いつか

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成人向,長編,原作軸,完結済み,カカサス小説エロ,シリアス,モブサス描写有

愛情(side S)

 その日カカシは何度も何度も俺の名を呼びながら、好きだと言いながらセックスをした。あの恋慕のこもった……いや違う、愛情のこもった熱い視線を俺に向けながら、強く抱きしめながら、時折俺に何かを問いかけてくるような視線を向けながら俺を抱いた。俺はこころを殺しながらその視線を受け止めて、抱きしめられて、好きだと言われるたびに揺れるこころを必死におさえて。そうしてカカシの激情を受け流しながらただカカシのもたらす快感に喘いだ。
 俺とカカシの関係はまた変わっていた。
 カカシは俺に対する想いを全力でぶつけてくるようになった。それは単なるセフレに対する態度じゃない。愛する人に向ける態度だった。
 一方の俺はカカシに対する気持ちを全部押し殺してただセックスだけにのめり込んだ。俺はカカシが俺に向ける激情に戸惑っていた。カカシはセフレ関係を続けたかったんじゃなかったのか。本当はこうして愛し合うようなセックスをしたかったのか。カカシは俺がカカシの想いに応えるのを待っているのか。カカシはもしかしたら俺の想いに、気がついているのか。
 俺もカカシが好きだと伝えて、深く愛し合うことが出来たらどんなに幸せだろう。でもそんな”いつか”はやってこない。俺は一貫してセックスをするためだけにカカシの家に通っているんだという姿勢を崩さなかった。それでもカカシは俺を愛し続けた。好きだと言い続けた。俺の名を呼び続けた。キスをし続けた。唇にだけはしなかったけれど、カカシは髪の毛からつま先まで余すことなく俺を愛した。俺はいつかカカシの熱も冷めてまた元のセフレ関係に戻るだろうと思っていた。そうなったときに傷つかないよう俺は俺を守るためにこころを殺し続けた。だけどカカシが俺に向ける愛情は変わらなかった。そのあまりの熱さに、いつからか俺はカカシの家から足が遠のいていった。
 
 カカシの家に行かない日は自慰をして過ごした。いつかカカシが俺の家に置きっぱなしにしていったローションを手に垂らして、後ろの穴に指を挿れて、前を扱いて、小さく喘いで、カカシとの激しいセックスを思い出しながら指を動かして射精して。……またあの最初の関係に戻れたらいいのに。俺のこころが乱されることのない、ただシンプルにセックスに耽るだけの関係に戻れたら。
 でもカカシは俺を好きになってしまった。そして俺もカカシを好きになってしまった。もうあの関係には戻れない。俺は自分の気持ちに素直になってカカシの腕の中に飛び込むのがこわかった。感情を丸裸にして表に出すのがこわかった。こころをむき出しにしてしまうと、少しのことでも深く傷ついてしまう事を知ってしまったから。
 俺はもうカカシの家に通うのはやめた。カカシとあの情熱的なセックスをするのがつらかった。こころを殺し続けるのがつらかった。カカシのことが好きだから、俺はカカシから距離を置いた。任務中も、演習中も、カカシとふたりきりにならないようにナルトやサクラと話をしながら過ごした。
 
