知られてはいけない(扉イズ版)

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創設期,成人向,長編,原作軸,完結済みオメガバース,オリジナル設定有,シリアス

それぞれの思惑

 目覚めたら寝ぼけたふりをしながら扉間の背に手を回して力を込める。扉間の手も俺の後ろに回って抱き寄せた。
「ん……? おはよ。」
「おはよう、イズナ。」
 普通こんな場面では笑顔で言うだろうにこいつは少し顔の筋肉が綻ぶだけだ。ずっとこの仏頂面のままで生きてきたのだろうか。
 であればこの仏頂面を剥がすことが次の目標だな。
 共に部屋の中で食事をとるようになって話題も増えた。つわりがなくなってからは厠の監視も今はもうない。扉は開いているが、少し開いているだけで扉間はもう俺が堕胎しようと工作するとは思っていないようだった。まあ実際その通りだ、千手の屋敷の中で今の状況下ではそれは悪手だから扉間の考えは合っている。違いがあるとすれば扉間は俺が産む気になったからそう言う事をしなくなったと認識していることだろう。堕胎はうちはに戻ってからでも十分間に合う。俺が今するべきことは扉間をもっと深くまで堕とす事、そのためならば何でもしてやる。
 毎夜のようにまぐわいもするようになった。扉間が言うにはまぐわいによって出る脳内神経伝達物質は胎の子にもいい影響を与えるとかで。そう言いながら俺を抱きたいだけのようにも見える。それ以外の時間も肌が触れ合うことが増えた。本を読む時もあぐらをかく扉間の上に座って密着しながら読むほどだ。
 訓練も何もできないのは暇だと呟いたら次の日には将棋と囲碁を部屋の中に持ち込んで扉間と将棋勝負に丸一日時間を使う事もあった。軍師の立場同士の将棋はなかなかに面白い。と同時に戦地における扉間の考え方の癖もよく見えた。戦略を考える、という点では俺たちには共通言語が多い。もちろん全て正直に話すわけじゃないけど「こういう事態になった場合にどう打破するか」のような会話はよく弾む。いくつかある内の俺が取らない選択肢を示しては扉間だったらどうすると探る。
 ただ扉間もまた軍師だ、馬鹿正直に実際に取る選択肢は話さないだろう。という前提でその答えを聞いてはならばこの手を取るのかと扉間の戦略の立て方を盗んでいく。
 兄さんは相変わらず時折突然やってくるらしかった。俺もその場に居合わせる日もあれば台風と話をするだけで帰る日もある。新しく薬を補充してくれて、扉間がその中身を確認して変なものが入っていないか確認してから俺に渡される。
 扉間は影分身であの堕胎の薬を調べ続けているようだけどこれという答えには辿り着いていないらしい。
 その扉間に丸薬の作り方も教え終わって無事に完成したのを機に、兄さんが混ぜた薬の解析よりも丸薬をアルファに使えないかという研究に力を注ぐようにしたようだ。あの薬の正体はバレていない。
 計画は順調だ。
 扉間も気を許している。
 表情も随分柔らかくなってきた。
 それは俺の腹が少しずつ変化しているのも大きいのだろう。この胎の中では確実に扉間との子が大きくなっている。忌々しいがその変化を扉間に見せてやればこいつはまた少し顔を綻ばせる。
 毎夜のようにまぐわってついに愛しているという言葉まで引き出し、万事順調に運んでいるように見えるけどそういう時こそ油断してはいけない。
 扉間の前でだけ感情を出して見せて、愛していると言われれば控えめに俺もだと口にしながら次に戦場で会った時にこいつは俺を殺せるのかと考える。
 ……まだだ、もっと堕とさなければ。戦場に立つとこいつは徹底した合理主義者に変わる。愛も情も関係なく俺を殺しにくるだろう。
 俺なしでは生きられないくらいまで堕とさなければ、戦場でこいつに確実に勝つことはできない。

