運命なんて
世界
柱間から言い出したとはいえこの家では俺は居候の身だ。いくらか渡すか家事の何かを担当するか。
柱間はやっぱり落ち着かない様子のまま時々チラッと俺の顔を見ては挙動不審になっている。まさかこんなに簡単に俺が家に来るとは思っていなかったのだろう。
「おい、家事の分担とか決めるぞ。」
「お、おお、そうだな……とはいえ、ロボット掃除機で掃除はほとんど必要ないし洗濯もドラム式だから畳むだけだ。料理ぐらいしか……。」
「なら今日から俺が作ってやる。冷蔵庫開けるぞ。」
冷蔵庫の中身で食生活は何となくわかる。しかし柱間の家の冷蔵庫はでかい割にほとんど何も入ってなかった。
「……お前普段何食ってんだ?」
「朝は食わんの……昼はランチに行くし、夜はコンビニで済ませておるから……」
スーパーに行くところからか……全く。
「一番近所のスーパーは?」
「ここに越してきてからスーパーは行ったことがない」
思わずため息をついた。
MAPアプリで検索したら一応徒歩圏内に一件スーパーがある。ファミリー層向けの部屋があるぐらいだからそりゃあスーパーもあるだろう。
「買い物行くぞ。」
「あ、マダラ、その、待ってくれ」
自分の家にいるくせに緊張しっぱなしの柱間は深呼吸をして改めて向かい合った。
「抱きしめてもいいか。」
「…………。」
恋人ごっこでもしたいのだろうか。ただ住めと言われたとはいえこれから邪魔する立場だ。一応挨拶がわりにしておいてやろう。
一歩近寄って手を広げたら違うとばかりにその手首を握る。そのまま柱間は一歩前に出て俺の体を包み込む。
「……言ってもいいという話だったな?」
抱きしめられながら何のことだと考えて、好きとか愛してるの話か、と思い出した。
「答えてはやらんが好きなだけ言え。」
「……マダラ……好きだ、愛している……!」
感極まったように言われてもやはりピンとこない。好きとは、愛とは、柱間にとって何だ。そんなに大事なもんなのか。
その抱擁は長く続いた。中学の時から想い続けた相手が腕の中にいるのだから、理解は出来ないが知識としては分からなくはない。
たっぷり抱きしめて満足したのかと思ったらズボンの中におさまっているものが主張していた。
「……そのままスーパー行く気か?」
「スーパーなんてどうでもいい、マダラを抱きたい。今すぐに……。」
……晩飯、どうするつもりだよ、こいつ。
セミダブルベッドに腰を下ろすと柱間はすぐに俺の服を脱がしにかかる。乳首をいきなり舐められてびくと肩が揺れた。柱間は入念に舐めたり転がしたり押し付けたりしながら乳首ばかり弄り、自然と下の方も芯を持ち始める。
「っは、……好きなのか、っぁ、そこっ、弄るのが、」
「……マダラが愛しい反応をするからだ」
ぐっと舌で押しつぶされて「んっ!」と目を瞑った。
ちゅ、ちゅく、と音を出しながらもう片方の乳首に唇を移してまたねちっこい愛撫。そうしながら手は下着の上からそれを撫でたり湿った先端を優しく爪で引っ掻いて刺激し始める。
「あ、……う、っぁ、……はぁっ」
散々なぶられてじんじんとする乳首は触れられただけで声が漏れた。柱間の手は下着を下ろしてしっかり勃ったそれを扱き始めて、乳首から唇を離した柱間の頭が股間のそれをれろぉっと舐めて口に含む。熱い口内に蠢く舌は、その感覚に夢中になってしまうくらい気持ちいい。しばらく間が空いたことも相まって、どんどん高みに上っていく。
「はぁっ、きもち、いい……っ、っあ……」
思わず前後に動く柱間の頭を掴んでしまう。イキそうになっては口を止められて、何度もそれを繰り返して、もういい加減に、と思ったらそれから口が離れていった。
「なん……」
「オレのも、マダラ……」
目の前に出されたそれに思わず舌を這わせる。挿れられたい、これを。大きい亀頭に負けない太さ。欲しい、早く。口に含んで舌を動かしながらじゅぼ、じゅぼ、と音を立てて頭を動かす。この形、硬さ、この後これが入ってくると思うと堪らない。夢中になってしゃぶっていると額を押された。
口を離す間際に先端にキスをする。見上げれば欲情した柱間の顔が余裕なさげに見下ろしている。ああ……満たされる。
ベッドの上に場所を移してローションを纏った指がぬるりと入ってきた。抜き差ししながらあそこをぐり、ぐり、と刺激されて声が漏れる。
「っあ、っ、きもち、いっ、んっ、はぁっ」
じんじんとする。乳首も、それも、中も、刺激を求めて。額に落ちるキス、頬に、少し間を置いて耳に、首に舌が這う。再び乳首をちゅっと吸われてビクッと跳ねる。しかし上り詰める前に指は抜かれて、それがあてがわれた。あてがわれただけで入ってこない。柱間の様子を伺うが、息を荒くしながら髪をかき上げてじぃっと俺を見ている。
「はやく、挿れろ……っ」
「……どれだけオレが耐えてきたか、っ少しは味わえ、マダラ……」
「なんの、……話を」
「マダラが好きだ、好きだっ……、愛しているのに、こんなにも……伝えられない、苦しさを、胸から、溢れる気持ちを……お前も見せろ。」
「……あ? 溢れ……ああ、そういう……。……お前とセックスがしたくて、したくて、……俺の頭は、爆発しそうなのに何の連絡もっ、なくなってどれだけ……っ!
