愛という言葉
柱間の筋肉質で硬い腕に抱きしめられながら、その中には深く肉棒が入っていて、奥までいれたままぐっ、ぐっ、と奥ばかり刺激する。マダラはその度に情けない声を出しながらのけぞり、痺れるような快感にきゅうと中を締め付ける。
「っは、しら、ま……っあ、それっ、ばか、り、あっ、っ!」
「っ……すまん、出そうになった……もっと長くマダラを味わいたいんぞ……!」
マダラの耳元で囁くその息は短い。
小さな動きなのに奥ばかりぐいぐいと押され、それもまた気持ちいいがもっと激しく突いてかき乱して欲しかった。
思わず腰を動かし始めて貪欲に柱間を感じようとする様を見て考えが変わったのか、はたまた射精感が落ち着いたのか、その動きが大きく出し入れする抽送に変わり望み通りマダラの頭は激しい快感の連続に惜しげもなく声を上げた。
「はぁっ、マダラ……愛している……!」
「……っ、あ、っあ! そ、こぁあっ! っあ゛!」
柱間は決まってこの台詞を吐く。
愛している、などとは、一生共に生きる覚悟と誓いがなければ口にするべきではない。男同士であるふたりに「一生共に」など無理な話だ。互いに立場もある。その相手が見つかるまでの猶予期間にこうして睦み合っているだけだ。
マダラは柱間に「オレも」だと返したことは一度たりともない。
終わりが見えている期限付きの関係。そんなものは、愛などと呼べない。
「兄者、いつまでのらりくらりとかわし続けるつもりだ!」
執務室に扉間の怒声が響いた。その手に持っている巻物は全て見合の申し入れだ。
柱間は頬杖をつきながらつまらなさそうに答える。
「これぞ! という者がおらんのだ、仕方あるまい。」
扉間も負けじと声を荒げる。
「会いもせずに何故そんなことが言えるのだ! 一族皆兄者が子を成すのを今か今かと待っていると言うのに……!」
千手一族は強い男に何人も妻がつきその遺伝子を少しでも多く残そうとしてきた。柱間もまたそうして生まれた子のひとりであり、今や間違いなく千手の中で一番強い男だ。
従来の慣習に則れば、妻の1人や2人、子も何人も作っているべき年齢にも関わらず、妻すら1人もいないのは千手にとって由々しき事態だった。その一族の声を代弁しているのが扉間だ。扉間以外に柱間に物申せる人間はひとりもいない。
「そんなに子が欲しいなら扉間、お前が作るといい。俺はビビッときたおなご以外会うつもりもない。」
「そんな悠長なことを言っているといつまでも子を作れんぞ兄者! ではどのようなおなごならビビッと来ると言うのだ!」
柱間は巻物の束を一瞥して、答えた。
「俺と同じくらい、もしくは俺よりも強いおなごならビビッと来るかもしれんのう。」
忍界最強と謳われる千手柱間と同等のくのいちなど、いるわけがない。遠回しにではなく、それはひどく直接的な、俺は祝言など挙げるつもりはないという宣言だった。
扉間とて調査により毎晩のように柱間とマダラが逢瀬しているのは知っていた。柱間がこうも強固に妻を取らないのは十中八九うちはマダラのせいに違いない。しかし柱間と同等に戦える唯一の男だ。暗殺できるものならすでにやっているがとても手出しなど出来ない。
柱間があの態度を決め込むからには、全く気が進まないがうちはマダラの方からその関係をやめさせるように説得を頼むしかない。
しかしうちはマダラもまた、まだ妻を娶っていないのである。もしかしたら状況はうちはマダラも同じかもしれない。あしらわれて終わる可能性も高い。
しかしそのような丁半博打にすら頼らざるを得ない今、扉間がするべきことはひとつだけだった。
立派な門構えの屋敷の戸の前に立つと、気配もなくその戸が開いた。不機嫌そうな顔を隠そうともしないマダラが扉間を睨みつける。
「貴様にオレの家の敷居を跨がせると思ったか。帰れ。」
そう言われても致し方ない。何故ならばこのうちはマダラの最後の弟を斬ったのは扉間だからだ。里ができて平和になろうがこの蟠りは恐らく一生解けることはないだろう。
「ではここで話す。恥を忍んで頼みがある。兄者との関係を断ち切ってくれ。兄者には子孫を残す義務がある。しかしお前と遊んでばかりでは女になど目もくれん。」
扉間は下げたくない頭を下げた。うちはマダラに頭を下げる日が来るとはよもや想像もしていなかったが背に腹はかえられない。
扉間の後頭部を見下ろしながら、少ししてマダラは口を開いた。
「どうやって断ち切れと? いつも言い寄ってくるのは柱間からだ。それを断れと言いたいのか。」
