運命なんて

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創設期,成人向,中編,現代パロ,完結済みモブ,エロ,シリアス,自慰

変な奴

 新宿二丁目のバーで隣に座った男はカクテルを注文すると即座に俺に話しかけ始めた。
 まあ、そういう場所だ。
 そいつに目を向けると随分この場に似つかわしくない爽やかな笑顔で今夜の出会いは運命だと語り始め、そういうのは別にいらないのだが、と思いながら相槌を打った。
「恋愛はしたことがないのか?」
「まあ、ここに居るぐらいだしな。」
「オレはあるぞ、中学の修学旅行で……一目惚れした! だが相手の名前も住む場所も知らん。実ることはないと思いつつ忘れられんくてな。」
 ……さっきこいつ、運命の出会いと言ったがまさか俺のことか? しかし思い当たるところがない。
「その修学旅行でどこに行ったんだ。」
「東京だ、色々見て回った!」
「……俺も修学旅行は東京だったな。空気が悪くてくしゃみが止まらなかった記憶がある。」
「では出身は地方か、今何歳だ?」
「ここでそういう細かい話はいい。」
「っと、すまん。其方が魅力的だったからつい、な。」
 魅力的?
 そいつの方を見ると後頭部をかきながら照れたように片目を瞑っている。
「名前ぐらいは教えてくれんか、オレは柱間だ。」
 ……よく喋る奴だ。俺なんかにこうも積極的に話しかけてくる奴は初めてだった。
 本名を言うべきなのか、偽名を名乗るべきか。ただ柱間とやらはどうも本名のようだ。偽名でこんな名前は思いつかないだろう。
「……マダラだ。」
 名前を聞いて柱間は目を輝かせた。
「そうか、マダラというのか。良い名だ!」
 肩に手を回されて思わず目を見開いた。距離が近すぎないか、この男。
「こういう場だから聞くが、マダラはタチネコどっちだ?」
 答えるのに数秒かかった。というのも、俺はここに通いながら誰かと、という経験は一切してこなかった。目つきが悪いせいなのか何なのかわからないが、そこまで踏み込んできたのはこの男が初めてだった。一応、動画とかは見るからどちらもいけるとは思う。
「……そういうのは決めていない。」
「そうか、オレはタチの方だ。なあ、マダラ。この後予定はないだろう?」
 だからこそ柱間のこの積極性にどうにも慣れず、ただこの年で初めてだとは思われたくなかった。
「ホテルならどこでも良い、好きにしろ。」
 そう言いながら、心臓が鼓動を早めていく。柱間がタチなら俺はネコの方……もちろん経験はないし動画で見た知識しかない。その動画で喘いでいた声が脳裏に蘇る。……気持ちいい、のだろうか? 本当に? はじめてでも?
 柱間はカクテルを飲み干して、勘定を済ませると俺の腕を引いた。
「近くにしよう」
 返事をできないまま通りに出て少し歩き、歓楽街の外れに入って行ってホテルに入る。
 女性経験もない。ホテルなんて入ったこともない。何でもないように装いながら、緊張が高まっていく。
 入った部屋はそんなに広くない、ただでかいベッドがあって、でかいテレビがある。
 いきなり脱いでおっ始めるわけではないだろう、浴室があるんだからまずはシャワーを浴びたかった。
「先にシャワー行ってくる。待ってろ。」
 期待と不安に揺れる中、身体を洗ってから一応後ろの孔も指を入れてみたが、男のそれが入るとは思えないくらい締め付けがきつい。今から本当にあの男……柱間と……するのか? 本当に良いのか? しかし期待している身体は正直だった。半勃ちしているそこを見て、決意を固めた。
 自信満々にタチだと言ったのだから、きっと下手ではないだろう。仮に下手だとしてもずっと運動部にいたから多少の痛みは我慢出来る。
 柱間にシャワーを明け渡してベッドの端に座る。裸でいるのが落ち着かず、そこにはタオルをかけた。待っているうちに緊張がどんどん高まってそれが萎えていく。
 着いてくるんじゃなかったとか返事をしなければよかったとか後悔が頭をよぎり始めたところで柱間はシャワーを終えて出てきた。その股間はすでにしっかりと勃っている。準備は万端と言わんばかりに。……多分慣れているんだろう。
 柱間は俺の姿を見ると明るく爽やかな顔で近づいてくる。
「なんぞ、もしや緊張しとるのか?」
 始めてしまえばそれもどうせバレるだろう、と俺は正直に白状した。
「……慣れてねぇんだ、緊張もする。」
「ほぉー……」
