異種属性愛はダメですか
つがいに
二人で旅に出る、とは言えどこに行くべきか何も思いつかないまま、カカシとサスケはともかく里の門を出た。
各地で情報収集して周り、イタチはどうやら暁という組織に所属していたらしい事はつかめた。うちは一族御用達の武具屋に数年前その出立をしたイタチが訪れたことから掴んだ情報で、ただ暁という組織に関しては共通の赤い雲が描かれた外套を身につけていることしか今のところわからない。
道中、特有の匂いが漂い始めてカカシがサスケの様子を見ると、やはりそのようだった。野宿続きだったこともあり、その日は近くの宿場町を目指して宿を取ることにした。
出来る限り早くサカリを終わらせたい、と言うサスケに、卵子が出る準備が整うまで数日待った方が確実だと言い聞かせても、サスケの考えは変わらないようだった。
サカリが終わるまで、つまり卵子が出るまでの間、野営中に大きな声が出てしまうのを避けるために、二人は連泊して対処することになった。
一年間、中忍以上の力をつけるために二人で修行に励み続けた事で、カカシとサスケの関係は単なる師弟よりもより近しくなっていた。
だからだろうか、薬が切れてサカリの症状が現れ始めたサスケは尻尾をピンと立てながら迷わずカカシに擦り寄ってその上半身に抱きつきながら何度も首を擦り付ける。
「カカシ、……カカシ。あんたがいなければ俺は……誰にでもこうするのか。ネコだから……?」
「……メスのネコは、……うん、そうだね。見てきた限りでは。」
すりすりと甘えるサスケをカカシも抱きしめてその髪の匂いを嗅ぐ。久しぶりのシャンプーの香りと、サスケの匂いと、そして発情のフェロモンが混じった匂い。
ざり、とサスケはカカシの首元を舐め始めた。
「昔、兄さんと父さんが言い争っていた。兄さんは純血を捨てて病気でない子を産むべきだと。でも父さんは今の一族の在り方が一族にとって幸せだと。……自分の身体がこんなんなのに、俺はどっちが正しいかがずっとわからない。ネコにとっての幸せが何なのか……。」
「……珍しく、お喋りだね。サカリの影響……?ネコにとっての幸せか……どうなんだろう。こたつに入っているときは幸せそうだけど、そういう意味じゃ、ないよねぇ。」
肩に甘噛みしたサスケがカカシと向き合ってその顔を見る。
「それは確かに……幸せだけど……そうじゃない。」
「……だったらつがいを作ればいいんじゃない?ネコには馴染みが薄いかもしれないけど、パートナーがいつもそばにいればメスだって安心でしょ?」
「……それなら、俺のつがいはカカシがいい……。」
サスケは再びカカシに抱きついた。上半身ではなく腰に。すりすりと頬や首を擦り付けるその様子は、まるで「自分のものだ」という意思表示のようで、そうしながら幸せそうに目を細める様子にカカシの庇護欲が揺さぶられる。
イヌのカカシにとってサスケとの関係は主従だった。そのサスケが自分に擦り寄りあなたといる事が幸福だという姿勢を示した事がイヌのカカシには群れのリーダーとして認められたという優越感として気分をよくさせる。
それと同時に、少しずつ濃くなっていくメスのフェロモンが鼻腔から脳に伝わりオスとしての発情を誘発させる。
「サスケ……」
理性的であるべき事は理性的に、本能的であるべき事は本能的に、そうする事で隠れ里の忍は己の種族に自尊心を持ち、そして己の得意とする領域で活躍してきた。
生殖もまた本能的であれと教わってきた。しかし、だからといってカカシ自身はサカリのネコやイヌを見かけても本能のままに行動する事は避けてきた。
そうする事でメスが辿る運命は、幸せなものばかりではないと知っていたからだ。
でも目の前にいるサスケは事情が違う。何より、妊娠する事はない。
本能的であれ。
カカシが否定し続けたその考えを、サスケに対しては捨てることにした。
サスケの顎を掴んで上を向かせると、その頬は紅潮している。顎布を下ろしてその唇に自分のそれを重ねた。口内に舌を添わすとざり、としたサスケの舌が追いかけるように絡みつく。