マダラから柱間にこんなことはもう終わりにしようと言わせれば、流石の柱間も気持ちが変わるだろう。扉間は頭を下げたまま続けた。
「その通りだ。兄者の誘いは今日をもって全て断って欲しい。誘う気がなくなるように言い含めてくれないか。頼む。」
マダラは扉間がこうまでして柱間との関係を断たせようとする理由をよく理解していた。このまま柱間との関係を続けたところで互いにとっていいことは何もない。丁度いい、これが潮時ってやつなんだろう。
「状況はわかった。さっさとうちの敷地から立ち去れ。」
急に重くなった重圧に、マダラの目が写輪眼になっていることを悟った扉間は、頭を上げて「頼んだ」とだけ言い残し、大股歩きでその敷地から出た。
当然の如く嫌われてはいるが、意外にもすんなり話が通ったことに扉間はひとまず安心した。
あとは何日で柱間がマダラを諦めるか、である。
「と、言うわけだ。帰ってくれ。」
マダラは嘘をつくのが嫌いな男である。単に柱間の誘いを断るのではなく、きっちりと扉間から頭を下げて頼まれたことまで馬鹿正直に柱間に話したために柱間の頭に火がついた。
「他人に言われたから会うのをやめます、という程度の仲だったのか俺たちは!? 違うだろう! 違うと言ってくれ!」
「そうは言われても、奴が直々に来たからには千手の中ではお前が娶らんことが問題になっているんだろう。その問題に巻き込まれるのは御免だ。」
「マダラ、正直に言ってくれ。俺のことは好きなのか。」
「ああ、好きだとも。だが互いに立場ってもんがある。」
「好きならば立場などどうでも良いではないか!」
「駄々こねるガキじゃねえんだから少しは現実を見ろ。お前は火影で、千手の長だろう。いつまでも独り身でいるのは不自然だ。諦めろ。」
「俺がどれだけマダラのことを……想い続けてきたか、……知らぬとは言わせんぞ。」
冷静でない相手に対して理屈で説得しても意味がない。あのクソ野郎、厄介事を持ち込みやがって。
しかし扉間の言うことはもっともで、マダラもまたそろそろ良い人を、という声を聞くようになった頃だった。お互いに今がそのタイミングなのだ。
「お前の気持ちもわかる。しかし考えてもみろ。お前はいつまでこんな関係を続けるつもりなんだ、柱間。」
「……俺は一生だってマダラと共にいたい……終わらせるつもりなどない。……この俺の気持ちを本当にわかっているつもりなのか、マダラ。」
話し合いでどうこうすることはどうやら出来なさそうである。ではどうしたら柱間は諦めるだろうか。
ふむ、と考えるが妙案は浮かばない。恐らく柱間はまた敵同士にでもならない限り……いや、なったとしてもマダラを諦めるという選択肢は持たないだろう。であれば、やるべき事さえ果たせば千手の奴らも溜飲を下げるのではなかろうか。
「柱間、お前は子孫を作るべき才の持ち主だ。どれでもいいからさっさと娶って子作りしろ。子どもさえ作れば扉間も納得するんだろう。」
「マダラに思いを寄せながら娶るなどという不誠実なことは俺には出来ん。」
そうだった。柱間はそういうことを器用にこなせる人間ではなかった。酷く愚直なのだ。
こうなったら自分が柱間に嫌われるように立ち回るしかないが、マダラとて柱間のことは愛してこそいないが好きではある。その相手を遠ざけようとするのは自分の心に矛盾する行為だ。
……が、やむを得まい。
あの扉間がマダラに頭を下げに来るほど事態は深刻なのだ。
「……お前とは長い付き合いだが、そこまで阿呆だとはな。ともかくオレは今後お前と二人きりで会うつもりはない。帰れ。今すぐにだ。阿呆の面をいつまでも眺めていられるほどオレは気は長くない。」
玄関に立つ柱間の肩を押して外に押し出そうとするが、柱間は強固に足を踏ん張りその場にとどまろうとする。
「俺は納得いかんぞ、愚弟の話にホイホイ乗って今までの事をなかったようにするなどと……!」
柱間の肩を押す腕を取られて関節を決められそうになるのをスルッと抜けて肘で首の後ろを抑えるが柱間もそれをかわしその左腕を取られる。これでは戯れあいだ。写輪眼を出して動きの流れを読むが柱間はそんなマダラとの戦闘に長けている。静かな攻防が続きこうなったらと殺気を向けた。
「……いい加減にしろ。オレを怒らせるな!」
「俺の方が余程怒りに震えておる!」
殺気を向けたもののここは自分の家の玄関だ。柱間とこのままおっ始めれば家が無くなる。ああ全く、本当に千手の奴らはどれだけ厄介なんだ!
