約束-リライト版-
なんでこうなった
夜の闇の中電気がついている警察署の扉を開いて受付にポツンと座っていた男性に強目に言った。
「被害届、出したいんです! どうしたらいいですか!」
男性は少し驚いたような顔で「どんな被害ですか?」と俺の気持ちも知らないで呆れたように言う。
「ストーカー……住居侵入と強制わいせつです、どこでどう手続きしたらいいですか。」
「……ええと、あなたは男性……で合っていますか?」
「男です、頭おかしいゲイに無理やりされたんです、罪に問えますよね!?」
男性は俺の後ろを覗き込む。
「そちらの方は?」
カカシはいつもと変わらない調子で言った。
「あー、俺がその頭おかしいゲイです、罪を犯したので出頭しに来ました。」
男性は何が起きているのか整理しようとしているのか固まってしまった。
被害者と加害者が一緒に警察署に来るなんてそりゃ普通に考えればおかしい。けどカカシの頭がおかしいのであって俺は正常だ。俺まで変な目で見られるようなこと言うんじゃねえ……!!
「まず……お話を聞くところからなんですが、3階に取調室があるのと、3階の階段上がって左手の扉、そこが刑事課なので、刑事課にまず行ってください。」
「ありがとうございます」
言いながら階段を目指して大股歩きで歩くと当然のようにカカシも一緒についてくる。
3階の刑事課と書かれたプレートの扉をノックして入ると、4人の警察官なのかよくわからないけど男性がこっちを見た。
「受付の人からここに来るように言われました、被害届を出したいんです。」
部屋の中までカカシはついてきている。こいつほんとに何がしたいんだ。
「……後ろの方は……保護者? ですか?」
「違います、加害者です。」
「はい、俺加害者です。」
いちいちイライラさせるような事言いやがってノコノコ着いてきたからにはこの場で捕まえてもらわないと落ち着かない。
「えー……と、話を伺うので取調室に行きましょうか。」
俺とカカシは別の部屋にそれぞれ入った。ざまぁ見ろ、これであんたは終わりだ。
パソコンと一緒に向かいに座ったスーツ姿の男性に、覚えている限り事細かに全部話した。それをパソコンで記録しているらしい。
「なるほど、入るなという静止を振り切って家の中に入ってきた、これをまず住居侵入として訴えたい。次に同意していない性行為を強要された、これも訴えたい。……という趣旨で合ってるかな。」
「そうです、あいつ頭がおかしいんです……!!」
パソコンから顔を上げたその人は、無表情を崩さずに冷静に言う。
「まず住居侵入の方、罪としては制止をしたのに足を踏み入れた時点で成立します。ただし、その後の本のやり取りまで考えると、違法性は軽微と判断される可能性が高いですね。」
……つまりは、訴えること自体は出来る、ただし罪としては軽いとみなされる……ということか?
「いや、でもあいつはその後、」
「そう、本題はその後の方です。男性同士の場合は性行為までされた場合不同意性交等罪と不同意わいせつ罪に問える可能性が……あります。ただ、抱きしめられた時に抵抗していない、接吻の後ベッドに移動した時も抵抗していない、のがどう判断されるかですが。ただやめろなどの声は性行為中も上げているので、そこを重視する場合は十分に罪に問える要件は満たします。」
罪に問える、と聞いて安心する。このまま被害届を出せばカカシはこの場で捕まる。
「とはいえ、その加害者とする男性と被害者だと訴えるあなたが一緒に警察署を訪れているところ、加害者を名乗る男が自ら加害者だと言いながら笑っているところ、……を考慮すると、相当程度に親しい関係で、かつ二人の間でよくあるやり取りが認識の齟齬でたまたま今回被害者として名乗り出た、ようにも見えなくもない。まあ、わかりやすく言うとただの喧嘩の延長に見えるところもあるので……」
「……は? いや、言いましたよね俺はじめてだって、いつものやりとりなんてないです今日はじめて本性を見せて襲ってきたんです。」
「うん、罪として訴えること自体は受理できますが、じゃあ即逮捕、というふうにはいかないんですね。不同意だったことを裏付ける客観的な証拠があれば強いんですが、あなたの証言しか今証拠がない状態です。そうなると刑事責任に問うのはちょっと難しい。手首にネクタイを巻かれた跡もない、ネクタイの繊維が見つかったとしても、あなた自身のネクタイなのでそれを縛られた根拠とするには薄いんです。」
……おいおい、嘘だろ、それじゃ実質泣き寝入りって事なのか?