(……ああ、ネコだ……)
サスケの下履きを下ろしながら、魚の臭いがするその口を舐め続けて、自分の下履きも下にずらした。
唇を離すとサスケは早くしてくれと言わんばかりに前腕を床について腰を高く上げる。ローションを垂らしてからその腰を掴んで穴に位置を合わせて、後ろから抱きつきながら少しずつ中に挿れていった。
「っん、は、……っく、」
本能に身を任せるそれに前戯なんてない。慣れていないそこは異物を排除しようとする。その締め付けに根本が膨らむのがわかる。このままじゃ、入るものも入らない……。
カカシは少し理性を取り戻して、サスケの中をマッサージするようにゆっくりと腰を動かした。腸壁を押し広げるように、そして少しずつ奥に。
サスケはその先端が出入りするたびに、最初は苦しかったそれが馴染んでいくと共にむずむずともどかしい感覚が生まれて、目を閉じながらその感覚を拾おうとする。
「はぁっ、ぁっ、……は、……っん!」
声色がだんだんと変わっていく。イヌの本来の交尾は子宮口に先端を入れた後はじっと待つだけなのに、その声を聞いているうちにもっと聞きたいと思ってしまう。自分がこの声を出させていると思うと妙な満足感のようなものが頭を覆っていく。
膣……サスケは腸だけど、そこはただの経由地で、目的としているのはあくまで子宮口だったはずなのに、その経由地としか思っていなかった場所の抽送が何故だか酷く気持ちいい。
ネコにしたってそうだ。ネコなんて挿入する時間は長くて数十秒程度ですぐに交尾は終わる。それも、ネコのメスは必ずと言っていいほど痛みを訴えるような叫び声を上げるのに、サスケはそんな事がない。
腸だから、なんだろうか。よくわからないまま、サスケの感じていた感覚は快感に変わっていき、カカシのそれが出入りするたびに甘えるときに似た、でもサカリのときのように大きな声を上げていた。
イヌのそれでもなく、ネコのそれでもない、目的のないその出入りに二人ともが夢中になるのにそう時間はかからなかった。
「あ、あっ!んっ、ぁあっ!や、あっ!カカ、カカシっ、っひ、あっ!きもち、ぃ、っあ、っん!」
「サスケ、俺も……俺も、気持ちいい……っ」
感じたことのない感覚に夢中になりながらも、カカシのかけらほどの理性がそれを終わらせるために奥に、奥にと腰を押し進める。
その度にサスケは震えながら甘い声を上げた。
今日卵子が出たら次は一年後。
それが心惜しいと思ってしまう自分は間違っている。これはサスケのサカリを終わらせるための行為であって――。
「ぁあああっ!!」
サスケが背を丸めてビクビクと震える。中が急にキツく締まってカカシは動きを止めた。
「あ、あっ、っ、は、ぁっ……」
こんなにきついと奥に入れられない。声を漏らしながら短く息をするサスケの顔を伺うが、下を向いていてんからない。
「大丈夫?続けられる?」
「っ待っ、て、っ!うご、くな、ぁっ、」
発情のフェロモンの中に、独特な匂いを感じて抱きしめていた手をサスケのそれに向ける。ぬるっとした触感と力の抜けたようなそれの柔らかさに、射精したのだと分かった。
交尾以外で射精……なんてあるんだ。
一年前は夢中でよく考えていなかったけど、一年前も同じような事があったような気がする。
サスケの呼吸が落ち着いてきて中の締め付けが少しずつ緩んでいく。
カカシはどう言葉をかけるのが正解なのかわからず、うなじを舐めながらサスケの中の力が緩むのを待った。
サスケ自身も、自分に何が起きたのかよく分かっていなかった。ただ、今更に奥を突かれたらきっとこの感覚は止まらないと本能で感じ取って、それが落ち着くのを待った。
何とも言えない充足感が多幸感を引き連れて全身に満ちていくようなこの感覚は、経験をした事がないけど本能が知っている。交尾をしたときのそれだ。でも、何故?される方もこんな感覚を味わうものなのか?