「言う事を聞かねえクソガキには躾が必要らしいな。」
「話を聞いていないのはマダラの方ぞ。」
険悪なのかそうで無いのかよく分からない空気感の中、牽制し合う腕を、マダラは下ろした。
「……ならお前の相手をする時間が無駄だ。冷静でない自覚が少しでもあるなら今日はもう帰れ。話にならん。」
しっしっ、と手首を動かして踵を返し廊下に足を向けた。追いかけてくる気配はない。今日は諦めたのだろう。玄関に立ち尽くす柱間をそのまま置いて寝所に向かった。
いつまでああしているつもりかは知らないが、追いかけて来るよりはそのまま突っ立っていてくれる方が都合がいい。
しかし部屋の襖を開く腕を、柱間が掴んでいた。……扉間ほどではないが柱間の瞬身も速い。
「話を聞かぬ者には躾が必要と言ったな。」
まだ布団も敷いていない畳の上に組み伏せられていた。攻防の末だが体術においては柱間の方が部がある。
寝間着がはだけられその手が太腿をするりと撫でながら、今日はするつもりではなかったから身につけていた猿股を素早く下される。その動作は乱暴なのに肌に触れる手はあくまで愛しいものを触れるように優しい。背中をぞくぞくと何かが駆け上がる。
マダラとて柱間のことは好きだ。周囲がそれを良しとしないだけで、柱間と過ごす時間も、睦み合うことも、好きだからこそ扉間の言う通りに柱間を遠ざけるのは本意ではなかった。
しかしそのような感情だけで動くのは長という立場として相応しくない。柱間と二度と二人きりで会わないと口にするのも苦渋の思いだった。というのに。
この柱間という男にはそんなマダラの思いなど理解出来ないだろう。この先を望む自分がいながらそれを拒否しなければいけない矛盾の苦しさなど。
「柱間、いい加減にっ……!」
説得したとて毎回こうなるのであればマダラにも考えがあった。もうこの屋敷を跡形もなく破壊しても良い、他の者の家に身を寄せれば流石に柱間もその家に上がり込み交わろうとすることはないはずだ。体勢は不利だが殺る気でかかれば少なくとも今夜このまま柱間の思い通りに交わることは出来まい。
下手に強い同士が諍うとこうも厄介な事になるものか。柱間の左手が臀部を撫でている今拘束に僅かな隙があった。抜け出して火遁で屋敷を焼き切ってやる。
その尻の中央の隙間に指が差し込まれた瞬間反転し印を組んだ。くそが、不本意だがイズナの遺骨は後で探しに来よう。大きく息を吸い炎の海を作らんとしたその口を、柱間の口が塞いだ。まずい、このまま炎を吹いたら柱間が……!