扉がコンコンとノックされて、男性は扉の向こうに行ってしまった。
警察に来たらなんとかしてもらえると思ったのに、被害に遭った事も伝わってるのに、証拠がないから罪に問えないなんて……あいつ、さては似たような事繰り返してきて簡単に罪に問えないって知ってて余裕かましてついて来たのか……!
男性が紙を手に戻って来た。……あっちでの事情聴取の結果だな、多分。
「……向こうの証言と照らし合わせても……やっぱりというか、被害届自体は受理できる、ただその後加害者を逮捕できるかどうかはまた別の話で、明確な結論は出せないんですが可能性として言えるのは、逮捕までするだけの材料は足りない……ですね。気持ちは十分わかります。けどキスに応えている、布団に移動する時に抵抗をしなかった……のはマイナス要素です。何よりも加害者側が非常に協力的であなたの証言とほとんど矛盾のない供述をしています。」
淡々と話すその口調にも苛立ち始めた。つまり訴えたところで意味がないと言いたいのか。
「現状を鑑みると、被害届は出すことは可能、逮捕できる可能性は低い、相手は協力的。つまり……被害届を出すというよりは相手方とよく話し合って、どこまでは問題なくてどこからが問題があったのかを整理する……ことをお勧めします、になりますね。……ですが、それでも被害届を出したいということであれば、受理します。これは法律上で警察が届出を受理しなければならないとされているからなので、届け出るか話し合いで解決するかの判断はお任せします。」
訴えたところで捕まる可能性が低いなら訴える意味がない……ただ警察の人の話もわからなくはない。被害者の話だけで逮捕できるなら大量の免罪事件が起きかねないわけで。俺には証拠は何もない。アパートに防犯カメラがついてるわけでもないし、罪として成立すると言われた住居侵入も逮捕できたとしても刑罰は軽くなる可能性が高い。
スマホで調べながら帰り道を歩く。
住居侵入……と不退去罪を合わせた場合一番重くて3年の懲役または10万以下の罰金。
不同意性行が立件できれば5年以下、だけどここは認められないかもしれない。……証拠がないから。
くそ、くそカカシが妙に慣れていたのも激雑務でくっついて来たのもあいつ最初から訴えたところでどうなるか分かってたに違いない……!
肩に手を置かれて息が止まる。
「で、被害届は出せた?」
いつもと同じ調子の声が妙に腹立つ。その手を振り払って家に帰るためにズンズンと歩いて行くのに後ろの足音はついてくる。……証拠。
スマホのボイスレコーダーをオンにしてズボンのポケットに入れた。また入ってくるつもりならきちんと訴えらられる材料を残す。何度も同じことを繰り返すほど俺は馬鹿じゃない!
と思ったら、カカシはアパートの入り口までで部屋にはついてこなかった。そっと振り返るとあの胡散臭い笑顔で手を振っている。
「おやすみ、ネコちゃん。またね。」
今度は大人しく帰るらしい、けどネコちゃん? なんだその呼び方。……やられる前にも確か言っていた、タチネコとか……何かの用語?
