異種属性愛はダメですか
目的は
宿場町を後にして目撃情報通りに東へ向かう。途中に野宿の跡はないか、何らかの痕跡を残していないか確認しつつ、これといった手がかりがないまま夜の帳が下りようとしていた。
「……今日は野宿かな。」
幸いにも雨ではない。
薪を集めて火をつけて、宿場町で買った弁当を食べながら、サスケはカカシに母から聞いた言葉について話した。食べ終えた弁当の容器を焚き火に放り込んで、カカシはサスケの考えについて検討する。
うちは一族がそういう暮らし方をしていたのだとしたら、確かに里の方針とは違っている。イタチが父に対して訴えた内容は、そうしないと悲劇的な措置が取られることを知っての言葉だったのだろうか。
イタチがその謎の組織と接点があったのであれば、事件後にサスケにかけられた言葉も納得がいく。そして抜忍になったことも。
そうなるとサスケの言う通り、イタチは最重要人物だ。全てを知っている可能性が高い。暁が何をしようとしているのかも聞き出すことができたら一石二鳥……ただ、里の命令で探しにきた俺たちに警戒して口を割らない可能性もある。そうなったらサスケの存在が鍵だ。
ただ、干柿鬼鮫の存在が厄介だろう。
やっぱり今回の任務は情報収集だけにとどめるべきだ。戦闘になったらどう転ぶかわからない。サスケは優秀とはいえ、まだ忍としての経験が薄い。こちらの方が不利だ。
しかしうちは一族とイタチのことを知れば火影はイタチを黙らせるため……つまり始末するための部隊を出しかねない。
もしかしたら同じうちはのサスケもその対象になりかねない。……この情報は黙するべきだ。
「まっすぐに東へ、というよりは街道沿いに街を巡りながら東の方角を目指そう。隠密行動をとっているわけではなさそうだ。少しでも情報が得られる可能性がある場所に立ち寄りたい。」
サスケは頷いた。
「わかった、カカシに従う。」
その言葉に、イヌとしての本能が刺激される。自分がリーダーだと認められる事はイヌにとって高い満足度と、群れを守らなければという使命感に駆られる。
揺れそうになる尻尾をグッと堪えた。
「……うん、あとは野宿のときは、変に思われないように俺たちが恋仲だと知られないようにしよう。」
つまり、イチャイチャするのもその先も街に着くまでは我慢、ということ。
ただ、サスケたちは愛し合うために旅をしているわけじゃない。任務のためであって、それが最優先だ。
里にふたりの関係を知られるわけにもいかない。
「……わかった。」
里に入るときに行われる検閲とルールによる縛り、愛とは何か、それを知っていながら里の住民に伏せられている事実。
発達した文明の中で原始的な行動をする住民は里の外から見たら異質なものだった。
それを知った今、現在の里の在り方はおかしいと感じる。元々リーダーだとか従うだとかいう概念を持っていないネコのサスケには、少なくともそう感じた。
「さ、もう寝よう。2日後には次の街だ。」
「わかった、……おやすみ」
寝袋にくるまってカカシに背を向ける。その顔を見ながら寝るとまた愛し合いたくなりそうだった。
キスひとつせず2日経って、昼頃に次の街に着いた。耳を澄ませて噂話を聞き集めていると、呆気なく暁の二人組の話に行き着いた。そこは甘味処、カカシもサスケも甘いものは好きではなかったが、席に座ってみたらし団子を注文しながらお店の人に二人組について尋ねる。
前回確認した二人組と特徴が一致した。間違いない、一人はイタチだ。二人は三色団子を食べてお茶を飲み、これといった会話はせず立ち去ったらしい。
カカシはさり気なく匂いを確認して、その二人組が向かったという宿に泊まることにした。
「黒い外套の二人組が泊まった部屋に泊まりたいんですが……あ、俺たちは里の者で、抜け忍を追っています。」
カカシの説明で宿の主人は納得したらしい。
案内された部屋に甘味処で嗅ぎ分けた匂いのどれかと一致するものがないか確認して、カカシは顔を上げた。
「多分、だけどこの匂いだ。」
イタチに近づいた。匂いさえわかればあとはその痕跡を追うだけだ。
「三泊はしてるね、これだけ残っているという事は。」
旅路を急いでいる訳ではなさそうだ。それなら、急いで追いかければ、追いつけるかもしれない。
握る拳に力が入る。
黒い外套に身を包んだ二人は砂隠れの里にいた。
入り口でのボディチェックの後、すんなりとその内部に入れた事に違和感を覚えたのは鬼鮫だった。
「こちらには私の情報は出回っていないんでしょうかねぇ。」
本屋に立ち寄り、その本のタイトルを一瞥してから外に出ると、本屋の外には、20人ほどの忍が辺りを取り囲んでいた。