チャクラを乱して術の発現を止めたのをいいことに柱間はマダラの唇を割ってその舌を差し込む。ちゅ、くちゅ、と音を立てながら何度も啄むように唇を合わせては舌を絡めて歯列をなぞる。強硬でありながらマダラに触れる肌は相変わらずひどく優しくその甘い唾液から柱間のマダラへの想いが流れ込んでくるかのようだった。
「……っ、ん、……ふ」
好きな男からそんな口付けをされてもなお、屋敷ごと壊すつもりで抵抗する……なんてことはもう出来なかった。いつしか自ら夢中になって舌を絡めてその甘い唾液を飲み込んでいた。身体から力が抜けていく。その腰と背を柱間の手が支える。
好きだ。柱間が好きだ。
その気持ちを返すようにマダラも柱間の背に腕を回して引き寄せる。
密着した下腹部には互いの硬くなったそれが当たり、どちらからともなく腰を動かして互いの熱を擦り合わせていた。
「……マダラ、……愛している。」
柱間の手が臀部に回る。その長いごつごつとした指が、窪みを押し入って中に入り粘膜を優しく撫でながら内側をゆっくりとマッサージする。
「っぁ、……あっ、んっ……」
長い接吻で蕩けたマダラの頭から、抵抗という単語は消え失せていた。毎日のまぐわいですっかり慣れたそこは通和散だけあればもう柱間を受け入れられる。
ゆっくりと畳の上に背中を下され、いつもの場所にあるその白い包みを柱間が取り、中の粉を口に含んだ。
「っはし、らま」
「……すまぬが今日は一刻も早く繋がりたい……駄目か。」
断る理由など何もなかった。胸の突起をねぶられることも、身体中を唇で吸うことも、互いのそれを扱くこともなくただ単純に繋がりたい。少なくともマダラはいつもそうだった。焦らされるようにねぶられる間も中は今か今かと疼いて仕方がなく、早く挿れてくれと懇願するのが常だったが、今夜は柱間も同じらしい。
中をぐい、ぐい、と押されるたびに漏れる声、ふと柱間が顔を寄せて唇を重ねた。口移しでマダラの口内に入ってくるぬるりとしたものを全て受け入れると、今度は柱間が仰向けのマダラの上半身に跨り、その勃ち上がる肉棒を見せつける。マダラは流れるように肘をついて上半身を上げ、それを口いっぱいに含んで先刻のぬるりとしたものをまとわせながら愛しいものを扱うように舌を這わせて喉の奥まで咥えたところで、柱間が腰を引いた。
膝を押されてくの字になった身体に柱間の上半身が触れる。体温の高さ、紅潮した頬に愛おしむまなざし。尻にぬるりとした熱いものが触れてマダラの胸が高鳴る。入ってくる、柱間の――。
「ぁああ、あ゛!!」
ずちゅん! という湿った音と共にそれは一気にマダラの奥まで貫いた。思わずマダラの背が弓形になる。柱間は浅く息をしながらマダラの前髪をさらりと顔の横に退けた。
「里も一族も大事だ。だが今の俺にとって一番大事なのは、マダラ。……お前ぞ。」
その言葉に、マダラははたと扉間の頼まれごとを思い出した。が、柱間は腰を打ちつけ始めている。快感に頭が飛びそうになりながらマダラは言葉を捻り出す。
「は、しらまぁっ! あっ、っぅあ! これがっ、っくぁ、さい、ごっ……! っあ、んっ!」
パンッパンッと皮膚がぶつかる音、ぐちゅっぐちゅっと音を立てる結合部、上をなぞりながら奥を突くその動きの激しさ、柱間は駄々をこねる子どものように目に涙を滲ませながら声を張った。
「俺は嫌ぞ! そんなのは認めぬっ……!!」
戦の後、猛って仕方がなくなるようになった。落ち着かない様子の柱間に父は男としての成長の証だと頭に手を置く。
男は戦場で戦う、そして女は幼い頃から手当てや薬について学び、12を過ぎると戦の後の男達の相手をさせられる。
それは幼い頃から見てきた光景だが、幼少の柱間を可愛がってくれた従姉妹が初めてそれをした後、泣きながらその母に縋りつくのを見てしまってからは、あの中で行われているのは女性を蔑ろにするような事なんだと覚え、以降その専用の小屋に入っていく大人を軽蔑するようになった。
従姉妹はその後、子を孕んで、臨月までその役割を果たし続けた末に、死産した。
自分はそんな事はしない、12歳なんてまだ子どもだ。とは言え男は12歳にならずとも刀の使い方を覚えれば戦地に向かわされる。大人はこう言いたいんだろう。
「男は戦場で命をかけている、女も相応の奉仕をするべきだ」と。
何が愛の千手一族だ。
