知られてはいけない(扉イズ版)

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創設期,成人向,長編,原作軸,完結済みオメガバース,オリジナル設定有,シリアス

戦の場で

 一週間も経たないうちに次の戦が起こった。戦いの準備と共に、何日にもわたる戦いになってはいけないと丸薬を多めに懐に忍ばせて兄さんの隣に立った。
 軍議の場で俺が後方指揮に回る事については賛否両論が起こったが、兄さんがひとまずこの陣でやってみようと重役を黙らせて副作用で動きが鈍い身体を入念に柔軟で柔らかくして動きの精度を確かめて戦地に向かった。
 今までは兄さんの隣で戦っていた分、兄さんが近くにいない事で俺がなんとかしなければならないと自分を奮い立たせることが出来た。実際に今までとは違う場所からの指揮になるし俺自身が戦闘する機会もかなり減るだろう。
 戦場の地形、一隊一隊の構成メンバー、配置は先陣よりも後方の方がよく見えた。その上で扉間がどう出てくるのかが気がかりだったけど、扉間もまた後方指揮に回ったのか激しくぶつかり合っている先陣の中にその姿は見当たらなかった。
 違和感がある。俺が先陣にいないならば、扉間なら中堅の忍など簡単に殺せるだろうに何故手出しをしないのか。千手側も先日の発情事件について思うところがあるのだろうか。何にせよ扉間の動向は注意深く見ておかなければならない。
 今回は千手もオメガの忍対策をしてきたらしい、フェロモンは出ているが意に返さずいつもと同じ戦闘になり、軍を動かしながら相手が次にどう出るか、それに対して取るべき陣形は、と指揮をする事に集中した。ただ向こうも扉間が同じ役割を担っているのだろう。普段とは違ってその動きは定石通りではない。奇襲も織り交ぜながら軍を動かしている。
 あいつの性格ならどうするか。
 それを考えるだけでは足りない、その扉間の考えを覆す戦略を立てなければならない。戦い方が力でなく頭脳戦になった。

 雨が激しく降り始めて火遁が使えなくなりこの日は撤退を余儀なくされた。後方に置いたイズナはしっかりと役目を果たして重役の連中も文句は言えなくなっただろう。
 意外だったのは扉間も呼応するように前線に出てこなくなった事だ。あれだけの実力を持つ扉間をあえて戦わせずイズナのように後方からの指示に回らせた理由がわからない。ただ奴はイズナのように軍師の才もある事はよく分かった。その代わり戦の最前線においては対扉間用に配置した三人組がうまくはたらいて比較的優位を保つことが出来た。柱間もいつもと変わらないと言えば変わらないが和睦を結びたいといつもよりしつこく訴えてきた。いつものようにあしらったが扉間の配置変更と柱間の様子、……イズナの事を意識しているのは間違いない。
 だが千手全員がイズナがオメガだと知っている風ではなかった。向こうもあの二人だけが知っているということか。……イズナと扉間が意図せずああなった事を柱間は利用しようとしている。いや、扉間もその場で殺さなかったのだから同じ考えなのかもしれない。
 何にしてもグロテスクだ。イズナを利用するなど、俺が認めるとでも思っているのか。
「扉間の配置変換に関しては俺も不可解だと思う。俺を警戒するにしても抑制剤を多く飲めば対処できる筈だ。……千手の中で俺の事が知られていないのも何かの意図を感じる。」
 イズナも同じ違和感を覚えているようだった。千手側もこれだけの手練れであるイズナが最前線から消えた事に対して不審に思っている可能性はある。ただ、あと一週間この体制で持ち堪える事ができればその後は暫く元通りに動ける、が。
「……兄さん、扉間の統率力は甘く見ない方がいい。あいつの采配は余程の人材でないと対応出来ない。それに二週間きっかりで復帰するのも俺がオメガだと露見するリスクがある。暫くはこの体制でやらせてくれ。その間に目星をつけてあいつの指揮に対応できる人材を育てる。」
 イズナの言う事には一理ある。扉間は最前線から退いたがその代わりに雑兵が普段の二倍、三倍の戦力を持っていた。イズナが指揮を取っていなければうちはは不利に立たされただろう。
 とは言え育てたところでイズナに相当する指揮能力はつくのだろうか。扉間の相手をできるほどの人材が簡単に育つとは思えない。
「人材を見定めるならば将棋を使え。適正を見るにはあれが一番手っ取り早い。」

 イズナは3つの丸薬を飲みながら俺との直接対決には持ってこないだろう。であれば可能性として高いのは後方での指揮に当たること。イズナは武力においても実力者だが指揮能力にも長けている。そのイズナが完全に指揮を取る立場になれば戦況は今までとはガラリと変わる。それに対抗しうる人材は千手の中にはいなかった。千手の中では俺がイズナと同じ立場に立ち続けていた訳で、その相手ができるのは俺しかいない。
 大将首をとるだけが戦ではない。それであれば兄者とマダラの戦いの行く末を見守るだけだ。しかし現実にはイズナをはじめとした写輪眼の軍勢が背後にいる。
 一族としての戦闘力のみならず大将も副将も似た立場だ。まだ暫くうちはとの戦いは拮抗を続けるだろう。隙が生じるとしたらイズナが妊娠をした場合だ。つわりを治す薬はない。堕胎するにも戦えるまで回復するのにいくらか時間を要する。兄者はむしろ妊娠して産むことまで視野に入れているがイズナが簡単にその事実を受け入れるとは思えなかった。

