異種属性愛はダメですか

58,540文字約117分87 View

2026年7月27日カカサス,成人向,長編,ケモノパロ,原作軸,完結済み,小説獣人化,異種姦,エロ,オリジナル設定有,性癖強め

選択

 部屋の中に入ったふたりは暗部に勧められて腰を下ろした。
 窓辺に腰掛けて腕を組んだネコの暗部は仮面の向こうの表情がわからないまま、少し声の調子を下げてふたりに話しかける。
「何故火影様直属の暗部があなた達の前に姿を現したのか、心当たりがあるなら先に聞いておきたい。」
 俺たちは里が隠し続けてきたことを知っている、それどころかもっと知ろうと本を買い地図を広げていた。歌に釣られて出てきたままの部屋にはその本が散らばっている。隠し立ては無駄だ。
「里にとって都合の悪いことを知ったから、か?」
 カカシはその暗部を観察しながら「何を」とは言わずに曖昧に答えた。黒い尻尾と耳はサスケによく似ている。しかしその尻尾も、耳もすんと動かず火影様の直属なだけあってそれなりの実力者と見た。
「それが回答でいいのであれば次の質問をします。あなた達は今後も里の掟に従い忠誠を誓う事ができますか。」
 ……これは、思想調査だ。
 この場ではイエスと答えるのが正解、だけどその代わりに何が課されるのかわからない。
 ノーと答えれば「始末」の対象になるかもしれない。
 答えを迷った1秒で、その暗部はカカシに向けて静止するように手のひらを向けた。
「迷っている、あるいは否、どちらにしても堂々と"出来る“とは言えない。よく分かりました。さて……。」
 暗部のネコは仮面に手を添える。その面を上にずらして露わになったその目は赤かった。
「少し失礼。」
 ふたり揃ってその赤い眼の幻術の中に落ちる。イタチのときのようだった。
「誰が見聞きしているかわからないので幻術を使わせてもらいます。あなた達は"思想犯"としてこの後里に連れ帰り裁きを受けなければならない。……が、俺としてはうちはの同胞にそんな乱暴なことはしたくない。」
 どこからか聞こえてくる声、ふたりだけのどこかが歪んだ部屋の中。"思想犯"、そして"裁き"という言葉に緊張する。
「そこで選択肢を設けます。ひとつ、愛など忘れて忍として生き続けてもらう。ツーマンセルも解散、カカシさんには任務から外れてもらい、うちはサスケには別の上忍と行動してもらう。ひとつ、里に強制送還ののち裁きと矯正プログラムを受け、それでも愛を捨てないのであれば忍の登録を抹消して里の中で種蒔きとなってもらう代わりにふたりでの生活は許容する。ひとつ、俺を殺して抜け忍となり、ふたりでの生活を守りながら一生追われる身となる。……最後のひとつ、任務続行不可能な傷病を負い俺の判断で忍の登録を抹消、以後里との関わりを断つ。」
 残酷な選択肢ばかりの中、最後のひとつだけは俺たちに少しだけ配慮されているように感じた。でも任務続行不可能な傷病……腕や脚の一本でも差し出せばいいのだろうか。それとももっと重いペナルティなんだろうか。
 ……何にしても、里に戻る選択肢はなくなった。里は俺たちを認めるつもりがない。許容されたとしても、種蒔きとして扱われる。そして里の中では、愛し合うこと……セックスも、声を出せないという制約がある。
 カカシがサスケの手を握る。
「……任務続行不可能な傷病とはどういうものですか。」
 サスケもカカシの手を握った。
「カカシさん、あなたには左眼の写輪眼を。うちはサスケ、あなたは印が組めないように左腕を。……それでもこの選択肢を選びますか?」
 忍でなくなるのなら、この左眼はなくたって構わない。でもサスケは腕を……利き腕を、失うことになる。
 カカシはサスケを見た。サスケは、カカシの顔を見上げて、笑った。その、この状況の中で上がった口角を見て、カカシは覚悟を決めた。
「……選びます。身体の一部なんて失っても構いません。愛する人を失う痛みと比べたら……いや、比較さえ出来ない。」
「カカシと同じだ。カカシを失うくらいなら、左腕を失ってもどうってことはない。」
 どこにいるのかわからない声の主に向かって声を張り上げた。数秒の沈黙。
「それは今後里の情報が得られなくなる、という事です。うちは一族の事件の真相も、ダンゾウがどうなったのかも知ることは出来ません。あなた達はうちはの事件の犯人の情報収集の任にあたっていたはず。うちはサスケ、あなたの強い希望で。」
「もちろん許せない。あんたの言う通り、あの事件の真相を追って兄さんを探して、そして話をした。ダンゾウとかいう奴が簡単には殺せないこともわかった。俺の力で出来るのはここまでだ。これ以上はもう、俺の力じゃ及ばないとわかってる。……だからいい、ダンゾウのことは……あんた達に、託す。」
 腕一本差し出せばいいのなら里と戦う必要はない。里に縛られることもない。カカシが一緒にいる。だから腕くらい、くれてやる。
「わかりました。この最後の選択肢は火影様からの命令じゃなく、俺個人の提案です。そのためにこの幻術の中で話をしました。」
 この人……個人の提案。俺たちの、ために?
