攻略対象の難易度がSSS+でした
真相
この本は朝貸して昼には手元に戻ってきていたはずで、その後は執務机の奥の方に入れてあった。誰かが読んでいるはずがない。マダラに渡した時にはじめて表紙をこの紙で包んだから端が擦り切れたのはその後のこと……あの日マダラから受け取ったこの本はどんな状態だった? マダラの話を聞くだけで本はろくに見ていなかった。
しかしマダラは1日に10冊の小説を読んだと言っていた。本を読む早さは常人のそれよりもかなり早い。まさかあの午前中に何度も繰り返し読んだのか……? オレが、まぐわいたいと……言ったから?
開き癖がついたページを閉じる。
……マダラのところに行かなければ。
風呂敷に本を包んで執務棟を出た。
あの昼の接吻は。
あのページだけ開き癖がつくほど読まれていたのは。
既存の言葉では表せないというオレとマダラの関係とは。
……マダラの声を、マダラが伝えたい事を、マダラの気持ちをもっとオレは聞くべきだった。
あれこれと本を読ませたことは間違いではなかったが、しかしオレはあまりに自分の中の恋仲像に固執しすぎていた。そんな自分が恥ずかしい。
マダラはいつもオレに笑いかけオレを気にかけオレに対して特別な存在だと言い続けていたのに、その意味をろくに考えずマダラから色恋の言葉を引き出そうとばかり考えていた。
マダラはオレのためにまぐわいの本を肩がゴリゴリになるまで読んでいたのにオレは一体マダラに何をした。
屋敷の敷地に入ると玄関の扉が開く。少し嬉しそうに顔を綻ばせたマダラが「俺の部屋に」と先導する。
その後ろ姿を抱きしめたい……ん? マダラは背後に立たれるのを嫌がっていたはずなのに、いつからかこうして後ろをついて歩くようになった。
マダラが背後を克服したのか、それともオレだからなのか。これもマダラの口からきちんと聞かなければ。
「随分と色々持ってきてくれたな、読むのが楽しみだ。」
床に置いた風呂敷を見てマダラは顎に指を添える。聞きたいことが山ほどあるのに何から聞いたらいいのかわからない。でもこれだけは一番にやると決めていた。
膝をつき、座ろうとするマダラの肩を抱きしめる。
「ああ……マダラとこうしたかった……。」
「なんだ、また幼子のようだな。」
「……マダラの前では幼子も同然ぞ。」
「疲れてるのか? ……よしよし。」
背中をポン、ポンと叩かれる。その力加減の優しさに涙が出そうになる。
「言いたいことと聞きたいことがあるんぞ……。」
「どっちから言いたい?」
「マダラはどちらがいい。」
「……なら聞きたいことから聞こうか。」
今気づいてしまった。マダラは自分も喋るがオレのことをよく聞いてくれる。オレがどうしたいのかを聞いてくれている。……抱きしめる腕に力がこもる。
「……色々ありすぎるんぞ……時系列で行くからな。まず最初に貸した男色の本、あれをマダラは何度読んだ?」
「何度……数えてはいないが、単に何度もというよりは重要そうなページを重点的に読んだ、というところだ。」
「……開き癖のあるページがあったのは……そこを何度も読んだのか。」
「開き癖……? ああ、もしかして洗浄のページか。あれのページは文鎮で錘をつけて開いた状態で読みながら実際に試したからだろう。……試した結果お前の重要な器官に危険が及ぶ可能性が高いと判断した。」
た、試し……? あれを? どこで……!?
