もういちど

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創設期,成人向,長編,原作軸,完結済みエロ描写有,オリジナル設定有,シリアス,ほのぼの,平和IF

まるで

 縁側に座って茶を飲む。
 緑茶はこの辺りでは街に行かなければ手に入らない。冷たい穀物茶だ。これはこれで悪くないと俺は思う。
 と思っていると、大抵柱間が同じことを喋り始める。俺はそうだなと同意するばかりだった。
 だがこれは俺から言わなければならない。今なら意を決する、というのが理解できる。
「なあ、柱間。昨日の夜尋ねた件だが。」
「……その話はもうよしてくれと言っただろう。」
「いや、聞いてばかりでは悪いと思ってな。俺の考えも伝えておきたい。」
「伝えたい……のならば聞くが……。」
 湯呑みをお盆の上に置いた。
「俺もお前と同じ考えだ。お前には妻子がいるのも理解しているが、それでもお前があの言葉を本物だと言うのなら俺も伝えなければならない。」
 柱間は時を止めたかのように固まった。
 どう返すべきか脳がフル回転しているのだろうか。
「まあ、伝えても困らせるだろうとは思っていた。が、誤解したままではやり直している意味がないと思ってな。だからどうしたい、という話ではない。伝えるべき事は伝えるべきだと思っただけだ。」
 柱間は固まったまま、まだ動かない。
「……だからお互い様だ。で、この件については今度こそ終わりだ。それで良いか。」
「まっ、てくれ、終わらせんでくれ。」
 ようやく口を動かした。俺の言葉が意外だったのか、驚いたのか、ともかく困惑させたのだろう。
「蒸し返して悪かった。終わらせたかったのはお前だろう。」
「……片思いだと思っていたからこそ終わらせたかったがマダラも同じだと聞いては終わらせるわけにはいかない。」
「だがお前には妻も子もいる。」
「ここではっ、ただの柱間とマダラだと、最初に、言ったはずだ。妻には何もかも話してあることもその上で行ってこいと言われたこともっ……!」
「そいつは屁理屈ってやつだ……妻子は大切にしろ、悪い事は言わない。」
「あの時は俺がひとりはしゃいでいただけだった、今は互いに想い合っているというのなら、きちんとやり直したい、全部上塗りしたい、マダラはそう思わんのか。」
 つまり愛を囁き合いたい……と、言いたいのだろうか。妻子がある身であることをここでは捨てると?
 柱間にそんな器用な事はできまい。里では妻子を愛し、この村では俺を愛するなどと。
「俺はこうして共に過ごしているだけでも十分だ。お前が隣にいるだけで。」
「……俺はそれだけではとても足りん……マダラ教えてくれ、俺に直接言ってくれ、マダラが俺に対して抱いている気持ちを言葉にしてくれ。」
 俺の横まで柱間が近づく。膝と手をついて、見上げる顔はどこか必死で、その言葉を聞きたいと訴える。
 あの日々をあの夜のように上塗りしても、お前はいずれ里に帰るのだろう、柱間。
 ひとり残される俺がどう思うか考えているのか。
 お前がいくら里には戻らないと言ったとて、俺にはお前が真に里や妻子を捨てるとは思えない。一度愛したものはずっと愛し続けるのがお前ら千手だろう。俺も、里もなどという我儘はきかない。ここにいれば夢のように感じているのかもしれないがいつか現実に目を向けなければならなくなる。お前が選ぶのは、俺ではなく里だ。妻と子だ。全ての悔いを上塗りしたら、お前はもう。
「……お前の思いには俺は応えられん。終わりが見えているのに愛し合うなど無理だ。お前は里も妻子も捨てて俺に一生を捧げることなど出来ないだろう。どれだけ思い合っていようがいずれいなくなるお前にその言葉は言えない。……だから同居人のままでいい。変わらぬ生活を共にできればそれでいい。」
