知られてはいけない(扉イズ版)
オメガとして
まだ戦乱は収まる様子のない中、父とイズナ、そして俺が一堂に会した。机を挟んだ向こうにいる父は、真剣な面持ちで口を開く。
「間も無くまた戦闘になる。その前にマダラ、お前にも言っておくべきことがある。」
俺にも、という事はイズナはもう知っているらしかった。俺だけに敢えて伝える必要がある事とは一体何なのか。
「うちは一族は全員がアルファだと、皆信じているが時折……十数年に一度、オメガが産まれることがある。……イズナはオメガだ。」
不思議な事に、イズナがオメガであると聞いてもあまり驚かなかった。共に鍛錬をしている中で、もしかしたらイズナは、と思う事がしばしばあったからだ。
……しかしアルファばかりの一族の中にオメガが一人だけ、それは発情期になれば一族中の者から襲われる危険性がある事になる。
これはイズナをどこかに隠すという話だろうか。
「だが安心して欲しい、先達がそういったオメガに対してフェロモンを出さないようにする妙薬を開発している。」
机の上に置かれた巻物。手に取って広げると、薬草の絵と名前がずらりと並ぶ。
「この巻物の通りに調合した薬を毎日飲み続ければ、二次性徴後もオメガのフェロモンが出る事はない。ただし、発情期には三倍量の薬を飲まなければフェロモンは抑えられない。」
オメガのフェロモンを抑える薬……アルファが飲んでいる抑制剤と似たものだろうか。薬草さえ集めれば調合は簡単に出来そうだった。しかし毎日飲むとなると継続的に薬草を集めに行かなければならない。……敷地内に薬草の畑を作るか、商人から買うか……。
何にしても、イズナを絶対に守らなければならない。
「俺もその妙薬を持ち歩きます。イズナにもしものことがあった時には、俺が。」
父は真剣な面持ちのまま頷いた。
「うちはにオメガがいることは、特に千手には絶対に悟られるな。」
その日から、イズナは……毎日薬を飲むようになった。二次性徴はいつ来るかわからない。巻物を読み込んで、粉薬から持ち歩きやすい丸薬に改良して、常に懐に6つの丸薬を持ち歩くようになった。イズナも同じように。
薬が効いているのか、イズナからオメガを思わせるフェロモンは一度も感じた事はない。戦に赴いても、本当にオメガなのかと思わせる活躍を見せた。それが日々の血の滲むような鍛錬の結果だと知っている俺は、頼もしいと思う反面、イズナにあまり無理はさせられないと、なるべく雑兵……将棋でいうところの步を蹴散らす采配にした。
千手とうちはの長が相打ちになり倒れた後、俺が一族の長となり、千手ではいつか河原で話し合った柱間が長になったと伝え聞く。
あいつは強い。
千手一族全員がそうなのかはわからないが、千手も戦の場にはアルファしか出てきていないようだった。そんな最中に発情期が来ては危険すぎる。
戦の前には必ず丸薬を3つ飲ませるようにした。いつ発情期が来ても良いように。
しかし薬には作用と副作用がある。恐らくは高い鎮静作用があるその薬は平時に3倍量飲むと意識がぼんやりとして身体の動きも鈍るようだった。『步』相手ならばそれでも蹴散らすだけの力はある。だが『飛車』のような動きをする柱間の弟扉間を相手にするには、3倍量でなければ対等に渡り合えたが、それも厳しくなっていた。
その扉間は明確にイズナを狙っている。それはイズナが軍の動きを指揮する立場にいるからだろう。イズナを落とせばうちはにとってダメージは大きい。統率を失った兵がそのまま扉間によって壊滅させられる事もありうる。
では扉間を逆に始末すれば。とはいえ俺は柱間の相手で手一杯だ。扉間をやれるとしたらイズナしかいない。
「兄さん、俺はしばらく丸薬はひとつにして扉間を討つ。」
そう言うイズナの考えはよくわかる。戦場を俯瞰的に見る能力で言えば俺よりも高い。千手にとっても扉間がいなくなれば統率が乱れ隙が生まれる。しかしその意見は呑めなかった。
「……戦場で発情期が来たらどうするつもりだ。気持ちはわかるが賛成できない。周りは全員アルファだぞ。」
イズナを失うわけにはいかないが、イズナがオメガだと露見するわけにもいかない。発情期になれば戦どころではなくなる。
「カモフラージュとして、オメガの者を他からひとり連れて行く。もし発情期が来たら俺の横にいるそいつだと皆が思うだろう。アルファばかりの戦場にオメガを連れて行くのはメリットもある。俺たちは抑制剤を多めに飲んで挑めば良い。千手の奴らはオメガのフェロモンにやられて正気のまま戦い続けることなどできなくなる。」
イズナの意思は固いようだった。オメガを連れていけば確かに扉間も隙が生じるだろう。