「それはその、この屋敷でか? それとも別の場所……?」
「屋敷の中に決まってんだろ、外にそんな設備があって他人に見られないような場所はない。」
あ、よかった……。
「……それは安心した。オレのために真面目に読んでくれていたのだな、ただの知識としてではなく、オレが言ったことを……。」
「以前も言ったが柱間の望みは出来るだけ叶えたいからな。だが何でもというわけにはいかん。何も知らぬまままぐわって柱間が病気になってしまったら俺の責任だ。」
オレは単にマダラとそういう仲になりたいばかりだったのに、マダラはそこまでして、そこまで考えていたなんて。
嬉しいのに胸が痛む。すごく嬉しいのにそこまでしてくれていたことが。オレの望みを叶えたいという一心で。
「待たせてしまったが、今日柱間が持ってきてくれた本を読めば俺も柱間の隣に立てるだろう。……どうした?」
「……まぐわいとは恋仲同士がするものぞ、オレとマダラは恋仲のようではあるが違うのだろう。……だから知識を身につけたとて、無理にしなくとも良いんぞ?」
あんなにもマダラとしたかったのに何を言っておるんだオレは。マダラもオレのことを好きで、だからこうして学んでくれているのに。単なる恋仲よりずっとオレを大切に想ってくれているのに。
「……おい、柱間。」
けどマダラのそれは性愛の好きではない。だからそこまでして貰うのは違う。ちゃんと互いにそういう意味で好きにならなければ。
「柱間聞いているか? 俺は何度となくお前を好きだと言っただろう。男女の恋仲のそれではないのは確かだ、俺たちは男女ではない。だが恋仲のようにとは言ってあるはずだ。」
……マダラは何が言いたいのだ? 恋仲のように、ならば恋仲とは違う。ならば何だというのだ。
「それはどういう意味ぞ、恋仲のようにとはマダラにとってどういう意味になる。」
「……悪いがそれをどう言い表すのかは知らん。だが文脈で理解してくれ。」
マダラの言葉の文脈を理解できていなかったから今なわけで……!! うう、消化不良だが次ぞ。
「オレに対するその好きとか愛というのは、それによってマダラはオレと何をしたい、というものなんぞ。以前はオレとまた戦いたいようなことを言っておったがそれだけか?」
「何度も言ったし実践もしたと思うが……柱間とこれからも共に居たいし新しい体験を共にしたい、柱間の望みを叶えたい。だからまぐわいもきちんと理解した上でやりたい。」
「その……共に新しい体験の中にまぐわいも含まれておるのか、それともオレがしたいと言ったからか?」
「両方だ。」
「……理解した結果オレ達の関係でするものではないと分かったとしてもか?」
「何でそんな話になる? さっきもまぐわいとはどうのと言っていたが、まぐわうことに俺達の関係が何か関与するのか?」
ああーーそうだマダラは変なエロ本を多量に読んだせいでまぐわいは好きなもの同士がするものという重要な知識が抜け落ちてしまっておるから恋仲とか関係なくオレがしたいと言えば応じるという状況に今なっておるわけか! 把握した!!
……把握したは良いがこのままだとマダラのまぐわいに関する知識をまずは更新しなければオレの理想とするまぐわいにならん可能性がある……。
しかしマダラがオレを好きなのは事実だというかこれからも共に居たいというのはそれはいわゆる愛の告白と同等の言葉ぞ。一生添い遂げたいと同じ意味でも捉えられる。つまりマダラの中には伴侶のような、そして恋仲のような「好き」は存在する。
だがその「のような」があまりに曖昧なためにオレとマダラの間で認識のすり合わせも必要……だが文脈から理解してくれと言われてしまった。そこをオレの都合のいいように解釈はできるがその解釈が違っていた場合にまた齟齬が発生する。
マダラの言っている意図をもっと正確に理解したいのに「のように」が難敵過ぎる……!
「これからも共に居たいと言ったな? それは要するにオレと生活を共にしたい、まで含んだ共に居たいという解釈で良いのか?」
「それが出来たら一番だが互いに立場もあるだろう。」
!!
「いや互いに共に居たいのであれば立場などどうでも良い、互いにそう思っているならばぜひそれはやるべきぞ! どちらの屋敷か、もしくはオレ達が共に生活するための屋敷を新たに建てるかは置いておいて!」
「そうだな……あまりうちはの者と離れた場所で生活をするのは長としては避けたい。中間ぐらいの場所に新たに建てるのであれば現実的には問題なさそうだが。」
同棲……っ!! 同棲ぞ! これは間違いなくどうせ……待て、もしかしたら単なる同居でそこまで深く考えていない可能性はまだ捨てきれん。
「共に住むとしたらマダラはどんな生活がいい。寝る部屋は同じか? 食事も共に? どのように共に過ごす?」
「柱間と共に住めるとなったら……そりゃあいつでも手合わせ」
「いやそっちではなく」
「手合わせ以外か? ……ふむ、寝る場所は同じ部屋がいいな、目が覚めた時隣に柱間がいたら良いと思う。先日泊めた時にそれは思った。飯を食うのも一人では味気ない。出来たら共に食いながら話でもしたい。」
限りなく同棲に近い「共に」だこれは……!!
