繰り返さない
邪魔者達
「どいつもこいつも……俺たちのクリスマス邪魔してくれるよね。」
オビトの顔を見てカカシが深いため息をつく。
その言葉に、オビトも少し落ち着いたようだった。
「……通信設備がやられて様子を見に来たらお前らの見張りは眠っていて……どれだけ心配したと思ってるんだ。それで、……悪い、……本当に邪魔をしてしまっているようだな。」
カバンから飛び出ているカラフルなラッピングを見て、オビトはバツが悪そうに頭を掻いた。
「……いや、オビト達は国を護るために日々頑張ってるわけで、少し話をするくらいなら構わないよ。な、サスケ。」
「え、あ、ああ。ずっと拘束される訳じゃないんだろ。」
「……すまない、協力感謝する。録音させてもらっているが、構わないか。」
ボイスレコーダーを後ろの二人から受け取り、俺たちに見せる。まあ、最重要人物がこの家に来ていたのだから少しでも情報は得たいんだろう。隠さなければいけない会話をしたわけでもない。
「いいよ、そんで何から話したらいい?」
ひと通り話をして、オビトは小さく「あんのクソジジィ……」と呟いた。
文脈からするとマダラのことを指しているものと思われるがマダラは三十代半ばくらいに見えた。ジジィという見た目じゃない。まさかとんでもなく若作りをしているとか?それにしてはやる事がめちゃくちゃだ。
「あの」マダラを「クソジジィ」などと呼ぶのもなんとも畏れ多いというか、マダラの脅威を知っている身でありながら、なんだからしくない言葉だ。
「……あ、いや……今の独り言は忘れてくれ。つまりあの研究をしている国がないか探っているんだな、マダラは。」
俺たちは頷く。
「ただ、次に何をするつもりなのかはさっぱりだ。楽しみにしておけと言うからには恐らくはまた派手な事をしでかすんだろうとは思う。」
オビトは頭を掻きむしりながら「あ~~~もう!!」と感情的な声を出す。この人、大人ぶってるけどもしかしてナルトと似たタイプなんだろうか。
「恐らく自衛隊の内部の情報も漏れている、その上で野放しにされているが俺たちの動きがいつマダラの逆鱗に触れるかわからん、最悪だ。何なんだあいつは何がしたいんだ……!!」
やはりシスイとは違ってオビトがマダラを語るときは何だか他の人とは違う印象を受ける。オビトは自分が中心となって月の眼計画を進めていた位だから、もしかしたらマダラとはそれなりにくだけた仲……だったのだろうか?
「ともかく、マダラは大戦にあの薬が使われると考えている訳だな。……この際ついでに話しておくが、大蛇丸を研究の傍でオカルト系のカリスマに仕立てている。この先に起こりうる事を予め大蛇丸には伝えてあって、折を見ては予言させている。で、その成果が出始めているところだ。俺たちのように鮮明には覚えていなくとも、前世のことをおぼろげながら記憶している人達が大蛇丸にコンタクトを取り始めた。今サンプルは三八人。睡眠薬テロをテレビで見たのをきっかけに、大戦の記憶を思い起こしている。」
……あ、そう、か。カカシが俺を見て「今度こそ」と感じたように、あの記憶と今はどこかが繋がっている。あの大戦のような強烈な出来事を見知っている人が、同じような事件をニュースで見ることでデジャヴを感じてもおかしくはない。
でも何故そんな人々を集めているんだ?目的がわからない。
「……まあ、そんな顔をするのもわからなくもない。しかし、組織を動かすには数人の声ではとても足りないんだ。いかにそれが鮮明であろうと、訴えているのがたったの四人では話にならない。
自衛隊でも一部の部隊しかこの件には関わっていないんだ。
暁の奴らは関わりが深かったからか、多少何かを思い出している。イタチをそこに加えて、更に鮮明に思い出させたい。イタチとツーマンセルだった鬼鮫は多くは語らないが、イタチと関わらせて以降の様子を見るに何かを思い出しているようなそぶりが見られる。だから俺はイタチを暁に入れることで効果が得られると踏んでいる。」
「火影……猿飛ヒルゼンは何故今の地位にいるんだ。現代の歴代の火影はそうじゃなかったはずだ。」
オビトは静かに首を振って、何も言わずに口を動かした。
い、え、あ、い……いえ、ない、言えない?
