約束-リライト版-
そういう意味か
「嫌だ、離せっ!」
押してみた胸板は厚くてびくともしない。何をする気なのかは分からないけどろくなことにならない事だけは確信できた。
「嫌? やってみないと分からない事っていっぱいあるよ。」
そう言いながら肩に手が載って抱きしめられる体勢からは解放された。
と思ったら流れるような動きでしゃがんで俺のスラックスをおろしてトランクスまでズルっと降ろされる。
何が起きているのかわからず気がついたときには俺のそれはカカシの口の中だった。
「ちょっ! 冗談じゃねぇっ! やめ、っ!!」
フェラチオなんて知識でしか知らなかったがこれは間違いなくフェラチオでその上こんなにも気持ちいいなんて聞いてない。髪の毛を掴んで引っ張っても頭を掴んで押してもやっぱりカカシはびくともせず、突然始まった強すぎる刺激に思わず息が乱れる。
「やめ、ろって……っ!!」
この髪の毛全部引っこ抜いてやろうかと思ったらその頭が前後に動き始めて、あこれエロ動画で見たことあるやつだとどこかで思いながらそれまで以上に気持ちよくてたまらなくて髪を掴んだまま前屈みになっていた。
「やめ、……って、言って……っ!」
一瞬だけ俺の顔をチラッと見てカカシは頭の動きを早めていった。
やめろ、やめろやめろこのままだと、本当に、
「はなっ……! い、っ、出る、からっ、やめ……っ!」
駆け上がる射精感を煽るような舌と口の動きに耐えきれず、ついに俺はカカシの口の中に出してしまった。出してしまった後も裏筋を舐めたり先端を舐めたり刺激が止まらなくて敏感になったそこはいちいち快感を脳に走らせる。
ようやく口が離れたかと思ったらカカシは俺の顔を見上げて少しだけ口角を上げた。
「やっぱりされる方が好きって顔。」
「……は?」
頭が状況を追いかけようとしているところにまた訳のわからないことを言われて脳のリソースをどっちに割いたらいいのかわからない。
「気持ちよかったでしょ? もっと気持ちいいことする?」
気持ちよかったのは違いないけど無理矢理強引にされたのがチャラになる訳じゃないしもっとと言われてもそんなのお断りに決まってる。
「嫌だ、早く帰れっ!」
立ち上がったカカシは俺を見下ろしながら興味深そうに俺の顔を見て、違う見るだけじゃないこれは
「何する、気だっ」
カカシのその口を両手で塞いでいた。そのカカシの顔は明確に俺に迫っていてまるでキスをしようとしているかのように見えた。そしてその推測はきっと当たっている。少しずつわかってきた、カカシはゲイで、俺とそういう事をする魂胆だ。
口に押し当てていた手首を取られて両手とも掴まれた。キスをするつもりなのかと思ったらその掴んだ手を、指に舌をそわせて舐め始めた。
「っ……!?」
俺が驚いたのはそれ自体もそうだけど指を舐められた瞬間ビリビリとした何かが身体を伝って内臓がきゅうっと締め付けられるような感覚を覚えた事だった。その動揺が顔に出ていたのかカカシは指を舐めながら笑う。
正体のわからないビリビリに思わず息を止めたのは喉から何かが出そうになったから?
そうこうしているうちにいつの間にかまた顔が迫っていてまんまと唇が合わさり、合わさるだけでなくカカシの舌が唇を割って入ってきて俺は半ばパニックになった。他人の舌が自分の口の中に入っている異常事態に何をどうしたらいいのか分からず手首は掴まれているしカカシの膝が俺の股間をぐりぐりと押しているし何よりも口の中を動き回る舌が、俺の舌を絡め取りながら蹂躙していくことにも妙な気持ちよさを感じていつの間にか俺自身も舌を動かしてその動きに応えていた。
気持ちいい……徐々に思考力は失われていってその口の中の感覚を感じるだけで頭がいっぱいになっていく。
いつの間にか手を解放されていたことにもそのカカシの手が背中に回っていたことにも気が付かず身体がふわっと浮いた感覚があったと思ったらベッドのマットレスに背中が沈んでいた。
あれ、ちょっと待て、これこの状況やばい、んじゃ?
慣れた手つきで服を脱がすカカシの腕を掴んだ。
「これ以上っ、何も、するな……っ!!」
「大丈夫、痛くしないから」
「そういう問題じゃ、っんん!」
また唇を塞がれて舌が入ってくる。頭の中が蕩けていく感覚。気持ちいい、なんでキスがこんなに……。
また夢中になってしまっていた。そうしている間に俺の服はすっかりはだけられていてズボンもトランクスも脱ぎさられて次の魔の手が後ろの穴に迫っていた。
穴の周りをくにくにと押す感覚に我に返って暴れようとしたけど両手首が頭の上で固定されている。
いつの間に? なんだこれネクタイ!?