他の一族はベータやアルファが入り混じった軍だ、オメガが戦場を撹乱するために使われる事もままあった。ただうちは一族がその手を使う事は躊躇われた。オメガを利用する戦は言わば「卑怯」な手として考えられている。イズナがアルファであれば当然そんな手は使わないが、千手に勝つには扉間を討つのが最重要課題のひとつだった。柱間は何かと和睦を訴えるが扉間のやり方は容赦がない。兄の考えなど知ったことかとばかりに。
「……扉間を、討てるのか。奴はアルファの中でも秀でている。オメガのイズナが奴に勝てるのか。」
現に丸薬を3つ飲む前は対等に渡り合っていた。逆に言えばどちらが倒れてもおかしくない状況だった。
「オメガをうまく使って隙を作る。兄さん、あいつは俺がやる。」
何もかも気が進まないが……戦に勝てばそれも過去に葬れる。
「許可する代わりに、発情期の兆候が起きたらすぐに薬を飲め。いいな。」
「……もちろん。」
その後の戦闘ではやはりイズナと扉間は互角に戦い続けていた。写輪眼と飛雷神、二人の戦いは間に入る隙もない。何戦か戦って、ようやくオメガの忍をひとり買うことができた。性欲処理専門で戦には行ったことがないというその者に戦い方、守り方を教え込み、イズナの傍から決して離れないように言いつけて、オメガを連れた戦闘が始まった。
千手の軍は明らかにオメガのフェロモンの影響を受けて統率が乱れた。俺と向き合っている柱間だけはそんなものは関係ないとばかりに普段通りに術と太刀で渡り合う。オメガ率いるイズナの指揮する軍は統率の乱れた千手を次々と手にかけて行ったが扉間がそれを黙って見過ごす筈もない。イズナに斬りかかったのを動きを読んだイズナが交わして二人の戦闘が始まった。
助太刀ができれば良いが俺はやはり柱間から一瞬も目を離す事はできない。イズナを信じるしかない。
その日の戦闘はいつになく長かった。昼頃に始まったそれは陽が暮れてからも終わることがなく、その要因となっていたのは俺と柱間、そしてイズナと扉間の戦いだった。
火遁で燃えた木々、その炎によって映し出された味方と敵が刃を合わせ高い金属音が響き合う。暗くなってからは写輪眼を持つうちはの方が優勢となった。しかし、その最中に甘い匂いが鼻をつき始める。まさかこれは、今……!?
「イズナ! 一旦離れてあれを!」
そう叫んだが、イズナからの返事はなかった。いつの間にかかなり離れたところに行ってしまったらしい。
「っくそ……!」
扉間はオメガの影響を軍に与えないように俺とオメガを戦場から引き離そうとしているらしかった。しかしもう十分に戦力は減らしてある。あとはこの男を討つだけだ。俺は全力で全神経を尖らせながら扉間とやり合い続けた。
しかし夜になってから身体に異常を感じ始めていた。動悸、呼吸数の上昇、体温の上昇、体液の分泌量増加……。……発情期だ、まずい。薬を飲まなくてはいけないがそんな隙を扉間が与えるわけがない。
高鳴る胸に乱れる息、そしてオメガのフェロモン……傍のオメガのものではないとこの男なら勘付くだろう。しかしこのままでは戦えなくなる。どうにかして戦線を離脱しなければならない。
強くなっていく発情期の兆候に、俺はついに膝をついた。止めを刺されるかと思いきや、扉間も攻めの手を止める。
「……何か違和感があると思ったら貴様……オメガか。」
一番悟られてはいけない相手に悟られた。しかし殺していないという事はオメガのうちはである俺を有効利用する策でも練っているのだろうか。
膝だけでなく手をついて苦しい呼吸を荒い息で逃がそうとしながら懐の丸薬に手を伸ばすと、その手首を掴まれた。
ころころと転がる6つの丸薬のひとつを扉間が手に取ってまじまじと見つめる。早く飲まなければともう一方の手を薬に向け伸ばすがその手首もやはり掴まれた。
「……どう、する……、つもりだ……っ」
「間違いないようだな。うちはにもオメガがいるのか。」
扉間がアルファならば例え抑制剤を飲んでいたとしても発情期のオメガのフェロモンの影響を受けないわけがない。そんな思考も徐々にできなくなっていく。頭の中が霧で覆われているかのように考える力が失われていく。手足にもうまく力が入らない。目の前にいるアルファ……扉間しか認識出来なくなっていく。
身体が熱い……下半身が疼く……これがオメガの……。
「何故そうなるリスクを冒してまで戦場に立った。」
……何かを言われたようだが何を言ったのかまではよくわからない……ただ思っていたよりもアルファのはずの扉間は冷静なようだった。俺はこんな状態なのに……。
「捕虜になりたいか、俺に犯られたいのか、この薬……を飲みたいのか、どれだ。」
……正解はひとつに決まっている……でも身体はそれを拒否している。アルファが欲しい、本能が強く求めるそのアルファに手首を掴まれているだけでも身体がビリビリとする。……こいつは……討つべき……敵なのに……。……だめ……だ、かんが……え……が……