「明日、南の森で正体不明の小隊と戦闘となり、あなた達はそれぞれの物を失います。宿に戻り、それを俺に報告してください。」
 正体不明の……って、そんなに都合良く目と腕を奪うような奴らがどこから現れるというんだ。
 ……ダンゾウの手下なのか、この暗部の息のかかった者なのか。それともまた幻術を見せられるのだろうか。
「……秘密のおしゃべりはここまでです。幻術が解けたら考えさせて欲しいと主張するように……。」

 パンッ
 手を叩く音にハッとする。どこも歪んでいないここは、本物の宿の中。窓辺に座っている暗部はお面をつけたまま二人を見下ろしている。
「あなた達の取りうる選択肢はよっつ。ひとつめ、愛などという不要なものは捨てうちはサスケは任務を続行。カカシさんには任を外れてもらう。ふたつめ、里で裁かれ矯正プログラムを受け忍とは何かという再教育を受けて前線に復帰する。みっつめ、再教育をしてもなお思想犯としての考えを捨てない場合里のために種蒔きとなって貰う。最後は、俺を殺して抜忍として一生追われる身となる。……ふたりはどれがお好みですか?」
 聞きながらヒリヒリと鳥肌が立つ、幻術の中と打って変わって……この暗部が放っている威圧感、只者ではない。サスケも固い表情で耳を後ろに倒している。
 幻術の中で言われたことを、カカシはそのまま口にした。
「考えさせて欲しい、今すぐには決められない。」
 少しの間を空けて、暗部がまた口を開く。
「明日の夜まで猶予を与えます。俺も出来れば無理強いや尋問、拷問の類はしたくない。」
「……わかりました。明日の夜、ですね。」
 表情が見えないまま、ネコの暗部はその場からふっと姿を消した。窓から外を伺って、誰もいないことを確認すると窓を閉めて鍵をかける。
「カカシ……いいのか。本当に。」
「サスケの方が問題でしょ、ここまで追ってきたのに、ダンゾウがどうなるのかわからなくなる。それに失うものが大きすぎる。」
 耳を伏せたまま、サスケはカカシの手を握った。
「事件の真相と犯人のことは、それは気がかりだ。けどあの暗部、うちはだった。あの人になら、後のことを任せられると思った。あの人ならきっと何とかしてくれる。……明日、南の森に行こう。」
 カカシの手を握るサスケの手が、震えている。腕を失う恐怖なんだろうか。それとも他の何かだろうか。身体が緊張しているのはわかった。カカシはサスケに近づき、その身体を抱きしめる。
「大丈夫、どうにかなる。あの人を信じよう。この先ずっと、俺も一緒だ。」
 左眼を失っても。
 左腕を失っても。
 ふたり一緒なら、大丈夫だ。
「なあ、カカシ。抱きしめたい。両腕で抱き締められるのは、きっと今夜が最後だから。」
「うん……俺もこの左眼にサスケを刻み込みたい。……大好きだ、愛してる。」
 静かに、強く抱き締め合って、キスをして、でも見張っているだろうからそれ以上のことはせずに、抱き締め合いながらそのまま眠った。
