運命なんて

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創設期,成人向,中編,現代パロ,完結済みモブ,エロ,シリアス,自慰

執着

 どっちでも、と言いかけて、「ネコだ」と口にした。スーツの男はにいっと笑う。
「都合がいい。あんたみたいながっしりした奴がネコなんて興奮するな。」
 これは誘いだ、あとはどこでするのか。ジントニックを飲み終わったら向かうのだろう。
「なあ、あんたが相手ならやってみたいシチュエーションがあるんだ。付き合ってくれるよな?」
 名前すら聞かれずに話が進んでいく。本来この場所はこういう所だ。柱間だけがおかしかっただけで。
「どんなシチュエーション?」
「路地裏で、レイプ風。悪くないだろ。」
 確かに、そういう動画も見た。柱間とトイレでしたのとあまり変わらないだろう。
「そうだな、興味はある。」
 俺の身体に興味を持ってヤリたいと言ってくる奴がいるだけいい。それだけで空虚は少し満たされる。ジントニックを飲み干した男はカウンターに金を置いてこっちだと俺を誘う。辿り着いた暗い路地裏、ここは界隈では名の知れた場所。つまり、そういうことをするのに打ってつけな。
 レイプ風とは言え普通に歩いてきてしまったが、その茶番はどのタイミングで始まるのだろうか。後ろをついてきたから背後から襲うのもなさそうだ、と思ったら男は振り向いてオレの首を手で締め始めた。
「……っ!」
 そのまま壁に押し付けられる。手は離れない。呼吸はかろうじて出来るが声は出せない。
「……声出すなよ」
 もう片方の手が下半身をまさぐる。カチャカチャとベルトが外される音、スラックスが地面に落ちた。
 ……くるし、い
 手が首から離れたかと思ったら髪を掴まれてそいつの股間に顔を押し付けられた。口を開けて舐め始めると頭を掴まれて前後に動かされる。喉に当たりえずきそうになるがその反応が良かったらしい、繰り返し喉の奥に押し付けられてじわりと生理的な涙が滲む。頭から手が離れたと思ったら強引に後ろを向かされて壁に手をついた。確かにこれはレイプ風だなとどこかで思いながら慣らされてもいない尻にいきなりそれがグイグイと入ってくる。引き攣って痛いが、痛いのは我慢できた。そんなセックスでもセックスだ。興奮した息遣いを感じたかと思ったらその手は再び首を締め始めた。
「……はっ、やっぱりこの方が締まっていい……!」
 人は見かけによらないものだ……あの細身のサラリーマンがこんな欲求を持っていたなんて。
 腰を振られても慣らされてないからなのか、ローションを使っていないからなのか、柱間の時のような快感はまるで感じない。けれどこの男が今俺に欲情してそれをぶつけている事実だけで俺には十分だった。どんな形であれ求められているのだから。空虚が、満ちていく。
 そんな最中に別の客が来たらしい。先にヤッている俺たちを見て引き下がるかと思ったらその足音は走り始めて後ろの男と衝突した。
 気道がスッと通るようになって空気を吸い込もうとする。
「ケホッ、ケホッ、……」
 胸いっぱいに空気を吸い込んで息を整えながら乱入してきた誰かの姿を探す。殴られたのか蹴られたのか吹き飛んだ男は「ヒッ」と言いながら後ずさって逃げて行った。
 その男が見つめていた先にあったのは見覚えのある長い黒髪の男。……何でここに?
「……助けたつもりか。」
「オレ以外とそういう関係になるのは辞めてくれと言ったはずだ。」
「それは無理だと断ったはずだ。」
「……なら聞くが、マダラはこんなのでも満足するのか。」
 おいおい、……声が震えてるぞ。
「少なくともいっときは満たされる。」
「……お前が自分を大切にする気がないのなら、もうマダラはオレのものにする……異論は認めん。」
「……それはレイプ願望とどう違うんだ?」
「……愛があるかないかだ。」
 服を整えて、埃を払った。
「ここじゃ何だ、場所変えるぞ。」

