攻略対象の難易度がSSS+でした
教育
屋敷の中で柱間はひとり腕を組み考え込んでいた。
マダラがオレを単なる友人以上の存在として認識してくれているのはわかった。しかし恋愛という概念を教えた上でオレの気持ちは恋愛における好きであると伝えるためにはどう段階を踏むのが正解なのか……。
幸いなのはマダラが勉強熱心な事だ、恋愛の指南書を渡せば恋愛の概念は理解が及ぶかもしれない。ただしそれをオレの気持ちと接続するのにまた苦労するのは目に見えている。マダラの中ではオレは大切な友人枠で、新たに恋愛枠を作ったとてオレをその対象と見てくれるかはまた別の次元の問題だ。
……とりあえず今やるべきはマダラに恋愛を覚えてもらう事ぞ。そしてマダラに恋愛について学んでもらうには指南書では知識として追加されるだけの可能性が高い、ここで用いるべきは恋愛小説の類だろう。
明日朝一番に書店に行ってみるか……!
店主から売れている恋愛小説を聞いて手に入れ、朝さっそくマダラに渡した。
「これは恋愛の本でな、オレのおすすめだ。是非読んでくれ。」
「恋愛……? まあ、柱間が勧めるならば余程ためになる本なのだろう。よく読んでおく。」
ためになるという言葉に一抹の不安を感じたが、内容は恋愛小説だ。きっとこれを読んでくれれば恋愛とは何たるかを理解してくれるだろう。
火影の執務室に向かいながら、読み終えたマダラがどんな感想を言ってくれるのかが楽しみでその歩みも軽かった。
昼休みの時間になり腕をぐっと上に伸ばす。今日も今日とて忙しいがマダラの感想が楽しみで、昼食も本当はマダラと食べたかったがゆっくり読書する時間も昼ぐらいしかないだろう、とこの日は誘いに行かないことにした。
街に出て店を眺めていると向かいからマダラが歩いてくるのが見えて、待ち合わせたわけでもないのに会えるだなんてやはりオレ達は運命によって……と考えかけたが思えば毎日自分からマダラに昼食を一緒に、と誘いに行っていたわけでもしかしたら今日は誘いがないからマダラの方から誘いに来てくれたのかもしれない。それはそれで嬉しいものだ。
「マダラ、こんな場所で出会えるとはな!」
「お前いつもこの通りで飯屋を探すだろう、探すまでもなくいただけだ。」
何だかんだと一緒に丼物屋に入ってそれぞれ注文する。
「今朝の本、なかなか興味深いな。今までに読んだことがないものだ。小説とやらも悪くない。」
……! もう読んでいる!!
「そうだろう、特に恋愛小説はの、胸がキュンとしたりハラハラしたりと面白くてな!」
「……胸がきゅん? また謎のオノマトペだな。まあいい。人心を掌握するにはいかに相手の心理を読むかが重要だという事はまだ途中だが深い理解を得た。」
……ん? 人心を掌握? ああ、きっと相手に好きになってもらう事をマダラなりの語彙で言ったのだろう。
「想いが通じ合った瞬間などは主人公と一緒に喜びたくなるぞ、読み終えたら感想を教えてくれ!」
「想いが通じ合った……? ああ、意図が伝わり理解を得られた時のことだな。確かにこのように誤解が多く生じる場合、己の伝え方や伝える技術を内省の上で相手の心理状態に合わせた適切な働きかけをした結果理解を得られるというのはある種の喜びは感じるだろうな。」
な、内容的には多分間違っていない、だからマダラの語彙で言うとこうなるだけで内容はきちんと頭に入っているはずだ。
そこに丼が差し出されて、ふたりで割り箸を割った。
食事を共にできたのは素直に嬉しいがマダラの本の読み方は独特な気がしてならない。小説を読んだ感想がああなるものだろうか。いや、小説自体を読むのが恐らく初めてなのだろう、既存の語彙でそれを感想として語るからあのような言葉になっただけだ、多分。
中身をざっと見たがちゃんとした大人の男女の恋愛小説だった。普通に読んでくれれば恋愛とはこういうものだと理解を深めてくれるはずだ。……普通に読んでくれれば。……普通に読んでくれる……よな?
