もういちど

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創設期,成人向,長編,原作軸,完結済みエロ描写有,オリジナル設定有,シリアス,ほのぼの,平和IF

わだかまり

 柱間は傘を取り、真剣な顔つきで俺を見つめる。
「よくここが分かったな。」
「……ああ、ずいぶん苦労した。」
「見ての通り寝起きだ、出直せ。」
「また来てもいい……と、受け取ったぞ。」
 傘に「火」の文字はない。それに木の葉から何ヶ月もかかる距離だ。……柱間は火影をやめたんだろう。そうすると今の火影は……扉間か。
 普段着に着替える。この村に来てからうちはの装束には袖を通していない。村人の一人として生活してきた。柱間はどういうつもりでここまで来たのか知らんが、どうせ木の葉に戻れとかのつまらん用事だろう。
 昼前に再び戸が叩かれる。
 開けるとやはり柱間だった。
「今度は入っても構わんか。」
「平和で穏便な話し合いならな。見ての通り、オレは隠居の身だ。」
「村の者から聞いた。何年もここに住んでいると。……戦はもう辞めたのか。」
 柱間の向こうに、覗き込んでいる村の人がいる。柱間に背を向けて下駄を脱ぎ、玄関に上がった。
「話は中でしろ。」

「聞きたいことは山ほどあるが……今は置いておこう。隠居の身と言ったな。……それは木の葉では駄目なのか。」
 茶菓子も茶もない丸いちゃぶ台の向こうにいる柱間は、最後に見たときとあまり変わらない……30代ほどに見えた。
「木の葉では駄目だからわざわざこんなところに家を建てた。分かるだろう、俺が木の葉との接触を避け続けていたことは。」
「かつての同胞と戦うつもりはないという意思表示として受け取っておった。違うのか。」
「まあ、それもあるが……里を出た俺と木の葉の連中が鉢合わせても面倒ごとにしかならん。」
「何故木の葉から遠いここを選んだのだ。そんなにも木の葉が嫌いか。それとも……嫌いなのは俺なのか?」
「好き嫌いの話じゃねえな。面倒ごとは御免だ。木の葉にいればオレは元族長の立場だ。一応同盟の当事者でもある。ここのような静かな生活はできねえだろうよ。」
 柱間の表情が、少し和らいだように見えた。嫌いではないと言われて安心したのだろうか。
「ではここに住んでいるお前はもう、うちはマダラではないと……その責から降りたという解釈でいいのか?」
「今の所はな。ここではただのマダラだ。」
「なら俺も今はただの柱間だ。……火影も辞めた。族長の座も明け渡した。若き日に河原で出会ったときと同じだ。」
「水切りでもするのか? だが今の俺に願いなどない。」
 河原で出会った頃。……懐かしいな。とんでもなく昔のように思う。ただのマダラと、ただの柱間として意見を共有して夢を語った。あの頃から柱間は夢を見続けてきて、そして叶えた。
 戦い続けた俺たちうちはは、間違っていたのだろうか。……いや、千手には多くの同胞が殺されていた。止めることなんか出来なかった。イズナをも失って、それでも戦い続けるべきだと。俺が倒れるまで、どの道戦いは続いていた。
「……なあ、マダラ。俺たち、やり直すことは出来んだろうか。」
 やり直すって、何をだ。お前がオレを好きだと言ったのも愛していると言ったのも全て覚えているというのに。ゼロからやり直すなんて不可能だ。
「友達からお願いしますってやつか? お断りだ。もうガキの頃にも戻れねえよ。そもそも、お前は木の葉を捨てられねえだろ、お前の夢の里なんだからよ。」
「友にも……もう戻れないか。」
「その内友では物足りなくなるんだろ、やめておけ。」
 図星だったのか、柱間は俯いて黙った。
 黙り込むくらいならさっさと里に戻れと言いたかったが、こんな場所まではるばる来たわけで、今夜の宿もないだろう。
 昔友だったよしみで一晩くらいなら泊めてやってもいいとは思っていた。
「……やはり、浮かれていたのは俺だけだったんだな。マダラの事をもっと考えるべきだった。……今となっては、だが。もっと早くマダラの本当の声を聞いていれば……。」