 いつか来たオカマバー、またボックス席に座らせてもらう。柱間はロックで俺はウィスキー。足を組んでソファに背中を預けているのも同じ。
 もう諦めたと思っていたが柱間は諦めていなかったらしい。何となくもしかしたらと探しにきたのだと。
 重い沈黙が続いて仕方なく話題を振る。
「俺は愛だの運命だのはどうでもいいし、お前の気持ちに応えることはできんぞ。」
「考えさせてくれ、で話はまだ終わっていなかったはずだ。何であんなところに行った。」
 柱間が埋めていた空虚を埋めるため、などと言ったら調子づくんだろう、どうせ。
「これだけ時間空けられてまだ会話の途中でした、は通用しねえだろ。視察の時もお前何も言わなかったじゃねえか。」
「他の男とヤるな、に対して無理だと、確かに聞いたがあんなセックスでもマダラはいいのか。」
「少なくとも愛してるだとか好きだとか囁かれるよりはマシだ。」
「……だがそんなのはオレが許さない。そんな事をするくらいならオレが相手になる。」
「……お前、……この先ずっと言わずにいられるのか。好きだとか、そういう事を。……無理だろ。」
「……マダラは何故そんなに……愛を拒むんだ。」
「……返してやることができねえからだ。お前にはそんなのは虚しいだけだろ。」
「……返ってこなくても構わない。あんな行動に出られるくらいなら。オレはもう決めた。マダラをもう離さないと。愛は伝わらなくてもいい。マダラをオレの監視下に置く。」
「ほお、次は何を始めるつもりだ。」
「オレと一緒に住め、マダラに断る権利はない。」
 どんな理屈で俺に権利がなくなるんだ。こいつの執着はやっぱりどこかおかしい。おかしいのに執着されている事を喜んでいる自分がいた。異常な事を言っているのに受け入れようと考えている自分がいた。柱間とのセックスが良かったからか、それとも柱間が俺のことしか頭にないからなのか。説明するのが難しい感情で柱間を見ていた。
「……断ると言ったらどうする。」
「一番最初にも言ったはずだ。どんなに醜く汚い手段を使ってでもマダラを手に入れると。」
 静かな話し合いなのに、柱間から圧を感じる。執着の圧、あのサラリーマンに身体を許したからだろうか。それともプレイ内容が気に障ったか。
 何にしても俺は柱間の想いには応えられない。でも柱間はそれでも良いと言っている。
 ……柱間と生活を共にする、か。
 嫌なわけではない。どちらかというとどうでもいい。それに加えて、以前とは違う変化があった。
 柱間の気持ちに俺は応えられない。ただ柱間がそれでも構わないと言うのなら一緒に過ごしても構わない。
 愛情というものを得たいと思い得られないと知り長いことそれから距離を置いてきた。だが柱間が異常なほど執着する理由が愛だというのなら、その愛とやらを観察してみてもいい、と思える。それだけだ。
 柱間が空虚を埋めるからではなく、柱間自身に関心があるわけでもなく、俺なんかにそんなにも執着するその行動原理が不可解で、何が柱間の言動や行動の原動力になっているのか、それに対して少し興味を惹かれただけだった。
「なら言ってみろ、その醜く汚い手段とやらを。」
 柱間はスマホを取り出して何やら操作をする。俺のスマホが振動した。……メッセージ?
 開いてみたらそこには音声ファイルが一つ添付されていた。……なるほど、俺にとって不利なデータを持っていると言いたいのか。
「……お前、自分も墓穴掘るだけだろこれは。」
「そこは編集してある。心配してくれたのか?」
「そんなんじゃねえよ、純粋な感想だ。で、これをばら撒かれたくなければ、と言いたいわけか。」
「それだけじゃないこれからマダラを抱くたびに記録に残すオレと一緒にいればいるほどマダラの痴態がオレのスマホに蓄積されていく。」
「……ほう、その俺の痴態をどのようにしてばら撒くと? お前にそんな事が出来るのか。仮にも愛しているのだろう。その相手の痴態を衆目に晒す事にお前は何の抵抗もないのか。」
 柱間がぐっと黙った。……幼稚な考えだな。そんな脅しに簡単に応じると思ったのか。
 だが、そんな幼稚な脅しに頼らざるを得ないほど俺が欲しいのか。それほどまでに柱間を執着させる愛とは何だ。
 まあ、そんな事はいい。柱間が俺の空虚を満たしたのは事実で、あいつの言葉を聞くだけなら聞いてやってもいいと思っているのも事実だった。
「脅しなんぞいらねえよ。お前と住む、だったか。やってみろ。どこに住んでいる?」
 柱間の目が見開く。意外だったらしい。それもそうだろう、最初の話し合いでは徹底して拒否し続けたのだから。
「……山手線沿線だ、便利はいい。……本当に良いのか。オレの家に一緒に。」
「自分で言い出したんだから責任持てよ。次の休みに荷物持って押しかけるから片付けておけ。」
 残っていたウイスキーをぐいっと飲んでテーブルにグラスを置く。カウンターの奥にいるママに声をかけて支払いをしようとしたら、何故かウインクされた。
「……?」
 呆けた顔の柱間をそのまま置いて店を出ると煌びやかな看板が並ぶ道を駅に向かって進む。
 途中で終わったが、レイプ男でこの空虚が少しも満たされなかったわけではない。ただ柱間が来たと頭が認めた瞬間、俺の頭はこいつは満たしてくれる男だと認識した。実際に柱間とのセックスには満たされたし、それがこれからも続くのなら柱間がなんて言おうが無視できる。愛が何だの言われる不快よりも空虚が満たされる方を選んだだけで、柱間のこと自体はどうでもいい。それが柱間にとって辛かろうが俺を自分のものにすると言ったのはあいつ自身だ。ただ、柱間の所有物にはなる気はない。俺への執着の原点を知りたいだけであり、空虚を満たすために利用するだけで。