幼い日に見たネコ同士の交尾を思い出していた。メスネコは……オスを誘うような声は出すけど、いざ交尾となったときには悲鳴のような声を出して暴れながら逃げていた。こんな感覚を味わうのならそんなことにはならないはずなのに。
オス同士とい何も産まないこの行為だからこそこんな感覚を味合わせているのだとしたら皮肉だ。散々本能を研ぎ澄ませるように言われ続けたのに俺たちは……。
「んぁっ、あっ、ああっ!」
カカシが律動を再開させる、その動きはやっぱり強烈な快感を生み出して何も考えられなくなっていく。動物として間違った事をしているのに、サカリを終わらせるためだけの何の生産性もない行為なのに、むしろその背徳感が産んでいるのだろうか。この強烈な快感を。
「っ〜!うぁっ、んっ!あっ、あ、ああっ!」
もう奥に届いてるのに、これをやめてしまうのが、この感覚が終わってしまうのが惜しかった。でもちゃんと本来やるべきことを、するべきだ……!
カカシは、その奥にある引っ掛かりの更に奥に、その先端を押し込んだ。
「っああ゛あ゛!!!」
ぎゅうっとサスケの身体を抱きしめながら、ゆっくり中に押し込んでは少し引いて、その中に存分に精液を流し込む。ゆっくりと時間をかけて、根本が膨らみその先端が中で固定できた事を確認すると、サスケの身体から離れてぐるりと姿勢を変えて向き合うかたちになった。
少しだけ目を開いたサスケが、落ち着かない息をしながらカカシの背に手を伸ばす。
カカシもサスケの身体に寄りかかって、その細い身体を抱きしめた。
このまま何十分かは離れない。離れようとしてもそこがしっかりと蓋をしているから離れる事はできない。イヌにとっての交尾はこの中に入ってからの時間だ。絶対に自分の子を産ませるための大切な時間。カカシとサスケにとっては何の意味もない時間。
「……カカシ、イヌは……いつもこんな交尾なのか……?」
「いや……だいぶ、違う……うまく言えないんだけど……。」
「ネコもだ……あんたなら知ってるだろうけど、全然違う。こんなにもオスのことを感じること、ないと思う。」
「気持ちよかった、よね……?交尾って、そんなんじゃないんだよね、本当に、孕ませるためのもので……。」
「俺たちがしてるのは、交尾とは違うのかもな……。」
目的がまず違う、種族も違う、やり方も違う、サスケの言うように、オスであるサスケとのこの行為は、多分交尾とは違う。
でも、交尾のように何度でもしたいと感じる。
オスとしての本能がそう思わせるのか、それとも全く別の意味でそう感じるのか。わからない、と思ってしまうのは、抱きしめているサスケがまるでつがいのように大切な人だと感じているから。
サスケがカカシにつがいになりたいと言ったからそう感じるのだろうか。
それともカカシ自身がサスケを大切だと思ってきたからだろうか。
オス同士がつがいになるなんてあり得ない、何も産まない、無意味な関係だ。あまりにも本能に反している。
けれどさっきまでの体験で、理性でも本能でもない、無意味なことにこそ、もしかしたら見出すべき価値が存在するんじゃないかと思い始めていた。
だとしたらこの考えは里に、忍としての生き方に反している。皆が皆無意味なことに関心を持ってそれに傾倒していったら忍の隠れ里はきっと機能しなくなる。
……むしろ、それが分かっているからこそしつこく繰り返し本能に従えと言い続けているのだろうか。
本能的である事がその種族らしさを引き出すのだと学び聞かされてきた。それはそれで立派な事だと思う。
だけど24時間365日忍でいるわけじゃない。家で過ごす余暇、趣味のようなものに時間を費やすこともある。……そうだ、趣味もまた何も産まない無意味な行為だ。でもそれをすることによって疲れていた気力が回復することだってある。
どんなに無意味な行為だろうが、何かしらの役に立っているからして、カカシとサスケがさっきまで夢中になっていたそれだって、言いようのない充足感を産んでいる。
無意味なんかじゃない、一見無意味であっても何かの意味がある。オス同士がつがいになることだって無意味に思えるけど、ちゃんと意味のある何かに繋がるはずだ。
「温かい……肌のふれあいが心地良いなんて、知らなかった……。」
ゴロゴロと、静かに喉を鳴らすサスケの匂いを鼻腔いっぱいに吸い込む。
こんなにも間近で誰かの匂いを嗅ぐことは今までになかった。そしてその匂いを愛おしいと感じる事も、今までに経験がない。
きっと俺たちの知らないものがもっとたくさんある。それを最初に見つけるときに、この人に隣にいて欲しい。
そう思うのも、本能とはまるで関係のない、何も産まない事だけれど、きっと、だからこそ大切にしなければいけないものだと思う。
「サスケ……俺たち、つがいになろう。」


