傘を差し出したばっかりに
癪だけど
流石に今日は動画は撮っていないだろう、と思っていたサスケが甘かった。浴室の扉の前には簡易三脚が取り付けられたカカシのスマホが置いてあり、ビデオ録画中の表示になっている。ハンマーで叩き割ってやろうかとも思ったが、そんなに都合よくハンマーが近くにあるわけでもなく、サスケはそのスマホを蹴っ飛ばす。
「あーちょっと! やめてよサスケェ」
床に転がったスマホを拾うと、カカシはビデオ録画の終了ボタンをタップした。
精液をかき出すという名目で指を何本も入れて掻き回した後案の定チンコを入れられて揺すぶられたのはつい今の話だ。
しかも「気持ちいい?」だけにとどまらず「またしたい?」とも聞いてくるようになった。声には出さなかったが、思わず頷いてしまった自分を殴りたい。
手早くバスタオルで水分を拭きとり肩に掛けると、部屋着を取り出してさっさと着込んだ。
カカシの前で裸をさらす時間は一秒でも早くしたかった。
サスケは早々に寝室に入り、アラームをセットしてから布団に潜る。
十九時半から二十時、……十九時半から二十時。
夕食を食べたら即シャワーを浴びて、湯船に湯が張ってあっても浸からずに出る、早く着替えて寝室に入る、髪の毛は寝室で乾かす。十九時半までに。
これでどうだ、セックスしようと思ったら俺はもう寝室だ。許可なく入ることはできない。もしも入ってきたら……出て行けと言って素直に出ていくだろうか……?
ともかく、明日はこのプランでいこう。
サスケは目を閉じて眠りに入った。
アラームの音に目が覚める。
スマホの時計を確かめる。時間どおりだ。
サスケは上半身を起こして思い切り伸びをする。今日もよく眠れた。
寝室の扉の向こうではカカシが料理している音が聞こえてくる。
ピシッとアイロンのかけられた制服を着込んで、洗面所で顔を洗った。
首元のキスマークは大分薄くなっていてほっとする。
カカシの作った食事を食べ終え、学校の支度をすると弁当を受け取って早々に家を出る。
カカシは「いってらっしゃい」と笑顔で送り出すが、サスケは振り向きもせず黙って玄関の扉を閉めた。
カカシは昨日撮ったばかりのサスケの嬌声を聞きながら洗濯機を回し、キッチンをピカピカに磨いていく。
どれもヒモとして重要な仕事だ。もちろん、寄生主を気持ちよくさせるのもヒモの大切な役割だ。
最初は嫌がる事が多いけど、なんだかんだ気持ちよくなってくれてるし、またしたいとも言ってくれるようになった。徐々にだけれどサスケの心は傾いてきている。受け入れてくれるようになるのは時間の問題だろう。
カカシはふふっ、と笑う。
俺なしじゃいられない身体にしてやろ。
俺以外じゃ満足できないようにしてやろ。
そしてずっとこの家に居座ってやる。
……前回は失敗してしまった。警察を呼ばれてお縄……かと思いきや厳重注意。しかし帰る場所がなくなってしまい、仕方なくコンビニの軒先でどうしようか考えていたところに通りがかったのがサスケだった。
だから、カカシはまた警察を呼ばれるのだけは避けたかった。恐らく、二度通報に失敗したからサスケも諦めたんじゃないだろうか。
代わりに電話したのがお兄さんだったのは意外だったけれど、それも問題なく片がついたようだった。
全てがいい方向に向かっている。
カカシは上機嫌でキッチンの油汚れを丁寧に拭き取っていった。
家に帰ると、出汁の良い香りが漂っている。
味噌汁? それとも煮物?