玄関の扉を開けて中に入るとどっと疲れが押し寄せる。もう今日はこのまま眠ってしまいたい……。
よたよたとベットまでどうにか歩いて、そのままぼふっとベッドにダイブした。
「いよいよだなー、辞令交付。」
「ちょっとドキドキするわよね。」
「ナルトはやっぱ営業じゃねえの? サクラは企画とかが向いてそうだな。」
「サスケは何でも出来るから全然想像つかねえなぁ」
「そうだな。まあ、どこになっても真剣に取り組むまでだ。」
社屋の前で待ち合わせた3人が、5階にある社長室に向かう。辞令は社長から直々に渡されるらしい。
案内の総務の女性が説明する。
「うずまきさん、うちはさん、春野さんの順に入って、まず3人で一礼、その後各自名前を呼ばれたら社長の前に出て辞令を受け取り、もう一度一礼、で、三人とも元の場所に戻ったら入った順に出てきてください。いいですか?」
3人は緊張した面持ちで「はい」と答える。
先頭のナルトが社長室の扉をノックした。
中から「どうぞ」と壮年男性の声が聞こえたところで、扉を開ける。
総務の女性に言われた通りに辞令を受け取ると、社長室を出てから三人でホッと一息ついた。
待っていた総務の女性がまた三人を別室に案内する。
「こちらで少しお待ちください。各部署の担当者が迎えにきますので。」
そこは小さな会議室……と言うよりミーティングルームのような場所だった。
ナルトが身を乗り出す。
「そんで? そんで? 2人とも配属先どうだった? 俺はやっぱ営業!」
辞令を見る余裕がなかった2人は、受け取った紙をまじまじと見つめる。
「私はサスケくんの予想通り、製品企画ね……」
俺は辞令を何度も読み直しては目を擦る。
「どうした? サスケ。目になんか入ったか?」
「……いや、こんな部署あったかなと思って……」
2人は俺の辞令を覗き込む。
『うちはサスケを開発保守及び監督部に配属する』
3人は顔を見合わせる。
「……どこだ? これ……」
「でも研修で行ってるはずよね……」
「こんな部署……あったか?」
記憶を辿っていくと、ナルトが「あーっ!」と声を上げた。
「確かさ、あの変な奴んとこ、こんな名前だった気がする!」
「変な奴?」
「ナルトその呼び方は失礼よ」
「ほら、1ヶ月ずっと会議室に缶詰にしたあれだよあれ!!」
「え? あの人!? でも部下なんかいらないって感じじゃなかった?」
俺は一人頭を抱える。
「マジかよ……最悪だ……」
そこに、コンコンとノックが鳴る。
慌てて座り直し、「どうぞ」と声をかけると、営業部長が入ってきた。
「うずまきナルトくん、期待してるからよろしく頼むよ。」
「はいっ!」
ナルトが辞令を手に営業部長と一緒に部屋から出ていく。
そのすぐ後に、サクラも製品企画部長と共に部屋を去った。
俺だけが一人部屋に残される。
(……またねって、そういう意味か……!! )
拳を握りしめながら待つ。
しかし、30分経ってもサスケの迎えは現れない。
たっぷり1時間経ったところで、ようやくノックが鳴った。
「……どうぞ」
扉から現れたのは、やはりカカシ。
「電話対応で遅れちゃってさ、ごめんね。……これからよろしく。」
サスケが辞令を持って立ち上がり、カカシの後に続く。
「画像加工の勉強をしたんだっけ? 俺正直画像関係好きじゃないからサスケに振るけど、実務レベルで使えるなら問題ないね?」
「……社内で下の名前で呼ばないでください。」
「ああ、悪い悪い、うちは君ね」
あのカカシの所属部署の小さい部屋の前に立つ。
部屋の横のプレートには確かに『開発保守及び監督部』と書かれている。
中に入ると、そこにはサスケのデスクとパソコンがすでに用意されていた。
机の上には、真新しい名刺が置いてある。
「あの、ところで……ここは結局、何をする部署なんですか?」
「ん? ん~、まあ、何でも屋さんってとこかな。俺一人の部署だったから部長とかはいないけど。一応案内しとくか。」
カカシは扉を開けて廊下に出ると、隣の部屋の鍵を開けて扉を開く。
「隣のここが、サーバールームね。鍵と暗証番号がないと入れない。ま、お前は当分入る必要はない部屋だ。」
そしてまたデスクのある部屋に戻る。
カカシが自分のデスクの後ろにある扉を開くと、そこには大きめの長椅子の上に枕とアイマスクが置いてある、ハンガーラックも置いてあり、3着ワイシャツが掛けられていた。2畳もないくらいの小さい部屋だった。
「ここは仮眠室。たまに終電逃した時にはここで寝ることもある。ま、使うのは俺だけだ。サス……うちはは普通に定時で帰っていいよ。」
仮眠室の扉を閉めると、また部屋の外に出て左の突き当たりにある総務部に入っていく。
「紙に印刷するときはここの印刷機を借りてる。ほとんど使わないけどね。一応、覚えといて。」
カカシは総務部長に会釈して総務部を出る。
「あとは……ああ、給湯室とトイレな。」
「それはわかります。給湯室はエレベーターの右奥でトイレはその隣ですよね。」
「そそ、ま、こんなとこかな。わかんないことあったら都度聞いてね。あ、名刺だけど、使う機会ほとんどないから引き出しにしまったままでいいよ。」
そして、また自部署に戻ってきた。