 カカシの家に足を向けなくなって一週間。ひとりで過ごしていた夜、玄関がノックされた。俺は無視したけれど、扉の向こうの気配はいつまで経っても動かない。俺の部屋に鍵がかかっていないのを知ってるくせに、それは扉が開くのを待ち続けた。一時間以上経っても動く気配がないのに俺はしびれを切らして、扉を開ける。外にいたカカシは昼に見せるのと同じ笑顔を俺に向けた。
「……入ってもいい?」
 前はそんなことも聞かずに入って来たくせに。
「……何の用だよ。」
「サスケに逢いたくなった。」
「それならもう用は終わっただろ。」
 俺は玄関の中に入れるつもりはなかった。扉を閉めようとすると、カカシはするりと中に入り込む。
「顔見たら、抱きしめたくなった。」
 胸がドキドキしはじめる。だめだ。こころを殺せ。
「抱きしめたら、セックスしたくなるんだろ?」
「よくわかったね。」
「俺はもう、あんたと、セックスはしない。」
「……俺はもう、自分の気持ちに、蓋はしない。」
 カカシの腕が俺に向かって伸びてくる。
 その手に捕まってはいけない。カカシの手が届かないところまで後ずさった。カカシの手は空を切って、そして胸の前で手を握る。
「ねえ、サスケ。サスケは俺のことが嫌いになったの?」
 察しろよ、今のでわかっただろ。俺はもうあんたには抱かれない。
「でもね、俺はサスケのことが好きなんだ。」
 俺だって好きだ。好きだから、あんたの元を去ったんだ。
「サスケは俺のこと、どう思ってる?」
 こころが乱れそうになる。落ち着け、冷静になれ。
「サスケの声が、言葉が聞きたい。俺にとって不都合でも、かまわないから。」
「……もう、俺に、会いに来るな。」
「どうして? もう俺が嫌い?」
 嫌いなんかじゃない。好きだ。好きだからもう会いたくないんだ。
「俺はお前の気持ちが知りたい。」
 何を言われたって、答えない。この胸の内は明かさない。
「ねえ、教えて、聞かせてよ。サスケ。」
 昼のカカシの顔から、夜のカカシの顔に変わっていく。そのまなざしは相変わらず熱くて、俺はその目を見るだけでこころが揺れる。……もう、こんな気持ちにはなりたくない。
「……早く、出て行けよ。あんたに言うことは何もない。」
「嫌だね。サスケが応えてくれるまで、出て行かない。」
 こうなってしまったらもう、カカシは納得する答えが返ってくるまで帰らないだろう。
 嫌いになったと嘘をつく? ……嘘はつきたくない。
 誤魔化してやりすごす? ……きっとそれは通用しない。
 正直に話すか、朝まで放置して諦めさせるか。それくらいしか浮かばなかった。
「……せめて、なんで教えてくれないのかくらいは、聞かせてよ。」
「俺はもうあんたに会わないし、セックスもしない。これが答えだ。」
「どうしてそう思うのかが聞きたいの。」
 カカシは靴を脱いで玄関から上がり、俺を抱きしめた。俺の気持ちが溢れ出そうになる。カカシを好きだという気持ちが。どんどん湧き上がってきて、泣きそうになる。ずっとこの腕で抱きしめて欲しい。セックスをして深く繋がりたい。あんたが好きだと言いたい。……けど、だめだ。
「上がってくるな。」
「嫌だ。サスケの気持ちを聞くまで出て行かない。」
 カカシが好きだ。好きだ。抱きしめるこの腕が。俺に向けるまなざしが。俺のこころを揺さぶって、頭がどうにかなりそうになる。だからもう、会わないと決めたのに。
「もうあんたに振り回されるのはまっぴらだ。」
「……ごめん。もう態度を変えたりなんかしない。」
「もう俺たちはセフレに戻れない。だから終わりだ。」
「俺の気持ちは重かった?」
「あんたといると俺のこころはぐちゃぐちゃになる。」
「それってどういうこと? サスケはそれが嫌なの?」
「……嫌だ。もうこころを乱されたくない。」
「ならそうならないように抱く。」
「あんたが俺を好きでいる限り、それは無理だ。」
「俺たちの関係に、俺の想いはいらなかった?」
「昔の関係に戻したって、もう元には戻らない。」
「なんでそう思うの?」
「俺も変わってしまったから。」
「俺を嫌いになったから?」
「……嫌いには、なってない。」
「なら、好きになったってこと?」
 俺は何も言わなかった。否定できなかった。無言を貫いた。それはつまりそうなんだと、言っているようなものだった。
「ねぇ、サスケ。サスケの口から、サスケの言葉で聞きたい。」
 こころの底から気持ちがあふれ出てくる。だめだ、出て来ないでくれ。
「俺から言うことは何もない。帰れ。」
「サスケが話してくれるまで、帰らない。」
 しばらく押し問答が続いた。けれどカカシは帰ろうとしなかった。
 ……もう、どうせ俺たちの関係は変わってしまったんだ。カカシとの関係をやめると決めたんだ。俺は俺の気持ちを伝えることで俺たちの関係の何かが変わってしまうんじゃないかと不安に思っていた。けれどその関係がすでに変わってしまっている今、もう伝えても良いんじゃないだろうか。そう思えてきた。気持ちを伝えるだけ。それだけなら。
「……俺はあんたが好きだ。でも、あんたとの関係はもう終わった。」
「今までの関係は終わりでいい、これからは恋人としてまた新しい関係を築こうよ。」
「言ったはずだ。俺はもうあんたとは会わない。」
「……好きなのに? どうして?」
 傷つきたくないから。傷つけたくないから。それがこわいから。……なんて、言えない。カカシが新しい関係を築こうと言ってくれたことは嬉しかった。けれどやっぱりこわかった。人は変わる。カカシもいずれ俺への気持ちが冷めるかもしれない。カカシの想いを受け入れて、俺のこころを解き放って、そうすればいつか考えたように、きっとしばらくは幸せに過ごせるんだろう。でもいずれ終わりはやってくる。俺たちのセフレ関係が終わったように、恋人としての関係も、必ずいつか終わる日が来る。一夜にして平穏が崩れたあの日のように、それはいつどんなタイミングでやってくるかわからない。俺は人を好きになるということに憶病になっていた。人から好きだと思われることに憶病になっていた。お互いに心を通わせて愛し合う”いつか”なんて来ないと思っていた。そんなものは、熱に浮かされてる奴らが見る幻だと。
 