どちらにしてもおいしそうだ。
カカシはわざわざコンロの火を止めてサスケのところにやってきた。
「おかえり、サスケ」
ハグしよう、とでも言いたいのか、両手を広げるカカシの手をどけて自室に入っていく。
「サスケ、もうすぐご飯だよ?」
「……わかった。」
サスケは鞄から空の弁当箱を取り出すと、キッチンに置いてダイニングテーブルに向かう。
時間は十八時半。食事をとったら十九時。それからすぐにシャワーを浴びよう。
頭の中にタイムテーブルを作りながらテーブルに並べられる食事をぼんやりと見つめる。今日は和食らしい。
肉じゃがと小松菜の胡麻和え、味噌汁に豚の生姜焼き。
二人で食べるには少しボリュームがあったが、余ってもきっとカカシが明日の昼とかに食べるんだろう。
夕食を終えてサスケはさっそくタイムテーブル通りに洗面所に向かう……が、後ろからカカシに肩を掴まれ阻まれた。
「どうせ後から入るんだから、後にしときなよ。」
にっこり微笑むカカシにゾワ……としたものを感じながらシャワーを浴びる言い訳を考えるがなかなか出てこない。もうストレートに言ってしまおう。
「今日はセックスしねぇぞ。だから今シャワー浴びる。」
サスケの言葉に面食らったカカシの手をどけると、サスケは脱衣所の中に入りぴシャンと扉を閉めた。
え、俺、なんか悪いことした?
昨日のセックスでは気持ちいいって言ってくれたし、またしたいとも言ってくれたのに。
激しくしすぎた? それとも中出ししちゃったから?
……でもま、キスすればまた蕩けて受け入れてくれるだろう。
カカシは深く考えずにキッチンの片付けを再開することにした。
サスケはシャワーを終えると部屋着に着替えてバスタオルを首にかけ、ベッドに座りながら髪を乾かし始めた。カカシはそれを横目で見ながら、キスをするタイミングを見計らう。
十分に髪の水分を拭き取ったところで、バスタオルを洗濯機に入れに行き、ソファでくつろぐのかと思ったらサスケはまた寝室に向かっていく。
「ちょっと待って、サスケ」
声をかけるが、サスケは歩みを止めず寝室の扉に手をかけながら振り向く。
「んだよ、俺はもう寝る。勝手に入ってくるなよ。」
そう言いながら寝室の扉を開ける。カカシは駆け寄って、扉とサスケの間に入った。
「待ってって、言ってるじゃない。」
「俺は寝るって言っただろ。」
「……じゃあ、おやすみのキス」
サスケの後頭部に手を添えて唇を合わせようとするが、サスケの手が間に入り阻まれる。
「キスなんかしねえよ。邪魔だどけ。」
「い――や、キスしないとどかない。」
カカシはサスケの口元の手をどかすが、またもう一方の手で阻まれる。
「……サスケ、もしかして俺のこと嫌い……?」
「……好きとか、嫌いとか、そんなんじゃねえよ。」
「ならなんでセックスもキスも嫌がるの……? 気持ちよくなりたくないの?」
………本音を、言ってしまえば、カカシとのキスもセックスも気持ちいい、またしたいと頷いたのも本当だ。
でも、自分が自分でいられなくなるほどの快感は、気持ちいいけど怖かった。これ以上乱れて醜態を晒すのも嫌だった。
「エロいことしか考えてねえあんたにはわかんねえよ。」
「だってサスケを気持ちよくさせるのが俺の仕事だもん」
「んな仕事頼んだ覚えねえよ。早くどけ。」
「やだね。だって俺、サスケのヒモだし。」
「その論理が理解できねえん……っ!」
カカシはもう一度唇を合わせようとした。が、やはりサスケの手に阻まれる。
「しねえって言ってんだろ!」
「やだ。する。」
サスケの口元を覆う手を掴み下ろす。
すると、もう一方の手がサスケの口を塞ぐ。
カカシは後頭部に添えていた手でその手も封じると、唇を合わせた。
「んっ、んん!」
徐々に、徐々に蕩けていく顔、ピンク色に染まる頬。
だが、サスケとていいようにされっぱなしというわけにもいかない。少し躊躇した後、口内をうごめくカカシの舌に噛みついた。
「っい……」
思わずカカシが唇を離す。
サスケはピンク色に染まった頬のまま口元を拭うと、「ふん」と、だけ言い残して寝室の中に消えていった。
キス、さえすればと思っていたのに。まさか噛み付かれるほど嫌だったなんて。
カカシは内心ショックでいっぱいだった。
何がいけなかった?
強引にしすぎた?
凹みながらソファに身体を沈める。
はじめて。はじめて強く拒否された。
その事実がカカシに重くのしかかる。
(タイミングが、悪かったのかなぁ……。雰囲気作り、もっとした方がよかったのかなぁ……。)
カカシは立ち上がり、寝室の扉をノックする。
……返事は返ってこない。寝てしまったんだろうか。こんな早い時間に?