 ダンゾウがどうなろうがもう関係ない。暁が何をしようとかもう関係ない。ただのイヌと、ただのネコになる。
 
 愛してる その言葉さえさえ 許されない
 許されなくていい あなたを愛してる この気持ちまでは 奪えないでしょう
 後ろ指さされても 構わない あなたが隣にいれば
 愛してる それが悪だと 言うのなら……

 俺たちは、忍を辞めて自由になる。

 翌朝、久しぶりに忍服に袖を通す。ホルダーにクナイを入れて右太ももに着け、ふくらはぎにバンテージを巻く。
 支度が整って、ふたり顔を見合わせて頷いた。
 宿を出てその足はまっすぐに南へ向けた。
 南の森、と言っても目印があるわけじゃない。ともかくどこかのタイミングで何者かが現れる。緊張しながら慎重に歩を進めた。
「……待て、サスケ。」
 カカシが斜め後ろを歩くサスケを制する。その視線は頭上の木に向けられていた。黒いローブを羽織った5人の何者かに、いつの間にか囲まれていた。
 戦闘態勢を取る。二対五はあまりに不利だ。……所属不明の忍、こいつらで間違いない。
 背後のサスケがその木々に向けて業火球を見舞い、木から降りた一人に雷切を突きつける、が、その姿は土煙と共に無くなる。……影分身。相手は……一人だ。
 カキンと金属がぶつかり合う音、振り向くとサスケはクナイで刀を受け止めている。その周辺の地面に刺さる無数の手裏剣、いくつか貰ったらしいサスケの身体には切り傷が赤い線を作っている。油断したと見せかけて眼をくれてやろうと思っていたが、油断などせずとも少なくともサスケはやられる。他の三人のチャクラを検知して雷切、影分身。次。……気配が消えた?
「サスケ!!」
 急いで刀の黒フードとやり合っていたサスケの元に戻ると、その左腕は既に地面に落ちていた。それでも写輪眼で睨みながら残された右腕でその攻撃を防いでいる。
 右腕だけ、だったはずだ。何故戦闘を続ける。
 ともかく左腕がないサスケは圧倒的に不利だ、血も拍動に合わせて噴き出している。その刀の黒フードに背後から雷切、……消えた。こいつも影分身……!
「あと二人、一人は本物のはず」
「カカシ上だ!!」
 目にも止まらぬ速さで上空から黒いものが接近したと思ったら、左眼がカッと熱くなり次いで激しい痛みが走る。
「……っぐ、」
 左眼と、左腕、約束通りくれてやった。しかし戦闘が終わる気配はない。
 写輪眼がなければ雷切は使えない、なら術で勝負するまで……!
「土遁……!」
 カカシの眼を奪った黒フードを土の壁の中に閉じ込める。こいつと、あと一人、その一人が恐らくは本物。
 チャクラを探って森の木々の中に微かなそれを見つけるとクナイを咥え印を結びながら近づき水牢の術で封じ込め、クナイを握り直しその首を掻っ切る。しかし影分身。
 この五人ともが、影分身……!?