発情期のフェロモンを出すイズナがオメガである事は間違いない。イズナは……誇り高きうちはの戦士だ。オメガでありながら俺と対等に戦うその力を得るには計り知れない努力があったのだろう。掴んだ手首の下はだらりと力を失っている。口も半開きで恐らくろくに物を喋れまい。選択肢を3つ提示したものの返事はなく虚な目で俺の下半身を見ている。
……俺とてアルファだ、何があっても対応できるよう常に抑制剤は多く飲んで戦場に向かう。それで冷静さは一応保ててはいるが、ヒート状態のオメガがこれほどまでに強いフェロモンを出すとは想定しておらず、生理現象とはいえイズナをこのまま犯して孕ませたい考えが頭の三分の二ほど占めていた。
それでもその本能のままにしないのはイズナの実力を認めている上で、イズナが望んでいるのは犯されることではなくこの丸薬……恐らくは抑制剤を飲み正気を取り戻すことだろう。
しかしこうなってしまっている今薬を飲ませて捨て置くのも気が引ける。俺が助けたとイズナが認識したら情けをかけられたと思うだろう。……ならば薬を飲ませてからヒート状態のイズナとやり合いたくなどないと伝えるのが最良だろうか。
オメガの忍をずっと傍につかせていたのは、自身のフェロモンを誤魔化すため……という事はうちは一族の中でもイズナがオメガだということは伏せられている……?
今の状態を戦略的優位に立つために利用するか、イズナの意思や尊厳を護るべきか悩んでいる自分がいた。普段の俺であれば間違いなく前者を選ぶ。しかしフェロモンに当てられているせいなのか、あるいはイズナという敵を恐らく誰よりも理解しているからなのか、……戦場で即断出来ない事など初めてだった。
夜も更けている、朝飲んだ抑制剤がもうすぐ効果を失っていく。その前にどうするべきか判断しなければならない。……説明はともかく、一旦薬を飲ませるか。6個あるが……いくつ飲ませれば良いのか。
ゆっくりと掴んでいた手首を下ろすとイズナは息を乱したまま地面にうずくまった。手首を解放して丸薬をひとつ手に取り、顎を支えて口元に持って行くが、その手が俺の手を掴んで丸薬には目もくれずに俺の指を舐めようとする。……意識が完全に。記憶に残らないのならば。
丸薬を口に含んでイズナの唇に合わせ舌で口をこじ開けて薬をイズナの喉の方へ押しやる。ごくりと嚥下したのを確認するとともにイズナの舌が俺の舌に絡んできた。その唾液と共に強烈なフェロモンが流れ込んでくる。思わず舌を動かして応えていた。そうしている間にイズナの手が俺の下半身を触り始めて硬く勃っているそれを探り当てると下履きをずらして直に触り始める。
口付けに夢中になったまま直に触られた瞬間に状況を思い出した。薬はひとつでは足りなかったのか、効くまでに時間がかかるのか、イズナの様子に変化は見られない。唇を離してそれを扱く手も払いのけたがイズナを犯りたいという考えが徐々に頭に占める割合を増やしていく。また同じ方法で薬を飲ませるのは適当じゃない、指で口の中に押し込んで上を向かせれば。
「……それ……それが……ほしい……」
戦場での勇ましい声しか知らなかったがこんなにも甘い声を出すものなのか、まるで別人のようだった。また頭が侵食される。理性が残っているうちにもうひとつ薬を拾って口を指で開いてその中に薬を押し込んだ。しかし上を向かせてもなかなか嚥下しない。指で更に口の奥に押しやると、ごくりと飲み下したのを確認出来た。
気が付けばイズナから出ているフェロモンが減っている。薬の効果か? 2つで問題なさそうであれば……と思ったが、先ほど露出したそれにまた手を伸ばそうとしている。
薬を飲もうとしていた、飲ませたらフェロモンが減った。抑制剤であることは恐らく間違いない。ただ俺自身の状態は変わりなくイズナの意識が戻っている様子もない。様子を見るか更に飲ませるか。俺自身の薬が切れる時間を考えればもうひとつ飲ませた方がいい。抑制剤を飲みすぎたところで副反応は知れている。もうひとつ丸薬を拾ってまた顎を掴もうとしたらその頭は俺の股間に移動していてそれを口で咥えられていた。
……これは、不味い……っ。
愛しい物を舐めるように唾液で濡らしてその熱い口内に入って舌でカリや尿道口を刺激しながら口をすぼめて頭が上下に動く。そうしながら自らの下履きの中に手を入れて……自慰なんだろうか、モゾモゾと動かし始めた。直接的な刺激はフェロモンの影響下で理性を奪っていく。咥えるその口をどかせないまま頭を掴んでどうすればいい、と考えていることすらまだ自分は完全には呑まれてはいないという言い訳に過ぎなかった。