思わず溜息が漏れる。
今日はセックスは諦めた方が良さそうだ。
カカシはリビングに布団を敷いて、その上で寝転びながらサスケとのセックス動画を見て、やはりため息をつく。
また、サスケの可愛い声が聞きたい……。
泣く泣く、布団に潜り込んで灯りを消した。
「っん、はぁっ、あ、あぅっ、んぁっ! あっ」
誰の、喘ぎ声だ……?
「っと、もっ、と、ぁあっ! あ、あっ、はぁっ!」
パンッパンッパンッ
喘ぎ声と肌がぶつかり合う音が響いている。
「……もっと、どうして欲しい……?」
あ……これ、カカシの声だ。
「ぅっあ、は、はげっ、しくっ! あ、あっ、あぁっ!」
うっすらと目を開けてみると、すぐそこにあるカカシの顔。じゃあ、この声は……
「ん、いい子。激しく、ね。」
パンッパンッパンッパンッ
「っあ! あっ、あぅっ、あ、あっ! あぁっ!」
カカシが腰を動かす度に、ずん、ずんとお腹の奥に快感が走る。この声は……俺だ。
「っぁ、カカシッ、ぁあっ! あ、あっ! かか、んぁっ! 出るっ、はぁっ、……カシッ! も、あっ、っあ、あああっ、あぅっ‼」
ドクンっ、ドクンっ
「っ………‼」
布団をはいで起き上がる。
……夢?
慌ててパンツの中を確認する。大丈夫だ、夢精はしてない。が、そこはガチガチに勃っていた。
時計を見る。午前三時。
……仕方ない、抜いてからもう一度寝る、か。
上下に扱きながらぼんやりとした頭のままで考える。
夢にまで見るなんて、嘘だろ……。
自分でするのが久しぶりな気がして、カカシがしてくれたようにうまく快感を拾えない。
サスケはふと思い出して、スマホを持ち、カカシとのトーク画面を開く。
今まで未読のままだったが、三件の未読はやっぱり自分のセックス動画の一部だった。
そのうちのひとつを再生する。
『やっ、あ、あっ、やっ、め、んぁっ! あっ、』
『ね、サスケ、気持ちいいでしょ……? 気持ちいいって言って?』
……カカシって、いつもこんなに優しい声だったんだな。
しこりながら動画を見ていると、カウパーが出始める。
……いや、自分のセックス動画見て抜くなんて、どうかしてるだろ……。
サスケは再生を止めて、下半身に意識を集中させた。 だが、なかなか射精感がこない。
カカシの手なら、あっという間にいってしまえるのに。
「………」
サスケはベッドから降りて寝室の扉を開くと、布団で寝ているカカシを見つめる。
……いや、いやいや、何考えてるんだ俺は。
抜くくらい自分ひとりでできるだろ。
扉を閉めて、ベッドサイドに座ると、再び局部を露わにする。
扱きながらなるべくエロいことを考えようとするが、浮かんでくるのはカカシとのセックスばかり。
しょうがない、エロ本でも読むか……。ベッドの下をゴソゴソ漁って、雑誌を一冊手に取る。
ページをめくって女がまんこを丸出しにしながらクリトリスを弄っているページで想像を膨らませるが、やっぱり射精感はこない。
ふ――、大きく息を吐いた。
雑誌を元の場所にしまい、寝室の扉を開けると、カカシの頭をコツンと叩く。
「……おい」
起きない。熟睡している。
ほっぺたをつねって引っ張る。
「おい、カカシ」
「…………ん……?」
カカシは寝ぼけ眼で周りを見渡し、サスケが覗き込んでいるのに気がついてハッとする。
「ん? え? サスケ? なに? 今何時?」
「落ち着けよ……今三時だ。」
「え……? 三時? こんな時間にどうしたの。」
「……あー……、」
「……ん? なに?」
「………抜くの、……手伝ってくれ。」
「へぁ!?」
いきなり深夜に起こされて、サスケの方から自慰を手伝ってくれと言われて、カカシは思わず変な声が出た。
ごそ、と上半身を起こすと、サスケのそれは確かに勃ち上がっている。
「俺はいいけど、それ朝勃ち……じゃないの?」
