音を聞けたところで俺はどうしたらいいのかわからない。
 ただ今は奥まで入っているそれの愛おしさと、抱きしめる腕の強さと、触れ合う肌のぬくもりを感じるだけで幸せなんだ。それだけで良い。それだけで十分だ。だってカカシは、それ以上のことは望んでいないんだから。
 どれだけの時間そうして過ごしただろう。息が落ち着いてきたところでカカシはそのままの体勢でまたゆっくりと腰を動かし始めた。
「……ああ、気持ちいい……幸せ。」
「っあ、俺も、……んっ、これ、好き……っ。」
 ああ、繋がってる。身体だけじゃなくて俺たちのこころは今ひとつになってる。……そう思っているのは俺だけだろうか。カカシもだろうか。きゅううっと、切ない気持ちが胸にこみ上げてくる。俺は深く息を吐きながらカカシのすべてを感じようとする。はぁっと吐く息、ふわっと香るシャンプーの匂い、心臓の鼓動、肌の温かさ、抱きしめる腕。ああ――好きだ。
 ……え? 俺今、何考えて……。
 カカシの腕の力が緩んで、身体が離れていく。その顔はなんだか寂しそうな笑顔を浮かべていた。カカシは俺の腰に手を添えると、また少しずつ抽送を早くしていき肌のぶつかる乾いた音が響き始める。俺はカカシに揺さぶられるまま喘ぐばかりで、その快感に夢中になりながら頭の片隅にはさっきふわっと浮かんだ考えがこびりついていた。……あれはきっと錯覚だ。こころが満たされて、幸せな気持ちになったことで、頭が勘違いしたんだ。そうじゃないとだめだ。カカシを好きになっちゃだめなんだ。だってカカシはそういうことを望んでいないんだから。
 激しく揺さぶられながらカカシの顔を見るとやっぱりあの目をしている。興奮と恋慕が伝わってくるあの目。まるで俺を好きだと言っているようなあの目。見ていると俺までたまらない気持ちになってくる。胸にこみ上げてくるこの気持ち。それに名前をつけてはいけない。俺たちはセックスに耽るだけの関係。この関係を壊すようなことは……考えちゃだめだ。
 
「……なぁ、何の夢、見てたんだ。」
 服を着込みながらカカシに尋ねる。けどきっとまたはぐらかされるんだろう。
「気になる? ……教えないよ。」
 ほらやっぱり。
 ……長い夢、って言ってたっけ。
「あんた寝言言ってたぜ。」
 カカシが俺の顔を見る。
「……何て言ってた? 変なこと言った?」
「俺も教えてやらねえ。」
「もし変なこと言ってたらごめん、忘れて。」
「……どうかな。」
 きっとカカシは、何を口走ったのか心当たりがあるんだろう。
 忘れて、ということは、知られたくなかった本心ということだろうか。
 それともあまりにでたらめな夢だったから、という意味だろうか。
「忘れてよ、お願いだから。」
「お願いされたからって忘れられるような、都合のいい頭は持ってねえよ。」
「それも……そうだね。……ねえ、明日も来てくれる?」
「心配しなくても、あんたとの今の関係を崩すつもりはない。用事がなければ明日も来る。」
 服を着込み終わって、ベッドに腰かける。カカシはいつものように額に触れるだけのキスをする。
「……やっぱり、俺変なこと言っちゃったんだね。」
 俺は無言でカカシの顔を見上げた。カカシは少しだけ左に視線を揺らし、また俺に戻す。
「あやふやなままにしたくないからこの際はっきり言うけど。」
 カカシはまだ言うべきかどうか悩んでいるようだった。悩みながら、口を開きかけて、また閉じる。それを何回か繰り返した後、意を決したように口を開く。
「俺はサスケのことが好きだ。けど、だからって今の関係を壊す気はない。今まで通りで良い。だから……」
「わかってる。……寝言も今のも聞かなかったことにしてやる。あんたがどう思っていようが、俺も今の関係を変えるつもりはない。」
 今の関係から一線を越えるようなことはしない。それがあんたの望んでいる関係なんだろ。あんたが俺を好きになったとしても、俺があんたを好きになったとしても、その一線は越えないようにする。俺たちはただのセフレで、それ以上でもそれ以下でもないんだから。

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