子どもが戦地に行くのも女が男に奉仕するのも何もかも戦のせいだ。戦さえなくなれば。仮に千手とうちはが手を取り合うことが出来たなら。あらゆる悪循環は消えて無くなるはずだ。
河原で偶然出会ったマダラもまた、柱間と同じ考えを持っていた。弟を3人亡くしていると語ったその目は敵を殺すことじゃなく、大切なものを守るという決意を込めた眼差しで川の流れを眺めていた。
自分だけじゃなかった、それは柱間に勇気をくれた。マダラと戦が終わった後の夢の世界を語り合った。
自分だけじゃない、千手以外にもそう考えている者がいる一族がいる。柱間の夢想は夢となり、理想となり、いつか必ず叶えたい野望になった。
マダラがうちはの者だとわかってもなお、マダラと語り合った野望が消えることはなかった。
戦いの後、柱間は猛る自分を抑えようと自室で何度も抜いた。脳が興奮し続けているのがわかる。生き死にがかかった場所から帰ってきたばかりだ、仕方のないことだ。仕方がないからといって、柱間は女をその処理のために利用することを拒み続けた。
そんな柱間を見て父仏間は何か考えたのだろうか。
柱間がある日自室で己のものを扱いていたら襖が開いた。そこにはあの従姉妹がいた。
「あ、……ええと」
慌てて下履きを上げると、従姉妹は襖を閉めて傍に座った。
「柱間はどうしてあの小屋に行かないの?」
柱間は静かに従姉妹の目を見た。
「女が泣くような事をするつもりはない。」
「柱間だって、命の取り合いに向かわされるのは本意じゃないでしょ? でも行かなければならない、だから行く。女も同じ、もう皆慣れてるから、気を遣わなくていいの。」
「……慣れた、ではなく、感覚が麻痺したのだろう。仲間の死に悲しんだのは最初だけだった。あとは生き残るために必死に戦い抜いているだけだ。……でも弟の死だけは悲しみが癒えることはない。姉ちゃんだって同じだろう。何回孕んだ、何回流産した、何人の子を育てている。……つらくないわけがない。戦場で死なせるために、子を己の腹の中で育てるなんて。」
従姉妹は黙って柱間の話を聞きながら、目を伏せて、そして力無く笑った。
「戦争だから、仕方がないの。個人のつらさ、悲しみなんて、戦争と比べたらちっぽけなものよ。」
諦めている、その笑顔は柱間にそう語った。つらさも悲しみも飲み込むしかないのだと。
「でも俺はそれを是としない。……どうせ父から言われて来たんだろう、する事をした事にして、帰ってくれ、姉ちゃん。」
従姉妹はふわりと目を細めた。
「坊ちゃんだったのに、いつの間にか立派になったのね。柱間のような男性と婚姻したかった――。」
婚姻?
今ここでその単語が出るってことは、姉ちゃんは。
「相手は。」
「ふたつ上の兄よ。……血継限界の為に血縁の近い者と子を成して、より血の濃い者を……それが族長の考えみたい。」
父は……人を、人生を、何だと思っているんだ……!
拳を握る手に力がこもる。
その様子を見た従姉妹は、柱間の拳の上に細い手を置いた。
「そんな風に思わないで、全然知らないおじさんよりは……きっとマシだから。」
従姉妹はそっと立ち上がり、襖の向こうへ消えていった。
……戦争のせいだ、戦があるから、こんな、ことが、平然と行われる。
まずは俺が族長になる、一族の中ではこんなことはやめさせる。そしてマダラがいるうちはに停戦を呼びかける。その為なら、何だって利用して強くなる。
千手とうちはの族長同士が相打ちとなり、その後死んだ。
千手の族長として柱間は一族を率いるようになり、うちはではマダラが族長になったと伝え聞いた。
夢を叶えるための階段を一段上った。相手がマダラならば、更にもう一段上がれるかもしれない。
柱間は早速文をうちはに送った。族長就任の祝いの言葉と、停戦の呼びかけを。
返事を待てど幾日経っても来る気配はない。
そうしている間に戦がまた起きた。族長として先陣を切った柱間は、同じく先頭に立ったのであろうマダラと相見えることとなった。その殺気がこもった赤い瞳を見て、柱間は一人浮かれていたのだと思い知った。
マダラは戦を止めるつもりはない。
マダラと刃を交える日々が始まった。柱間は諦めずにマダラに呼びかけ続けた。しかしマダラの眼は揺るがない。一族を率いている者同士、互いの立場もわからなくはない。
和睦など考えているのは柱間一人だけで、一族の者は皆呆れている。だがそれにも勝る強さを見せて黙らせ続けた。