「……いや、変な夢見て、夢精しそうだったから抜こうと思ったんだけど……」
サスケが恥ずかしそうに顔を伏せる。
「……イケなかったんだ? ……ふぅん……」
カカシが何気なく手を伸ばし、ズボンの上からそれに触れるとピクンと反応する。
「なに、元気じゃない」
さわっと撫でると、サスケが息を殺す音が聞こえる。
「……声我慢するなら、したげないよ」
「っ、わかったよ……、」
カカシはサスケのズボンとパンツを下ろして、直接それに触れ、強めに握ると上下に動かし始めた。
「っは、……っ、ぁ……」
さっきまで自分でしていたのとやってることは同じなのに、カカシがすると何倍も気持ちよく感じるのは何故なんだろう。
どんどんカウパーが溢れてきて、亀頭になすりつけられると、ぬるっと強く握られ快感の波が走った。
「っあ、はぁっ、……っぅ、ぁ、」
駆け上がってくる射精感。このままイケそうだ。
「はぁっ、あっ、っく、ッカシ、出るっ、……っ!」
そこはぴくん、ぴくんと揺れながら、先端から精液が迸った。
「はぁっ、はぁ、は……」
やっといけた……。
張り詰めていたものがなくなって、サスケは身体を弛緩させた。そんなサスケを、カカシは自分の布団に寝かせる。
「………あ? もう抜いただろ」
「……そんなエロい姿見せられて俺のが勃たないわけないでしょ」
見ると、カカシの股間は確かに傘を張っている。
「待て、ちょっと待て、今からするつもりか?」
「責任もって俺のも抜いてよね。サスケの身体で。」
……手伝ってもらった手前、無碍に断るのも気が引ける。
サスケはハァッ、と息を吐いた。
「……わかったよ……。」
言いながら、自分でズボンとパンツを脱ぎ始めた。
「今日はちゃんと買ってあるからね、ゴム。」
カカシが嬉しそうにコンドームのパッケージを開ける。
そして買い物袋からもうひとつ何かを取り出した。
その蓋を開けると、中身を手のひらにトロッと出す。
「……ローション?」
「当たり。ゴムと一緒に買ってきた。」
カカシはローションを右手の指にたっぷりつけると、さっそくサスケの中に埋めていく。
「っあ、……っ!」
「大丈夫、優しくするし気持ちよくするから。」
額にちゅ、とキスが降りてくる。
「っは、あ、っあ、あっ、っは、んっ……! あ……、あっ……!」
指が増えて、サスケのそこはどんどん感度を上げていく。
「っあ! はあっ、あっ、あ、あっ! はっ、んっ、ぁあっ!」
「気持ちいい? サスケ、教えて?」
「……っ! いいっ、っあ、気持ちっ、いいっ、はぁっ、……これでっ、満足かよっ……!」
「ん~、言い方が生意気。もっと素直になりな?」
また指が増える。
「あっ! っあ、あ、ぅあっ! あぁっ! いいっ! あっ、ぅあっ! いいっから……っ! あっ!」
「うん、そっちの方が好き。それで? いいから? どうして欲しい?」
グチュ、グチュ、とローションが粘膜と擦れ合う音が響く。ナカが拾う快感と耳に響く濡れた音で頭がおかしくなりそうだった。
「っ、挿れ、っぁ、カッ……カシのっ! あっ、ぅあっ! 挿れ、てっ……!」
「ん……よく言えました。」
カカシは指をヌルッと引き抜くと、自分のそれにローションをたっぷりつけて穴にあてがう。
「激しくしてい?」
そう言いながら、腰はもう高速でピストンしている。
「あっ、あ! ぅあっ、や、あぁっ! はっ、あっ、あっあっ‼」
サスケはただ喘ぎながら揺さぶられるばかりで返事もろくにできない。
「っあ! ぁあっ! はぁっ、あ、あっ! んぁっ、カカ、あぅっ! ……ッカシッ、ぅあ、あっ!」
「……っ名前、呼ばれると、すぐ出ちゃいそうになるんだけど……っいい?」
「ひぁっ、あっ! か、ぁあっ! カカ、っん、シっ!」
「っ出すよ、っ!」
ググッ!