 土遁で閉じ込めた場所に戻り、中から出てきた様子がないことを確認するが、もうその中からはチャクラを感じられなかった。
 影分身を解いたのか。
 サスケの元に駆け寄り、腕の付け根を布でキツく締めて止血をする。
「……大丈夫か。」
「……想定よりは、痛くない。……大丈夫、だ。あんたは?」
「俺は一回経験してるからね……でもま、ともかく医者だな。」
 サスケの顔色が悪い。血を失ったからだろう。右腕を肩に抱えて支えながら、町医者の元へ行く。町医者にどうこうできる傷ではないだろうが、応急処置程度ならして貰えるだろう。
 ポタポタと、落ちる血を跡に残しながら、ふたりは寄り添って街に向かって行った。
 
 ガーゼと包帯でぐるぐる巻きになった俺たちを宿で迎え入れたのはあの暗部だった。この暗部から感じるチャクラ、さっきの五人と……こいつ一人で俺たちを相手にしていたのか。
「……随分と……痛々しい姿ですね。何があったんです?」
 何も知らないかのように話すが、火影様直属なだけあって相当な腕があるのは理解した。
「……所属不明の忍に襲われました。俺たちが情報を集めていると知ったダンゾウの手下かもしれない。」
 ネコの暗部は顎に手を添える。
「思想犯の取り締まりに来た筈が……そんな状態になられると今後任務にあたるのも難しそうだ。さて、困った。……取り敢えずは一旦報告に戻るとします。」
 里まで戻る、という事は何日かかかる。一週間程はこの状態で待てということか。
「ではその間、傷の手当てに優れた医師でも探しに行きます。」
 窓に足をかけていたネコの暗部が振り返る。
「近くにいる医療忍者をよこしますので、それは不要です。この宿で安静にしていてください。」
 そして窓の外に身を乗り出してフッと消えた。
 ズキズキと痛む左眼を包帯の上から触る。眼球がなく窪んでいる。このままでも良いけど、義眼入れておいた方が自然だろう。
 しかしそんな医療技術を持つ医者は里の中以外に見たことがない。
 医療忍者をよこすと言っていたが、流石に義眼までは用意がないだろう。
「サスケ、痛みはどう?」
「耐えられる痛みだ。……不自由さはあるが。」
「俺がいるから、大丈夫だ。医療忍者を待とう。」
 医療忍者、戦場での応急処置に特化した、医術を学んだ特殊な忍。腕がもし落ちていたら拾ってきただろう。切り落とされた腕をも元に戻せる技術がある。……ただ、あの場にサスケの腕は残されていなかった。
「待つことしか出来ないのも、きついもんだな。」
「……今は本も読む気にはなれないね。」
 翌日、宿に来た医療忍者は、俺たちの傷の処置をして、義眼を入れられる医師の居る場所を伝達してから、さっと帰って行った。
 他にも手当てを待っている者がいるのだろうか。
 平和に見える、この里の外で。

離里

 ネコの暗部はそれから三日で戻ってきた。普通に考えればどんなに急いでも一週間はかかる場所のはずなのに。
「……火影様の指令が降りました。あなた達二人の忍籍を解きます。里の中にあるあなた……方の住居は里が徴収するので、里に戻ってもあなた方の住む場所はありません。」
「随分と早かったようですが、本当に里まで?」
「……ああ、瞬身の……という二つ名がある程度には脚の速さには自信があるので。」
 聞いた事のない二つ名だった。火影様直属だからか、この暗部の忍としての情報は出回っていないのだろうか。
「ともかく、里にとってあなた方は用済みになったので、思想犯云々も関係なくなりました。」
 サスケが身を乗り出した。
「里はもう俺たちを見張ったりしない、で合ってるか。」
「しませんよ、そんな事に人材を割く程暇じゃない。……ひとつだけ個人的なお願いがあります。里を悪く思わないでください。他の取締班ではなく俺があなた方の取り締まりに来た、というのは火影様の配慮の結果なんです。」
 この人が来たのが配慮……火影様はこの人がこの提案をすると見越していたとでも言いたいのか?
「火影様は、火影様もわかっていたんですか。愛情を、その尊さを、……俺たちのことを。」
「さて、どうでしょう。……こちらは今日までの任務の報酬です。受け取って下さい。」
 紙の封筒を差し出されて、カカシが受け取る。そこそこの厚みがある。こんなにも……?