「いなくならないと、言ったはずだ! マダラの隣から離れるつもりはない……里も大切だ、それは確かだ。だがその里にお前がいないのでは意味がないのだ。妻も子も勿論愛しておる。だが俺が一番大事なのはマダラなんだ、俺が不器用なのは知っているだろう、妻にも子にも全て話した上で里を出た、一族も火影も任せてマダラを探し続けてようやく見つかりやり直したいと言った俺の覚悟は見てくれたはずだ! 俺にまだ何か足りないなら学ぶし考える、変われと言われたら変わる、今までの俺を全て捨ててでも、マダラと共にいたいし想い合っているならばそれを口にしたい……! 木の葉に帰るつもりなどない、残りの生涯を、マダラのために使うと決めてここに来た……やっと真に隣に立てると、俺は……思って……。」
 ……誤解をほどいて……。嘘も言い逃れも誤魔化しも……せずにやり直しなど、出来ない。
 柱間の言葉に嘘も偽りもない、こいつは本当に俺のことを、俺とのやり直しを、するために。……一生を、捧げるつもりで。
「俺を満足させられなかったのが最後の悔いだと言ったのは。」
「その時は本当にそれだけだった。」
「いつ変わったんだ。」
「まぐわいながら記憶が呼び起こされた。」
「隠していたわけではなかったと。」
「……最初に風呂場で確認して貰った通りだ。」
「考えが変わったのか。」
「お前もそうなんだろう、マダラ。」
「では今後も考えが変わる可能性があるな?」
「今後なんてわからんただ俺はマダラの隣から離れない。」
「……お前の今の気持ちを言ってみろよ。」
「……愛している、マダラを愛したい……。」
「柱間、……俺もだ。……愛している。」
 抱きつかれた勢いで押し倒されて柱間は泣いているらしかった。頭を撫でてやりながら俺は柱間がここを去ることを怖がっていたのかと思い、そして柱間が立ち去る事はないと言った事に安堵した。
 年月は人を変えるが変わってもなお柱間が隣にいるならばどう変わっても受け入れられるかもしれない。
 イズナが死なないよう願掛けした石は向こう岸に届いたがイズナは死んだ。ただ柱間に投げている石に込めているのは願いではない、俺の想いだ。柱間から受け取るそれもまた同じ。石が届く限り俺たちはもうすれ違う事も誤解する事もボタンをかけ違う事もない。投げ続けて角が取れ丸くなった石が欠ける時があるとしたらそれはどちらかが死んだ時だろう。
「誰よりも強い男のくせにそんな事で泣くなよ……。」
「誰よりも強い男の前だからこそ泣けるんだ……。」

 散歩をしていたら村の者が集まって何かを作っていた。柱間が駆け寄って様子を見に行く。
 こちらに大きく手を振ったのを見て仕方なく俺も向かった。
「猪が畑を荒らしているらしくてな、そいつを獲るための罠を作っておるらしい。見てくれ。」
 でかい檻の奥にサツマイモが置いてある。中に入った時に蓋が閉まる仕組みらしい。よくあるやつだ。
「それの何がそんなに珍しいんだ。」
「これでも逃げられることがあるのだとか。俺が思うに猪よりも小さい鼬鼠なんかが仕掛けを潜り抜けて餌を取って逃げるのではないかと思う。それで猪は獲れん。」
「ならば餌を針金で包んだらどうだ。鼬鼠は食えないとわかって罠から出ていく。でかいのが入ってきた時には仕掛けが動く。」
 村の者が針金はあるかと言い出して柱間は嬉しそうに笑う。こいつさては猪を食うことしか考えていないな。
「畑の実りを荒らすなどと許せんよなぁ? マダラよ。」
「山に近い分ある程度はやむを得んが、まあ早期に駆除できるに越した事はないな。」
「猪は村の経済も回すのだろう、ちょうど新しい調味料が欲しかったところだ。」
