繰り返さない

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2026年8月9日カカサス,成人向,長編,原作軸,現代パロ,連載中,小説転生,エロ,お付き合いしてるふたり,シリアス

いらない土産

 その後大きな事件や動きがないまま冬休みを迎えて、兄さんが帰ってくるまで俺とカカシはまた一緒に過ごしていた。オビトからの知らせでは各国が水面下でこの後のシナリオを話し合っているらしい。特に韓国、日本、アメリカにとって中国の情勢は緊張感を持って見守らなければいけない状況がずっと続いている。犯人がマダラだと知っている日本はその情報をアメリカにも伝えているのだろうか?
 でもたった一人がここまでのことをやるなんて誰も信じないだろう。記憶がある俺たち以外は。
 丸一日カカシと過ごしていると、そういう事も思考の隅に追いやるようになっていった。カカシと過ごす時間が大切だ、それを忘れそうになっていたけど、こんな時勢だからこそ今すぐ隣にカカシがいる幸せをしっかり感じて、目の前にいるこの人との時間を大事にしなきゃいけないんだと思い直した。
 俺がどんな道を選ぶのかまだわからない。だからこそ、カカシといられる今を。
 
 一緒の布団で寝て、……寝るだけでは済まないんだけど。朝起きたら目の前にカカシの顔があって、俺今、幸せだって噛み締めて。昨日そのまま寝たせいでカピカピになっているそれに気がついて苦笑して、起きたらカカシも目を覚まして優しい笑顔で「おはよう」と言葉を交わす。兄さんが帰ってくるまでの、数日だけのふたりの時間。
 
 イルミネーションで彩られた街路樹が立ち並ぶ商店街、クリスマスソングが流れる中カカシがショーウィンドウを眺めながら言う。
「明日はクリスマスイヴかぁ。」
 何かお祝いをしたい、そんな顔をしている。
「ケーキは買わねえぞ、あんたも嫌いだろ。」
「……うん、さすが、よく知ってるねぇ。」
 しかしそんな顔を見てしまうと、それを叶えたくなってしまう。カカシのそういう顔に俺は弱い。
「けどチキンは食べようぜ。」
「うん、そうだね。」
「じゃあ、精肉屋に寄って行くか。」
 スーパーに並ぶクリスマスチキンは高すぎる。作った方がいい。頭の中で調理手順を追っていく。
「プレゼントどうする?」
 チキンの調理法を置いといて、カカシの顔を見上げた。
 プレゼントか、とクリスマスセールをしている店を眺める。……俺の金じゃ大したものは買えない。
「……俺はあんたに何か買ってやるほど余裕ないから、あんたもなしでいい。」
 カカシが立ち止まって、手を繋いでいた俺も立ち止まった。
「やだ、なんか贈りたい。」
「一方的に貰うだけなんて俺はいやだぞ。」
「む……でもクリスマスだよ?」
「気持ちはわかるが」
「ええ、何もなし?」
「チキンは食おう」
「それはそれ、プレゼントはまた別の話。」
