運命なんて

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創設期,成人向,中編,現代パロ,完結済みモブ,エロ,シリアス,自慰

辞めにしよう

 激しい腰の動きに間断なく喘ぎ声が上がる。あまり慣らされてもいないし前戯もほとんどなかったのに獲物を見るような柱間の目にぞわぞわと身体が震えて打ち付けられる腰に目から星が飛びそうな暴力的な快感で背を反らせた。腰を打ち付けるだけだった柱間は姿勢を変えて俺を抱きしめながら奥まで激しく突くのは辞めない。俺をその背中にしがみつき離すものかと言わんばかりに柱間を引き寄せた。
 本能と本能がぶつかり合うようなセックスは終わりが見えずひたすらに快感が後から後から頭を真っ白にしていってこころがどんどん満たされていく。
 ずっと空虚だった、性自認を改めてからずっと俺は他の奴らとは違うと思って自ら交友関係を避けていた。勇気を出して行ってみたハッテンバでも声をかけられることはなく酒ばかり進む日々、誰も俺のことなんて見ていないし興味もない。身体だけでもと思ったのにそれすらうまくいかなかった孤独の中で唯一話しかけてきた柱間。少し常識と外れているところはあるが身体は満たされたし常識は欠けているところがあるが今こうして俺しか見ていないこの目の奥にある執着は俺が求めていた空虚を埋めるものだった。
 でもそれは愛なんかではないし好きとも違う、誰かの視界に入りたかった、誰かのこころに残りたかった、それだけで愛も好きも求めていない。なのに執着だけは欲しがるなんて都合のいい話だ。柱間がどれだけ俺を愛していようが俺はそれに応えることはない。応えることはできない。それは俺が愛を知らないから。
「あっ! あ、ぁあっ! あ゛あ゛っ! はしっ、だ、おかしっ、ん゛っ! くるっ、やあ゛っ!!」
「イキそうか……マダラ、マダラッ!」
 一層激しくなった動きに身体中がビリビリとするような強い絶頂、頭が真っ白になって中がきゅううと締まるのがわかる、柱間のそれの形がくっきりと。それがぐっと更に奥にぐぽ、と入る。
「あ゛あ゛っ! い、ああああ゛っ!!」
 奥にじわりと広がる熱、離さない、これは俺のものだ、……俺の、もの?
 はぁっ、はぁっ、と息をしながら薄目を開けると柱間が俺の前髪を横に流している。その顔は何かをぐっと堪えていた。……多分、愛してると言いたいんだろう。好きだと。その想いには俺は応えないし応えられない。
 だから言うな。言ったらもう終わるんだぞ。わかってんだろ。
 その顔を見続けたくなくて背中に回した手を引き寄せて柱間の身体と密着する。馬鹿みたいに早い胸の鼓動が伝わってくる。そんだけ運動すりゃそうもなるだろうな。肌と肌のふれあいは心地良い。俺の空虚はそれだけで満たされる。一番近い場所に誰かの肌があるだけで。それだけでいい。
 だから柱間、余計なことは言うな。言わないでくれ。