「街に行けばいいだろう、どうせ暇しているのだから。」
「暇とはいえ丸一日かかる、その間マダラから離れるのも嫌ぞ、俺は。どうしても欲しいもの以外は行商から買うと決めたのだ。それにマダラと過ごす時間は暇などない。」
「そうか……俺も、お前といると飽きることはないな。」
 散歩道に戻って緩やかな坂を下る。黄金色に変わった稲が重そうにその頭をもたげている。じきに収穫だろう、この村の者が食べる分だけ植えられた稲が秋風に揺れる。
 散歩から戻ると、使用人がすでに台所に立っていた。まな板に丸々とした魚がいるのを見つけて柱間が覗き込む。
「刺身には出来んだろうか?」
「うーん、この包丁ではあまり薄く切れません。山葵もないので煮るか、焼くかを考えています。」
「包丁を見せてくれ。」
 渡された包丁をまじまじと見つめて、また俺に向けて手招きする。
「この包丁、研いだら切れ味が良くなると思うが、研ぐ道具はあるか?」
「包丁用ではないが……研ぐものならある。しかし、刺身を切れるほどにするには少し時間がかかるぞ。」
「あとは山葵だが、川魚ならば山葵よりも生姜が合うかもしれんな!」
「あ、生姜なら……やめさんの畑で育てているはずです。」
 やめさん、が誰なのか知らないが、柱間は知っているらしい。
「では交渉してくる! マダラは包丁を頼んだ!」
 玄関から柱間が出て行き、俺は武具を置いてある部屋から研ぎ石を持ってきて包丁を研ぐ。刀よりも薄いが容量は同じ……と思ったが、この包丁は鉄以外のものも混ざっている合金のようだ。確か誰かから譲り受けたものだが、鉄でない刃物を扱うのははじめてで慎重に研いだ。
 しかし誰から譲り受けたものだったか……。
 台所に戻ると、これで切れそうかと使用人に渡した。3枚に下ろされていく魚を見て、良さそうだと判断する。
「これはまるで別物ですね! マダラさんが包丁を研ぐのが得意だと知れば村中の人が包丁を持って列を成しますよ!」
 研ぎ石くらい誰かが持っていそうなものだが……人の肉を切り裂くための刃の研ぎ方は知らないということだろうか。
 ちょうどそこに柱間も帰ってきた。
「生姜、貰ってきたぞ!」
「何と交換したんだ?」
「全身マッサージ一回分だ、筋肉のつきかたまで見れる医者はおらんと好評でな! 厳密には医者ではないが、まあ変わらんだろう。というわけで、おろしておいてくれ!」
 使用人に生姜を渡して、柱間に手を引かれる。
「出来上がるまで部屋で過ごそう。」
 近い方の俺の寝室に入って襖を閉めると、すぐに抱擁が待っていた。
「今日も食事が楽しみだな!」
「刺身はいつぶりだったか、秋から冬にかけては魚も太っている。たまには良さそうだ。」
「山葵も欲しかったところだが、あれはもっと高い山で水もないと育たんからなぁ。次の行商が持ってきてくれたら嬉しいが。」
「山葵は……見かけた事がないな。ただ注文しておけば、次回に持ってきてくれる。そんなに欲しいなら声をかけておこう。」
「そうしてくれ、ところで……」
「どうした。」
「せっかく抱きしめているのに食事の話ばかりか?」
「刺身だ、すぐに出来る。いつ呼びにくるかわからんぞ。」
「大っぴらにする気はないのか。」
「ただでさえ変わり者だと思われているのに、これ以上変な事は出来んだろう。」
 くすくすと柱間が笑い始めた。何がそんなに面白いのか。
「マダラは気づいとらんのか、そうか。」
「……何の話だ?」
「夜の声、村の者が聞いておるぞ。」
「夜の声……、!」
 確かに防音も何もない木造の家で、少し大きい声を出せば家の外に漏れ出る。……漏れ出ていたのか、あの、声が。
「……そういうことは早く言え。」