 イズナと過ごす時間は穏やかで温かく、もし俺たちがこのまま夫婦になればこの生活が続くと思うと和睦は必ず実現させなければならないと思う。
 兄者はマダラが和睦に応じるつもりがないと読んでいるがイズナも俺の想いに応えるようになった今、イズナからマダラに訴えるように頼めばその実現は夢ではなくなる可能性が高くなっている。兄者もイズナを気にかけているが様子を話すと納得しているようだった。
 本だけでは暇だと言うイズナが好みそうな将棋と囲碁を用意したら将棋で勝負することが増えてイズナはこういう局面ではその手を取るのか、と、お互いに勝負に熱中しながらその考え方を覚えていった。もう争い合う事はないかもしれない。むしろ共闘することがあるかもしれない状況の中でイズナの考える戦略を知ることが出来るのは貴重な機会だ。定石とは関係なく柔軟に攻めに対応するイズナに勝とうと丸一日を費やす事もある。将棋だから熟考もできるが戦争の場では瞬時の判断が必要だ。事前にイズナの考え方を知っておけるのは和睦に至った後役に立つだろう。たとえ和睦に至らなかったとしても……イズナの戦略の癖は役に立つ。ただ、そんな機会が訪れない事を願うしかなかった。
 こういう時にこの言葉を使うべきだろうと口にした愛しているという言葉もイズナは受け入れて、そして応えてくれるようになった。子供も順調に育っている様子でこの穏やかな日々が永遠に続けばどんなにいいことかと思いながら、この子が産まれたら今度はその子を共に育てる日々が尊いと感じるようになるのだろとも思う。
 子どもの成長を喜ぶイズナの様子は母親のそれと同じだった。
 うちは一族も愛情深い一族だ、我が子であれば当然愛するだろう。現に今もその様子が見られる。
 停戦の期限まで残り3ヶ月、イズナのおかげで一族の者が食うに困る事は無くなった。このまま愛を育んでいけば、和睦の可能性は高くなるはずだ。

 とでも考えているのだろうか、千手の奴等は。それともまだ警戒しているだろうか? 俺が度々訪れる事には千手の者どもは慣れてきた様子ではある。
 柱間の話ではイズナは扉間と夫婦のように仲睦まじくしているらしい。先日会った際にイズナは俺に「安心してくれ」という言葉を口にした。文脈はどうであれ俺に対する明確な意思表示だ。つまりイズナは扉間をうまく飼い慣らしていると考えて良い。
 信じていないわけではないが半年と区切られた期間は戦も何もない中では想像以上に長く感じるものだ。いかにイズナが優れているとはいえ夫婦のように演じ続けているのだとしたら少し心配もあった。
 精神は行動に引っ張られる。
 イズナがそれを忘れないはずがない、と思うが停戦協定が明けるまでの残りの3ヶ月も夫婦のように過ごすとしたら油断をしているとその前提を忘れかねない。念のため、次にイズナに会う時に釘を刺しておこう。油断するなとだけ伝われば良い。聡いイズナなら気がつくだろう。杞憂とはいえ用心するに越した事はない。

 部屋の中でひとり考える。
 相変わらずマダラは時折突然千手を訪れる。手土産を持参する時もあるがイズナのためのものが多い。俺達千手の下にイズナがおるのが気になって仕方がないのだろう。
 そしてマダラはやはり和睦に関しては今まで見てきた限りではするつもりがない様子だ。
 だとしたら停戦明けにどう動くか、考えておかなければなるまい。
 イズナには扉間のマーキングがすでに施されている。イズナはいつでも扉間が確保できる。
 停戦明けにうちはに引き渡した後も何かがあればすぐに扉間を寄越す事ができる……しかし、うちはのど真ん中に扉間だけを行かせるわけにはいかない。術を使わせるとしたら戦場だ。が、戦場でまた相対するような事はもう起きないようにしたい。
 そのためにはマダラに和睦を認めさせなければならないが、話し合いでそれが実るならばとうの昔にマダラは和睦に応じているだろう。
 マダラがこうも頑なに和睦を拒否する理由は一体何なのか……うちは一族も平和を喜んでいるとは聞いたが、千手に対する遺恨はまだ残っておるのかもしれん。
 俺もうちはの元を訪れて様子を見にいった方が良さそうだ。出来れば扉間も連れて行きたいが、マダラが単身で千手を訪れているからには俺も1人で行く必要がある。そのためにはうちはの棲家を探る必要があるがそれも面倒だ。
 次にマダラが来た時に俺もうちはを訪れたいと帰るマダラにくっついて行けばいいだろう。
 マダラ自身がいかに感情を伏せていてもうちは全体までは制御しきれまい。その空気感を確認して、手を打つならばその後だ。もしうちはから千手への憎しみを少しでも感じたならば俺もマダラがしているように時折赴いてもうこんな戦争はやめようと大声で語り続ければうちはの心情も変わるかもしれん。それだけでは足りんようであれば俺がどれだけ子どもたちの死を避けたいと思っているのかを訴え続けよう。
 うちはとて兵の多くは若者だ……子供を守りたいと訴えれば、それが伝わればうちはの中でも和睦派が増えるかもしれない。その声が大きくなればマダラも和睦を考えざるを得なくなるだろう。
 残りの期間を無駄にするわけにはいかん。