 食費とベッド代、程度はカカシからちゃんと受け取ってる。けどこの先年末年始っていう厄介な行事があって、その期間スーパーの食品価格は高騰する。それに備えて、財布には余裕を持たせておきたい。だから俺から贈るとしたら、家にあるもので何か手作りするとか、そういう物になる。
「別に値の張るものじゃなくて良いから、何かさ、お揃いのもの買おうよ。」
「……それ、いくらぐらいを想定してるんだ。」
 カカシは考え込んだ。
 俺は服とかもジモティーでタダ同然で譲ってもらったものを着ているし、食事だって質素なものだ。そういう生活を見ていれば、我が家の財政事情だってわかるだろう。
「……ひとり500円、まで。」
 妥当な金額が出てきて、それなら……と思うものの、そんな金額でお揃いの何か、なんて……キーホルダーならギリギリ買えるだろうか、くらいじゃないのか。
「……百均、ならお揃いの何か、あるだろ。多分。」
 カカシの顔が明るくなる。わかりやすい奴。
「何にしよっか、100円なら五個まで買えるって事だよね。俺さ、お揃いのマグカップとか憧れてんだよね。」
 食器を同じものふたつ買う、ってことか。そうすると、二種類まで。
「なら、ひとつはマグカップとして……もうひとつは……。」
「箸、とかどう?」
「……いい、かも。」
 手を繋いだまま百均の中に入って、キッチンコーナーを覗く。マグカップは、すぐに見つかった。どう見ても量産品、だけどうちの食器棚に置けばお揃いのマグカップだ。
 けど、箸は五膳くらいまとめて売っていて、一膳ずつ違うデザインで、というものは見つからなかった。
 どうしようね、と店内を見て回っていたら、推し活グッズの前でカカシが立ち止まった。
「何見てんだ。……オリジナルキーホルダー?」
「あー、いや、俺とサスケの写真入れてみたらどうかなと思ったけど、さすがに露骨すぎて普段使い出来ないかなぁ、って。」
 オリジナル……。そのコーナーには色んなグッズを自作するキットが並んでいる。ひとつずつ見ていく。写真を入れる系が多い。……写真か。
「露骨に顔の写真じゃなければ、良いんじゃないのか。玄関に並べた靴とか、棚に置いた今から買うマグカップとか。」
「……それさ、めちゃくちゃ匂わせ系だね。そのキーホルダー見たら誰でも〝パートナーいるんだ〟って思う、みたいな。」
 それはそれでちょっと恥ずかしい気がしてきた。
「今のなし。グッズはなんかちょっと違うと思う。キーホルダーなら普通のキーホルダーをお揃いで持てば良いだろ、突っ込まれても百均だから被ったみたいだな、で済むし。」
「それもそうか。……オリジナルキーホルダーも良いと思ったんだけどな。」
「……あんた、教師だろ、一応。」
「一応じゃなくてれっきとした教師だけど。」
「生徒とこんな関係ってバレたらヤバいんじゃないのか。オリジナルキーホルダーなんてふたりして持ってるのバレたら言い訳できねえぞ。」
「それもそっか……。」
 名残惜しそうにオリジナルキーホルダー製作キットを棚に戻して、服飾品のコーナーに向かった。
 