「言ったらお前、声を抑えるだろう。どうせバレておるのだ、大っぴらにしてもいいだろう。」
 足音が近づいてくる。やっぱり支度が早かった。
「出来ました!」
 くすくすと笑う柱間に続いて部屋を出ると、使用人がその様子を見て「友ではないと言ったのが最近やっとわかりました」と笑う。
「どういう意味だ?」
「お二人はまるで夫婦ですね!」
 柱間は笑いながら「それみろ」と台所へ向かう。
 俺は何と言えばいいのかわからないまま、そうか、とだけ言ってその後に続く。
 柱間が買った皿の上に、脂が光る刺身が載っていた。味噌汁と米と香の物、そして刺身だけの質素で豪華な食事。
「生姜ならばポン酢よなぁ」
「いや、まずは塩だけで頂く。」
 ひとつひとつの切り身は小さい。3つまとめて箸で掴み、少しだけ塩をかけて口に入れる。獲れたばかりだ、しっかりと歯応えがあり、脂も旨い。山葵もいいが、生姜で正解だ。
「川魚の刺身も美味いものだな。」
「俺は魚を一目見て美味いに違いないと思っておった!」
「包丁を研ぐだけでこれが出てくるならいくらでも研ごう。切れ味はいいに越したことはないのだろう。」
「いや、でも研いだと告げてから調理させた方がいいぞ。切れ味が変わっていると知らずに扱ったら怪我をしかねん。」
「……そういうところ、よく気がつくようになったな。」
「元々は気づかんかったと言いたげだな?」
「違うのか。」
「……マダラがそう見ていたならきっとそうだな。俺はちゃんと他人に気遣えるようになっておるか?」
「ああ、……十分だ。」
「マダラも随分と変わったぞ、よく話してくれるようになった。以前は寡黙だったからな。」
「……言葉にせんと伝わらないと知ったからな。」
「……俺は幸せだ、マダラがそのように気を許し俺の隣にいてくれる事が何より嬉しい。」
「それはお互い様だろう。……だが俺は今夜は静かに寝るつもりだ。」
「声を聞かれるのを気にしておるのか?」
「……気にせん方がどうかしている……。」
「では明日は大声で触れ回るとするか、俺たちの関係を。ならばもう恥じることもあるまい!」
「お前……そういう発想をするのは変わらんな……。」
「だめだったか?」
「触れ回らんでも、ひとりに伝われば十分だ。一日で村中に広がる。」
「なるほど、では皿を洗いにきたあの者に言うとしよう! であれば、今夜も気にせず声を出せるだろう?」
「…………程々にしろ……。」
「良いということだなっ! 大丈夫だ、約束は守る。」
「……背身よりもやはり腹身の方が脂が乗っていて美味いな。食ってみろ。」
「……確かにこれは、……美味い。」
「明日はめんどくさそうだな……噂を確かめに来る奴に、包丁を研いでくれと言う奴に……。」
「ずっと共に住むのだから良いではないか。包丁を研ぐついでに山葵を持っている者がいたら少しでも良いからもらってくれ。」
「まあ、山葵はあっても悪くないな。」
 カタンと玄関から音がした。それを聞いた柱間が俺の胸元を掴んで引っ張る。何だと思ったら、そのまま口付けをした。ところを、玄関から上がってきた使用人が見る。
「……おい、柱間」
「いやぁ、見られてしまったか!」
「あ、ええと、いえ、その、」
「気にせんでくれ! こういう仲ぞ! 別に隠しておる訳でもない!」
 ため息をつく。全く変わったんだか変わっていないんだか。
「刺身が美味くて会話が弾んでしまった。もうすぐ食べ終えるから待っていてくれ。」
 柱間を見ると米をかき込んでいる。ゆっくり食べたかったが喋りすぎたようだ。残っている刺身に箸を伸ばして、俺もまた米をかき込んだ。
 驚いていた使用人はその様子を見て、ふっと笑う。
「夫婦のよう、ではなく本当に夫婦だったんですね!」