 互いに呼吸が落ち着いてきてもずっとその体勢のまま抱きしめ合っていた。柱間が鼻水を啜る音がする。……泣いてんのかこいつ。……聞かなかったことにしよう。俺たちはセフレなんだろ。感極まってんじゃねえよ馬鹿。
 ずいぶん長い間そうしてから、柱間は身を起こした。いつもの笑顔で、「良かったか」と俺に聞く。
「――ああ、良かった。」
 そうか、とそれも抜いて、浴室に向かって行った。
 言わなかった。まだ続けられる。
 そのことに安心している俺がいた。
 そう、柱間とのセックスは気持ちいいし満たされる。だからこの関係を続ける。それだけの関係。思いや感情はない。あくまで、条件付きの。
 シャワーを交代して熱い水圧を浴びる。肌の温かさを忘れてしまいそうなほど熱いシャワー。柱間も同じ温度で浴びたのだろうか。
 タオルで水分を拭き取り部屋に戻ると、柱間は裸のままベッドに座っていた。まさか二回目とかあるのか。
 隣をポンポンと叩くからそこに腰を下ろした。
「すまん、たかが外れてつい激しくしてしまった。」
「煽ったのは俺だ、気にすることはない。」
「もし構わなければ次は優しくするから二回目、どうだ?」
 柱間の顔を見る。いつもの笑顔。しかし顔の筋肉が少し引き攣っている。
「……やめた方がいい。お前、口に出そうになっただろ。優しくしたら余計に出ちまうぞ。」
 柱間は笑うのをやめて、俯いた。
「やはりマダラには、……気持ちは必要ないか。」
「ああそうだ。身体だけでなくなるのなら、最初の話し合い通り。」
「正直に言うが、マダラの全てを手に入れたい。気持ちでは。マダラにオレを見て欲しい。マダラから欲しがられた時は天にも昇る気持ちになった。オレにもっと執着して欲しい。」
 覚えのある気持ち。見て欲しい、執着されたい、欲しがられたい……ただ、俺のそれと柱間のそれは違う。
「セックスに関しては……まあ、執着というか、柱間としたいとは思うが……俺の全て、は、無理だ。」
「……またフラれてしまったな。悪かった、変なことを言ってしまった。忘れてくれ! では帰り支度をするか。」
 明るく振る舞ってはいるが、こいつ。
「……聞かなかったことにしてやる。しかしお前は……絶倫というやつか? 長いなとは思っていたが、もうすぐ昼時か。」
「いや、何度もイキそうにはなったが堪えた! マダラと長く繋がっていたかったからな!」
 軽口を言いながら、服を着込んで部屋を後にしようと取っ手に手を伸ばした。その扉に、俺の顔のすぐ横に柱間の手が押し当てられる。
「……なんだ、やっぱりヤリ足りねえのか?」
 今振り返ってはいけない気がした。取っ手に力を入れてガチャリと扉が開く。柱間の手は引っ込んでいった。

 昼飯も一緒に食うものかと思っていたが、柱間は今日は家に帰ると去って行った。新宿駅のホームで電車を待ちながら、もやもやとした気持ちを抱えていた。柱間が昼飯を断ったからだろうか。それともあいつがギリギリのところで言わなかったからだろうか。
 電車に乗って自宅に向かう。
 このもやもやは何だ。何に対して。どうしたかった。
 わからないまま家に着いて、ベッドに背を預けた。
 柱間とのセックスは、やっぱり良かった。あの快感はなかなか得られないだろうと思う。だから今の関係を壊されるのは俺にとっても都合が悪かった。あいつが口にしてしまえば終わらせなければいけない。
 でも今日の様子だと、あいついつ口にしてもおかしくないんじゃないのか。自分でセフレと言っておきながら、やっぱり気持ちのないセックスは柱間にとっては耐え難いんじゃないのか。それならセックスなんかしない方があいつのためなんじゃないのか。どんな形であれ俺と繋がり続けたいって話だったはずだ
 スマホを手に取る。馬鹿みたいな通知は来ていない。トークルームを開いて文章を打った。
『なあ、もうセックスもやめにしないか。お前しんどいんだろ。俺にその気がないのに身体だけ繋がるなんて。もう、辞めようぜ。その方が楽だろ? 普通の友人としてなら、いつでも会ってやるから。』
 送信ボタンを押すかどうか少し悩んで、タップした。
 既読はすぐにはつかない。
 スマホをベッドに転がして、ぼんやり考える。
 親は厳しかった。親から愛情みたいなものを感じたことはあまりない。一人暮らしをするようになってから母には感謝を覚えたが、父も母も愛情を口にするタイプではなかった。だからオレは弟たちにはできる限り甘やかして、それを愛情のつもりだと思っていた。
 本をたくさん読むようになってからは、本の中で描かれる愛や恋が理解できない自分に気がついた。理解しようと本を読めば読むほどわからなくなる。弟たちを大切に思っていた。でもそれは恋ではない。もしかしたら愛でもなかったのかもしれない。そんな折に性自認が変わって、男女の愛が理解できないのはそのせいかと自分で納得した。
 好きな人なんてできたこともない。愛することも愛されることもよくわからないままこの歳まで生きてきた。
 しかし柱間は真逆の人間だ。ずっと俺を好きで居続けてきた。理解は出来ないが、知識としてはわかる。
 そんな認識の俺が柱間の気持ちに応えてやることはやっぱり出来ない。例えどれだけ愛されようが、俺は誰かを愛するということはできない。愛というものを理解できない。
 だから柱間には悪いが、多分もう身体は重ねないほうがいい。俺の空虚を満たす道具のように人を扱いたくもない。
 スマホが振動した。手にとってロックを解除する。開いたままの柱間とのトークルームに、『少し考えさせてくれ』とだけ書かれていた。
 あいつも気持ちの整理が必要なんだろう。今はそっとしておくか。

