きみが好き
大切なもの
コン、コン、とサスケの病室の扉をノックする。
「どうぞ」
懐かしい声が聞こえてきて、はやる気持ちを抑えながら扉を開くと、ベッドで上半身を起こしているサスケと、サイドテーブルの椅子に座っているサクラの姿が目に入る。
「ッ……、サスケ、身体はもう大丈夫か?」
すぐにでも駆け寄って抱きしめたかったが、サクラがいる手前普段通りの俺をよそわなければいけない。
「カカシ先生こそ、もう大丈夫なの?」
「……あんたも、敵に薬盛られて隔離病棟だったんだろ。」
サスケが補完してくれたおかげで、この三日間俺がどんな状態だと説明されたのか理解した。
「ああ、俺はもう大丈夫だ。サスケは?」
「明日には、退院できるらしい。」
カカシは安堵しながらゆっくりとサスケに歩み寄る。
「……そうか、良かった……」
サスケに触れたい。もっと声を聞きたい。もっと近くに行きたい。もっと……今は我慢、だ。
「カカシ先生の代わりに、ヤマトっていう人が演習の指導をしてくれてたのよ。サスケ君もカカシ先生もいなくて、ちょっと大変だったけど……でも二人の元気そうな顔が見れて、安心したわ!」
サクラが笑うと、パッと花が咲いたように明るい雰囲気になる。
「ヤマト、か……後でお礼言いに行かなきゃなぁ。」
「すっごく、心配したんだから……二人とも。」
「……悪かったな、サクラ。明日はサスケの退院でバタつくだろうから、明後日から通常営業に戻るか。」
二人にいつもの笑顔を向けると、病室の扉が勢いよく開いた。
「おっすサスケ! 調子どうだ?」
扉を開いたのはナルトだった。
ナルトは室内にカカシがいることに気がつくと、その笑顔が少しだけ引きつる。が、勢いに任せてごまかす。
「……って、カカシ先生いるしっ! もういいのかよっ!」
「ああ、許可は貰えたよ。ありがとな、ナルト。」
……なんで隔離病棟にいたカカシ先生が、ナルトにありがとうなの?
サクラは二人の会話に違和感を覚えたが、久しぶりに第七班全員が揃って嬉しい気持ちの方が上回った。
「ナルト、サスケ君明日退院だって! 明後日からはいつも通り!」
「もういいのか? たったの四日だけど、長く感じたよな~! サスケはなかなか目ぇ覚まさねーし。」
「カカシ先生のことは、誰も詳しく教えてくれなかったし。」
「……ま、一番大変だったのは当人たちだろうけどな! サスケとカカシ先生が会うのも三日ぶりだろ?」
「俺は隔離されてたからね。サスケのことはずっと心配だったけど、こうして三人の顔が見れて安心したよ。心配かけてごめんね。」
「……いーってばよ! こうしてちゃんと元に……戻ったんだからさ!」
ナルトとカカシの会話の端々から、変な間や不自然さを感じてサクラが首をかしげる。
「……ねえ、ナルトとカカシ先生、何かあったの?」
ピシ、とナルトの動きが止まる。
「……何かあったのね?」
カカシはサクラから目を逸らしながら頭を掻いた。
「あー……っと、……実は、俺たちを助けてくれたのはナルトなんだ。で、ナルトには俺の情けないところ見せちゃってさ……。」
「……ほんとだってばよ。……でもふたりとも元通りになって良かったな! ってわけ!」
「……ナルトが? ……なんだ、私だけ、蚊帳の外だったのね。」
「あんな任務巻き込まれねえ方がぜってぇ良いってば! 俺も巻き込まれた側だし……」
「ナルトお前は……影分身で来いって言ったのに本体で来るから……。」
「まあいいじゃねえかその話は! こんで終わり! サクラちゃん、一緒に飯食いに行こうぜ!」
「え、うん、いいけど……」
「じゃーなサスケ! カカシ先生も!」
ナルトはサクラの背中を押しながら病室を出て行った。
残された二人はほっとため息をつく。
「……ごまかせたと思う?」
「さぁな……。」
改めて、カカシはサスケの傍らに近づき、しゃがんで手を握った。
「いつ誰が来るかわからないからできないけど、今すごくお前を抱きしめたいよ。」
「……俺もだ。あんたは三日間、本当はどうだったんだ? 今ここにいるってことは、火影様は……」
「隔離されてた、病室じゃなくて牢屋の中で。火影様からお前との関係を辞めろって命令されたのに、俺が従わなかったから。
……この三日間、サスケに会いたいって、そればっかり考えてたよ。」
「俺もあんたが一度も見舞いに来なかったと聞いて、処罰……されたのかと、思ってた。もしかしたらもう会えないのかって。」