「……そうでもないようだな。」
「……成程、こうする為でしたか。」
取り囲むうちの一人が大声を上げた。
「仲間殺しの干柿鬼鮫、間違いないな?」
鬼鮫は隣に立つイタチをチラと見る。
イタチは鬼鮫を見上げた。
「……殺すなよ。」
「また難しい事を言ってくれますね。」
イタチはその20人を見回すと、ふっと姿を消した。
大刀に手を伸ばしかけていた鬼鮫は駆け出し、イタチの幻術にかかった一人に向かっていった。
鬼鮫が戦っている間、イタチは里の様子を見て回っていた。往来する人々は何らかのハーフばかり。純粋なイヌやクマ、オオカミなどはほぼ見かけない。
食料品店に入り、独特なあの匂いを感じて見回すと、調味料の棚にそれがあった。
ひとつ手に取って勘定を済ませ、鬼鮫の元に戻る。その鬼鮫は、最後の一人が膝をつき倒れるのを見守った後、イタチの隣へ歩いてきた。
「殺してはいませんよ、足の腱を切っただけです。」
「お前にしては上出来だ。得るものは得た、去るぞ。」
「相変わらずお早い事で……さて、すんなりと出させてくれるものか……。」
門には10人を超える忍が武器を構えている。イタチはゆっくりと目を閉じて、再び開いたその目は赤く染まっていた。
門番も含め、集まっていた十数人の忍が仲間に向けて武器を振い始める。そうしてイタチと鬼鮫は何の困難もなく里の外に出ていった。
「さて……報告に戻りますか。」
地図を広げて場所を確認する。まっすぐに最短距離を進めば5日ほど。
「……私としては、宿をとりながらゆっくり帰りたいところですが。」
「それだと来た道を戻るルートになる。」
「何か問題でも?」
「鬼鮫の追忍と鉢合わせる可能性がある。」
「フッ、削り殺してやりますよ」
「……俺は知らんぞ。」
イタチは西に足を向けた。それはさっき通って来た道で、途中にいくつかの街がある。
西に向かうイタチと鬼鮫、そして東に向かうカカシとサスケが出会うのは一週間後のことだった。
ある街で宿を取り、街を歩きながら情報収集をしていたカカシが、匂いが強くなっている事に気がついた。
だんだん、近づいてきている。サスケはまだ気づいていない。陰から様子を探るべきか、それともまずは敵意の有無を確認するべきか。
街中で戦闘……は流石にしない、だろう。という希望的観測のもと、サスケに話しかける。
「近くにいる。こっちに向かってきてる。」
サスケは目を見開いて、前方に目を凝らした。人の往来の中に青白い顔の大男の顔が見えて臨戦態勢を取る。
そのサスケを制して、カカシはその大男の方へ足を運ぶ。ツーマンセルの陣形でサスケもその後を追った。
赤い雲が描かれた黒い外套の二人組は何かを話すでもなくただ歩いてくる。
イタチの顔が見えて、サスケは思わず「兄さん」と口にしていた。
イタチの耳がピクと動く。
「サスケ……か?」
5メートルの距離をとって互いに立ち止まった。
「……どちら様で?」
「……元先輩と、弟だ。」
「成程、面影がありますね。」
話し合う二人にカカシが尋ねる。
「イタチ、サスケがあなたと話をしたがっている。その時間を取らせてもらえないか。」
イタチは表情を崩さないままサスケに視線を向けた。
「……二人きりで、なら応じます。」
カカシがとった宿にイタチとサスケが対峙していた。
どう話を切り出そう、と思っていたところでイタチが柔らかい声色で話しかける。
「とりあえず座ろう、サスケ。」
腰を下ろすイタチの前に、サスケも座った。
「兄さん……は、この数年どうしていたんだ。」
「悪いが、それは言えない。サスケが聞きたいのはそんな事じゃないだろう?」
サスケは唾を飲んだ。聞きたい事はたくさんある。矢継ぎ早に次々と質問を投げかけた。返ってきた答えをまとめるとこうだ。
うちは一族は元々愛情深い一族だった。そして一族の身であることを誇りに思っていた。二代目火影が始めた政策から隠れるように、愛を守り続けていた。
そんな一族に里から介入が入り始めたのが三代目火影になってから。その優れた能力を別の種族と掛け合わせることでより優れた種になるべきだと。父さんたちは拒否し続けた。そしてイタチは暗部として里側の忍となり内情を探った。……いわゆるスパイというもの。
うちはで初の暗部となったイタチに近付いてきたのは志村ダンゾウという、根という組織のトップだった。
根という組織は何年も前に三代目火影が解体していた。だが依然としてその活動を続けている。里の中枢が火影派とダンゾウ派で分かれていること、そして介入してきていたのは火影ではなく根だったこと、根がうちはを狙っていることを知り、父さんに掛け合った。このまま伝統を守っていたら、何をされるかわからないと。