「では家を建てる用地を探さねばな! 改めてそこは詰めていこう。」
共に居たいはほぼ同棲したいと同じ、新しい体験を共に、これにはまぐわいも含まれる。……次の問題ぞ。
「本を……いくつか持ってきたが、その内の一冊を今読んでみてくれんか。」
抱きしめていたマダラから離れて風呂敷の結び目を解く。
「赤ちゃんが産まれるまで〜十月十日の過ごし方〜」
夫婦が愛し合うところから始まるこの本、赤子という存在が夫婦の愛の結晶だと書かれている。夫婦の間に愛があり、その結晶が赤子であって、戦時中のように新たな兵力にするために子を産む時代ではなく愛の結晶たる子を共に育む平和な世における子育てを指南する本。
マダラに差し出すと興味深そうに表紙を見る。
「ほう、産まれるまでに特化した育児本か。どれ。」
渡すと、マダラは胡座をかいて本のページを次々とめくっていく。え、本読むの早い……! いや一日10冊読んだくらいだ、うむ、早いのはわかる。が、目の前でその様を見ると凄いな……。それでいて内容をしっかり理解しているのだから大したものだ。
ものの数分で読み終えたマダラがまた最初のページに戻る。あれ、二回読むのか? と思ったら、一番最初のまぐわいについてのページをオレに見せた。
「つまり柱間が言いたいのは、夫婦はただ共同で子を育てる同志ではなく、その間には愛があり、愛があるためにまぐわいをして子を作ると、そういう事か。」
オレは赤べこのように首を縦に振る。
「で、まぐわいの件で柱間が関係がどうのと言っていたのは、この愛とまぐわいの関係性からだな。柱間は愛がある関係性においてまぐわいを行う事を重要と考えている。合っているか。」
マダラの理解力の早さがオレの理想とする場面で発揮されたァーー!
「そうぞ、その通りだ。オレ達は男同士だから子は産めんが、まぐわいについては本来愛するもの同士、好きな者同士が愛情を確かめ合うためにするものぞ。官能小説を色々読んでおったが互いに同意のない愛のないまぐわいは本来すべきではない。」
しかし正しい理解に至ったとして、ならばオレとの関係でまぐわうのはすべきではないに着地してしまったら……その時は同棲生活の中でマダラとの愛を育みその時を待つ……! そうすれば互いに睦み合うまぐわいになるはずぞ!
「なるほど、柱間がどんな関係なのかを気にする理由はそこか。愛するもの同士、この場合の愛は母子のそれとは違うな。もっと対等な関係だ。俺達のように。」
え、今何と言った?
「それはつまりマダラは、この本に書かれている夫婦と同じ性質の愛がオレとマダラの間にあると、そう理解しているで合っておるか?」
「違うのか?」
「違わないその通りだオレ達の間には深い愛があるとオレも思う間違いない!」
「ならばここは満たせる、つまり柱間が心配していた関係がどうのは解決したな?」
オレは赤べこのように首を縦に振った。
これはもしかしたら、もしかしたらマダラとまぐわう未来がもうすぐそこに……!!?
「よし、次だ。あと俺に聞きたいことは何がある。」
あ、話の途中だった。
このやり取りでマダラの考える愛の定義ははっきりした。あと残っている聞きたいことはただひとつだけぞ。
「今日の昼、オレの勘違いでなければ別れ際にマダラはオレに接吻をした……よな? あれの真意を教えてくれ。」
「真意と言われても……お前から借りた小説の真似事を試しにしてみただけだが。解釈を間違えていたか?」
どの小説!?
「というと……小説のどの場面を真似たのだ?」
「恋仲の男が別れ際に女にした行為だ。」
えっそれは……。
胸がドッドッドッと早鐘を打ち始める。
「恋仲の者がしたことを真似した……? オレ達は恋仲ではないと……。」
「恋仲のようだとは言っておるだろうが。男女と男男という違いはあれど類似した関係性であるのは変わらんだろう。ただ男男の場合にどうするのか、今日試しに真似てやってみた。あと男男の場合にその関係をどう呼ぶのかも俺は知らんが。」
!!
「ちょい待ち、つまり、マダラの言う"〜のよう"、というのは、その関係性を指し示す言葉がわからんだけでそれと類似または同等である、という意味だったということなのか!?」
「ん? 伝わっていなかったのか。どうも男同士でも言葉によるやり取りは正確に伝わらんことが多々あるようだな……。」