 キーホルダーです、みたいなキーホルダーは案外少なかった。パスケースだとかスマホ用の物はいくつかラインナップがあるけど、シンプルにただのキーホルダーになりそうな物は……根付け紐に鈴が付いている物、くらいしかない。……この鈴、最初の鈴取り合戦のと少し似てる、気がする。
「鈴……音でバレるかな。」
「ポケットの中なら、多分大丈夫。」
 紐は水色、赤、緑、白の四種類だ。
「色さ、水色にしようぜ。」
「あ、俺もそう思ってた。……ということは、記憶の中で何か所縁のある色なの?」
 水色の根付けを選んで取りながら、手の中でチリンと鳴る鈴にあの技の名前の由来が頭をよぎる。
「あんたが師として俺に教えてくれた技、それを発動させた時、青白い雷が手を覆う。……俺は最後の戦いまで、ずっとその技を使い続けていた。」
「最後のっていうと……マダラ?」
「いや、……ナルトだ。」
 カカシは、目を見開いて振り向いた。
「え、ナルトって、あのナルト? 一緒にマダラと戦ったんでしょ?その後また何かあったの?」
 ふたつの鈴を買い物カゴに入れる。チリン、と音を鳴らしながらカゴの中でぶつかり合う。
「里に復讐しようと考えたって話はしたよな。ナルトとはマダラを倒す為に共闘はした。けど、ナルトと俺は違う考えを持っていた。だから殺すつもりで戦った。……負けたけどな。」
「友達でライバルで……なのに殺し合い、って、そんなことが……。」
「……記憶の中の話だ。国際指名手配の犯罪者だった俺を無罪放免に近い形で里に戻れるようにしてくれた、六代目火影……だったカカシのおかげでその後は平和に生活ができた。」
「……え? 俺が? 火影、って里のトップって言ったよね。本当にそれ俺?」
 ……そういえば。記憶をなぞるのであればカカシはそれなりの地位につく……はずだ。けど、今は単なるいち教師でしかない。もし大戦が起きたら、その後にカカシはどこかの街の長にでもなるのだろうか?
「……確かに、想像つかないな。記憶の中では火影になっていた、けど。」
 火影、という存在が今の世界にとってどの程度の地位の存在なのかよく分からない。三代目火影に当たる人物は今どこで何をしているんだろう。少なくとも、総理大臣ではない。
「猿飛……何だったっけ、その人が今火影の立場のはず……いや、大蛇丸が現れたから……でも今の大蛇丸は木の葉崩しはしていない……ならまだ生きているはず。」
「猿飛?」
 その人物が思い当たるような言い方に、カカシを見上げた。
「もしかして、猿飛ヒルゼン?」
「あ、それだ。ヒルゼン。三代目火影の名前。」
「三代目ってことは、……その三代先が俺?」
「知ってるのか? 今その人は何してるんだ。」
 カカシは考え込みながら、言葉を選ぶ。
「いや……、俺がその立場になるのは悪いけど、あり得ないな。だってその人、統合幕僚長……つまり、自衛隊のトップだよ。」
 レジに向かおうとしていた足が完全に止まった。
 オビトとマダラの話では、初代火影は戦後の焼け野原から街を復興させた地方の都市の長に過ぎなかったはずだ。その弟だったニ代目火影もきっとその街の長を引き継いだはず。なのに何で三代目火影がいきなり自衛隊のトップに来るんだ。順当にいけば三代目火影もどこかの街の長におさまる程度のはずだ。
「……確かにあり得ない、カカシはそもそも自衛隊員じゃない。」
 四代目はともかく現代の五代目火影も今はどっかの大学で医学を教えている、はずだ。五代目も火影……自衛隊のトップになんてなるわけがない。
 ……どこかで何かが狂っている?
 そういえばダンゾウも記憶とは全く違うことをしていた。木の葉隠れの里の中枢にいた内の誰かに記憶があって、何かを企んでいる……?
 でもそんな事にシスイやオビト達が気がつかないわけがない。俺たちに知らされていない何かがきっとまだあるんだろう。俺は戦力外通告をされている訳だし、そんな俺に自衛隊の中枢に関わる重要な機密を話すとも思えない。
「……まあ、とりあえずあんたが記憶通りに六代目火影と同じような立場になりようがないのはわかった。俺も国際指名手配されるような事はするつもりもないし。」
 買い物カゴを無人レジに置いて、鈴とマグカップのバーコードを読み込ませる。
 440円を放り込んでバッグに入れようとしたら、別のレジにいるカカシが「ちょっと待って」と何かしていた。いつの間にか何かを買っていたらしい。
 レジを終えたカカシが俺に220円を渡してから、ガサガサと包装を剥がしてカラフルなビニル袋を取り出し、マグカップと鈴をひとつずつその中に入れて赤いリボンのようなワイヤーで不恰好な蝶々結びをした。
「ほら、プレゼントっぽい。」
 にこ、と笑いながらその包みを渡されて、バカだなぁとか、そんなにクリスマスごっこがしたいのかとか、そんな気持ちも頭に浮かんだけど、俺はその包みを受け取った。
