異種属性愛はダメですか
いっそのこと
「はじめての方へのご案内です。手のひらをこちらに向けて指一本で100万円、反対側を向けて指一本で1000万円、最初に商品を全てご紹介した後、オークション形式となっております。それでは最初の商品をご紹介!」
集まった人々は無言で向かって右の扉から出てくる誰かをじっと見つめる。それは子どものようだった。ガタイのいい男に連れられてきている。ただ、何の種族なのか、そしてどれほどの価値がつくのかさっぱりわからない。
「珍しい"ヒト"の子どもです! 言葉は通じませんが調教済み。性別は女、年齢は10歳、初潮前、様々な用途にご利用頂けます!」
ヒト、だって……!?
ケモノでない、ただのヒトなんてこの世に存在したのか?……いや、考えてみればイチャイチャシリーズに登場するのは皆ケモノの特徴を持っていない、いわゆるヒト、だ。この世界のどこかにヒトの集落が恐らくあって……。
その少女は無表情のままその場をゆっくりと回って全身を客に見せる。裸でボサボサの髪は何日も風呂に入れられていない様子だった。
「父さん、いきなり良いのが出てきたな!」
「……ああ、そうだな。」
子どもの演技をするサスケは明るく言うが、俺の手を握るその手には強い力が込められた。尻尾も大きく横に振れている。
人身売買……探そうと思っていた場所。それを見にきたイタチ達もこの売買に参加するつもりなんだろうか。
ただ、最低金額が100万円だなんて高すぎる。暁にはそんなに金があるのか? 一体どうやってそんな金を?
「どんどんいきますよ! さあ次の商品です!」
少女はガタイのいい男と共に向かって左の扉に消えていった。代わりに右の扉から現れたのは、液体が入った入れ物の中にある丸くて小さい……あれは、あの赤い瞳は……写輪眼?
「こちらも希少なうちはの写輪眼! ひとつだけですが視神経付きで新鮮なのでまだ移植も可能、またこの入れ物の中に入れたままなら長期間の保存も可能です!」
人々が前のめりになる。
こんな物が出回るなんて、あの施設がらみとしか思えない。いやもしかしたら、他にも同じような施設でまだ囚われている者がいるのだろうか。
新鮮……ということは、この目の持ち主は今……?
そんな事をいちいち気にしていたらキリがない、とは思うものの、こんなものが出回るくらいだから、オビトからこの眼を託された俺のように移植で写輪眼を持つ者が他にもいる可能性が出てきた訳だ。
他の商品とやらもおぞましいものばかりだった。まさにここは人身売買の場だ。最後に出てきたのは「隠れ里にしか存在しないキメラ」と呼ばれたイヌとウマの合いの子だった。……俺達はキメラ扱いされていたのかと愕然とする。里の中が異常なのか、この場が異常なのかもはやわからない。
商品の紹介が終わると最初の少女がまた出てきて、オークションが始まった。いきなり手を裏返した指一本が上がる。次々に上がる指。
様子を見ていると最終的に3700万円を示した男が落札した。
「落札おめでとうございます! 商品は後ほどお渡しします。では次!」
引き渡しは後……なら写輪眼を落札したと見せかけて引き取りに行く際に入手経路を聞いてみるのもありか。
……いや、あまり怪しまれる行動はしない方がいい。
写輪眼の入札が始まる時に手を挙げた。
「質問いいですかぁ?」
「商品に関する事でしたら何でもどうぞ!」
「それって純正品? つまりキメラのものじゃなくてちゃんとしたうちはのもの? 大人? 子ども?」
「良い〜質問ですね! 歴とした血統書付きのうちはの眼です。性別はオス、年齢は10歳になります! ではオークションを始めます!」
また次々に指が上がるが、ヒトの子どもよりは相場は安いらしい。それだけヒトが貴重なのか、それとも写輪眼が今までも供給されてきたのか。
しかし10歳の子どもを開眼させるなんて、一体何をしたんだ。
このオークションが始まってから、怒りがおさまらない。表情態度にこそ現さないけど、人身売買の場はあまりに……惨状、と言ってもいい。
カカシですらそう思うのに、うちはであるサスケやイタチはどう思っているのだろうか。カカシの手を握るサスケの手の強さだけが、その気持ちを物語っていた。