俺たちに話したらまずい機密、ってことか。
「立場は色々だが俺たち木の葉の忍は火影の下に従う存在だった。だから現代の三代目火影が今の地位にいるのも納得はできる。」
カカシはつまらなさそうな顔で頬杖をつきながら「へーえ」と適当に相槌を打っている。さっさと出ていけタコ野郎とでも言いたげだ。
「あと、マダラが喋っちまったからには打ち明けるが、睡眠剤テロは俺たちの自作自演だ。俺たちってのはイコール自衛隊じゃない。大蛇丸をはじめとして自衛隊とは別で動いてる者たちだ。記憶のある人物も皆関わっている。そういうのも動いていると認識してくれ。大戦のキーパーソンを集めた組織、といったところだ。詳しいメンバーは時期が来たら話そう。」
カカシがまたつまらなさそうに「ふ――ーん」とぼやく。オビト気付けよ、この雰囲気に。もう話す事は話しただろ。
「……しかしジジ……マダラが自衛隊を好かんと言ったのには困ったな。迂闊に動けなくなってしまった。」
まだ続けるつもりか。情報を統制してる立場の割に口が軽いし鈍すぎるだろ。見ていられなくて口を挟む。
「……なぁ、もう用事は終わった、で、いいんだよな?」
「……ん?……あ。ええと……すまない、長居をしてしまった。邪魔をしてしまい申し訳ない。マダラはどうにもならないが引き続きふたりの安全は約束しよう。」
「俺が何だって?」
空気が凍る、とはこの事だろうか。
いつ扉を開けたのか、いつからそこにいたのか、誰も全く気が付いていなかった。声の方に視線を向けると、さっきまで座ってくつろいでいたマダラがまたそこにいる。
「クソガキは今はどうでもいい、そこのお前、サスケだったか。くれてやる。」
ひゅっと腕を振る、俺めがけて何かが飛んでくる、思わず手で顔を覆って顔でキャッチ、にはならずに済んだ。
「ふと思い出してな、明日はクリスマス……イブ?だっただろう。俺からの贈り物だ、喜べ。」
贈り物……マダラが、俺に?手で掴んだそれは平たくて少し重い、硬いけど布でくるんであるのか、中身が何なのか全く想像がつかない。
「あ、りがとう、ござい、ます……」
用が済んだのかオビトと違ってすぐに立ち去ろうと踵を返した。というのに、せっかく立ち去ろうとしているのにオビトがマダラに喚き散らす。
「おいクソジジイ一体どういうつもりだ!俺ではなく今度はこの子どもを囲い込むつもりか!?」
クソジジイ、が引っかかったんだろう。立ち去ろうとしたマダラが足を止めた。
「お前は変わらずクソガキのままだな、どうやら前世の記憶から何も学んでいないらしい。この俺のどこがクソジジイだと?俺のおかげで生きながらえた分際で相変わらず口だけはやかましいな。」
「あんたこそ柱間細胞でかろうじて生きてた分際でよくも偉そうなことが言えたな、そっちこそ老眼で目がどうにかなってんだろどう見ても俺は大人だ!俺が現れなければあんたの計画なんかそれこそ夢で終わったところを俺が引き継いでやったのに裏切りやがって忘れてねえからな!!」
「相変わらずうるさい童だ俺が柱間細胞を分けてやらねば野垂れ死んでいたのを忘れたのか。貴様なんぞただの手駒のひとつに過ぎん輪廻眼まで貸してやったというのに教えた手筈通りに計画を進めることも出来なかった木偶の坊は黙ってろ。」
言い合いの応酬をどうしたらいいのかわからず俺もカカシも公安の人も固まったままふたりのやり取りを見守っていた。はじめて話をした時には「あのマダラ」とオビト自身も恐るべき存在だと認めている風だったのに今目の前で繰り広げているのはまるで、どうにも相当に親しい間柄でないと出来ない言い合いのように見える。
「そもそも俺は貴様のようなクソガキの相手をしている程暇じゃない。そこの小僧に渡すものがあっただけだこれ以上俺の足を止めるようならお前の仲間全員殺すぞクソガキ。」
「よく言うよ誕生日ぼっちでしんみり過ごすつもりだった癖にあーもしかして誕生日おめでとうって言われたくて戻ってきたとか?しょーがねえジジィだな俺が言ってやるからさっさと帰れよ。」
あ、誕生日、そういえば言ってたな……これは、おめでとうを言っておいた方がいいのだろうか……?