「サスケのおかげだよ、火影様とナルトを説得してくれたんでしょ。さっき、俺たちのことは不問にする代わりに、絶対に他の奴らにはバレないようにしろって言われた。」
「そうか、そう、か……じゃあ、退院したらまた一緒に、居られるってことだよな?」
「うん、ばれなければ大丈夫。退院したら、また一緒に過ごせる。……サスケ。」
コン、コン、とノックが聞こえて、カカシはサスケの手を離して椅子に座る。
「どうぞ」
看護師が入ってきて、トレイに載った食事をテーブルの上に置いた。
「昼食の時間ですよ、サスケ君。」
病室を後にしたサクラは、神妙な顔でナルトに話しかける。
「サスケ君……うちは一族の、生き残りだから、狙われたのよね。……私、考えが甘かった。サスケ君と一緒にいたいと思うのなら、一緒に一族を背負う覚悟がないと……いけないのね。……私もっと、強くならなきゃ。」
「……あのサスケが簡単に捕まっちまうような相手だったんだ。たとえその場に一緒にいたとしても、俺らが出来ることなんて知れてるってばよ……。カカシ先生ですら簡単にはやれなかった奴らだぜ?」
「でも、ナルトは二人を助けたんでしょ? 波の国のとき、みたいに。私なんて、何もできなかった。」
「腕っぷしが強けりゃ良いってもんでもねえってばよ。紅先生の幻術があったから何とかなったわけだし。サクラちゃんはめちゃくちゃ頭が良いし、チャクラコントロールもめちゃくちゃうまいし、殴り合いとかそういうんじゃない力の活かし方があるんじゃねえか? 俺は頭悪いから、よくわかんねーけどさ。」
「そうかしら……うん、そうね。私にも何かできることがないか、探してみる。」
翌日、カカシはサスケを迎えに病院を訪れていた。荷物をまとめて、先生に頭を下げて、二人で一緒にカカシの家に向かう。
家に入って扉を閉めた瞬間、カカシは背を丸めてサスケを抱き締めた。サスケもその腕をカカシの背中に回す。
「ずっとこうしたかった。サスケ……好きだ。もう離さない。」
「俺も好きだ。……動けない俺をずっと抱いていてくれたのをまだ覚えてる。何度も名前を呼んでくれたことも。たくさんキスしてくれたことも。朝まで深くつながっていたことも。……カカシ。」
サスケが顔を上げる。カカシと見つめ合う。もう言葉は必要なかった。
靴を脱いで、荷物をどさっとその場に置くと、手を繋いで寝室に向かう。サスケがベッドに座ると、カカシはその後頭部を支えながらキスをして、ゆっくりサスケの身体をベッドに沈めた。サスケはカカシのベストのチャックを下ろして、前をはだける。
長い長いキスが終わると、カカシは忍服を脱ぎ去って、サスケもシャツを脱ぎ捨てた。お互いにズボンに手を伸ばしたときはクスっと笑って、お互いの肌を晒していく。
勃ち上がったそれにローションを垂らすと、ベッドの上でそれを擦りあいながらまた始まるキス。荒くなっていく呼吸、合間にもれる声。ああ、すべてが愛おしい。サスケは四日前には感じなかった感覚に、カカシはサスケの反応に嬉しさがこみ上げ、二人で肌を合わせる喜びに震える。
ローションで濡れた指がサスケの中に入ってくるとサスケの身体がピクンと動いて、その感覚を拾おうとゆっくり息を吐く。ぷっくり膨れたそこに指が届くと、カカシは優しくマッサージをしながら抽送を始めた。
「っん、……あっ……」
サスケは目を閉じてはぁっと息を吐いた。そこを優しく撫でられる度にじんじんと熱を持ち、それが快感に変わって背筋を駆け上がっていく。
「あっ……んっ……んぁっ……」
その指が増えても、カカシの手つきはあくまでも優しい。じっくり、じっくり、愛しむように中を押し広げていく。その手から伝わる愛情に、サスケは涙をこぼした。
「……サスケ……?」
心配そうにサスケの顔を覗き込むカカシ。
「ちが……うれ、しくて、……っ」
ほっとして、頬を伝う涙にキスをする。
じっくりと愛撫してじゅうぶんに慣れたそこから指を抜くと、カカシはサスケを抱きしめた。
「挿れて、いい……?」
「っ早く、繋がりたい……っ」
「ん……俺も……」
ぎゅっと抱きしめたまま、そこにカカシのものが触れる。熱くて硬いそれが、ぬぷ、とゆっくり入っては引いて、また少し入っては引いて、それを繰り返しながら時間をかけて奥まで到達する。
「っあ、あ、カカシ、カカ、シ……っ、奥、に……っ」
「うん……奥まで、入った……平気……?」
「だい、じょうぶ、だからっ、もっとカカシを、感じたい……」
ゆっくりと、助走をつけるように抽送が始まった。カカシはゆっくりとした抽送から、少しずつ、少しずつ、腰の動きを早くしていく。