 柱間は俺の前に跪いてタオルを退け、それをパクッと口に入れた。ぬらりと唾液を絡ませた舌が敏感なポイントを的確に刺激する。思わず熱い息を吐きながら柱間の髪を掴んでいた。
 じゅぼ、じゅぼ、と音を立てながら頭を動かし始めて初めてのフェラチオにこんなにも気持ちいいものなのかと声が漏れる。その声を聞いたからなのか柱間は俺の顔を見上げながら動きを早めた。
「……っ、はしら、ま……っ、出るっ……!」
 柱間はそれを咥えたまま離さず、俺は柱間の口の中に精を放っていた。全体を舐めながらようやく口を離した柱間はどうやら出したものを飲み込んだらしい。
「良かったか?」
 そう言いながら立ち上がり、交代だと言わんばかりに目の前にそれを突きつけられる。意を決してそれに舌をそわせてから口内に入れたが、……デカい、見ただけでも大きいなとは思っていたがとても喉の奥まで届かない。入るだけ口に含んで裏筋や亀頭周りを舐めて口を窄めて頭を動かす。柱間の手が肩に置かれて息が荒くなるのが聞こえる。俺はその動きを早めた。
「マダラ、……そこまでで良い」
 肩を押されて口を離す。唾液でぬらぬらとしたそれはどうしようもなくエロく感じた。動画だけでは知ることのなかったその生々しさに息を飲む。
 柱間は前に垂れた長い髪をすくって後ろに流すと、手を引いてベッドの上に誘った。……俺が寝る側、か。
 胸がうるさいくらいにバクバクしていた。しかしさっき一回出したのにそれはまた期待なのか硬さを取り戻しつつある。覆い被さるように柱間は俺にキスをしようとして、思わず自分の口を手で覆っていた。
「……そうか、こういう関係ではキスはなし、か。」
 代わりと言わんばかりに頬や額にキスを落とし、耳をねっとりと舐めて首、鎖骨、乳首に唇を移していく。乳首は自分でも散々触って言わば「開発済み」だった。這う舌がそこに触れた途端肩がピクと動く。それに気がついた柱間は念入りに乳首を舐め転がし潰しもう一方を指で転がし始めた。
「……っ、……は、……ぁっ、」
 甘い刺激に身体が震える。気持ちいい……これは確かに、快感だ。柱間の舌で、指で気持ちよくなっている。この調子なら下も……多分大丈夫だろう。
 下半身に熱が集まっていくのがわかる。しつこい乳首の愛撫が止まると、柱間はローションを指に垂らしていよいよそこに手を伸ばした。
 いきなり2本指がぬるりと入ってきて息を飲む。違和感と異物感しかないその指はゆっくりと抜き差しを繰り返しながら前立腺の裏を撫で始めた。
 そこが気持ちいいと知識では知っていた。でも実際は少し違和感を覚える程度で指の存在感を忘れるほどの快感はやってこない。
 柱間は中に指を入れながら眉間に皺を寄せる俺の様子を見たのか、低い声で話しかけてきた。
「……挿れるのははじめてか?」
 本当のことを言うべきか考えているうちに柱間は確信を持ったらしい。
「……優しくするから安心してくれ。」
 つまり柱間はそれだけの経験がある……と思うと安心、のはずが何故か少し嫌な感じがした。初めての相手がヤリチンだと思うと抵抗を覚えるのは女子とて同じだろう。顔を見られたくなくて両腕で顔を覆った。中の指は優しくそこを撫で続ける。少しの違和感がだんだん別の感覚に変わっていく。指は撫でるだけでなくトントンと叩いたりグッと押したりしながら執拗にそこばかり刺激する。違和感しかなかったそこはすっかり慣れてその刺激だけを拾い、そしてその刺激は徐々に変質していく。
「……っ、……は、……っく、」
 顔が熱くなっていくのがわかる。それも見られたくなくて顔の上に載せた腕はどけなかった。柱間もどけようとはしなかった。
「……良くなってきたか……?」
 じんじんとしたそこを撫でられるだけで感じたことのない感覚が背中を走る。これは快感だと脳は受け止めていて、どうしたらいいのかわからず柱間の問いかけに頷いた。
「もっと良くなる……大丈夫だ。」
 指の角度が変わってそこを激しく突くような動きに変わり、いよいよ声が漏れ出始めた。
「あ、あっ、あ、あっ! そ、やっ……!」
「……嫌じゃなくて気持ちいい、だ。そうだろう……?」
 耳のすぐ横で脳に響く重低音が頭の感覚を狂わせる。
「きもち、いっ! あ、っあ! い、あっ! ……っ、で、る、っ……!」
 ビクンと腰が緊張する、びゅく、びゅく、と飛び出た白濁液は腹を汚していた。柱間は指を抜いて耳にキスを落としまた低い声で囁く。
「……挿れても良いか? マダラが欲しい……」
 俺が、欲しい、?