 封筒から顔を上げる。仮面の中の表情はわからない。けれどカカシ達に対する配慮をこの封筒の厚みに感じる。傷がある程度塞がるまでは傭兵も何もできない、収入源がなくなるふたりへの。
「……あなたの名前を聞いてもいいですか。」
 窓に座っていたネコの暗部は、仮面に手を添えて上にずらした。まだ青年だった。少し癖っ毛の、優しい顔をした。
「うちはシスイ。サスケくん、君のお兄さんの友です。イタチとも内通している。暁の動きもある程度把握しています。うちはの同胞も然るべき時に備えて動き始めている。なので、あなた達はもう何も気にする必要はありません。……今度は、失敗はしない。」
 シスイは再び面を付けた。
「待って下さい、うちはの人は皆、静かに余生を過ごしたい……のでは?」
「非道な目に遭って心を閉ざしていると聞いた、違うのか。」
 シスイは顎に手を添えて中空を見上げる。
「……誰もいないようだから少しだけ独り言でも言いましょうか。……木の葉隠れの里は初代火影……千手一族の長とうちは一族の長が手を組んだことから始まり、以後うちは一族は初代火影から連なる歴代火影に尽くしてきました。考えの違いこそあれどその絆は今も残り続けている。サスケ君、君も、そしてイタチも、君のお父さん……今のうちはの長であるフガクさんも、一族と里のために尽力してきた。これからもそれは変わらない。火影様はうちは一族を蔑ろにはしないし、うちは一族もまた火影様を支えることを辞めたわけじゃない。静かに暮らしたいという建前でうちはを人前から消すことで逆に自由に動けるようになった。……うちははあんな目に遭って復讐心を燃やさない人たちばかりかな……?」
 シスイの視線がサスケに戻る。
「……と、いうわけです。君は何も心配しなくていい。生きる道具として欠陥がある君はもう忍じゃない、それが忍の世界。君はもうただの人だ。君は君の大切な物を手から離さないようにするだけでいい。里も、うちはも、俺たちに任せてくれ。」
 ああ、この人が俺たちのところに来たのは……本当に、火影様の配慮なんだ。一族のこともよく知っていて、イタチの友でもあり、そして強く優しい。
 俺たちは身体の一部を失った、けどそれ以上のものを貰えた、そんな気がする。
 この人になら、全てを託せる。
「里のこと……うちはのこと、お願いします。」
「あなた達も、お元気で。」
 シスイは音もなく姿を消した。
 カカシは忍服を脱いでバンテージを外し、左腕のないサスケの装備も解いていく。
「里の外では、俺たちの間柄は異端だ……でも、もう親子だとかの誤魔化しはやめよう。堂々と、俺たちは愛し合ってると胸を張っていこう、これからは。」
「いいのか、年の差は。」
「俺は構わないよ、もう嘘で塗り固めたくないの。サスケを愛してることも。」

 傷の痛みなんて関係なく、その日俺たちは久しぶりに愛し合った。痛みなんかよりも尊いものを確かめ合った。イヌとネコだし、オス同士で、大人と子どもだ。だけど俺たちは愛で繋がっていると、確かめ合いたかたった。
「教えてもらった医者を訪ねたら……サスケ、旅をしない? この冒険記の作者が見たものを、確かめに行きたい。俺たちはあまりにこの世界のことを知らない。」
「時間ならたくさんあるし、俺も一緒に見たい。海も、山も、越えて向こう側にあるものを。」
 忍服は捨てた。代わりにオリーブ色の外套を買って、ふたりで着込んだ。サスケの右手を握って宿を立つ。
 地図を確かめて、北に向かった。
「……おや。」
 途中、あの歌を作るうさぎに出会った。俺たちの様子を見て鼻をヒクヒクさせる。
「ちょっと予想外な展開だ。……その血の匂い、随分と深い傷、の割に憑き物が落ちたような顔……その出立……。忍を辞めたんだね。……うん、歌を作り直すかな。」
 カカシはクスと笑う。
「作ってくれるなら、いつかまた聴きにきます。」
「大ヒット……はしないだろうけど、きちんとカナリアに歌ってもらって聞かせるよ。いつになるかわからないけど、待っているね。じゃ。」
 ウサギは右手を挙げた。それは……旅人同士の挨拶。