サスケの中で、カカシのものが躍動した
「あっああああっ‼ はっあ、あ、あ、あ……」
……はぁっ、はぁ、は……ぁ、……っは
サスケは息を整えながら布団に横になっていた。 カカシはゴムを結んでゴミ箱に放り投げた後、キッチンで手を洗っている。……ローションを落としているんだろう。
俺も……落とさなきゃ。
身体を起こし、立膝になって立ち上がる。
浴室に向かうサスケに、カカシは背後から「気持ちよかった?」と聞いてきた。
「っせえな、やってる時言っただろ!」
「今のサスケの口から聞きたいの。気持ちよかった? またしたい?」
「っくっそ………気持ち、よかったよ。…………また……したい」
カカシは安堵したようにニコッと笑った。
「シャワー浴びたら、またすぐ寝るんだよ。成長期なんだから。」
サスケが耳まで真っ赤になっているのをカカシは見逃さなかった。きっと正面から見たら真っ赤なんだろうな。
ああ、それにしても――ーまさかサスケの方から求めてくれるなんて、思ってもみなかった。まあ、いずれはそうなるだろうとは思っていたけど、こんなに早いとは。
それに抜くだけじゃなくて、セックスも嫌がることなく受け入れてくれた。
カカシはサスケとの関係が大きく前進したように感じる。
……ひとりじゃ抜けない、か。
……サスケには俺がいないとダメだって、わかったかな……?
カカシは部屋着を着込むと、もう一度布団に入って上機嫌で眠りについた。
<! --nextpage-->
<h3>好きにしろ</h3>
サスケが朝の支度を終わり、玄関に向かっていく。その後ろ姿に、カカシは「行ってらっしゃい!」と声をかける。いつも返事はなく無言で出ていくサスケが、小さく「行ってきます」と言ったのをカカシは聞き逃さなかった。
また、心の距離が縮んだ。
ああー感無量、と幸せを噛み締めた後、家事を片付けるために洗面所に向かう。
今日は朝食も完食してくれたし、行ってきますも言ってくれたし、あといくつ嬉しいことが起きるだろうか?
ウキウキしながらいつものように動画再生ボタンを押す。
昨夜はなにしろ急で録画できなかったから、今日はサスケが可愛くおねだりしてくれた、今までで一番のお気に入り動画だ。
(ああ、サスケの声、やっぱりかわいい)
浴室を磨く手にも力が入る。
今日はいいことがあるかもしれない。いや正確には、三時の出来事だったから今日はもうすでに嬉しいことは起きている。
でももっと嬉しい出来事が起こるんじゃないかと期待で胸がいっぱいだった。
何しろ、「行ってきます」と言ってくれたんだから、当然「ただいま」も言ってくれるだろうし、手料理を食べて「おいしい」と言ってくれるかもしれない。
カカシの幸せを図る閾値はかなり低かった。
何が起ころうとほとんどのことはハッピーなのだ。
そう考えた方が人生って楽しいな? と気づいたのはつい数年前だった。
それからはずっとハッピーが続いている。
……前の家で警察に捕まったのは、流石にアンハッピーだったけれど……結果的に、サスケの家に転がり込めたのだからハッピーだ。それでいい。
夕食は牛すじ煮込みだ。仕込みに何時間もかかるから、お昼から下拵えを始める。牛すじ肉は滅多に安くならないから、100g158円と書いてあるのを見た瞬間買い物カゴに放り込んだ。
味はどうしようかな、と少し考えて、味噌にしようと冷蔵庫から赤味噌を取り出す。
みりんと、日本酒と……レシピは適当だ。でも適当でもおいしくできれば結果オーライだ。
カカシはそのあたりの勘、というよりセンスは抜群によかった。
ぐつぐつと牛すじ肉を煮込みながら、サスケの嬌声が響く動画を見る。
はぁ~、かわいい。
目があったのが変なおっさんじゃなくて本当に良かった。
牛すじのアクをすくっていると、不意に玄関の鍵が開く音がした。
時間はまだ昼の二時。……誰だろう? と思ったら、扉を開けて入ってきたのはサスケだった。
カカシは慌てて動画の再生停止ボタンをタップして、玄関に駆け寄る。
「おかえり、サスケ。早かったね?」
「……ただいま。テスト週間だから、今週は早いんだよ。」
両手を広げてハグしようとするカカシを、サスケはいつものように無視して自室に入っていく。
まあ、いいか。今日は「行ってきます」も「ただいま」も、そしてちょっとした会話までできた。ずっと黙りっこくっていたサスケが!
胸がジーンとするのを感じながら、牛すじの鍋の前に戻る。柔らかく煮えるまで、あと一時間はかかるかな。
少し弱火にして、鍋に蓋を被せた。
サスケは勉強に集中しているようだった。
おやつの差し入れとかした方がいいかな?
