もういちど

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創設期,成人向,長編,原作軸,完結済みエロ描写有,オリジナル設定有,シリアス,ほのぼの,平和IF

敗者

 今思えば、あの時柱間を止めようとしなければよかった。柱間がクナイひとつで死ぬわけがない。それなのに「もしかしたら」が頭をよぎった。この男が万が一死んでしまっては、あの日夢見た里は絶対に実現しない。その柱間の夢を、俺たちの夢を、柱間を止めなければもしかしたら実現しないかもしれない。その思いが柱間の手を掴んでいた。
「お前のはらわたは……見えた。」
 それは柱間が自死を偽装している可能性まで見据えた上で、この男は俺と手を結ぶためなら何でもやるという強い信念を見続けてきたからでもあり……そして俺が柱間という男に負けて地面に背をついた立場だからでもあった。
 表向きは対等な同盟関係、実質は里の中枢を千手が治めており、うちはは敗軍の集まり。
 柱間だけがうちはまでも気に掛けたが扉間を筆頭として「負けた」うちはが堂々と里の中を歩き回るのを内心良しとしていないのは明らかだった。
「なあ、マダラ。俺の屋敷で酒でも呑まんか。」
 そう言いながら柱間は何かと屋敷に俺を呼びたがる。他愛のない話をしながら、柱間に負けた俺はその誘いを断らない。俺の命は柱間が握っているも同じだった。ただの友として語りたいと無邪気に話す柱間に時折苛立ちを覚える。イズナを失い戦にも負けた俺はお前と対等な友になんてもうなれねえよ。その思いを秘めたまま杯に注がれる酒を煽る。畳の上に置いた手に、柱間の手が重なった。
「マダラ、俺はお前が好きだ。……こんなことを言う俺は嫌か?」
 ……こいつは、男色の気があったのか。俺よりも強いのだから押し倒してしまえばいいものを。
「……嫌だと言うと思うか?」
 柱間の欲しがりそうな答えをくれてやる。その言葉には、柱間の言うことを俺は断れないという意味を含ませて。しかし柱間は都合のいいように解釈した。
「本当か? マダラを抱きたいと言ってもか。」
 やはり男色か。……この男に負けた俺に相応しいじゃねえか。柱間になら何でもくれてやる。
「構わねえよ。」
 杯をお盆の上に戻すと顔を寄せられて唇が重なる。少し紅潮した柱間の頬。純愛だとでも言いたげに。
 そのまま畳にゆっくりと押し倒される。柱間の慰み者になる、か。……どうだって良い。弱い者は強い者に従うものだ。
「好きだ」
「愛している」
 そんな言葉で飾らなくとも良い、欲望を満たすために俺の身体を使えば。
 その日から、屋敷に呼ばれるたびに肌を合わせるようになった。

 イズナから託された眼の力で、千手を根絶やしにするつもりでいた。イズナを奪った千手を。
 しかし柱間はその力と対等に渡り合い、末に俺は柱間に負けた。柱間がそんな力を今まで使わず秘めていた、その時点でうちはの負けは決まっていた。あいつはずっと手加減をしていたという事実。敢えてそれを使わなかったのはしつこく俺に文を送り続けた理由と同じだろう。戦を止めて和睦を。その為にはうちはを殲滅するわけにはいかない。だからあの力を使わずに手加減をしてきたのに、いざ俺に勝った時、柱間は自分の首にクナイを突きつけた。
 お前の作戦通りに事が進んでさぞ気分が良いだろう。
 お前に同調するふりをしながら、俺はずっと手加減されていたことを、イズナから託された力が柱間に及ばなかったことを、イズナはもう戻ってこないことを、ずっと根に持ちながら勝者である柱間の言葉に従い続けた。
「お前も同じ思いを抱えていたか」
 嬉しそうに笑う柱間は俺のそんなはらわたに気づきもしない。
 俺に勝った俺よりも強い柱間の言うことに従っているだけなどと、馬鹿なこいつは気づきもしない。
 何を言ったところでお前の声が真に俺に届くことはない。お前と共に過ごせば過ごすほど、俺はお前に敗れた者だという思いが強くなるだけだ。
 肌を合わせたところで、それは変わらない。