 もしかして、この人は……あの本の作者のウサギなんだろうか。茶色の、耳がピンと立った、あの作者は流行り病で旅を辞めて吟遊詩人の真似事を、とあった。
「……お元気で。」
 カカシとサスケも、右手を挙げて応える。
 深く詮索しない、それも旅人達のルール。このウサギが誰であろうと俺たちには関係ない。
 すれ違って通りを進み、街の外れまで来た。
「少し長めの滞在だったね。」
「ああ、すこし寂しいな。」
 踏み出した一歩は、ただの人として、そして旅に出るための一歩。
 手を繋いで、その体温を感じながら、尻尾が揺れる音が聞こえる。
 カカシがサスケを見ると、サスケもカカシを見上げていた。ふっと笑い合って、足を前に進めた。
 二日歩いて辿り着いた木造の建物、表札があるべき場所に何もない。
 古びたガラス戸をノックすると、少ししてから豊満な胸の勝気そうな女性が戸を開ける。
「話は聞いている、こっちだ。」
 種族はよくわからない、けど肌が滑っていて哺乳類ではなさそうだった。
 病院の処置室のような部屋に案内される。
「……ネコの少年の方から。上半身裸になってそこに横になって。」
 カカシがサスケが服を脱ぐのを手伝って、サスケは診察台……というよりは処置台の上に腰をかけて右肘をつき、仰向けに寝転がる。
 何が始まるんだろうかとドキドキしていたら左肩の下、なくなった腕の断面をぬるりとした感触が覆って思わず腕を見た。
 そこにはぬるぬるとした液体のようなものを纏った丸いよくわからない生き物のようなものがびっしりと覆っている。
「ひぇっ!!えっ!?」
 思わず悲鳴のような声を上げたサスケにカカシが駆け寄って、その腕を見てやはり青ざめた。
「あ、あの、これは、いったい?」
 女性がそのうちのひとつを手に持って見せる。これは……図鑑で見たことがある。何だったか……。
「ナメクジだ。カツユという巨大な奴の……まあ、分身体のようなものだな。いわゆる"原種"だね。私もナメクジのケモノビトだが、カツユの回復力を使った方がいいと判断した。」
 原種?回復力?分身体?
 何を言っているのかはわかるが内容がうまく理解できない。
「ええとつまりあなたは、原種のナメクジを使役して治療をしていると……?」
「綱手だ。まあ、そういう理解でいい。……言うまでもないがここで見たこと、起きた事は他言無用。猿飛のジジイからの直接の依頼で仕方なく戸を開けたが普段は訳あって身を潜めているんでね。」
 猿飛の……ジジイ……まさか、火影様のことを言っているのか。そんな風に火影様を言うなんて、伝説の三忍くらい……の一人は確か……名前は……。
「……え、え、!?綱手……様?伝説の三忍の!?」
「あまりでかい声は出すな。カツユ、戻って治療にあたれ。」
 カカシは鞄からあの本を出す。
「この本、これの著者の自来也様は今どこに?」
「知らないね、旅でもしてるんじゃないか。しかし、相変わらず自来也の頭の中はエロばかりか。変わってないな。」
「ええともうひとりの……大蛇丸、様は……」
 綱手の顔が険しくなる。
「あれは様、なんて奴じゃない。今もどこかで人体実験でもしてるんだろうさ。それこそダンゾウの配下で好きにやってんじゃないか?ジジイも早くあいつを始末しておけばよかったものを……。」
 人体実験……始末……ダンゾウ……それはつまり、伝説の三忍の一人は悪に手を染めているということなのか。
「ま、大蛇丸に関しては里を抜けたあんたらには関係ない。ジジイに任せておけばいいさ。……そろそろいいかね。」
 サスケの腕からナメクジの原種が離れていく。その傷の断面は新しい皮膚が覆い始めていた。
「痛みが……。」
 サスケも驚いた様子で腕を見ている。こんな突拍子のない治療でこんなに回復……するなんて。
「次、でかい方。眼球がないんだったな。義眼を入れてやろう。」
 顔にあのナメクジの原種が来ると思うと抵抗を感じるが、サスケの変化を目の当たりにしてしまうと従わざるを得ない。
「俺も寝るんです?」
「ああ、早く交代しな。」
 サスケは起き上がって、台の上から降りた。口布を外してカカシはその台に上がり、仰向けになる。
「一応麻酔をしておくか。カツユ。」