コーヒーとか紅茶は飲むだろうか?
いや、そういえばサスケは甘いものが嫌いなんだった。
じゃあ、何なら喜ぶだろう……‥。記憶を辿る。最初に会った日にコンビニの袋に入っていたあれは、確かおかかおにぎりだった。
……うん、軽食にもピッタリだ!
カカシはおにぎりを握ることにした。
おにぎりに合うのは、ほうじ茶か緑茶だな。
コン、コン
サスケの部屋の扉をノックする。
返事はない。
「サスケ? 入っていい?」
声をかけるが、やっぱり返事はない。
「差し入れ作ったから、入るよ?」
返事がないから、入ってもいいと判断して扉を開ける。
サスケは机に向かってノートに何やらまとめる作業をしていた。そのサスケの、邪魔にならないような場所に、おにぎりが2つ乗った皿と緑茶を置く。
「勉強、頑張ってね」
部屋から出る時に声をかけると、小さく「……おう」と返事が返ってきた。
……サスケから返事が返ってきた‼
また胸がじんとする。
今日はいいことずくめじゃないか、二回もサスケと会話ができるなんて!
日頃のコミュニケーション不足を感じていたカカシは、そのちょっとした交流と変化が嬉しかった。
牛すじが上手く煮込めたところで、カカシはサスケを呼ぶ。
「サスケ、ご飯食べよ!」
返事はなかったが、まもなく少し疲れた顔のサスケが部屋から出てきた。手にはおにぎりが載っていたお皿と湯呑み。食べてくれたらしい。
カカシはそれを受け取ると、「座って待ってて、すぐ出すから!」と言って用意してあった夕食をひとつずつダイニングテーブルに並べていく。
「今日もさ、とびきりおいしいの作ったから!」
ニコニコ顔でサスケの向かいに座り、手を合わせる。
「いただきます」
「……いただきます」
サスケは汁物があるときは必ず一口汁物を口にしてから他のおかずに箸を伸ばす。そういう教育を受けてきたんだろうな、と伺えた。まず副菜のナスの揚げ浸しをとり、口に運ぶ。同時に、ご飯も少し口に入れる。
「おいしい?」聞いてみるが、答えは返ってこない。まだもぐもぐと食べているんだから当たり前か。
カカシも箸をとって食べ始める、と、ナスとご飯を飲み込んだらしいサスケが、「……カカシの料理はなんでもうまい」と口にした。
「え、ほんと? おいしい? なんでも?」
思わず畳みかけるように言ってしまう。
サスケは牛すじに箸を伸ばしながら「ああ、うまい」と独り言のように呟いた。
……ヒモ冥利に尽きるっ‼
やばい、口元の緩みがおさまらない。
カカシは幸せでいっぱいだった。今日は嬉しいことが多すぎる。多すぎてバチが当たりそうだ。
全て完食したサスケは、手を合わせて「ごちそうさまでした」と言うと、席を立って洗面所に向かう。
……シャワー、今日ももう浴びちゃう? もしかして今日も拒否される? 慌てて追いかけると、サスケは洗面台の前に立って歯ブラシを手にしているところだった。
「……シャワー、浴びる?」
恐る恐る聞いてみる。
サスケは歯磨き粉のついた歯ブラシを口に入れると、「いや」と答えた。
……と、いうことは……今夜は断られない!?