 珍しい客が来たものだと思ったら、口にしたのは馬鹿みたいなことだった。
「兄者との関係を絶ってくれ。」
「貴様の言うことなど聞くと思ったか?」
 朝っぱらから何事かと思えば。まあ事情はわかる。柱間に何を言っても無駄だったからこちらに飛び火したのだろう。
「兄者は一族の長として子を残す責務がある。しかしお前と睦び合う事に夢中で女になど目もくれん。」
「繰り返すが、貴様の話など聞かん。俺は柱間には負けたが千手に負けたつもりはない。」
 扉間は柱間と違って聡い。その言葉で察したらしい。
「……それは、お前には兄者への情はないと考えて差し支えないか。お前が兄者に負けたから従っていると。」
「分析は貴様の得意分野だろう、分かったらさっさと帰れ。」
「……この平和な世に、まだ戦の考えを捨てないのか。」
 平和か、確かに今は平和だ。しかしその平和は俺の敗北の上にある。
「帰れと言ったはずだが。」
 殺気を向けると扉間は眉間に皺を寄せる。武具は持ってきていないらしい。……この面を見ていると苛々する。これ以上居座るならば殺す。イズナを死至らしめたこの男には、平和だろうが関係なく死の絶望を味合わせてやりたいと常々思っていた。
「……わかった、兄者にはその旨言い含めておく。」
 扉間はスッとその場から消えた。柱間に伝えに行くのだろう。俺が柱間の相手をしているのは愛なんかではないと。柱間に負けたから従っているだけだと。聞いたらあいつはどんな顔をするだろうか。
 しばらくして、ドタバタと足音を隠さないまま柱間が走ってきた。その顔を見る機会は思っていたよりも早く訪れた。息を切らしながら玄関の戸を叩かれ開けてやるなり俺の胸元を掴む。
「マダラ、俺を好きではなかったと、いうのは、本当か!?」
 柱間の望む答えを返してやれば、わざわざ俺の元へ来た扉間が報われないだろう。……ならば真実を突きつけてやるか。
「そうだ。お前は俺の背に土をつけた。だからお前のしたい事をさせていただけで、そういう感情は持ち合わせていない。」
 柱間の顔が悔しそうに歪む。
「愛し合っていたのも全て演技であったと……っ!?」
「お前は夢ばかり見過ぎで現実は見えちゃいなかったな。俺がどんな思いでいるのか想像した事が一度でもあったか? ……願い通りに夢が叶って良かったな。だが、それは夢に過ぎん。……もう終わりだ。」
 愛し合う……都合のいい言葉だ。柱間のそれは一方的な感情で俺にとってはどうでもいい。
「俺はやっとマダラと同じ場所に立てたと……思っていた。戦も終わってまた友として……恋仲として一緒にいられる、と、思っていた……。」
「そいつは無理な話だ。お前が俺に勝ったからだ。俺はお前に負けた。だからこの里が出来た。そうだろう。その事実を変えられない以上、お前が勝者で俺が敗者である事も変えられん。」
 やはり柱間は自分のことしか考えていない。他人の事を慮る事はこいつには出来ないだろう。だから今の結果を招いている事もまた、想像出来ない。そういう奴だ。
「……俺は……どうすればいい……。」
「俺なんかにかまけていないで、里と一族の事をもっと考えるんだな。」
 服を握る手が弱くなり、離すとだらんと下に落ちた。
「……マダラは強い……、敗者などと……言わないでくれ。俺はそんな風には……。」
「だが俺はお前に負けた。お前の方が強い。そうだろう。本来あの場で死ぬべきだったところをお前が生かした。違うか。それが何を意味するかはわかるだろう。」
「そんなつもりはなかった……! 対等な同盟関係を結んだはずだ。勝ち負けなどもう関係ないではないか!」
「勝ったお前だからそう言えるんだ。」
 柱間は右手で頭をおさえる。何かブツブツ言いながら。……やっと諦めたか?
「理解したなら立ち去れ、今日はゆっくり休みたい。」
 玄関に柱間を残して奥の部屋に戻った。
 