 何年も経つと多少は人も変わるらしい。あの柱間の口からそんな言葉が出るとは。随分と反省しているのが伝わるが、柱間の言う通り「今となっては」だ。時は逆方向には進まないし過去はやり直せない。
「だがお前の夢は叶ったのだろう。後悔することばかりではあるまい。」
「……後悔だらけだ。イズナを崩せばうちはは崩れると扉間が進言してきたのを……断るべきだった。戦略的には扉間は正しい。だが俺はお前が必ず守ると言った最後の弟を……殺すのを躊躇った。そうして俺が黙っている間に軍議はまとまってしまっていた。」
「……イズナを生かしていたところで戦は終わらなかった。お前ら千手の勝ちで、だから里を創設できた。イズナはお前の夢のために犠牲になったようなものだ。イズナ以外の戦死者も同じ。」
「……痛烈な言い方をしてくれるな。だがそのおかげでのちの若者達が戦わずに済む里が作れた。お前が負けてくれたおかげだ。マダラが敗者として俺を支えてくれた、おかげで……。もうこの話は止そう。」
「……そうだな。ところで昼飯時だ、もうじき使用人が飯を作りに来る。戦だの里だのの話はそいつの前ではよしてくれ。」
「……わかった。」
 立ち上がって、別室へ移った。
 柱間は何をしに来たのか。
 思い出話だけで終わるとも思えない。
 俺への執着は消えていないようだが、連れ戻すのは流石に諦めただろう。
 ……ガキの頃は確かに友だと思っていた。
 戦場に立っている時は好敵手で、負けてからは俺よりも強い男……と認識を変えた。
 好きだと言われた時もそういう処理の対象にまで落ちぶれたとしか思わずに、柱間と真剣に向き合うなんてことはしてこなかった。
 俺は敗者だからと一線を引いて俺自身の感情は一切消していた。あの里にいた時の記憶の中に良かった思い出などひとつもない。
 戸を叩く音と共にいつもの使用人が入ってくる。
「お客様も一緒ですか?」
「ああ、二人分頼む。」
 その若い男は早足で台所へ向かった。
 ふうっと息を吐いて、柱間がいる部屋に戻る。
「それで、ここまでわざわざ来たんだ。本題に入れ。何をしに来た。」
「……随分と探した。俺一人でな。一族の者も誰もこの場所のことは知らん。それは安心して欲しい。これがまずひとつ伝えたかった事だ。」
「……それで?」
「マダラと共に残りの人生を生きたい。……これが本題だ。場所はどこでもいい。マダラの好きな場所で。俺と共に暮らしてくれないか。友でも恋仲でもなくていい、ただの同居人で構わない。ただのマダラと柱間として穏やかに過ごす……これが今の俺の唯一の願いだ。」
 結局は、……執着を捨てきれず。だが柱間なりに譲歩しているつもりなんだろう。辿り着いた褒美に此方も譲歩してやるか。
「水切りで願掛けでもして来い……と言いたいところだが、この近くの川はデカいのしかない。向こう岸に届く事はないだろうな。そのお前の手の中の石、俺に届かせてみせたら考えてやる。猶予は一週間。俺がお前と共にこの家で住んでもいいと思わせてみろ。」
 柱間の目が少し開いた。喜びかけて、自分に待ったをかけたのか、口を結ぶ。
「……チャンスを与えてくれたこと、感謝する。今から一週間、で間違いないか?」
「……ああ、まずは一緒に飯でも食おう。お前の分も用意させている。」
 ずっと緊張していたらしい、柱間はふうっと肩を下げて表情が柔らかくなった。
「共に食事も久しいな、マダラがいつもどんなものを食べているのか早く知りたい。」
「土壌は良いから作物は豊かだ。山も近い。春は筍、秋は茸を採りに行くのが季節の楽しみだな。」
「そうか、茸も採れるか!」
「あぁ、好きだったな、そういえば。」
「しかし稲荷寿司に使う豆腐……大豆も取れるのか?」
「そこは残念だが、行商頼りだ。まあ、たまに食えるから良いんだ、好物ってやつは。」
 ただの柱間だと思うと、不思議と言葉が出てくる。普段ほとんど口を開かない生活をしてきたから、こんなに話をするのは何年ぶりだろうか。
 ひとりが気楽だと思っていたが、人と喋るのも悪くない。……相手が柱間だからだろうか。
 襖が開く。
「支度できましたよ!」
 顔を覗かせた使用人は、俺が笑っているのを見て驚いたのか目を丸くしていた。
「今行く。出来立てのうちに食おう、柱間。」
「そうだの、頂きに行くとしよう。」