っぁあああ!!」
ずちゅんっ! と奥まで貫かれて背が弓形になる。待ち侘びた感覚、待ち侘びた快感、柱間でないと得られない……。
そのまま激しい抽送が始まりすぐに達してしまいそうになるのを根本をギュッと掴まれて出させて貰えない。快感に上り詰めながらイけないまま次々と暴力的な快感が中から全身に広がって、全身の体温が上がっていく。
「イカせっぁああ! ひあっ、あ゛っ! おか、しくっ、な、っあ゛あ゛!!」
「マダラ言えっ、俺を、好きだとっ……!」
「む、りっ、あ゛っ! ちがっ、セックス、だけっ、ぁああっ!!」
「……っ、く、こんなに……っすき、なの、に……っ!」
セックス中なら、口滑らすと思ったのか。応えられんと、何度も言っているのに……。
強すぎる快感とイカせて貰えないことで頭がどうにかなりそうになりながら懇願し続けた。でも柱間は握る手を離そうとせず、どんどん身体が熱くなってくる。じわりと額に汗が滲みながら、柱間のそれが最奥にぐちゅんっと入った瞬間、身体中が痺れて跳ねる程の衝撃と快感で真っ白だった頭が更に飛んで、気持ちいい以外の何事も考えられなくなった。
「あ゛、……あ、」
ビクビクと痙攣し続ける身体、ようやく柱間が手を離したが何も出ない。こんなに……狂いそうなほどに、意識が飛びそうなほどに、快感で頭が埋め尽くされているのに。
ギチギチに柱間のものを締め付けながら、ドライオーガズムという言葉が頭をよぎった。身体はビクビクと痙攣したまま、あまりに異次元な絶頂を感じることしかできない。言葉にならない声が出るのも止められないまま、意識が飛びそうになる。
「……マダラ、……凄いな……中が」
息を乱しながら言う柱間の言葉を脳のどこかが聞いていた。
「愛してる……好きだ、……マダラ、言い続けるぞ……」
その状態のまま柱間が律動を再開する。訳がわからない状態のまま喉を震わせて、また最奥にぐぽっと入る。ドクン、ドクンと鼓動しているのを感じながら、ついに意識が遠のいた。
気がついたら裸のまま、柱間が寄り添って隣に寝ている。
……何だこの状況。
でも心身が満ち溢れている。
セックス中に……気を失った?
柱間の声だけが耳について残っている。
やっぱり、こいつセフレとか言いながら、我慢してたんじゃねえか。
そうまでして、俺と繋がっていたかったのか。
……愛しているから?
愛……やっぱり、わかんねえな……。
そんなにも、柱間を突き動かすような強いもの。
……今はそれはいい。
こうして隣り合って寝ているのが……心地良い。
柱間の手を探して、見つけた厚い手のひらを握りしめて、またまどろんだ。
……満たされる……。
ダイニングテーブルに置かれたコンビニ弁当。結局スーパーには行かなかった。慣れた手つきで電子レンジに入れてテーブルに戻ってくる柱間。
「……空虚?」
「ああ、お前とのセックスは俺の空虚を満たす。」
「詳しく教えてくれ。」
「……いや、言葉通りだ。」
「それはいつからだ?」
「いつだったか……どうでもいいだろう。」
「……だからセックスは受け入れるのか。」
「ああ、誰でもいいっちゃいいが、お前が一番良い。」
サンプル数が少なすぎるが、わざわざ増やす必要もないだろう、柱間で満足しているんだから。
「……空虚か、ふむ……。」
「そんなに気になるか。」
「マダラを理解したいんぞ」
「ほーぅ。そろそろ温まるぞ」
「あ、そうだな!」
柱間がガタンと椅子を動かして電子レンジに向かったらちょうど電子音が鳴った。中身を取り出してまたダイニングテーブルに戻ってくる。
「空虚の他には何かないのか。」
「他? ……ないな。」
「空虚が満ちるとどう変わる?」
「満ちたなぁ、……だけだ。変わるもんは特にない。」
「だが満ちている方がいいのだろう。」
「まあ、そりゃあそうだ。」
「それなら毎日オレがマダラの空虚を満たす。」
「弁当冷めるぞ。」
「おお、そうだった。」
割り箸を割って手を合わせてから弁当をつつく。俺はざるそばだから水でほぐしてわさびを入れてずず、と食べ始めた。
俺からしたら柱間の愛は理解し難いが、柱間にとっては俺の空虚がそうらしい。
ただ一から十まで全部説明するのは流石に控えた。出会ったばかりの奴に話す内容ではない。