 扉間は好きだ、愛していると毎日のように口にするようになった。こいつがこんな言葉を頻繁に使うような奴だったとは意外だがその分俺に堕ちているという事だろう。表情を柔らかくして目を細め同じ言葉を言ってやれば扉間は嬉しそうな顔を見せる。仏頂面ではあるが表情筋を使ってこなかったせいで顔が凝り固まってんだろう。その凝り固まった仏頂面が少しずつ崩れているのかわかる。
 肌のふれあいを増やして子どもの成長を喜んでまぐわいながら愛の言葉を囁き合い、そうしていく日々の中でこの環境に順応したのか意図して操作しなくても心臓が高鳴り体温が上がるようになった。自分でコントロールする必要がなくなるほど条件反射が身についたという事だろう。自然に身体の反応を引き出せるようになって扉間の育成は楽になった。
 肌を重ねるたびに、日々を積み重ねるごとに扉間は俺に心を許しそれが表情に現れてきている。
「イズナ」
 将棋版から顔を上げると口づけが待っていた。そしていつもの言葉。
「愛している。イズナも、俺たちの子も。」
 自然に胸が高鳴る。その熱っぽい目に同じ視線を向けてやる。
「知ってる。出産予定日まであと半年を切ったね。」
「俺も分娩に立ち会いたいが……うちはの集落に俺は入れるだろうか。」
「俺の旦那さまだと伝われば大丈夫だ。」
 腹に手を添えて視線を落とした。
 その手の上に扉間の手が重なる。
「しかし、出来たら生まれる前に祝言を挙げたい。」
「それは兄さんと相談だな。……俺たちが正式に夫婦になるには、うちは一族に俺たちを認めて貰わなければならない。」
「……難しそうか。イズナと祝言を挙げることで……戦はもう終わったと伝えたいが。」
「どうだろう、でも兄さんも俺たちのことは知ってるんだから、一族を説得してくれるかもしれない。」
 ……残念だけどそんな事はあり得ない。
 ただ祝言を挙げられる可能性がないと思わせないようにしなければならない。俺が堕胎して復帰するまでの時間稼ぎのために。
 兄さんもそのことはわかっているだろう。戦は俺が復帰してから、それまでは停戦状態を引っ張り続ける。そして折を見て仕掛ける。
 そんな折にまた兄さんが訪れたらしかった。千手柱間も最近は兄さんが俺に会いたいと言えばすんなり会わせてくれるようになった。場所が千手柱間の部屋なのは嫌だったけど兄さんと会える事を思えば我慢できる。
 
「イズナ、元気でやっているか。」
「ああ、腹の子も"順調だ"」
「そうか、ただ"油断はするな"。妊娠中の身体は何が起きるかわからん。」
「ありがとう、けど扉間もついてる。"心配かもしれないけど、安心して"。」
「……相変わらずマダラとイズナは仲がいいの。マダラが大事にしておる弟だ、俺たちも家族同然に大切にしておる。マダラも安心してくれ。」
「そのようだが、兄としてはやはり心配でな。」
「ところで、マダラばかりに来させては悪い。俺もうちはの者に顔を見せて挨拶をしたいが構わないな?」
「……うちはに柱間が来るのか。」
「道中マダラと語り合いたい、それにマダラばかりが千手に足を運んでいてはうちはの者もよく思わんだろう。」
「構わないが……挨拶と言っても俺は柱間やイズナに会いにきているだけで千手の奴等に挨拶などした事はないぞ。」
「色々と差し入れまで貰っているのに礼のひとつも言えておらん。」
「そうか。……そこまで言うのなら一度来るといい。うちはだけが千手の棲家を知っているというのも千手の者にとっては面白くないだろう。」
「ありがとう! すぐに支度をするから待っていてくれ!」
 千手柱間はドタバタと別の部屋に向かって行った。湯呑みに手を伸ばして冷たい麦茶を飲み下す。
「……相変わらず騒がしい奴だ。」
「俺は言及は避けておく。」
「柱間が怖いか。」
「そりゃあね、……何を考えてるか全然読めない。」
「……そうか。イズナの目にもそう映るか。」
「兄さんにもわからないの?」
「何をやらかすか想像できないという意味では、わからんな。」
 またドタバタと音が近づいてきた。忍のくせに何でわざとこんな大袈裟な音を立てるのだろう。……確かに、兄さんの言う通り……千手柱間は何をしでかすか想像できない。
 うちはに行きたい、というのも何のためなのかわからない。
「待たせたな! ではさっそく向かうとしよう!」
 満面の笑みだが、その裏に何があるのか、それとも裏なんてないのか、それすら読めない千手柱間は兄さんと共に千手の敷地から出て行った。
 ……もしかして、しばらくあいつは留守になるのか……? この機会を活かさないわけにはいかない。
「扉間、俺も千手の者がどんな生活をしているか見てみたい。また変化するから案内してくれないか?」
「ああ、それもいい機会かもしれんな。」
 この屋敷と研究室以外にも、重要な建物があればその位置と役割を確認しておかなければ。
 やるべき事は他にもある。
 ……兄さんから「油断するな」と釘を刺された。俺は順調だと思っていたが兄さんの目にはそう映っていなかった。警戒すべきは何だ。よく考えて、残りの3ヶ月間気を引き締めないと。一旦状況を洗い直そう。