 ああ、やっぱりナメクジの原種が……。
 眼のなくなったその顔の左半分をぬるりとしたものがうごめく。気持ちいいものではない。
 麻酔が効いたのか、綱手様が左目の処置を始めた。それはあっという間に終わって、またナメクジの原種が顔の左側を覆う。
「聞いても、いいですか」
「何?」
「どこでこのナメクジの原種を……?」
「それは、口寄せ……ああ、今は禁術だったな。まあ、ともかく忍術で呼び出している。」
「禁術? 何故禁術に?」
「さてね。政治的な事はよくは知らん。里を出ている身だからね。」
「その禁術を使った治療は……してもいいんですか?」
「だから大っぴらにはやってないんだ。ネコの暗部が来ない限りはね。」
 シスイは、どうやら火影の代理人のような立場らしい。シスイの言葉は火影様の言葉……のようなもの、なのか。だとしたら、火影様は本当に俺たちのことを……。
 ナメクジの原種が顔から離れていく。治療が終わったらしい。
 顔に手を触れようとして、ぬるぬるなのを思い出してやめた。
「治療は終わったと、思っていいんですか?」
「ああ、ヌルついてるのが気になるなら隣にシャワーがあるから落としてきな。しっかり擦らんと落ちんぞ。」
 ナメクジの本人が言うんだから間違い無いだろう、サスケと一緒に示された方の扉を開けると簡易なシャワー室になっていた。服を脱いで、サスケが脱ぐのを手伝ってシャワーを出す。手で擦っても取れないぬるつきに、でも治療したとはいえ傷口をタオルで擦るわけにもいかずひたすら手で擦り落とす。何だかこのぬるつき、セックスの時に使ったアレと感触が似てるなと思っていたら勃ってきてしまった。下を見ないようにサスケの腕のぬめりを何とか落として、先にタオルで拭くように言ってカーテンの向こう側に行かせてカカシも自分の顔を擦る。
 眼球……義眼、が入っている。そっと瞼に力を入れてみたら、目を開くこともできた。何も見えはしないけど、ここまで回復するなんて……どう考えても有用な治療方法なのに、何故火影様は綱手様を里に戻さないのだろうか。……原種を使っているから、なんだろうか。
 口寄せと言っていた。召喚忍術の代表例だ。口寄せならば契約の巻物がどこかにある。……里のどこかに今もあるのだろうか。何故原種の存在を秘めているのだろう。
 ……まあ、里から離れる俺たちにはもう、関係のないことだ。
 ぬるつきが取れて、カカシもシャワーを止めてタオルに手を伸ばした。服を着込んだサスケが拭くのを手伝ってくれる。……サスケ、服、一人で着れるんだな。いや、着れるようになった、のだろうか。腕を見せてもらったけど、やっぱり薄い新しい皮膚がもう傷口を隠している。
 シャワー室から出ると、綱手様は腕を組みながら待っていた。顎で出口を示される。さっさと出ていけと言わんばっかりに。
「以前にも、原種のカラスを指摘している者を見ました。ヒトの原種も。彼らは一体どこにいるんですか?」
 綱手様は表情を少し険しくした。
「詮索するな。住む世界が違うと思え。そもそも私らのようなケモノビトの方が不自然な存在なんだ。常識を常識と思っていると足を掬われるぞ。」
 不自然、……そうなのかもしれない。それなら尚更、自分たちのルーツが知りたくなる。人と獣が単純に交尾をしたとしてケモノビトが生まれるとは思えない。
「ありがとうございます。ええと、その、治療費は……」
「火影からの依頼だ、里に請求する。心配無用。さっさと行きな。」
 火影様の……。
 サスケと二人で、頭を下げた。
「ありがとうございました。火影様にも、お伝えください。……お世話になりました。」
オリーブ色の外套を羽織って、サスケと右手を繋ぐ。
 右に行こうか、左に行こうか。
 左側を失ってることだし、右にしようか。
 サスケにそう言ったら、サスケはまたあの言葉を口にした。
「わかった、あんたに従う。」
 嬉しいけど、少しだけ訂正させて欲しい。
「俺たちはもう、上司と部下じゃない。従わなくてもいいんだよ。」
「……それでも、俺はカカシについていく。」
「ついてくるじゃなくて、これからは、一緒に行く、だ。」