 ……いや、どうせ常套句なんだろうと腕の隙間からその顔をうかがったら ……短く息をしながら何かに耐えているような表情で、柱間は髪をかき上げていた。
 欲情……されている。
 見ても良かったのか見ない方が良かったのかもはやわからない。俺に欲情していて俺が欲しいと言っている柱間の望みが叶うなら叶えてやりたいと、そう感じていた。そしてその欲情をぶつけられたいとも。
 これが、セックス……なのか。
「……早く、しろよ」
「その腕を、どけてくれんか。マダラの顔が見たい。」
「…………」
 今の俺はどんな顔をしている。
 セックスがこんなにも己を曝け出すもたのだなんて思わなかった。動画の中で喘ぐ様子は何度も見てきたのに、いざ自分がその立場に立たされると羞恥心が頭を覆う。
 快感に震える情けない自分の顔を、少し話しただけの男に見せるなんて自尊心が許さない。
 それぐらいに思っていた以上の快感で上りつめ、しかし本番はここからだ。自分がどうにかなってしまわないか、この慣れた男ならそうさせられる、きっと。
「せっかくなんだ、楽しまないかマダラ。……その屈強な肉体でそんなに初々しい反応をされると……オレも我慢の限界だ。」
 熱くて硬い感触が尻にピタと感じる。浅い息遣いは俺のものだろうか、それとも柱間のものだろうか。グッと圧を感じたのは最初だけで、それはぬるんと簡単に中に入っていく。執拗に刺激されていたそこを抉るように中まで、奥まで入ってくる。それだけでも、ぞくぞくとした快感を脳が記憶する。
「っあ、……あ、……はし、」
 奥をこつんと小突かれて先ほどまでとは違う熱い感覚がじわりとした気持ちよさを覚える。
「……大丈夫そうだな。」
 何が、と尋ねる間も無く抽送が始まった。
「あっ! あ…っうっ! はっ…っは、っぁ、…ッ!」
 出入りするたびに耐え難い快感が身体をびりびりと伝って脳に届く。やばい、やばいだめだ、これはだめだ、即座に感じる危険信号はその行為が己の理性を壊すものだと伝えていたがもうどうにもあがなえない。
 早くなっていく腰の動きに合わせてやってくる快感に頭は侵食されていき声はどんどん高くなっていく。
「……は、マダラ……可愛いぞ……ッ」
 いつの間にか顔の上に置いていた腕は柱間の背中に回りその筋肉質な身体を引き寄せていた。
 理性を手放してされるがまま感じさせられる時間はひたすら長く感じた。
 柱間が名前を呼ぶ声、俺が喘ぐ声、グチュグチュと湿った音、肌がぶつかり合う音、どのくらい繰り返したかわからないが、気がつけば柱間のそれが中に入ったままで、柱間にきつく抱きしめられ、そして俺も抱きしめ返していた。中で感じる鼓動……ああ、そうか、柱間が出したのか……。
 気持ち、いい。良かった。抱きしめ合う肌の熱ささえも心地いい……。求められるようなセックスに、こころの空虚が満たされる。
「……マダラ、愛している……」
 その言葉に急激に意識が戻って冷静になった。
 柱間を抱きしめていた腕をどけて「終わったのなら抜け」とその肩を押すがぴくりともしない。
 この男は愛している、と言った? 少し話しただけだぞ。頭おかしいのか、それとも全員にそう言っているのか。どちらにしてもこいつはおかしい。
 そんな得体の知れない者に身体を許してしまった己を恥じた。
「おい、終わったのならいい加減どけ。」
 柱間が腕を緩める気配はない。力では叶わない。一体どうしたら、と考えていたら柱間が口を開いた。
「修学旅行で東京タワーに登った……展示室で出会ったその者にオレは一目惚れをした。同じく修学旅行生だった。」
「何の話だ……!」
「オレと同じく建築に関心を持っていたその者と意気投合してどうやって東京タワーを建てたのか語り合った、たったの十数分。名前も聞けなかった。」
 その話には俺も覚えがあった。修学旅行で東京タワーに上り、透明な床から構造を観察していたところに声をかけてきたどこかの修学旅行生。お前が今から作るとしたらどうする、まずは強度を保てるように設計が必要だ、安全対策は。タワーに夢中でそいつのことなんて見ちゃいなかった。まさかその時のあいつが。