「兄者、呆けておらんと仕事しろ」
扉間の冷たい視線に気がついて、慌てて筆を握った。火影というのも大変なものだ。
帰り道、屋敷に向かって歩いていると屋敷の前に誰かがいることに気がついた。いやこのチャクラ、マダラだ!
駆け寄ったら朝渡した本を差し出された。うん? もう読破したのか?
「興味深くためになった。今後もこういう勧めの本があったら紹介してくれ。」
「マダラの感想が聞きたいっ、屋敷に入ってくれ。」
マダラの腕を引いて屋敷の自室まで引っ張って行った。
「して、興味深かったのはどういう点ぞ?」
「そうだな、まずは言葉を額面通りに受け取られるとは限らない、ということは各所に見られた。誤解される可能性がある前提で相手に正確に伝わっているか確認することの重要性が学べた。」
うん? 間違った事は言っていないがなんぞこの違和感は。
「う、うむ、……感情や心理的な側面はどうだった?」
「相手の心理状態を掌握しないまま感情で語っても伝えたい事が十分に伝わらないのは興味深い示唆だ。時には相手の事を深く考慮しどういう言葉なら伝わるのかに関してはよく検討した上で発言すべきだな、感情的にならない事が肝要だ。一族の長として時に言葉を慎重に選ぶべきと学べた。」
待て、一族の長として? どうしてその話が出てくる?
「お、想いが通じ合った場面はどうだった?」
「男女が恋仲になるとは思いの外障害が大きいのだということがよくわかった。同性同士ならすんなり行くことも男女では思考の方向性が基本的に異なっており、仲良くしたいというだけのことですら理解に至るまでかなりの文量を割いていたのは興味深い。」
おや? 恋愛の本を渡したのに恋愛という単語が出てこんのは何故だ? 恋仲は合っている、うむ。仲良くしたいとは……まさかマダラの基準となっている恋仲という関係性を恋愛に更新する事が出来ていない!?
「な、なるほど、マダラはそのように読み解いたか!」
確かに想いが通じ合ったところでこの小説、終わっておる。つまるところマダラに必要なのは恋仲に至るまでの恋愛ではなく、恋仲に至った後に恋人同士として睦み合う場面が含まれる小説、ということか……!!
オレとて馬鹿ではない、マダラが恋愛とは何たるかを理解するには段階が必要なようだ。次に打つべき手はマダラの中の「恋仲」という定義を一般のそれに近づけることぞ……!
「総じて一組の男女における認識の齟齬や言葉選びによる誤解、言葉をかける側、受け取る側の心理状態を考慮すべき、という実例を深掘りしているという点で今までにない知見が得られた。俺自身こういった書物に触れる機会がなくためになった。」
「それは、……何よりだ!」
ともかくこの一冊は決して無駄になったわけではない、男女において、ではなく男同士、つまりオレとマダラの間にも認識の齟齬や誤解が生じかねないという学びは得てくれたわけだから今後そういうやりとりをした時にこの本のことがはたと頭に浮かぶはずだ。
「ああ、ありがとう柱間。」
他の者には決して見せない柔らかな笑顔に思わず胸がキュンとしてしまう。そういうところも好きなのに、好きなのに正確に伝わらないジレンマ……!
「マダラが好きだからこそだ、この本が気に入ったならば明日もまた別の本を渡そう。」
「悪いな、俺も柱間のことは好きだが……俺ばかりが本を借りていては悪い。明日は俺も何か持って行こう。」
! マダラがオレに貸してくれる本とは……? 真面目なマダラのことだ、兵法とか統治とかそういうやつかもしれんからオレもしっかりと学ばねばならんやつだな、きっと。
「本の貸しあいとは、なんぞ面白くなってきたな。」
「そうだな、お前もぜひ感想を聞かせてくれ。柱間と語り合うのは好きだ。」
こんなにも「好き」が飛び交っているというのに……! マダラは特別な友情としか思っていない……。いやめげるな柱間! オレは執念深い! やり切ってみせるぞ……!
翌日。
「柱間、今日の本も興味深かった。不潔な行為をしてでも相手を大切にするとはまるで赤子の世話をする母親のようだ。恋仲とはときに母親の愛情のように相手を慈しむ事があるのだな。」
……惜しい! だがいい線は行っている!!