「あっ……あ、……あっ、んっ、はぁっ、あ、あっ、んぅっ! は、あっ、あっ!」
そこをなぞりながら奥まで突かれる度に生まれる快感に、サスケは喘いだ。カカシから伝わってくる愛情に胸が熱くなって、胸から身体中にその熱が広がっていく。この感覚のこの愛おしさは、どうしたら伝わるだろう。伝えられるだろう。
「あっ、ぅあっ! カ、あっ! カカシッ、んぁっ! 好きっ、だ、俺、っ! ぁあっ! あっ!」
「はぁっ、サスケ、俺も好きだっ……!」
腰の動きはいつしか激しくなっていて、もうカカシしか感じられなくなっていた。雑音のない二人だけの世界に酔い痴れて、カカシのもたらす快感を夢中で貪り、声が出るままに喘ぐ。
「んぁっ! あ、あっ! あっ! あうっ! は、あっ! ぅあ! っあ!」
「もっと、激しく、していい? サスケ……っ!」
すぐ耳元で囁かれた声は濃い興奮の色が滲んでいて、サスケは思わず頷いていた。
「あっ! はっ、っあ、っん! い、いっ、あっ! んぁっ! あっ! あ、ひぁっ!」
更に抽送が激しくなる。わけがわからないくらい気持ち良くて、身体がどんどん熱を帯びていく。身体中が熱い。その感じたことのない熱さに戸惑いながら、どんどん快感の高みに引き上げられていく。
「あっ! あああっ! あっ! は、っあ! ああ、あああっ! カカッ、んあああっ! だ、あっ! だめっへんっ! あ、だっ、め、あっ、あ、ああああっ!!」
叫び声のような声を上げて、サスケの身体がビクンッビクンッと跳ねた。同時に中がキュウウッと痙攣して、カカシを締め付ける。
「っは、サスッ、……ッ!」
カカシは奥の、更に奥に突きつけて、ドクンッと精を放った。
「あっ、……あ、……あっ……っ!!」
サスケはビク、ビク、と震えながらカカシを抱きしめる腕に力を込める。
中で感じる鼓動に愛しさを覚えながら、頭は多幸感で満ちていた。
「ッカシ、おれ、しあ、わせ……っ」
「はぁっ、俺も、俺もだ、……サスケ……っもう、離さないっ……」
「っん…………」
きつく……きつく抱きしめ合って、繋がったまま、時折キスをして。永遠とも思える時間を二人で一緒に感じていた。それは幸せで、……幸せで、こんなにも幸せを感じても良いんだろうかと思えるくらいに、こころが満ちあふれた時間だった。
身体の程よい疲労と、体温の温かさ、繋がっている感覚。その心地よさに、いつしか二人は眠りに落ちていった。
目を覚ましたサスケが顔を上げると、ふわっと笑うカカシがいて、サスケもまた顔がほころぶ。どれだけ抱きしめ合っていて、どれだけ眠っていたんだろう。気がつくとすっかりお腹がすいていて、カカシは「何か食べよっか」と笑いかけた。
「なんかさ、やっぱこの四人じゃねーとな!」
にひひ、と笑うナルトに、場が和む。
「……任務は相変わらずつまんねーけど!」
すかさず、サクラがナルトを小突いた。
「そういうこと大きい声で言わないの!」
草むしりをしながら、ああ日常が戻ってきたと感じる。
退院してからは、サスケは朝カカシの家を出ると、一旦自宅に帰ってから集合場所に向かうことにしていた。
カカシも一緒に家を出ているはずなのに、どこをほっつき歩いているのか、また遅刻癖が出始めている。
けれどそれがいつものカカシだから、サスケは詮索せず、三人集合場所に集まってから「今日は何時間遅れてくると思う?」と皆で話し合うのが常だった。
ある日、その話し合いでサスケが見せた笑顔に、サクラが尋ねた。
「サスケ君、やっぱり前よりよく笑うようになったわよね! 何か良いことでもあったの?」
「……大切なものができた。それだけだ。」
「サスケ君の大切なもの? なになに?」
「それは誰にも言わないことにしてる。」
「余計に気になる―っ! ねえナルト! ナルトもそう思わない?」
話を振られたナルトは、頭の後ろで手を組み、サスケにアイコンタクトを送る。
「……秘密のひとつやふたつ、誰にでもあるだろ。な、サスケ!」
サスケはふっと笑って答えた。
「そういうことだ、サクラ。」
うなだれるサクラをよそに、話し合いの続きを始める。
「俺は三時間はかかると思う!」
「今日は一時間半くらいじゃねえの。」
その様子を電柱の上から見守っていたカカシが、機を見計らって気配を現わした。
「よっお前ら」
「おっそ……くない!?」
驚く三人に気を良くして、電柱から飛び降りる。
「で、何の話してたの?」
「……先生には、秘密!」