「ずっと忘れられなかった、だからお前の横顔を見てオレは確信した。あの時見た横顔と同じ。ようやく名前を聞けた。そしてようやく……。」
「……望みが叶って良かったな。ただ俺はお前みたいに見境なくやりまくってる奴には興味ない。だからいい加減にそこをどけ。」
「……初恋は甘酸っぱい思い出のままの方が良かったのかも知れん。だが俺はもうマダラを知ってしまった。オレの人生は変わる。マダラが存在する世界が今ここにある。それをなかったことにはもう出来ない。」
「……何が言いたい。」
「マダラが初めてをオレにしたのも運命の導きだとオレは思っている。それと誤解があるようだがオレはマダラが思っているような経験はない。だからマダラ、一度話し合って、今後の関係を決めたい。マダラ、お前が好きだ。」
 ……十数分話しただけ、少し話しただけなのに運命だと? 非現実的なことばかりよく喋る。話し合ったところで柱間の望む関係になるつもりはないが、その話し合いに応じると言わなければこの腕を離さないだろう。
「話し合いも何もかもシャワー浴びて服着てからの話だ、分かったら抜いてどけ。」
 柱間は名残惜しそうに腕を緩めて上半身を上げた。ずるっと抜ける感覚。……ようやく終わった。自分も身を起こして柱間に「先にシャワー浴びて来い」と伝えてから頭を抱える。
 確かに記憶には残っている。東京タワーでの出会い。建築について語ったこと。そして俺は今東京スカイツリーの建設の末端で仕事をしている。一級建築士事務所を立ち上げて入札を潜り抜けて入り込んだ夢の新しい電波塔建設に。
 柱間がその現場のどこかにいてもおかしくはない。柱間も建設に強い関心を示していた。だからこそ少しの間語り合った。
 もしその現場で顔を合わせてしまう可能性があるのであれば穏便に話し合いを着地させたい。大小様々な企業が関わっている現場はなんだかんだ人付き合いが重要だ。
 俺が一方的に無視するわけにはいかないが、柱間にまた運命だと思わせるわけにもいかない。俺は柱間のことなど1ミリも好いてはいないのだから。
 そう考えていたら胸に違和感を覚えた。
 ……1ミリも好いていなければ今夜のことも応じることはなかっただろう。多少なりとも柱間のどこかしらを認めたから今俺はここにこうして座している。
 ただそれは恋愛感情のそれではない。空虚なこころを一時的に埋める分にはこいつでいいというだけだった。
 ……空虚。ずっとそうだった。女に関心が持てないまま、何となしに見てみたゲイビデオに身体が反応した。それで俺はノーマルじゃないと性自認を改めた。それからずっと空虚な気分を持て余していわゆるハッテンバに出入りするようになって、それでも相手は見つからないまま柱間だけが俺に声をかけ腕を引いた。
 空虚は埋められた、それは柱間だからではなくセックスによる快感によってだ。とはいえ柱間以外にこの空虚を埋める者は今のところいない。だからと言って恋仲にと言われても無理だ。俺が求めているのはセックスであって柱間ではない。他に誰かが現れたらそいつでも構わない。柱間に対する特別な感情は、持ち合わせていない。
「シャワー、空いたぞ」
 腰にタオルを巻いた柱間が出てくる。入れ替わりに浴室に入った。腹が白濁液で汚れているしあちこち舐められた気がする。念入りにシャワーを浴びて全身をきれいにし、脱衣所に置いてあった服をそのまま着込んだ。
 話し合いとやらはどうなるやら。
 部屋に戻ると、すでに勘定を済ませていたらしい。
「いくらだった。」
「いや、今夜はオレが出す。」
 借りは作りたくないが、今は一刻も早くこの場から立ち去りたかった。
「話し合いはどこでするんだ。」
「……またどこかのバーにでも入ろう。」
 まあ、居酒屋よりはその方が大っぴらに話せるだろう。 
「行きつけの店がある、行くぞ。」
 ホテルの部屋を出て、暗い路地を通り過ぎ、いわゆる「オカマバー」の扉を開いた。