「……ありがとう。」
 チリ、と音が鳴るその包みをバッグに入れて、精肉店でチキンレッグをふたつ買って、グリルチキンを作る手順を考えながらふたりで家に帰る。と、その鍵は開いていた。
 鍵……閉め忘れ?……いや、閉めた、よな。
 カカシが俺を背後に押しやって、音を立てないようにそっと扉を開けて中を伺う。すると、中に誰かがいたらしい。俺が覗き見ようとするのを手で制された。
 カカシはそのまま動きを止めて様子を伺っている。すると、家の中から聴き覚えのある声がした。
「何もしないから入って来い、お前らの家だろ。」
 記憶の中のその声の主、が、今俺の家にいるなんてそんな馬鹿な。
 カカシが少し扉を開けた。
「公安の見張りがいたはずですけど。」
「邪魔だったから少し寝てもらっている。まあ入れ。」
 間違いない、この声、……うちはマダラだ。
「入りますけど、本当に何もしませんか?」
「俺は嘘は嫌いだ。」
 カカシが扉を開けた。俺に見えるように。リビングでくつろいでいるその姿は、確かにうちはマダラその人だった。
 自分の家なのに自分の家じゃないように思えてしまう。さっきまでのクリスマス気分は吹き飛んだ。
 ふたりでそっと家の中に入って、玄関の鍵は閉めなかった。あのマダラを相手にそんなものささやかな抵抗に過ぎないとは分かっているけど、嘘は嫌いという言葉をとりあえずは信じた。
「中国にいたはずでは?」
「ああ、さっき戻ったばかりだ。元首の首も取ろうと思っていたが流石にガードが固くてな。」
「元首の首は諦めた、訳ですか。」
「いや? 誕生日ぐらい日本で過ごしたかっただけだ。ついでに、お前らに土産話でもと思ってな。」
 うちはマダラにも誕生日、あるのか。いや、まあ、あるよな。
「なぜ俺たちに? 自衛隊の人に話すべきじゃ……。」
「……奴等は好かん。まあ聞け、座れ。」
 促されるままテーブルを挟んだ向かい側に座る。といってもすぐに立ち上がれる姿勢で。
「まず月の眼計画、それを再現するなら前の生で俺が片手間に調べていた事を引き継いで研究してるだろうと踏んで研究施設を探った。誤魔化すためにそこらへんの基地も破壊しておいた。結果としては、中国ではその研究はしていなかった。代わりに細菌兵器だのは研究していたようだが、基地のついでにそこも破壊しておいたから暫くの間は研究の再開は出来んだろう。」
 ……つまり、軍を襲うのが目的ではなかった? それなのに、軍の中枢に入り込んでまで幹部を狙ったのは何故?
「で、カモフラージュとして一応革命を掲げたからにはある程度の戦果を遺さんとな、と最後に本丸を攻めた訳だ。出来たらついでに元首の首も取りたかったがそれはついでだ。」
「それで、次は何をするんだ。」
 マダラはにやと口角を上げる。悪戯を思いついた悪ガキのような顔で。
「それは言えん。見てのお楽しみ、というところだ。で、お前らふたり、俺の話を聞いてどう思った。お前らが動かした男が動いた結果だ。」
 嘘は嫌いと言ったから正直に言ってしまうのが一番安全だろう。危害を加える様子も見られないし。あまり沈黙が長くならないように、口を開いた。
「……ニュースを見て、ただただ、驚くばかりで……まさかこんな事をするなんて、思っていなかった。」
「その……、前の生であなたが研究していた事を日本国内で引き継いでいる人物がいます。その人の事は?」
 マダラは少しつまらなさそうに目を細める。
「テロもどきを起こした奴ら、のバックについてる奴だろう。この国も色々と歪んでいるようだな、わざとテロもどきを起こすとは。」
 マダラはつまり、ダンゾウのバックに大蛇丸がいて、その大蛇丸が自衛隊と通じている事まで知ってる、のか。一体どこからその情報を……。
「まあ、悪い事だとは思わん。あの薬の研究をする、というのはつまり薬効の中和の研究でもある。好きにやらせておく。問題は……いや、この辺にしておくか。」
 マダラが膝に手をついて立ち上がる。黒のタートルネックに黒のパンツ、そして黒のコート。闇に紛れるような服装だ。
「邪魔したな、お前らがそういう関係だと知らなかった。許せ。俺は久々の我が家でくつろぐ事にする。」
 すっと横を通り抜けて靴を履き、普通に扉を開けて出て行ったマダラの、その足音が、靴を履いた音が、服が擦れる音すらしなかった事に後から気がついてゾッとした。
 俺たちはマダラが去った後もしばらく玄関に目を向けたまま固まっていて、少ししてから激しめのノックと共に部屋に入ってきた男三人、オビトと恐らく公安の人から「無事か!?」と声をかけられるまで呆然としていた。

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