カカシは安心して夕食の後片付けに入る。歯磨きが終わったサスケは制服から部屋着に着替えて、ソファでくつろぎながらスマホを触っていた。
それを横目で見ながら、洗い物を片付けていく。
食器をタオルで拭いて棚にしまい、使ったタオルを洗濯機に放り込むと、カカシはサスケがくつろぐソファの隣に座った。
サスケは隣に来たカカシに「……んだよ」と言いつつ、いつものように鬱陶しそうな顔はしない。
「キスしていい?」
聞いてみるが、返事は返ってこない。でも、嫌そうな顔もしていない。
カカシはサスケの顎に手を添えて向き合うと、少しだけ唇を合わせ、そして少し離してサスケの様子を伺う。
拒まれてない。
嫌がってもいない。
逃げもしない。
もう一度唇を合わせて、舌を差し込んだ。
「……ッ」
サスケはカカシのキスをされるがままに受け入れ、次第に頬が紅潮し始める。
もっとキスしたい、もっと深く……と思っていたら、サスケがカカシの胸元を押して唇は離された。
「……そこまでだ」
強引にキスの続きをしてもよかったけれど、昨日拒否された手前、カカシは大人しくサスケの言葉に従う。
サスケは頬を紅潮させたまま、口元を手で拭うと、手に持っていたスマホを脇に置いた。
「サスケ」
カカシがサスケに迫る。
「セックス、しよ?」
「………っ!」
サスケの股間に触れて、さわ、と撫でる。
「キスまでだって言ってるだろ!」
カカシはお構いなしに股間を弄る。
「気持ちいいこと、したくないの?」
サスケは顔を背けた。
でも、股間を触るカカシの手をどけようとはしない。
「……したいんでしょ? 夜も言ってたじゃない。またしたいって。」
耳元で囁くと、紅潮していた頬がさらに赤くなった。
「……好きにしろ」
サスケが小声で呟いた言葉を、カカシは聞き逃さない。
「本当に? 言ったね? 俺聞いたからね?」
サスケは顔を背けたまま何も言わない。
カカシがサスケのズボンとパンツに手をかけようとすると、そこにサスケの手が乗った。
「………するなら、ベッドだ」
そして立ち上がり、スタスタと寝室に向かっていく。
カカシはローテーブルの横に転がっていたゴムとローションを手に取ると、小走りでサスケの後を追った。
寝室に入ると、サスケはベッドサイドに腰掛けて俯いている。
耳が赤い……きっと顔も真っ赤なんだろう。
耳元で「たくさん気持ち良くしてあげる」と囁いてから、その軽い体を抱き抱えてベッドの中央に寝かせた。
そのままキスをしようとするが、顔を背けられてしまう。
無理矢理……やれないこともないけど、今日のサスケは好きにしろと確かに言った。つまりは、セックスしてもいいってことだ。キスで蕩けさせる必要はないし、サスケが望んでいないことをしてまた拒否されるのも嫌だった。
サスケの股間を撫で、ズボンとパンツを下ろすと、半勃ちのそれが露わになる。
「たったあれだけのキスで、こんな風になるんだ……。」
正直な感想を言ったら、顔を背けたままのサスケが「わりぃかよ!」とこぼす。
「全然、俺のキスでこんなふうになってくれて、嬉しいくらい」
尿道口にキスをして、サスケのそれを咥える。口でするのは初日以来だな、と思いながら舌で裏筋、かり首、尿道口を刺激しながら口にたっぷり含んだ唾液でジュポジュポ音を立てながら頭を上下に動かした。
「っく、は……っ、」
漏れ聞こえてくる声、気持ちよさそうな声。カカシは満足気に舐め回していく。
それはすぐに口の中でみるみるうちに硬くなり、しっかりと勃ち上がっていった。
しっかりと勃ったところで口からそれを離すと、サスケがはぁっと息を吐く音が聞こえてくる。
カカシはローションを手に取り、指にトロッと擦りつけ、後ろの穴に指をそわせた。
「本当に、好きにするよ?」
「………」
サスケからの答えは、ない。
ぬぷぷ……と中指を挿入して、サスケの感じるところをマッサージする。
「……っあ、はぁっ、っ、あっ、あ、」
さすがローション、ワセリンやサラダ油とは違う。セックスをするための潤滑油だ。二本目の指も容易にずぷぷと入っていく。サスケのいいところを擦るのは忘れない。
「あっ、あ、ぅっあ、っんん! はぁっ、あっ、あぁっ!」
「ああ……かわいい声」
三本目。
ニュル、と中に入れると、内壁を押し広げるように指を動かす。
「っあ! あ、あぅっ、あ、あっ! ぁあっ! はっぁ、んっ!」
「ねえ、サスケ」