 そして次の戦でやはり後方に立っているイズナを確認し、予測が当たった事に安堵する。……何を安堵したのかはわからないが少なくともフェロモンの量からしてオメガの忍の分しか感じない、薬を3つ飲んでいるらしかった。あのオメガの対策に千手も抑制剤を多めに飲ませて挑んだその戦は兄者とマダラを筆頭とする強者の討ち合いに加えその他軍勢のぶつかり合いとなった。
 指揮を取っているだけでもイズナはやはり手強い。俺がどう手を尽くしてもそれに対抗する軍を差し向けてくる。武力戦から完全に頭脳戦に変わっていた。そしてやはりイズナに対抗できるのは俺しかいないという確信に至った。オメガであろうが何であろうがイズナはイズナだ。うちはの、誇り高き戦士。
 大雨によって戦闘は中断された。互いに撤退する中、兄者とマダラだけは全員が引くまで刃を交え続けていた。兄者はその間も「和睦」という言葉を口にする。その度にマダラの殺気が強くなるのを感じて兄者が理想とする世界は実現しないだろうと思う。

 その次の戦は一ヶ月先だった。そしてその先陣には、あのオメガを連れたイズナが立っていた。
 まずい、イズナが先陣に立てば俺以外の千手はいかに腕が立とうが敵わない。
 急遽後方指揮を任せて俺が最前線へ向かったが、その時にはひとり、すでにイズナの手で斬られた後だった。
 久々に間近で見るイズナの強さは際立っていた。マダラほどではないが頭ひとつ飛び抜けている。やはり俺でなければ相手はできない。
 兄者たちの戦いに巻き込まれないよう、そして他の兵に影響が及ばないようにイズナとオメガを少しずつ戦場から離していく。戦場に復帰したがあれから一ヶ月以上経っている。もし悪い予感が当たればそろそろその兆候が現れてもおかしくはない。そのときは……。
 思考する暇も与えない波状攻撃を受けながら俺自身も攻撃の手は緩めず、そうしながら少しずつ戦場から距離を取っている事にイズナも気づいているらしい。
「貴様何を考えているっ!」
 首を狙う刀を自らの刀の背で受け止めながら、返す言葉が見当たらないまま少しずつ戦場から遠ざかる。
 時折イズナが何かを堪えている様子を見て、嫌な予感が当たったと認識させられた。うちはに戻せば中絶させるだろう。だが少なくとも兄者はそうさせるつもりはない。そのためにはイズナを捕虜として連れ帰る必要がある。であれば……今まで敢えて手を出さなかったが、傍にいるオメガを利用するしかない。
 戦場から十分に引き離したところで距離を取り刀を持つ手を下ろした。その瞬間俺の目の前に振り下ろされた刀、瞬時に左腕にチャクラを凝縮させ受け止める。
「イズナ、話がある。聞け。」
「貴様から聞く話などない……!」
 腕を蹴り軽やかに着地すると刀を上に放り投げその間に印を組み火遁が周辺を焼き尽くしながら落ちてきた刀を手に取り写輪眼で俺の動きを読もうとしているイズナに対し、高く跳躍した俺はイズナを目掛けて刀を振り下ろしながらイズナの傍にいるオメガに狙いを定めて刀の軌跡を変えた。それに気づいたイズナは咄嗟にオメガを庇い、先ほどの俺のように腕で刀を受け止めたがチャクラは間に合わなかったらしい。切り落とす事はならずとも深傷の手応えがあった。その刀を引き切るともう片方の手で刀を握り斜め下から斬撃を喰らわそうとするが体調のせいなのか腕の傷のせいなのか普段のような動きのキレはない。刀の軌跡をギリギリで避けて開いた左腹部に拳をめり込ませるとイズナはその勢いで後方に吹き飛んだ。
 残ったオメガも抵抗を試みたがこちらは赤子のようなものだ。手を背後で拘束してうつ伏せに倒しその背を踏みつけながら既に起き上がっているイズナにもう一度話しかけた。
「俺の話を聞け。でなければこいつは殺す。」