イタチは表情ひとつ変えずにオークションを見守っている。
2100万円で落札された写輪眼……それだけの末端価格であれば卸……つまり入手した際に出した金は1000万円から1500万程度、だろうか。
それだけの金が眼ひとつで動くのであれば、資金源としては十分だろう。出産適齢期を過ぎた者は全て処分……つまり殺されている。最悪その分の眼が出回っていたとしてもおかしくない。
子どもの身体ひと揃いあればヒトの子どもと同じくらいの値がつくかもしれない。
「キメラ」と呼ばれた者は里の外では人身売買の対象になる程異端の存在、それも確認することが出来た。
隠れ里の中では当たり前の姿だが、ある意味その身は里が手厚く守っているから普通には手に入らないのだろう。
全ての落札を見守って、商品と金額を記憶してから、イタチ達に続いてカカシとサスケもその場を立ち去った。
イタチと鬼鮫はまた別の店で何かを買ったらしい。帰り道、カカシは二人に尋ねてみた。
「確認のため聞きますが……あの場は闇市、で合ってますね?」
前を歩く鬼鮫が振り向きもせず歩きながら答える。
「一般的にはそう呼ばれていますね。あそこは特殊で、参加したことのある者にしか場所も日付も公開されていません。開催も不定期。たまたま近くにいないと行けない場所です。」
という事は、カカシとサスケもその参加者としてカウントされたのだろうか。次回も何らかの形で開催が告げられるのであれば、カカシとサスケに何らかのマーキングが施されている事になる。そうなると、里に戻ったらこの情報は恐らく得られなくなる。
……里に戻らない言い訳がひとつできた。情報収集のために里に戻らないという言い訳が。
問題は、この情報に対して里がどれだけの価値を見出すかだ。
「あなた方は何を買ったんです?」
「それは言えませんねぇ。」
そうだろうな。暁の買い物であれば部外者に漏らす訳がない。
「兄さんは……何回うちはのものが出品されたのを見てきた。供給源を知ってるのか。」
サスケの声が震えている。怒りからだろうか。その手を繋いでぎゅっと握りしめる。
「俺自身は3回目だ。……仲間の情報も含めれば7回。供給源はダンゾウで間違いない。」
「ダンゾウを殺さないのは何故だ。」
「……奴は里の中枢にいる、警備も硬い。奴自身も実力者だ。簡単には殺れん。」
「……何でそんな奴が里の中枢に……。」
「キメラ研究の立役者で、里の闇を支えてきた人物だ。大蛇丸が里を抜けてからは研究を辞めた、と思われている。里の忍がいくら探っても根の活動を探りきれていないからな。」
「……兄さんは何でそんなに淡々としていられるんだ……。」
イタチが歩みを止めて顔をサスケに向ける。
「サスケ、忍たる者……」
「……いかなる時も感情を殺し……」
「俺が何も感じていないと思うか。」
つまり、イタチは事件の日も、その後も、こんな惨状を見ながら感情を殺し続けていた、ということか。
サスケは唇を結んで黙り込んだ。
「暁の……最終的な目標は何なんです。朝のトリの原種、あれはどこで手に入れたんですか。」
「それは言えません。」
闇市のオークション、なんだろうか。それともヒト同様に原種が存在する場所がどこかにあるのだろうか。
宿場町まで戻ってきて、カカシとサスケは部屋に戻った。里に報告することが多い。その手紙をカカシが認めながら、サスケは黙ったまま俯いていた。
何故ダンゾウを殺さないのかと、サスケはそう言った。今里に戻ればサスケが何をするかわからない、と書き添える。
暁はただ闇市に出向いて買い物をして帰る、という訳ではなさそうだった。あの人身売買の情報を、暁も集めているのだろうか。
カカシが報告の手紙を書き終えてサスケを振り返ると、サスケはカカシに抱きついた。
「情報収集、……続けるのか。」
「……うん、里にはできるだけ……戻りたくない。」
「またあれを、見に行かないといけないのか。」
「……資金源の証拠集めだからね。」
「もうあんなもの、見たくない……。」
「なら俺だけでも行くよ。……つらかったな。」
「カカシが行くなら、俺も行く……。」