イタチ自身も血の濃さ故に奇形や障害のある子が増えてきた事にも危機感を覚えていた。このままでは、うちはは滅んでしまう。でも何度も説得しては拒絶された。
ダンゾウへの説得をするまで待って欲しい、という嘆願は叶わなかった……結果として根によって一族は連れ去られ、イタチは里から離れることにした。
説得もできず根も止められず最悪な最後を遂げてしまった後悔と、純血で内情を知るイタチがいずれ処分の対象になるのは明らかだったから。
「……兄さんがただ逃げるために里を出たとは思えない。」
「悪いが、これ以上のことは話せない。」
「暁にいるからか?」
「……そうだ。」
「そんなに所属する価値がある組織なのか、暁は。」
「それも話せない。……話すべきことは話した、ここまでだ。サスケが俺の話を聞いてどう行動するかは任せる。ただ、根の事は甘く見ないほうがいい。」
パタ、パタ、と尻尾が揺れる音がする。イタチの尻尾ではない、サスケのものだった。サスケは拳を握りしめる。
「俺だって愛を知った。俺もうちは一族のひとりだ。そんな話を聞かされて、どう思うかは兄さんもわかるだろ。」
愛、という言葉に立ち上がりかけたイタチがサスケに目を向ける。
「……誰との?」
「言わない、兄さんが全てを話してくれないのなら俺だって。」
イタチは座り直して、真剣な眼差しをサスケに向けた。
「……サスケ、暁に入るという選択肢もある。それならば全て話そう。」
急な話に、サスケの頭はついていかなかった。暁は謎だらけの組織だ、二つ返事で入る、なんてとても言えるものじゃない。
それに、もし入るとしてもカカシと一緒でなければ。
……いや、これは情報収集にもってこいな状況じゃないか。
「暁は何を目的とした組織なんだ。傭兵はやめたようだけど、最近の動きは全くわからない。得体の知れない組織に身を移したいと思わないのは当然だ。」
イタチは静かに目を閉じて、そして赤い瞳を開いた。
サスケはその幻術の中に入った、でも害意は感じない。つまり、誰にも聞かれたくない話を幻術の中でするという事だろう。
「里についてサスケはどう思う。おかしいと思わないか。愛が排除され優秀な忍を生み出す為に繰り返し異種間との交配ばかりが推奨され、種の保存という本能は教育による洗脳で排除されている。里の外の者は誰もが里はおかしいと感じている。そのおかしい現状を正常にしたいと思わないか。」
「そんな事、どうやって……」
「暁が目指しているのは五影……五大忍里の改革……今はその準備段階だ。どうやるか、は暁に入るのであれば話す。」
「傭兵だったんだろ、暁は。それが何でそんな事を?」
「それが出来る方法を知ったからだ。」
ふと気づいたらさっきまでと同じ宿の部屋の中。イタチはなおも真剣な目でサスケを見ている。
サスケはやっぱり返事をすることが出来なかった。暁がどうやって洗脳された里の人の考えを変えるのか、全く想像もつかない。
「……入るとしてもカカシと一緒だ。兄さんが言ったことも全て共有した上で判断する。」
「相手は……カカシさんということか。」
ただのツーマンセルの上司だと、反論しようとしたがイタチの目は全てを見通すような怖さを感じる。それに何より兄イタチに嘘をつきたくなかった。
「俺も、奇形があった。オス……いや、男なのに、この腹の中には卵巣がある。サカリを止める為にカカシは交尾をしてくれた。一緒に兄さんを探す旅に出る為につきっきりで修行を見てくれた。そして旅に出てから単なる交尾じゃない、愛の営みのことを知った。」
イタチはふっと優しく笑った。
「愛する人がいるんだな。イヌだろうが男だろうが、俺はサスケが愛を知ったことが嬉しい。俺もまたサスケのことを愛しているからだ。」
愛……には、いろんな形がある、のか。恋愛じゃない愛も。
「……暁の件は考えておいてくれ、無理強いはしない。話は終わりでいいな?」
頷くサスケを確認して、今度こそイタチは立ち上がり、そして部屋から出て行った。
根を根絶したい、けど話を聞く限り一人じゃ無理だ。そもそも火影様が解体しているのに活動し続けている……財源がどこかにあるはず。
サスケも部屋から出て、宿の外で待っていたカカシに寄り添った。
「闇について調べたい……俺の一族を連れ去った奴らには、必ずパトロンがいる。もしくは、人体実験の副産物を買っている奴ら……。」
カカシはサスケの頭に手をぽんと乗せた。
「まずは話を聞かせてくれる?」