ぬるりとした液体を纏った指が中に入ってきて身を硬くした。うそだろ、まさか、男にやられる!?
中に入ってきた指はゆっくりと出入りを繰り返しながら内側を撫でていく。同時に中心も手で扱かれて妙な感覚が少しずつ大きくなっていく。なんだこの指、何してるんだ、なんなんだこの感覚……っ!
そこを撫でられるたびに強張っていた身体から力が抜けていく。力が抜けて動かしやすくなったのか指は明確にある一点を撫で続けていた。
前の刺激と相まってまた息が乱れる。嫌だ、もういやだ、どうしたらこれは終わるんだ、なんて言えばやめるんだ。
「や、めろ、カカシ……っ!」
「……いいね、もっと俺の名前呼んでよ。」
そっちに行くのか……それなら。
「どけ変態!!」
「あー……そうだね、変態かも。」
何を言えばこいつはその気が失せる? 考えろ、考えろ、……トライアンドエラー……、もうこれしかない。
「やめて下さいはたけ課長!」
指の動きが止まった。効果あったか……?
その顔を見てみたらカカシは唇を舐めた。
「……そういうのも燃えるね。」
また動き出した指は激しくそこを突く動きに変わっていた。変な感覚がじわじわと広がりながら突かれるたびに肩がびくと揺れる。荒れた息で逃していた声が漏れ始めた。
「っぁ、」
なんだ、今の声。
漏れ出た声に気を良くしたのかなんなのか、そこに入る指が2本に増えてまたしつこくそこばかり刺激し続ける。
「あっ、や、っやめ、っ!」
「気持ちいいでしょ?」
「っちが、あっ、っく、」
「もっと聞かせてよ」
少し低い声に身体がまたびりびりとする。こんなの、こんな感覚、知らない……っ!
「やめ、っ、て、あっ、……っ!」
「声、可愛いね」
熱いのがわかる、しつこくなぶられてあるそこを中心に、熱が広がっていくような。それにみとめたくないけど、今のこの感覚は……気持ちいい、だ。
もっとして欲しいと思いながら馬鹿が俺はと冷静さを取り戻そうとして、次々にやってくるその刺激に、気持ちよさに、抵抗ということをいつの間にかしなくなっていた。ガクつく膝が折れそうになって抱き止められて、何が何だかわからないうちに背中はベッドに沈んでいた。
その状況にヤバいと警笛が鳴って逃げようと腕に力を入れても肩を押されて簡単に倒される。ベッドの上に連れて来られたってことはつまり、最後までやるつもりで……っ!
「……もう、やめてくれ、やめて、ください……っ」
両手で顔を覆った。ゲイとアナルセックスが自分の初体験になるなんて絶対に嫌だ。行動が封じられるなら言葉で言うしかない。カケラでも良心があれば聞いてくれるんじゃないか。そんな期待は熱い塊が尻に押し付けられて無駄だったと知らしめられる。
「でも、さっきまで気持ちよくてアンアン言ってたじゃない。気持ちよくなることの何が嫌?」
「っひ」
ぬるっと入っては少し引いて、また奥に入っては引いて、それを繰り返しながらついに奥までそれが入って、ぎりと歯を噛み締める。
顔の上の手をどけようとする大きな手を、離すまいと抵抗していたら奥まで入ったままぐい、ぐい、と突くように押し込まれてまたじわりと変な感覚が背筋を走る。
「緊張してる? 力入れすぎると痛くなっちゃうよ。」
言葉だけ聞けば優しいけどやってる事と一緒に考えれば優しくもなんともない、自分がやりづらいってだけだ、絶対。
ぐい、ぐい、と奥を押されるたびに漏れそうになる声をぎりと食いしばって耐えながらしばらくその状態が続いて頭はその変な感覚がなんなのかを分かりはじめていた。でもそんなの認められない俺は顔を隠す手をそのままに声を我慢し続ける。身体が熱くなっていくのがわかる。こんなのどうしたらいい。もうこんなことになっている以上俺に出来るのは「早く終わらせる」事だけだった。
でもそんなこと言ってもどうなれば終わるのかがわからない。仮にこの行為をセックスとするのであればカカシが射精したら終わり、のはずだ。一般的には。
だったらこのいつまでも奥ばっかり突いてる状態じゃだめだ、動いてくれないと。……動かれたら俺は一体どうなる? でもそれしかない。
深く息を吐いて身体の力を抜こうとする。その間にも奥を突かれて出そうになる声を抑えるために息を止める。
「手どけてよ、緊張解いてあげるから。」
……こういう事はカカシの方が恐らく圧倒的に慣れている。早く終わらせるためなら。望んでなくても。
ゆっくりと手をどけるとすぐ前に顔が迫っていてまた唇を食むようにしながら舌を絡ませ合うキスが始まった。