「ハーッピバースデートゥーユー」
抑揚のない声でオビトが歌い始めて、だめだこの人ナルトと同じアホだ、と悟った。それはやったらダメなやつだろどう考えても。
「おいクソガキいかに俺の懐が広かろうがそれ以上愚弄したらいくら貴様とてこの場でころ」
「あのー……」
控えめに右手を上げながら口を挟んだのはカカシだった。
「ふたりとも、うちでの用事は終わってるわけですよね?言い合いは別の場所でやって頂けると……。」
顔には出していないものの多分カカシもうんざりしているんだろう。いい加減帰れ、とマダラはしっかり受け取ったらしい。
「悪かった、だが文句はそこのクソガキに言え。俺は帰る。」
「クソガキって言うなクソジジィ!」
「オビト良い加減にしてくれる?」
オビトに目線を向けて、またマダラの方を見たら既に玄関にはいなかった。
……いつの間に消えたんだ。
相変わらず底が知れない、対するオビトは真逆だ。感情を隠しもせずまだマダラへの文句を言っている。
マダラがいなくなって安心したのか、カカシは立ち上がってオビトの手を引っ張り玄関まで追いやった。
「はい、さよなら。よきクリスマスを。」
「待て待て、ひとつだけ確認させてくれ。サスケ、マダラから受け取った物、念のため見せてくれ。」
手の中にあるずしっとしたものを袋から出した。やっぱり布で包まれている。その布をくるくると解いてみて、見えた中身に思わず血の気が引いた。
ダガー、で良いんだろうか。ナイフよりは大きい、剣というには小さい、先端は鋭利で根本は少しギザギザした、多分血……が着いている、刃物。
これって、もしかして中国で使った……?
それを見たオビトが駆け寄り、確認して布ごと俺の手から取り上げる。
「悪い、これはサスケの手元に置いておくわけにはいかん。あのジ……マダラの奴、素直に自衛隊に引き渡せばいいものを……とことん俺達を通さないつもりだな。」
という事は、今後もマダラは何かしでかしたら俺達のところに報告に来て、オビトに伝えるやり取りをしなきゃいけないのか。
……めんどくさすぎるだろ!
「……迷惑なんだけど、何とかならないの?」
カカシも同意見らしい。オビトにうんざりした目を向ける。
「そもそもお前らが直談判なんてしなけりゃこんな事にもなってないんだからな?そこはもっと反省してくれ。マダラが自衛隊と直接やりとりをするつもりがない以上どうにもならん。」
「脅威は去った、てのは自衛隊に直接連絡があったわけじゃないの?」
「……あれは在中国日本大使館に放り込まれた石にくくりつけられた紙クズの中身が暗号で、公安を経由して自衛隊に回ってきたものをシスイが解いた結果だ。うちはの碑文と同じ文字が使用されていた。それでマダラのものだろう、と判断した。防犯カメラを確認したら大使館にそれを投げ込んだのは中国人と思われる子どもだった。身柄の特定まではできていない。……元々、日本大使館に石とかを投げ込む中国人はいたからな。今回もそうだろうと思ったら……というところだ。」
信用されているからなのか、それとも単におしゃべりなのか、内情をペラペラと話すオビトに情報共有は助かると思う反面さっきのマダラとのやりとりも含めて不安を抱く。
この人に任せておいて大丈夫なんだろうか日本。
「うん、わかった。これはオビト達に渡す、俺たちもこんなもの家に置きたくない、事情もよくわかった。で、今度こそ帰ってくれる?」
カカシが再度促すと、さすがにオビトも状況を理解したようだった。
「……あ、そうだったな。すまん。これの存在は危険なので然るべき所で管理する。用件は以上だ。邪魔をして悪かった。」
他の二人はすでに玄関の外にいた。その二人からも何とも言えない空気を感じる。絶対この人喋りすぎてるだろ。色々大丈夫なのか。
再度背中を押されて玄関まで追いやられたオビトは素直に靴を履いて外に出た。と思ったらひょこっと顔だけこちらに向けて「よいお年を!」と告げて今度こそ立ち去り扉が閉まった。
そこはメリークリスマスじゃないのか。
玄関の鍵を閉めて、カカシがため息をつく。
「……とんだ邪魔者だ、気分台無しだよ全く……。」
それについては、俺も心底同意した。
「……少なくとも年内はもう来ないって事で良いんだよな……?」
「そうだといいけどね。オビトの奴本当にガキの頃から変わってないな。今俺めっちゃ不安なんだけど。」
「確かに。」