「月曜からどうすんだ。一緒に出勤するのは俺は嫌だぞ。」
「俺は構わんがマダラが嫌なら配慮しよう、電車を一本ずらして乗るか?」
「朝の山手線なんて数分で次の電車が来るだろう、意味あんのかそれ。」
「それもそうだの、なら10分置いて家を出るのはどうだ。ああ、合鍵を渡しておかんとな。」
立ち上がろうとする柱間を制した。
「飯、食い終わってからにしろ。行儀が悪い。」
「ああ、すまん。」
ずっと一人暮らしだったし友人と呼べるようなやつもいなかった、というよりも俺からも深い関係になるのを避けてきた。
誰かと一緒に暮らすなんて今考えるとよくもそんな決断をしたものだ。
ただ思っていたより同居というのも悪くない気がする。
それは相手が柱間だからなのか、他の誰かでも同じなのかはわからない。
もしかしたらセックスももっと相性のいい男がいるのかもしれないが、あのカウンターに座り続けてようやく声がかけてきたのが柱間だったのだから、他の誰かを探そうにも無理だろう。
愛だの好きだのうるさいのはさておき、柱間とのセックスには満足しているし心身ともに満たされる。
空虚はこころだけだと思っていたがずっと相手を探していたのだから身体も誰かに満たされたい欲求が多分あったんだろう。
柱間はその両方を満たしてくれるのだからこの同居はメリットがある。
「ところで、唇を許さないのはどんな理由があるんぞ。マダラの話だと愛とかは関係なさそうだが。」
最初に思わず手で制した唇。確かに俺はどうして唇を守ろうとしたのだろうか。何か意図があった訳でなく、反射的に手が動いていた。普通に考えたら「本当に愛する人以外には明け渡さない」になるが俺はそもそも誰も愛することが出来ない。愛しているとしたら弟たちだが、その愛とこの愛は別だ。と思う。
黙り込んだ俺の顔を柱間が覗き込む。
「試しにしてみないか、キス。」
「……飯食い終わって歯磨いてからにしろ。」
いや待て、この言い方だとしても良いになってしまう。反射的に守ったくらいだから何か理由があるはずだ。
「……口にはキスをするな。その一線は守れ。」
「そこはこだわるのか? マダラは難しいの……。」
唐揚げを口に入れてもぐもぐと食べながら、弁当に落としていた視線がまた俺の顔に戻る。
「試しに、一度だけで良い。してみないか。嫌なら理由を教えてくれ。」
「唐揚げ食いながら喋るな、お前どんな躾受けてきたんだ。」
「躾? オレの親はオレを躾けるのを諦めた!」
……ガキの頃から常識なかったのか、こいつ。
まあ、柱間らしいと言えばらしい。
それでも就職先は親に丸め込まれてゼネコンに決めてる訳で、親が全く機能していなかったわけでもなさそうだ。
「お前の実家はどんな風だった?」
「どうって、普通だと思うが。」
「お前の普通は信用できねえな。」
「む、どういう意味ぞ。」
「お前は常識に欠けていると言っているんだ。」
「……それは……マダラの前だけだ。でなければ課長になっとらん。」
確かに少ししか接していないが、柱間は仕事は普通にできる人間のようだった。
俺の前でだけ常識が欠ける、のは……愛……がそうさせているのか?
「しかしよくも中学の修学旅行の十数分を今まで引きずったものだな。」
「……それだけオレにとっては重大な出来事だったんぞ。」
「俺のどこにそんなに惚れたんだ?」
弁当を食い終わって柱間が箸を置く。
「横顔が美しいと思った。同じ興味を持っていたのも運命を感じた。」
美しい、と聞いて柱間の目を見る。ごく真剣な目。……美しい、俺が?
「お前はその頃からもう男が好きだったのか?」
「いや、マダラに出会ってからだ。」
美しい、などという言葉はオレとは縁がないものだと思っていたが、柱間の目にはそう映っていた。誰も近寄ってこなかった俺には外見的にも性的な魅力も何もないんだろうと思ってきたが、柱間だけは違っていた。
恋は盲目と言うが、柱間は恋をする前から俺の横顔を美しいと認識していた。
柱間と話していると、オレの認知していた世界が実はそうではなかったと、思わざるを得なくなる。
では正しい世界とは何だ。
「ゴミ、片付けるぞ。」
レジ袋に空になった弁当箱と割り箸を突っ込んで、ゴミ箱に捨てた。
