いつか

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成人向,長編,原作軸,完結済み,カカサス小説エロ,シリアス,モブサス描写有

崩してはいけない(side K)

 サスケは出会茶屋に行かなくなった。その代わり、毎日のように俺の家を訪れる。もうパックンは来なくてもいいとサスケ自ら言い出して、どっちに転ぶかと思ったけれど杞憂だったらしい。俺たちは毎日逢瀬を重ねて、見つめ合いながら、言葉を交わしながら、抱きしめ合いながらセックスに没頭していた。ただサスケへの気持ちが言葉に出ないようにだけ細心の注意を払って、でも俺はセックスの最中に俺の気持ちが態度や表情に出ていないか心配だった。このまま今のセックスを続けていたら間違いなく俺の気持ちはいつかこぼれ落ちる。サスケは俺がサスケを好きになっても構わないと言ったけれど今の関係の何かが変わってしまうんじゃないか不安だった。今の幸せな関係をどうか、終わらせないでくれ。
 
 久しぶりに上忍としての任務が入った。丸一日神経を尖らせ続けるのが久しぶりでなんだか疲れてしまった。でももうすぐサスケが来る頃だ、鍵を開けて待っていよう。と思っていたのに、写輪眼を使った疲れなのか睡眠不足なのか目を開けたままでいられない。10分くらい仮眠を取ろうと、俺はベッドに入った。
 まどろみながらずっと夢を見ていた。夢の中で俺たちは愛し合っていた。好きだ、愛してると囁いて、俺もとサスケが答えて、抱きしめ合ってセックスをして一緒に眠って……目が覚めると不意に隣で寝ていたサスケが話しかける。
「カカシ」
 起きて一番に俺の名前を呼んでくれるんだね。……サスケ、好き……大好きだ。サスケは……?
 