「俺は何があろうと、サスケが好きだし、サスケを愛するし、サスケを護る。だから俺と一緒にいてよ。俺を好きでいてくれてるのならなおさら。この約束は必ず守るから。」
 ……口では何とでも言える。約束したってそのときが来れば破られる。こんな言葉はカカシを心から信じる材料にはならない。
「……信じられない? どうしたら信じてくれる?」
 臆病なこの俺の背中を押してくれたら、もしかしたら一歩前へ足を踏み出せるかもしれない。俺にはその一歩を踏み出す勇気がなかった。カカシは背を丸めて俺の額にキスをする。……キス、唇には決してしなかった……。
「……俺が、好きになった人のために、してこなかったんだよな。」
 抱きしめる腕の力が緩んで、その手が俺の肩に置かれる。
「キス、のこと?」
「俺はあんたを好きになった。」
 カカシは戸惑いながら俺の顔を覗き込んだ。
「……いいの?」
「証明しろ。あんたが本気なのか。あんたが言った言葉が本当なのか。」
 カカシが口布を下ろし、身をかがめた。俺の目を見つめて、その唇をそっと重ねる。カカシが大切に大切に守ってきた俺のファーストキス。それをする意味は、カカシが一番よくわかっているはずだ。
「……あんたを、信じる。信じてみる。」
「ありがとう……ちゃんと、大切にする。」
 