 それから連絡がないまま、一日、二日、一週間と時間が経って、あいつはきっと俺のことを諦めたんだろう、と結論づけることにした。
 セックスの相手がいなくなるわけで、またしばらくしたらハッテンバに通おうと考えていたところ、資材の工場に現物を見に行く事になったその相方がよりにもよって柱間だった。
 ビジネスライクな挨拶をして運転席に座り工場がある茨城県まで車を走らせる中、会話は一言もない。
 気まずい気持ちはわからなくもないし、俺から何か言うのも立場上遠慮したい。展望台の設計は順調に進んでいて計画通りに完成できそうな目処が立ったところで構造そのものというよりはどちらかというと内装にあたる部分の素材を何にするかで意見が割れた。それで直接見て判断しよう、となったわけだが。
 つまるところ従来あったものにするか、新しく開発された新素材を取り入れるか、という問題だ。その視察に何で柱間がついてくるのかはわからないが、下請けの管理がどうとか言っていたからその関係なんだろう。と言ってもオレの直接のクライアントは別にいて、その上の更に上が柱間の会社だ。だからついてくるのであれば普通は直請けのクライアントなんだが。
 気まずいドライブを続けてようやく辿り着いた工場で、詳しい資料を見ながら色々と工場長に確認をする。柱間はその間も見守っているだけで口は挟んでこない。
 どうやら耐久性は合格ラインをしっかり超えるようだ。加工も基本的にはこの工場で行われる。製造工程についても説明を受けて問題なさそうに見えた。
「しかし、ちょっと熱の影響が気になるな。」
 ずっと黙っていた柱間が口を開いた。
「……と言うと?」
「熱そのものの耐久性はあるが、蓄熱性があるように見える。耐熱テストはどんな内容を?」
 柱間が工場長と直接やり始めて、その素材を触ってみた。太陽熱で確かに温まっている。もし真夏の熱線を浴び続けたら高温になるかもしれない。となると、これは使えない。まあ、元々屋内用に作られたものだ。用途に合わないだけだ。
 やはり仕様書だけでなく現物を見て触らないとわからないものだ。しかし柱間がそこまで知識があるとは思っていなかった。何せゼネコンの人間だ、直接物作りをしているわけじゃない。
「よく気付きましたね。」
「ああ、大学の専攻の関係で。」
「ゼネコンにいるのが勿体無いくらいです。」
「いや、意外と物知りは多い。でないと下請けに適当やられてしまうからな。」
「なるほど、確かに。」
「しょうもない工事に大金ふっかけてきたりな。責任ある立場だからこそ見るところは見る。ただ下請けに仕事を振ってるだけと思われがちだがの。」
 ……普通のビジネスの会話。だけ。もう柱間は割り切った、ということなんだろう。俺にあれだけの執着を見せていたが、もう諦めた。
 今のこの状態が健全で、あの数日間は間違いだった。
 また無言が続いたまま、車は東京に帰ってきた。仔細報告をして、従来の素材で行こう、と方針も決まった。
 しかしこころはまた空虚に戻ろうとしていた。セックスをしなくなったから。そして柱間にはもうその気はない。ならまたハッテンバに足を向けるか。……こんな俺を、抱きたいと思う奴が現れるまで。
 久々に新宿で降りて二丁目に向かう。何となく、柱間と出会った店は避けた。向かったのは、ある意味悪名高い店。本当にヤリ目的の奴しか訪れない、その日の性欲を満たせれば良い、というわりと粗暴な者が多いと噂には聞いていた。ここなら可能性はある。
 扉を開くとカランと音が鳴る。まだ客は少なかった。マスターにメニューを見せてもらい、結局いつものウィスキーを頼む。誰かが声をかけてくれるだろうか。この空虚は満たされるだろうか。
 ちびちびとウィスキーを飲みながらカウンターに座っていたら、客がひとり、ふたりと入ってくる。でも声はかからない。待つのは慣れている。閉店までだって待てる。誰でもいい、この空虚を満たしてくれたら。
 カラン、と音がしてまた誰かが入ってくる。そいつは俺の隣に座って、ジントニックを注文した。そして俺に声をかける。
「タチ? ネコ? 両刀?」
 スーツ姿の、細身の男だった。