「んっ……ん、」
その間も動きは止まらない、けどキスをしながら頭がぼーっとしてくる。もう声なんて気にせずに……その方が楽で、これも早く終わるんじゃないか。
不意に腰が引いて行きそのまま終わるのかと思ったら激しくまた奥を突かれて一瞬頭が真っ白になる。
何、なんだ今の感覚。
唇が離れて手が腰を掴み、激しい抽送に変わった。
「あっ! っあ、ぅあっ! ぁあっ!」
なんでこんな声が出るとか今何がどうなってるとかもう冷静に考えられない。こんなの気持ちいいはずないのに俺は確かに快感を感じていてそれが出入りするたびに声を上げていた。
目がチカチカするような脳を揺さぶるその快感にあがなえないまま、気がついた時にはそれはもう終わっていた。
呆然と布団の上に横になって、ふと天井が見えて意識が鮮明になっていく。
慌てて身を起こしたらカカシは上半身裸でズボンだけ履いている状態でベッドに背中を預けていた。
言いたいことは山ほどあるのに何から言ったらいいのかわからずに頭を掻きむしる。
「~~なんなんだ、っあんたは!!」
罵声を浴びせようと思ったのに普段そんなことを言わないから罵倒する語彙が見つからない。かろうじて言えたのはこの一言だった。
「この、変態っ!!」
カカシはいつもの調子でどこ吹く風とばかりに俺を見上げてヘラッと笑う。
「気持ちよかったでしょ?」
そんなわけあるか、と言いたかった。言いたかったけど強く否定することができない。気持ちよかったのは確かにそうだった。でも問題はそこじゃなくて無理矢理やられたことの方だ。
「自分のしたことを棚にあげてんじゃねえよ! 男同士なら強制わいせつにならないとでも思ってんのか、警察にあんたを突き出して」
「突き出して? 何をされましたって言うの? キスして蕩けちゃいました、気がついたらベッドの上でした、ネクタイで手を縛られました? そのとき抵抗してたっけ?」
「何回もやめろと俺は言った……!」
「もっとしてって顔しながらね、そんなのが強制でしたの証拠になるの? 例えば酒なり薬なりで意識が判然としない状態で、なら話は変わってくるけどそう言う影響がない状態でしょ。んで唯一証拠となりうるのはネクタイだけどこれ腕に繊維がつくような素材じゃないから立証は難しいんじゃないかな~。……で、気持ちよかったのか、そうでなかったのか、で言えば気持ちよかったんでしょ?」
畳みかけられてそこまで自信ありげに言われると訴えても証拠不十分になる可能性が高いような気がしてきた。被害者の証言だけで捕まえてもらうことなんてできるんだろうか。それも男同士で。
「考え込まないで教えてよ、気持ちよかった? 違った?」
本当のことなんて言いたくない、カカシの思い通りになるだけだ。けど沈黙は肯定と同じ。どう言えばいい考えろ……!
「犯罪の加害者にそんなこと話すわけがねえだろ……! どけ、帰れ! 俺は警察に行く。」
門前払いになるとしてもこの男にとって警察に相談されることは決していいことではないはずだ。今回は罪に問えなかったとしても2回目、3回目がもし起きたら警察だって動いてくれるはずだ。こんなふうに無理矢理家に上がろうとすることが多々あればストーカー関連の法律で対応できるかもしれない、だから相談すること自体は有効に違いない。
カカシから手渡された服を床に叩きつけてタンスから新しい服を取り出して着込む。それを見ながらカカシもシャツを着込んでいた。ショルダーバッグをかけて家から出るとカカシも一緒に出てくる。
……なんだ、偶然……? いや、帰れと言ったんだから帰るつもりがあるならさっさと帰ってる……よな。
ということはまさか。
「……おい、着いてくるとか言わねえだろうな。」
「罪に訴えるにしても被疑者が近くにいた方が話が早いでしょ?」
……ああ、もう、何を考えているのかさっぱりわからない……!!
着いてくるのをやめろと言ってもこいつそんな簡単に人の言うこと聞く奴でもない。
それに警察の名前を出せば普通少しは動揺するはずなのによくあることみたいな反応だった。……つまりカカシが言ったことはもしかしたら過去の経験に基づく確度の高い推測の可能性が……。
……いや、そんなのはもう置いておいて俺は警察に行く、交番じゃなくて警察署の方。スマホでマップ検索をしているとカカシがこっちだよと道を指差す。
……なんで知ってるんだよ……!
悪い予感しかしないまま、スマホのナビに従って警察署まで歩いた。