死に物狂いで得た力を使えば戦争に勝つことは出来る。しかしそれでは意味がない。柱間は思う。俺は王手をかけたいわけではなく、将棋盤をひっくり返したい。
その為には、マダラと手を組まなければ意味がない。
マダラの弟を犠牲にしてようやく結べた手を離すつもりはなかった。
そして女を子どもを産む道具のように扱う奴等の持ってくる見合の申入れなど受ける気は毛頭なかった。
平和な世の中になってもなお、優秀な子を残せという重圧を感じながら、長年想い続けてきたマダラとさえ一緒に居られればそれで構わないという考えを捨てる気はなかった。
女を道具のように扱うつもりはない。
そしてマダラに愛を傾げている今、他の者と愛情を持って、愛の結晶たる子を作ることなど出来ない。
ただマダラが好きだから、だけではない。柱間に女をあてがうために巻物をよこす下品な者どもの思い通りにしてやる気などなかった。本当に俺を好いているならば巻物などよこさず自身で近づいて来るだろう。
だがそんな女はいない。それは柱間が一族の長であり火影でもあるから、例え好いていても声をかけるなど出来ないのかもしれない。
しかしそんな垣根を乗り越えてでも柱間の妻になりたいと名乗り上げる者が現れたら……その時は真剣に考える用意はあった。
しかし実際に来るのは、巻物ばかりだ。
馬鹿にしている。柱間のことも、女のことも軽んじるような真似をして。自由意志のない見合いなど絶対にしない。
女が道具にされ泣くような、子どもが戦場で死ぬような世はもう終わったのだから。
愛の千手一族という名の通り、俺は己が愛する相手を愛し尽くす。柱間はそう心に決めていた。
だから扉間やマダラの言う通りにする事など、あり得なかった。
マダラの際奥に柱間の迸りが放たれる。
ふたりの荒い呼吸は暫し続いた。
柱間の意思を曲げるなどできるのだろうか。ここまで強固にマダラへ執着する柱間の「愛している」という言葉は、もしかしたらマダラが考える愛の定義と変わらないのかもしれない。柱間は本気でマダラにその言葉を囁いているのかもしれない。
そうであれば、その頑固な感情をどうにかするなど無理な話だ。
もう物理的に離れる他、方法はないだろう。
息が落ち着いた柱間はマダラを抱きしめて、またその言葉を口にした。
「こんなに、愛しているのに……」
扉間の作った架空の任務に出る事となったマダラは、半年程里から物理的に離れた場所で過ごす事となった。
半年もブラブラするのは不本意だが、こうでもしなければ柱間はマダラへの執着を続けるだろう。
その半年の猶予期間に、扉間は柱間をうまく言いくるめるなりして良い相手をあてがう、という計画だ。計画が難航すればマダラの元に文が届いて任務は延長になる。
つまり柱間が妻をとるという選択をしなければ、マダラは一生里に戻ることはない。
さて、何年かかることやら。
マダラは扉間からの文を待ちながら、柱間がどう考え何を選ぶのか気がかりだった。
柱間のことを考えながら一人慰める夜を何度繰り返し、想いというものは距離をとったところでなかなか消えるものではないのだな、と実感する。愛していると口にしていた柱間も当然そうなのだろう。
このひとりの時間は長くなりそうだ。
マダラは宿場町でとった宿に帰り、布団の上に転がった。頭の中から柱屋の顔が、姿が、離れる事はなかった。
マダラが長期任務に出る、と聞いた瞬間から都合良くよくそんな任務が出て来るわけがない、つまりこれは扉間の策略だと柱間は気づいていた。半年間と聞き、それまで耐えれば良い話だと実務に没頭した。しかし扉間は次から次に見合いの申し入れの巻物を持ってくる。部屋の端の箱の中に全部入れておけ、と言っておいたらすぐに一箱では足りなくなり箱は日を追う毎に増えていった。
視界にすら入れたくない。どいつもこいつも、女をなんだと思っている。
半年経ってもマダラが戻ることはなく、扉間が任務は延長になったと話す。そこで柱間は扉間の魂胆を知った。誰かを妻に選ばなければもしかしたら何年でもマダラに会うことは叶わないと、そういう事か。しかしマダラとてあまりにも長期間一族を放っておくことは出来ないだろう。
どちらが先に折れるか、という我慢比べのようだった。
いっその事扉間に言っておこう、とある日巻物を持ってきた扉間に、柱間は言った。
「俺は愛のない子づくりなど絶対にしない。そのような女を子を産む道具のように扱い巻物をよこす者どもの思い通りには絶対にならん。どれだけ女をよこそうがこの意思は曲げる気はない。分かったらその箱ごと巻物を俺の視界から消せ。」