 手を繋いで、カカシの家まで歩いた。
「ずっと好きだった。でもカカシは俺にそういうことは求めてないって思ってた。だから言えなかった。」
「俺は最初からずっと好きだったよ。好きで好きでたまらなくて、どんな感情でもいいからお前の気を引きたくて、波の国で……。」
「俺たちの間にはセックスしかないって、ずっとそう思ってた。あんたがセックスしかしなかったから、カカシにとって俺はそういう価値しかないんだって。なのに俺だけ好きになって、馬鹿みたいじゃないかって。」
「俺も……サスケと俺を繋ぎ止めてるのは、セックスだけだと思ってた。お前にとっては俺自身の事はどうでもいいんだと思ってた。」
「好きだっていう想いがどんどん膨らんで、でもあんたは俺をセフレとしてしか見てないんだと思うと苦しかった。」
「ずっと好きだった。でもそれを知られたらセフレとしての関係も終わってしまうと思って言えなかった。」
「俺は寝言聞いたって言われたとき、ああ、終わったって思ったよ。でもお前が関係を続けてくれるって言ってくれたのが嬉しかった。」
「……結局、俺たちを繋ぎ止めてたのはセックスだったんだな。それがなければ、こうしてふたりで歩くこともきっとなかった。」
「もう、我慢することも、遠慮することも、悟られないようにすることも、しなくていいんだよね。」
「もう、いいだろ。遠慮なんてしなくたって。だってもう俺たちは……」
「うん、俺たちはもうお互いの気持ちを知ってる。」
「……俺はカカシが好きだ。あんたが俺の名を呼ぶたびに、俺もあんたの名を呼びたかった。」
「サスケ、俺もお前が好きだ。好きで好きで、どうにかなりそうなくらい。」
「知ってる。……あんたが開き直ってから、嫌ってくらい味わったから。」
「……嫌だった?」
「……嬉しかった。けど、……少し、困ったな。あんたの想いがあんまりにも激しかったから。」
 玄関の鍵を開けて中に入る。靴を脱いで、また手を繋いで寝室に向かった。寝室の扉を閉めた瞬間、カカシは口布を下げて俺の唇にそれを重ねて、口内に舌を差し込む。歯茎に沿って、唾液腺を刺激して、舌を絡めて、チュ、クチュ、と湿った音を漏らしながら何度も俺の唇を奪う。
 興奮を隠そうともせずにカカシは俺に確認する。
「もう、何も遠慮しなくてもいい?」
「……好きにしろ。」
 
 今まで決してしなかったキスをしながら、カカシは俺の服を脱がしてベッドに押し倒す。
 そうしながら器用にゴムとローションをつけて、その指を後ろの穴に沈めていく。
「っあ、んっ……! ん、……んっ!」
 カカシは唇を離そうとしない。今までしてこなかった分を取り返すかのように。何度も何度も何度もキスをしては熱い息を吐く。その目は俺しか見ていない。胸の中の激情を隠そうともしていない。俺への想いを全てぶつけているかのように早急に指を動かして本数を増やしていく。
 ようやく唇が解放されたときには、もうカカシのそれが奥深くまで入っていた。お互いに荒い息を吐きながら、また自然に始まるキス。カカシが腰を動かし始めて、俺はキスをしながら声を漏らす。――ああ、好きだ。カカシが好きだ。
 カカシは唇を離して俺を見つめる。
「サスケ、好きだ。……好きだ。」
 そして俺に言葉を紡がせる間もなくまた唇を奪う。
 ……ずるい。俺だって言いたい。伝えたい。カカシが好きだって。
 抽送は徐々に早くなっていった。カカシは名残惜しそうに唇を離して俺の腰に手を添える。
「激しくするよ、いい?」
 荒い息を漏らしながら頷くと、宣言通りにカカシは激しく腰を打ちつけ始めた。そうしながら、俺の目をじっと見つめて何度も「好きだ」と言う。言われる度に「俺も」と言おうとするがなかなか言葉にならない。でもカカシには伝わっているみたいでその度に色んなところにキスが落ちてくる。
 何度もいってその度に深く繋がりながら抱きしめ合ってキスをして好きだと言い合って、愛を確かめ合うセックスはこういうことなんだと実感した。気持ちが通じ合ってするセックスは胸が幸せでいっぱいになる。……カカシも同じ気持ちでいてくれるんだろうか。そんな疑問は抱きしめられると溶けていった。
 カカシが好きだ。ずっと一緒にいたい。ずっとそばにいたい。たくさんキスをして抱きしめ合いたい。今までできなかった分、たくさん。……たくさん。

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