 すぐ近くで誰かが動いた気配にハッと目が覚める。そこにはベッドから立ちあがろうとしているサスケがいて、思わずその腕を掴んでいた。
「……ごめん、寝てた。」
 ああ、夢じゃない本物のサスケだ。やっぱり今日も来てくれた。
「……眠りが浅かったみたいだな。もう少し寝たらどうだ。」
「いや、サスケとセックスする方が良い。おいで。」
 掴んだ腕を引き寄せてサスケを布団の中に引っ張り込む。後ろから抱きしめるなんて波の国以来だろうか。
「長い……夢、見てた。長い夢だった。」
「どんな?」
「……内緒。」
 温かい布団の中で、サスケの体温を感じる。夢じゃない本物のサスケ。うなじにキスをして、シャツをたくし上げながら胸の突起に触れるとサスケはピクンと反応した。あの時のように口に指を入れると、あの時と違ってサスケはたっぷり唾液を絡ませながら指を舐める。その舐められる感覚にゾクゾクずる。ズボンをずり下ろして、口から抜いた指をそのやわらかい尻に沿わせた。ローションに慣れてしまっていたせいでなかなかすんなりとはいかないけれど、ゆっくりと中に指を挿れていく。少しずつ挿れたり抜いたりしながら徐々に奥に。そしてサスケのそこまで届くと指の腹でやさしくマッサージする。
「っぁ、は……、んっ……」
 そこを刺激しながら奥まで指を進める。そうしながらうなじにキスをして、そのまま舌を這わせて耳を口に含みわざと湿った音を立てた。ローションじゃない分いつもよりじっくりと時間をかけてそこを慣らしていく。指が二本スムーズに動かせるようになって、サスケは痺れが限界に来たらしい。
「カカシっ、っあ、もう挿れ、」
「ん……もういいの? まだあんまり……」
「いい、からっ、んっ、早く……!」
 早急に求められて悪い気はしない。でもまだ中は十分に慣れさせていない。サスケがちゃんと気持ちよくなれるようにじっくりやろう。ゆっくりと指を抜いて俺はズボンを下げた。でもこのままだと少し引き攣るかもしれない。どうしたものかと考えているとサスケがそれに尻を押し付けてくる。よっぽど早く挿れられたいらしい。俺は腹を括ってサスケのそこにゆっくりと亀頭を沈めていく。それが入りきったところで少しだけゆっくりと動かして律動しながら少し中に推し進めたところでサスケが胸の前で手をぎゅっと握っていることに気がついた。俺はその手を包み込むように手を添える。
「んっ……、あっ……っ」
 ゆっくりとゆっくりとそれをサスケの中に埋めていく。そこをなぞる度に漏れ出る声に一気に奥まで挿れて激しく腰を動かしたくなる。でもだめだ、最初はきちんと慣らして、サスケがより感じやすくなるようにじっくりと時間をかけて奥に進めていく。
「カカシ、前……こんな抱き方したら本気になるって言ったの、今はどうなんだ」
 奥まで入ったところでサスケが尋ねてきた。もうずっと本気だよ。だから変わらない。サスケは何を思ってそんなことを聞いたんだろうか。俺のため? それとも自分のため?
「……心配なの? ……あのときと何も変わってないよ。」
 うなじにキスをしながらサスケを抱きしめる。今の質問の意図は何だろう。もし俺が本気になっちゃった、って言ったらサスケはどう答えたんだろう。
 ゆっくりと抽送を始めるとサスケが僅かに声を漏らす。トロトロに熱いサスケの中を存分に味わっていたけどそれではサスケにとっては物足りなかったらしい。
「カカ、シっ、顔……っ、見ながら、したいっ……」
 波の国の再現はこれでおしまい。いつものセックスに戻ろう。けどサスケがこんなに俺を求めてくるのもなんだか珍しい。さっきの問いかけといい、何か心境に変化でもあったのだろうか?
「今日はなんて言うか……積極的? そういう気分?」
 嬉しい方の変化だといいな、とは思いつつ、今の関係が終わるのは嫌だと思う。お互いに想い合っていてセフレから恋人になれるならそれほど嬉しいことはないけれど、逆だったときがつらすぎるから俺はそこには踏み込まない。
 抱きしめる腕を緩めてそれを中から抜くと、服を全部脱ぎ去ってローションとゴムを着ける。サスケも服を脱いで俺をじっと見つめていた。熱いまなざしの中に困惑の色が見えるのは気のせいだろうか。俺はサスケの膝を折ってサスケの目を見つめる。早く挿れてガンガン揺さぶりたい。サスケのすべてを感じたい。サスケが何を考えているのか知りたい。
 ローションのおかげでそれはぬるっと中に入っていった。奥まで挿れてからは少しずつ腰の動きを早めていく。その動きに合わせてサスケが喘ぐ。俺は知ってる。もっと激しく打ち付けるとサスケの声が高くなっていくのを。サスケがそれを好きなのを。でもサスケが求めてくるまで俺は待つ。それがサスケの求めているセックスだから。ああ、サスケが好きだ。好きだ。言葉に出ないようにはしているけれど、こんなにも見つめ合いながらセックスをしていると気持ちが溢れ出てしまっていないか心配になる。もしかしたらもうとっくに溢れ出てしまっているのかもしれない。だからサスケは俺にあんなことを聞いたのかもしれない。
 サスケの視線が結合部に向けられる。「もっと」というサイン。喘ぐばかりで言葉にできないでいるサスケに俺は尋ねる。
「もっと、激しくが良い?」
 サスケがこくこくと頷いたのを確認して、俺は腰の動きを一層早くした。ガンガン奥まで突いて揺さぶるとやっぱりサスケの声は一段と高くなる。ああ、中がキュウキュウと俺を締め付け始めた。きっともうすぐサスケは中イキする。より奥に突くように、より早く腰を動かすとサスケは一際大きな声を上げて電流が走ったかのようにビクンと身体を痙攣させた。断続的にキュウキュウと締まる中に思わず俺もいきそうになるのを何とか堪えて、奥に挿れたまま、まだ時折ピクンと動くサスケを抱きしめる。サスケも俺の首に腕を回してお互いに抱きしめ合う。ああ、幸せだ。好きだ。サスケが好きだ。
「気持ち良かった?」
「……すごく」
「俺も……いっちゃいそうなくらい」
「……止めなくていいのに」
「もっとサスケを感じていたいし、サスケを感じさせたいの。」
 荒い呼吸を整えながら俺はサスケのすべてを感じようとする。ああ、中が熱い。抱きしめる腕が愛おしい。触れ合う肌の温かさが心地いい。乱れた呼吸も、しっとりと汗ばむ背中も、それを感じるだけで俺は幸せな気持ちになれる。もしサスケも同じだったらどんなに嬉しいだろう。
 息が落ち着いてきたところで、俺はそのままの体勢でまたゆっくりと腰を動かし始めた。
「……ああ、気持ちいい……幸せ。」
「っあ、俺も、……んっ、これ、好き……っ。」
 ああ、繋がってる。身体だけじゃなくて俺たちのこころは今ひとつになってる。そうだよね、サスケ。俺たち今、幸せだよね。……そう、思いたい。でもサスケにとって俺はただのセフレ。セックスするだけの関係。サスケが求めているのはあくまで幸せなセックスであって、幸せな関係ではない。でもいい、それでもいい。こうしてサスケと同じ時間を共有できるだけで、俺は幸せだ。これ以上のことは、望まない。
 抱きしめる腕をほどいて上半身を上げると、サスケの腰に手を添える。また抽送を早くしていくと肌のぶつかる乾いた音が響き始めて、サスケは俺に揺さぶられるまま喘ぎはじめる。好きだ。好きな気持ちが抑えられない。サスケのことで頭がいっぱいで、悟られないように、なんてもう考えられなくなっていた。ただただ俺は俺の想いをサスケにぶつけた。時折サスケと目が合って、また好きだという想いがあふれ出る。止められなかった。抑えることが出来なかった。俺たちは本能のままにお互いを貪り合った。
 