その翌日。
「柱間、また趣旨の違う本だったな。特に興味深かったのは抱きしめることで生じる心理面の変化について、脳から発生する神経伝達物質が要因となる事だが、これを抱きしめる以外の方法で発生させる事ができれば戦から戻った者への手当てとして有効だと思わんか。」
戦に話行っちゃった! でも抱きしめる事の大切さは伝わったはず!
更にその翌日。
「すまない柱間、この本は知らん用語が多すぎて何が書いてあるのかよくわからなかった。ひとつずつ調べてから改めて読み直すから時間をくれ。」
「ちょい待ち、どうやって調べるのだ」
「一族の者に聞いて」
「それはやめて」
くぅっ……段階を上げていきエロ小説に突入したのはまだ早かった……! 思えばマダラはまぐわうことすら知らなかったわけで、最初の本では男色についてしか書かれていなかったから男女のそれはまだマダラの知らない世界だった……。
「何が駄目なんだ? これは秘密でもなんでもない市販の本じゃねえか。」
「あーと……これはだな、何人もに聞く必要はない、一人に聞けば十分にわかる。で、一人ならばオレが教える、で構わんだろう?」
「……なるほど、そういうことか。……つまり柱間は俺が無知だということを一族の者に露見しないように配慮してくれていると、いう認識で合っているか?」
オレは赤べこのように首を縦に振った。どうやらここ数日の恋愛小説でマダラもオレの言いたいことを察する能力が多少なり上がっているようだ。
元来優秀なのだから本の知識を実践に移すのも早いということだろう。それは知識さえ正確に身につけてくれればそのあとは早い、ということでもある。
半紙をいくつか机に置き、男女の身体をそれぞれに描く。
「用語がわからんという話だったな、図の上に書いていくからわからんかった単語を教えてくれ。」
何故オレがうちはの長に性教育を……というか長がこの様子でうちはの者達はどうやって子作りを……?それともうちはにしか存在しない専門用語とかがあるのだろうか……。
「そうだな、本のはじめから順にいくぞ。まずは"たわわ"だ。」
たわわといえばたわわだろう……!!
え、もしかして改めて説明しろと言われると意外と難しいものが多いのか?
「それは女性の乳房が大きいことを形容する言葉のひとつで、農作物における"たわわに実る"と意味合いとしては同じだ。」
「なるほど、では次だ。"男根"」
……落ち着け、魔羅の事を陰茎と呼んだマダラだ、世俗的な言葉に触れないまま育ったのだ多分……、そんなことも知らんのかなどと態度に出してはならん……。
「……陰茎のことを表す言葉だ、他にも男の象徴、魔羅、肉棒など様々な呼び方がある。名前だけでなく"硬くて熱いそれ"などと濁した表現がされる場合もある。」
「ふむ? では女の場合も性器には様々な呼称があるのか?」
「男ほどではないがそうだの、まあ、それはそのページになったら改めて言ってくれ。」
「では次だ。……」
二人の夜は斯様にして更けていった。
翌朝、マダラはスッキリとした顔でびっしりと色々書かれた半紙を手に柱間の屋敷を出た。
「では改めてこの本を読むとする、夜通しすまなかったな。だが助かった!」
「マダラ、一応その紙は他の人に見られんように小さく畳んでくれんか……?」
「ああ……そうだな、俺が無知だと晒すようなものだ。柱間、ありがとう。」
ふわりと優しい笑顔をこの場面で使ってくるのは反則ぞ……!!
「また……感想を聞かせてくれ。」
さあ、エロ小説用語を完璧に覚えたマダラがエロ小説を読み終えた時にいったい何を思うのか……想像もつかないが座して待つのみ……!
休日であるその日柱間はソワソワしてならなかった。庭に出て庭木を手入れしてみたり、詰将棋をしてみたり、鍛錬をしてみたり、何をしてもマダラがエロ小説にどんな反応を示すのかが気になって仕方がない。
もうすぐ夕方か、という時にあの本を持ったマダラが屋敷にやってきた。
「よく来た、まあ、上がってくれ。いつもの部屋だ。」
「ああ、いつもすまんな。」
部屋に座り向かい合うとマダラは本を机の上に置いた。
「まず聞きたいが、これが一般民衆の性的な行為に関する認識を書き表した本、というのは事実か?」
「そうだの、マダラはあまりそういうものに触れてこなかったようだがこれは極めて一般的な性交渉についての認識が書かれた本であるのは間違いない。」