扉間は思案していた。見合いの巻物は届くから兄者の元に持って行かないわけにはいかぬが、しかし兄者は見合いをする気は毛頭ない。
であれば別の形で女との接点を作らなければならないが、酒の席で酌をさせてみても、街中で偶然を装ってぶつからせようとしても、柱間は飄々とそれらを避け続けた。
自分よりも強いおなごならば、といつか言っていたが各国を調査してもやはりそんな者は存在しない。
とはいえマダラをいつまでも里の外に置いておくのは、うちはの連中が里に対して疑念を抱きかねない。
「強い」というのは力比べに限らないのではないかと思い至ったのは7ヶ月を少し過ぎた頃だった。
それからは「酒が強い」をはじめとして一芸に秀でた女を探しては柱間に合わせて食事だけでもどうか、と説得するようにした。しかし同時に柱間は扉間に対しても巻物を見る目のような軽蔑の眼差しを向けるようになった。
扉間はいよいよ手詰まりか、と諦めて、柱間の言うように自分が代わりに多くの子を作るからそれで勘弁ならないか、と一族を説き伏せた方がこの無意味な時間をいつまでも過ごすよりよほど有意義なように思えていた。
これまでの努力を説明したらおそらく納得してもらえるはずだ。
長である柱間不在の重役の会議の中で、扉間はその旨淡々と説明し、柱間が祝言を挙げるのを待つのではいつになるかわからないために、自分が代わりにその役割を引き受ける、と伝えた。
9ヶ月ぶりに里に戻るマダラを一番に迎えにきたのは柱間だった。
駆け寄りぎゅうと抱きしめられ、マダラの頭に疑問符が浮かぶ。戻って来いと言われたということは柱間を説得させられたのだと思っていたが、この様子は何だ。
しかし柱間は正反対のことを口にした。
「マダラ、もう子作りなど考えなくとも良い! 俺たちは好きなだけ一緒にいられるぞ!」
どうやら千手の中で何事かの意思決定があったらしい。
「扉間が折れたのか?」
あいつが簡単に折れるとは思えないが、こうなっているという事は折れたのだろう。物理的距離も結局無意味だったのか。
「一族の者どもがついに諦めたのだ、もう見合いの申入れもひとつも来なくなった! これで一生マダラといられるぞ!」
詳しくはよくわからないが、柱間が一生と言うからには一生くっついて来そうだ。しかしマダラもまた長として妻をとり子を産ませるよう重圧がかかっている立場である。
「……お前は良いだろうが、オレはそうはいかん。」
「だが俺は一生お前を愛するぞ、何があっても!」
9ヶ月ぶりの柱間の顔、柱間の声、柱間の腕、その興奮した様子はマダラのことしか頭にない、ただ純粋に愛を全身で表現していて、マダラもつい手を伸ばし強く抱きしめ返していた。
柱間に会いたい、いつになれば里に戻れる、いつになれば柱間の顔を見られる。
そう思い続けた9ヶ月分の想いが、柱間の姿を認めた瞬間から溢れ出て己を律するのに苦心していたというのに、この男ときたら真逆のことをしてくれる。そんな事をされたら、理性などどこかへ行ってしまいそうだった。
「マダラ、愛している。本気だ。本当に。」
「そんな事は……とっくに知っている。」
「だがマダラは一度も応えてくれたことがない。……マダラの口から聞けるまで、一生かけてでも俺は言い続けるからな。」
抱きしめ合うそのうなじから柱間の匂いがする。鼻腔いっぱいに吸い込んで、マダラは目を閉じた。
千手が折れたのであれば……うちはも同じように。そうすれば、柱間との間柄は、時限付きのものではなくなる。
「……俺もだ、柱間。愛している。」
ついに口にしてしまったその言葉。口にしたからには、一生その気持ちを貫かなければならない。
……建前さえなければ。ずっと前からこの気持ちは抱えていた。立場を考えて口にする事がなかっただけで。
ズズ、と鼻水を啜る音がして、柱間の様子を伺う。
「……柱間?」
「念願が……叶って、うう、嬉しい、んぞっ!! ……もう一度、言ってくれんか……?」
どうやら涙ぐんでいるらしい。それもそうだろう。愛していると言い続けた相手が、ようやく自分もそうだと口にしたのだから。
「これからは何度でも言ってやる。……柱間、愛している。」
柱間の腕が、一層強くマダラを抱きしめた。
「マダラ、愛している……一生を共にしよう。」
扉間が祝言を挙げたのは、その一週間後のことだった。