 家に帰ってシャワーを浴びる。望んでついていったとはいえどこぞの誰かも分からんやつに突っ込まれた訳で病気など貰っては本末転倒だ。プレイ内容がアブノーマルでもゴムくらいは付けるだろうと当たり前のように思っていたが考えが甘かった。念のため後日医者で感染症の確認をして貰わないと安心できない。
 そうして身体をガシガシと洗いながら、そういえば柱間ともゴムなしでしていた事に気がついた。ヤリチンでゴムなしなんて地雷みたいなものなのに不思議と柱間は大丈夫だろうと感じていた。
 ……女も別の意味で面倒だが、男同士も面倒だ。
 鏡を見て、首を絞められたところが跡になっていない事を確認してホッとする。もうあの店はやめておこう、というか柱間と住むのなら行く必要もなくなるだろう。
 スマホの画面が光っていたのを見て手に取ると、柱間から。住所だけが書いてある。
 MAPアプリで位置を確認して、ずいぶん便利がいいところに住んでいるんだなと思いつつ物件名で検索した。上の方の階は1LDK、下の方はファミリー向けといったところか。27階建の20階、……ゼネコンで課長ならこういうところにも住めるんだろうな。とりあえず防音に関しては問題なさそうで安心しながらヤることしか考えていない自分に苦笑した。

 いつまで続くのかも分からない同居、服だけひと揃い用意して業者から借りたハイエースに突っ込み住所の場所を目指した。あれから柱間との連絡は何もない。喜び勇んでまた鬱陶しいメッセージを送ってくるかと思ったが、あれだけ馬鹿みたいに送りつけてきたくせに何を考えているんだか調子が狂う。
 着いたマンションの前にハイエースを横付けしてLINEを開いた。
『下に着いたから降りてこい。荷物運ぶのを手伝え。』
 少しして駆け足気味に柱間が出てくるのが見えた。自動ドアが開くのが遅いとばかりに足踏みをして開いたかと思ったら駆け寄ってくる。
「お前はこの塊とこれ持ってけ。俺はこっち持つ。」
「……少なすぎないか? 一緒に、その、住むのだろう?」
「足りなけりゃまた持ってくるだけだ。駐禁取られたくねえから早くしろ。」
 柱間は終始落ち着かない様子で、鍵を落としたりオートロックの文字盤の前であたふたしたり。
 何だこの反応は。「お前を俺のものにする」と言っておいて。
 緊張した面持ちの柱間が部屋の扉を開けるとさっさと中に入って荷物を適当なところに置いた。
「それ、ハンガーラック。組み立てておけ。車戻してくる。」
「お、おお。任せろ!」
 208号室、千手と書かれた表札。……千手柱間か。名刺で確認したはずなのに肩書ばかり見て苗字には目もくれなかったらしい。
 ハイエースに戻って業者に返しに行き、山手線に乗ってまた柱間のマンションのエントランスに戻ってきた。
 208に続いて呼び出しボタンを押すと自動ドアがスッと開く。エレベーターに乗りながら20階は結構時間がかかるものだなと思った。職場がほぼ同じ場所なんだから出勤するタイミングも同じになるんだろう。連れ立って歩く姿に誰かが不審に思わないだろうか。
 一緒に住む、とはそういう事かと改めて思った。
 柱間は玄関の戸を開いて待っていて、エレベーターから降りた俺に大きく手を振った。
 そんな事をせんでも部屋の場所は覚えたというのに。
 柱間に迎え入れられた部屋は既に片付けられていて、LDKの一角が俺の持ち物のスペースになっていた。