「あっや、んんっ! な、にっ、あっ! あぁっ、あっ」
「……もう、挿れたい。いい?」
「……っ‼ いわ、っせんな! っあ、んぁっ!」
ぬる、と指を引き抜く。
「……っぁ」
指よりも、はるかに大きい質量のものがそこにあてがわれる。
「っ!」
ぬぷぷぷ……
「あ、あっ、……っぁ、はぁっ、あ、あ、」
ローションのおかげで、それはすんなりと奥まで入っていく。
「……っぁ」
「……入った。動くね。」
「ひぁっ! あっ、ああっ! あ、ぅあっ! あ、あっ、っぁあ!」
ゆっくりとした抽送から、徐々に腰の動きが早くなっていく。
「はっ、だ、あぅっ! やっ、あ、あっ! ぅあっ! あっ、あ、あっ、あっ!」
「だめでもいやでもないでしょ?」
カカシはサスケの足を上げて身体をくの字に折りたたむ。
角度を変えて、さらに腰の動きを上げた。
「やめっ……! あああっ! あ、あっ! ぅあっ! やあっ! あっ、あっ! はっ、っあ、ああっ!」
「奥に、当たるでしょ? もっと奥、いこうか」
ぐいっ
「っあ!」
奥にあるそれが、更に奥にぬるんと入る。
「っぁ゛あ! あっ、あ、ぅ゛あっ! はぁっ、゛あ゛あっ‼ カカッ、゛あっ! 出る、で、っあ! ぅあっ!」
「ナカでいきなっ」
「あ、あ゛っ、ああっ‼ っあ……っ‼」
ビュウッビュウッとサスケの精液がその腹を汚す。
きゅううう、と締まったナカで、カカシも最奥にそれを突き上げる。
ドクンッ、ドクンッ
「っ……あっ、あ」
カカシの、射精の、鼓動……
「っは、はぁっ、はぁっ、」
息、荒い……
カカシが、奥に入れたまま、サスケを膝ごと抱きしめる。
額にうっすら浮かぶ汗。
胸がきゅうう、と締め付けられたような感覚がした。
「ッカカシ……」
「……ん……なに……?」
「………いや、なんでもねえ……」
「……ふふ、なにそれ。……で、気持ちよかった?」
「……教えてやらねぇ」
気がついたら、サスケの腕もカカシの背に回っていた。
気持ちよかった、それ以上に………それは、言葉に出すのは、憚られるものだった。
する、とカカシがサスケを解放する。と、同時にまだ中に入っているものを引き抜く。
「……っん」
ゴムに溜まった白濁液。
カカシはそれを外して手早く結び、ゴミ箱に放り投げる。
「……ハハ、ローションでぐちゃぐちゃ。」
「シャワー、浴びるか………あんた、先に行けよ」
「ん? 一緒じゃないの?」
「誰があんたなんかと一緒に入るかよっ」
「……何もしないって。ホント。約束するから。」
「嫌だね、ほら行けよ。」
「俺ってそんな信用ない……?」
「ねえな」
「参ったな……。じゃ、先行くね。」
カカシがベッドから降りて、寝室を出ていく。
サスケは腹の上に飛び散っている自分の精液をティッシュで拭った。
……しばらくして、腰にバスタオルを巻いたカカシが寝室に入ってくる。
「……おい」
「え、なに?」
「この部屋に入ってくるな」
「え? 今の今この部屋でセックスしといて!?」
「関係ねえ! てめえの寝場所はリビングだ!」
「ええー、一緒に寝ようよ。セックスした仲じゃん。絶対に何もしないから。約束する。俺約束ちゃんと守ってるでしょ?」
「………………」
確かに、寝室や俺の部屋に入らない約束は守ってる。
時計もあれから触られていない。
……とはいえ。
勝手に合鍵盗んだりチェーンロックを外したり警察への通報を邪魔したり兄さんとの通話を邪魔したり………
だめだ、やっぱりこんな得体のしれねえ奴と一緒に寝るなんてごめんだ。
「ダメなもんはダメだ。さっさと出てけ。」
「どうしたら俺のこと信用してくれる?」
「もう回復不可能だ諦めろ」
「俺が何したって言うのさ」
「テメェの胸に聞けさっさと出て行け」
「……ちぇ、せっかく寝室に入れたと思ったのに……」
ぶつぶつ言いながらカカシは寝室を後にする。
それを見届けて、サスケも浴室に行くことにした。
脱いだ服を抱えて洗濯機に入れると、熱いシャワーを出す。
ぬるぬるする尻を入念に洗い流し、浴室を出た。ら、そこには腰にバスタオルを巻いたままのカカシがいた。
「穴の中に、残ってるでしょ? ローション。かき出してあげるから一緒に入ろ?」
「あのなぁ……、そういうところだよ‼」
頭にゲンコツでも落としてやりたかったが、カカシの方が背が高くてそれは叶わない。代わりに、腹をグーパンで思いっきり殴っておいた。