 いつもの質素な食事だ。柱間から見たらこんなものを毎日食っているのかと思われるかもしれない。
 菜物のお浸し、米、麩だけのすまし汁、沢庵、控えめな煮魚。それをふたり分にしているからひとり分は半身。
 使用人は帰った。
 客用の箸がないことに気がついて、菜箸を持って来ようと席を立つ。台所から持ってくると、柱間は自分の箸を手に持っていた。
「……まさか持参か?」
「いや、今作った。」
 木遁でこんな器用な事も出来るとは恐れ入る。
 席に着いて手を合わせ、箸を持った。
「……よき献立だ。バランスがいい。米も進む。いつもあの者が作っておるのか。」
「ああ、家のことは全て任せている。」
「これは……例の大きい川の魚か。」
「多分そうだろうな。村の者はよく釣りか何かに行っているようだ。」
「マダラは行かんのか?」
「……あまり他の村人と親しくなるつもりはない。」
「それは……何か理由があるのか。」
「いいから今は食べろ、冷めるぞ。」
「ああ、すまんそうだな。」
 煮魚の骨を取っていたら、柱間は関係ないとばかりに箸で持ち齧り付いていた。
 ……こういう強引さがなければ夢を成す事はなかったのだろうな。
 骨とはいえ食べられないほど太いわけではない。その骨をひとつひとつ取り除きながら煮魚を少しずつ口に運び米を食べる。
 柱間にとってはその食べ方が珍しいらしかった。
「マダラは魚の骨を好かんのか?」
「ないに越した事はない。食感を損ねる。」
 その後は会話もなく、全て食べ終えて台所に食器を運んだ。
 頃合いを見計らってまた玄関の戸が開き、使用人が皿を洗い始める。
 会話もなく自然に台所に入っていくのを柱間は興味深そうに見ながら俺の後ろをついてきた。
「……後ろに立つな。」
「ああ、すまない。……まだ背後は苦手なのか。」
 先程の部屋に入って襖を閉めた。
「……苦手というよりは戦場での癖だ、背後を取ろうとする者は殺したくなる。」
 柱間が俺の背に土を付けた理由が分かったような気がした。普通なら前のめりに倒れる。互いに殺そうとしているのだから。俺が背を取られるのを嫌っているのを柱間は知っている。だから背に土が着くような倒し方を選んだのだろう。
 ……随分な余裕だ、負けたのも頷ける。柱間には勝てなかった。どう足掻こうがそれは事実で変わる事はない。
「……誤解がもしあるなら解きたいと、思ってな。」
「……誤解……?」
「俺が最後に見せた力を、マダラは温存してきたと考えていたのかもしれないと。……だがあの力をただ使うだけではマダラには勝てんかった。」
「どういう意味だ。」
「仙術チャクラというものを利用した。簡単に言えば己のチャクラに借り物のチャクラを上乗せするものだ。だがあれを使い続ける程当時使いこなしておらんかった。試したこともあまりない。長期戦になればなるほど俺が敗れる可能性の方が高かった、からこそ短期決戦に持ち込むつもりで全力を込めた。」
「……それにしてはあの日は丸一日戦っていたが。一日ごときは長期戦ではないと言いたいのか。」
「……いや、力を使いながら力の使い方を覚えたが正しい。結果として丸一日持ち堪えたが、もうここまでだというところで、これが最後だと思って全力をさらに振り絞りマダラにぶつけた。それが勝敗を決めることとなった。」
「……それが俺のチャクラが尽きさせた訳か。」
「……だから立っていて、伏しているという違いはあれど、俺にとってはあの勝負、互角だった。最後まで。ただ俺に立っているだけの力が少し残っていただけで。俺にとってマダラとの勝負は……ついていない認識でいた。だから余計にマダラの考えに思い至らなかった。すまない。」
 ……あれは一か八かの力だったのか。結果的に使いこなしているが、使い始めるまではいつ途切れるかわからない不安定なものだった……からそれまでは使わなかった。
 いつでも勝てた……わけではなかった。余裕を残していたのではなかった。
「……そうか、それなら少しは死んだ者たちも報われる。」
「マダラ自身は報われんか?」
「背に土を付けたのは変わらん、最後まで立っていた者が勝者だ。……違うか。」
「……あれでも立っているだけで必死だったのだぞ? 鎧を外して少しは楽になったが……。」
「鎧さえ重く感じる程に? ならばいっそ一緒に倒れていればよかったものを。」
「……それをやれば扉間がマダラを殺していただろう。マダラを殺させぬため倒れるわけにはいかなかった。火事場のなんとやらだ。例えふたり伏していたら……戦は終わる事はなかった。」
「だがお前が何と言おうが俺にとってあれは敗北だ。力も、信念も、お前のそれの方が上回っていた。それを認めたからお前の腕を掴んだんだ。」
 柱間は俯いて眉を寄せる。俺の認識が変わらない事に落胆したのだろうか。いつでもこいつは感情を隠そう、とする事がない。だから独りよがりなのもよくわかる……と、里にいる時から感じていた。
「……他に方法がなかったのか……今でも考え続けている。勝ち負けではなく手を取り合う方法は……なかったのか。」
「俺が手を取る気がなかったんだ、そいつは無理ってもんだ。……ただ、今の話を聞いて誤解していた部分はあったようだ。それで何が変わるわけではないが。多少はわだかまりは解けた。」
「……少しは……いい土産話になっただろうか。」
「そうだな……少しは。」