 ……俺がこの里にいる限り、柱間の執着は消えないだろう。千手にとっても里にとっても良いことではない。里の中枢にいる扉間を筆頭とした千手の奴等もうちはを危険視している。それであれば……。
 翌週のうちはの重役会議で、話し合った。対等な同盟関係と言いつつ里を仕切っているのは千手の連中。そいつらはうちはを目の敵にしている。危険分子だと。それでもこの里に残るべきか。
 重役達はうちはの末端まで世話をしている。その声も拾っている。もう戦で消耗する生活には戻れないと。中枢がどうであれ、平和な今の里に身を置いた方がいいと。
「よく分かった。では俺の次の長を決めたい。」

 身ひとつ。
 俺は里を出た。傭兵か何かで食っていけるだろう。何しろ周辺国はまだ戦争が続いている。奴等もよく飽きないものだ。まあ、だからこそ食い扶持には困らない。
 戦の臭いがする場所へ赴いては、この武器はあの一族か、この痕跡はあの術、と当たりをつけてその依頼主にあたる国に乗り込む。
「傭兵として雇わないか。次の戦、俺一人で片付ける。」
 最初はそれでもどこかの忍の一族が背後についた。だが本当にひとりで片付けて見せたら待遇は変わった。
 柱間と比べたら蟻みたいな敵ばかり。須佐能乎を出すまでもなく皆殺しにした。正確には、2人ほど残して。
 噂が広がる。あの国に手を出したらやばいと。
 たまたま訪れたに過ぎないその国は周辺国を取り込み領地を広げていった。
 ただ、それを良しとしない勢力はやはりいるらしい。時々起こる小競り合いを片付けながら、そろそろこの国から離れるかというところで、火の国からの介入があった。
 周辺国との諍いで平和的解決をしなければ木の葉隠れの里から精鋭を向かわせると。
 当然俺に対応するよう要請が来る。しかし木の葉隠れとは争うつもりがないと断ってその国を後にした。
 そうやって色々な国を渡り歩いていると俺のことは噂になり始めた。
「うちはマダラが木の葉を離れて戦場を荒らしている」
 俺がどこの国につくかによって戦況がひっくり返るのだから戦争中の国にとっては欲しくてたまらない存在なんだろう。
 そしてその噂には、こう付け加えられるようになった。
「マダラを止められるのは木の葉隠れしかない。」
 木の葉の連中が来るとわかると俺はその国から姿をくらます。次の国へ行き戦で暴れては木の葉が追ってくる。
 俺の行き先は自然と木の葉から物理的距離がある国になっていく。
 任務を仕切っているのは扉間だろう。どこまで追いかけて来るつもりかは知らんが、俺の介入によってその国は戦勝国として戦から解放されている。つまり平和にしているのだから責められる覚えはない。
 金は十分に貰っていたが、戦場のヒリついた空気を求めて戦に介入し続けた。そうしているうちに、「五大国」が完成し、俺の戦場は小さい争いに変化していった。
 こんなもんだろう、金も十二分にある。つまらん戦には行く気にもならない。
 
 五大国を避けて、地図の端にある村に家を建てた。使用人を村人の中から雇い入れて、隠居生活が始まった。
 とはいえ大きい戦がまた始まれば、いつでも向かうつもりでいた。ただ、そんな戦は起こらなかった。
 勝ち続けても柱間とのあの一回の敗北は忘れることはない。もし次があるならその時は勝つ。
 そう思いながら隠居生活の中でも日中は鍛錬を続けた。もしかしたらあるかもしれない「次」のために。
 その村での生活は悪くなかった。幼少時を彷彿とさせるすこし貧しい暮らしは隠居の身にはちょうど良かった。
 そこで何年過ごしただろうか。
 玄関を叩く音に目が覚めて、寝衣のまま戸を開けたそこには、傘を被った柱間がひとり佇んでいた。