カカシは大人だ、いろんな経験もしているだろう。かと言ってあんなものを目にして何も思わない訳がない。サスケが言い出した事なのに、カカシだけにその錘をつける訳にはいかない。カカシがサスケのためにしてきてくれたように、サスケもカカシの負担を増やすような事をしたくなかった。
「サスケ、身体が緊張してるよ。落ち着いて。」
「落ち着く……。」
カカシがサスケの背中をマッサージする。肩甲骨に沿って筋肉をほぐすように指をぐりぐりと動かしながら、肩と首も同じようにほぐしていく。
ゴロゴロとサスケの喉が鳴った。気持ちいいんだろう。それはリラックスしている証でもある。しゅんとしていた尻尾もゆっくりと横に振れていた。
サスケのこころの痛みを和らげてやることが出来た事にカカシはほっとしながら、里に戻らず情報収集に徹する事はサスケにとっていい事なのだろうかと考える。
出来るのは情報を集めるだけで、それを元に対処するのは火影の意思に依存しなければならない。つまり、自分ではその任務に就くことが出来ないし、まだダンゾウを中枢に置いている上層部が果たしてダンゾウをきちんと処理するのかも現時点では疑わしい。
いつかはそれを見極めなければいけない。そして決断しなければいけない。里に対して、自分達がどういうスタンスを取るのかを。
「この任務が終わったらさ……何もかも忘れて二人で旅を続けたいよ。傭兵か何かで稼ぎながらさ。」
サスケがカカシの顔を見上げる。
「抜忍……になるのか。」
「別に悪い事は何もしないんだから、ただの行方不明。逃避行ってやつ。」
サスケがまたカカシの胸に顔を埋める。
「現実逃避……二人旅……それも、いいのかもしれない。カカシと一緒なら……。」
「山に行ったり、海に行ったり、あの小さな里にいたら見れなかったもの、知らなかったもの、たくさん一緒に見聞きして回ろうよ。世界って広いなぁ、なんて言いながらさ。」
「……海?」
「そう、すっごく大きい湖みたいなやつ。でも水はしょっぱいんだって。でもそんなところにも、生き物がたくさんいて……見てみたくない?」
「いいな、それ……カカシと一緒に見てみたい。」
現実逃避なんてしても、里の中の現実は変わらない。いつか暁が何かをやらかすのかもしれない。だけど逃避行をしてしまえばそんなことすら耳に入る事はなくなるだろう。
サスケが経験してきた、見てきた、知ってきた現実はあまりにつらすぎる。カカシもまた多くを失ってきた。木の葉隠れの忍として生まれてしまったばっかりに。
忍として生きる事に誇りを持ってきた。里に対して全幅の信頼を置いてきた。だけど今、その誇りや信頼は揺らいでいる。この先の人生、ずっと里に縛られ続けるのは正直なところ嫌だった。
誇りも、責任も、帰属意識も、全て捨ててただのケモノビトとして自由に生きることが出来たら……そういう夢くらいは、見たってバチは当たらないよね。
里なんかよりも、俺には守ってやらないといけないサスケがいる。
忠誠心が薄れた今、カカシのイヌとしての群れ意識はサスケに向いていた。小さなふたりだけの群れ、だけど大切なつがいで、パートナーで、そして俺の部下。そのサスケを愛して守る事が、カカシにとって一番するべき事で、大切な事だった。
サスケの尻尾がゆっくりと動きを止める。
カカシの胸に顔を埋めながら、すうすうと寝息をたて始めたその頭を舐める。
もう二度とつらい思いをさせたくない、という訳にはいかない。任務が続く限り、何を目の当たりにする事になるのかわからない。
ダンゾウに対するサスケの中の憎しみも増していくかもしれない。
もしかしたら里がきちんと対応してダンゾウを処罰するかもしれない。
でもそれで終わるのだろうか。
イタチは大蛇丸がどうとか言っていた。
自来也と同じく伝説の三忍のひとりで、非道な人体実験をした事で里を抜けたヘビの忍。
ダンゾウが自分の後釜を育てている可能性だってある。つまり、ダンゾウが死んだからと言って悲劇が終わるとは限らない。
それくらいならいっそのこと、忍なんて辞めてしまって普通に穏やかにサスケと過ごしていたほうがいい。
「……ねぇ、サスケ。そのときはまた、俺に従うって言ってくれる?」
サスケは規則正しい息をしながら、何も言わなかった。