「……なぁ、何の夢、見てたんだ。」
 サスケが服を着込みながら俺に話しかける。言えるわけがない。サスケと愛し合う夢を見ていただなんて。
「気になる? ……教えないよ。」
 俺も服を着込もうとベッドに放り出されたインナーに手を伸ばす。
「あんた寝言言ってたぜ。」
 伸ばした手が止まった。寝言? あの夢の? ……何を言ってしまった?
 サスケの顔を伺う。いつもの涼しい顔をしている。
「……何て言ってた? 変なこと言った?」
「俺も教えてやらねえ。」
 夢の中で俺は、サスケに好きだとか愛してるだとかしか言っていない。
 もしかしてそれを言ってしまったんだろうか。サスケは聞いてしまったんだろうか。
「もし変なこと言ってたらごめん、忘れて。」
「……どうかな。」
 その言い方だと、つまり俺は「変なことを言ってた」ということになる。ああ、ついにサスケに……俺のこころの内が、伝わってしまったのか。いや、ただの夢だ、寝言だ。思いもよらないことを口走ることだってあるよな?
「忘れてよ、お願いだから。」
「お願いされたからって忘れられるような、都合のいい頭は持ってねえよ。」
 ……幻術でも使って忘れさせる? いや、幻術の効果は一時的だ。記憶の改ざんなんて出来ない。サスケの言う通り、お願いしたところでせいぜい忘れたふりをするくらいしか出来ない。
「それも……そうだね。……ねえ、明日も来てくれる?」
「心配しなくても、あんたとの今の関係を崩すつもりはない。用事がなければ明日も来る。」
 この答えを聞いて、俺は自分が寝ながら言ってしまったことが何だったのか、確信を持ってしまった。言ってしまったんだ、サスケが好きだと。俺はサスケの前で、眠りながらそれを言ってしまったんだ。
 服を着込み終わったサスケに、いつものように額に触れるだけのキスをする。
「……やっぱり、俺変なこと言っちゃったんだね。」
 動揺していた。けれどサスケは今の関係を崩すつもりはないとも言ってくれた。夢だった。寝言だった。だから本心じゃないともとれるような、そんなふわっとしたままにしてはいけないような気がした。
 サスケが俺の顔を見上げている。……きっともう、潮時だ。これ以上ごまかし続けることは出来ない。
「あやふやなままにしたくないからこの際はっきり言うけど。」
 ……本当に言うつもりなのか。言ってしまうのか。それでいいのか。言うべきじゃないんじゃないのか。悩みながら、葛藤しながら、それでもサスケのまっすぐな視線の前で俺はもう嘘やごまかしは言えない。
「俺はサスケのことが好きだ。けど、だからって今の関係を壊す気はない。今まで通りで良い。だから……」
「わかってる。……寝言も今のも聞かなかったことにしてやる。あんたがどう思っていようが、俺も今の関係を変えるつもりはない。」
 
 今の関係の何かが変わってしまうのでは、という心配は杞憂だった。それでも俺の想いがサスケに伝わってしまった事実は変わらない。けれど出会茶屋でサスケは「困るのはあんただろ」と言った。俺はあくまでただのセフレであって、俺が抱いている想いを知ったところでサスケにとっては大したことじゃない、どうだっていい、ということなんだろう。
 それでいい、それで十分だ。今の関係さえ維持できれば。そうだったはずなのに、なぜ胸がこんなにも苦しくなる? サスケにとっては俺の想いなんてどうでもいい、その事実が重くのしかかって、俺は呼吸の仕方を忘れてしまったかのように息を止めた。変わらないことを望んでいたはずなのに、俺の想いをまるっと見ないようにして、なかったことのようにして、そうして変わらない関係を続けると言ったサスケの言葉に、俺はどんな気持ちでいたらいいのか、わからない。
 今の関係を崩してはいけない。これは俺にとっても、サスケにとっても同じだ。でもなかったことにされた俺の想いはどこへやればいい。どこに向ければいい。どうしたらいい。
 ただ確かなことは、これからも今までと同じようにサスケと接しなければいけないということだ。今までと同じように、言葉には出さないように。態度を変えないように。それがサスケの望む「今の関係」なんだから。
 サスケが言ったように、困るのは俺だけなんだ。この気持ちをどうしたらいいのか悩むのは俺だけなんだ。サスケにとってはセックスさえできれば俺の想いなんてどうでもいいことだから。俺たちはあくまでただのセフレなんだから。