 扉間が何故戦場から離れたのか。俺とのやり合いが目的ではなかった。あのオメガは今のところは傷は負っていないが、人質に取られてしまっている俺の不利は変わらない。あのオメガを見殺しにして扉間を殺すことも出来ない。何が目的で話を聞けと言っているのかもわからないが、最近感じ始めた身体の異常も相まって、今の状況では話を聞く他なかった。
「……聞いてやったらそいつを解放するなら話を聞く。」
 左腕がズキンズキンと脈打つように痛む。下ろした指の先から血が落ちて地面に色を着けていた。止血のための道具は持ってきていない。身体から血が失われていく。これも扉間が想定していた状況なんだろう。とはいえ扉間を放置することも出来なかった。発情期が終わってもオメガを連れて行くのは失敗だった。とはいえ、次の発情期がきっかり3ヶ月後にくるとは限らない。特に俺たちのように、いつ戦が起きるのか常に緊張状態にある忍はその周期が不安定になりやすいと伝え聞いた。失敗だが妊娠の可能性もあるとはいえオメガだとバレないようにするにはこうする他なかった。
「約束しよう。話の内容に入る。今お前の身体には異変があるか。」
 こいつ、まさか……。あれから一ヶ月と少し、食欲不振と吐き気、それはつわりの症状そのもののように思えた。兄さんの見解も同じだった。つまり俺の胎の中には扉間との……子がいる可能性が極めて高い。この戦が終わったら堕胎する為の薬を飲み始める手筈だった。
「……異変などない。」
「嘘は言わない方がいい、見抜くのは得意な方だ。その異変、いつからどんな症状だ。」
 オメガの首のすぐ横に刀が刺さる。
 間違いない。俺が妊娠したかどうかを確認しようとしている。ならば隠し通した上で、生きてうちはに戻らなければならない。千手の捕虜になればどんな扱いを受けるかもわからない。
 ……悪いが、あのオメガを見殺しにしてでも。
「ただの風邪だ。鼻水と咳、一昨日から。そんな事を知ってどうする。」
「嘘は言わない方がいい、と言ったはずだ。見たところ消化器系が悪いようだが。」
 体調の異常は悟られないように注意を払っていたはずだ。……こいつの相手で手一杯で、もしかしたら何か兆候を見られてしまっていたのだろうか。
 扉間が何を聞き出したいのかはわかった。問題はそれを知って千手がどう動くかだ。俺を捕虜にして産ませる魂胆かもしれない。千手とうちはのあいのこなんて、……欲しがるに決まっている。特に千手柱間はずっと兄さんに手を結ぼうだの和睦だのと言ってきている。
 俺が今するべき事は扉間から逃げて兄さんの元へ戻る事、だけど速さでは扉間には敵わない。オメガの忍……道具として扱う為に敢えて名前は知らされなかったし名前で呼ぶ事は禁じられていたが、……そういう事か。
 あのオメガを利用して逃げ果せる為にはどうしたらいい。戦場までかなり離された。僅かに刃がぶつかる音がする程度だ。
 それはもしかしたら俺がオメガで、その事について言及する為に誰にも聞かれないようこいつなりに配慮したのかもしれないし、役立たずのオメガを連れた俺を引き離して不利にする為だったのかもしれない。
 もうこの手しかない。オメガの顔はこっちを見ている。その目に写輪眼を向けた。
 「それ用」のオメガの忍はいつでも発情期になれるように口の中に袋で包まれた薬を隠し持っている。発情を促すそれを噛み潰して袋の中の成分を飲み込めば、すぐに効果は現れる。
 抑制剤もタダではない、戦のたびにこのオメガを警戒して何倍もの薬を飲み続けるほど互いに金を持っているわけではないだろう。
「答えろ、消化器系の異常はいつからだ。」
 オメガの忍が目で合図を送る。飲み込んだらしい。効果はすぐに現れ始めた。徐々にそのフェロモンが強くなっていくのがわかる。扉間もそれに気がついたらしい。奴の呼吸が僅かに乱れる。オメガの髪を引っ張り顔を上げさせて口の中を確認しようとしたその瞬間に俺は瞬身と同時に均等にチャクラを練った影分身を無数に作りそれぞれの行き方で戦場に向け駆ける。
 兄さんの元へ、早く。
 オメガのフェロモンを間近で嗅いだ扉間は普段の力は出せまい。俺ではなく影分身のうちどれかでもいい、兄さんの元へ辿り着けば。
 戦場の様子が見える場所まで辿り着いた、走りながら兄さん、と叫びかけた口を息を吸い込んだところで背後から封じられる。
 ……まさか、オメガのフェロモンは? あれだけまともに受けてアルファが普段の力を出せるわけがない。
 背後に感じるチャクラと気配は確かに扉間のものだった。抱き止めるかのように胴に腕が回り口は手で塞がれ、アルファのフェロモンを出しながら扉間は息を乱さずに告げた。
「お前を連れ帰る、影分身を解け。」
 まだ兄さんの元へ向かう影分身が無数にいる。千手が何を考えているのかを伝えなければいけない。とはいえそこまでチャクラを分散させてしまっている。もうこの身に残っているチャクラも少ない。その上アルファのフェロモンを今度は俺がモロに浴びる事になってしまった。なるべく息をしないようにしても鼻腔に入ってくるそれは俺の身体から力を奪っていく。
 それなのになんでこいつは平気そうにしている、こんなにもフェロモンを出しながら……!
 抵抗が弱まったのを機に目に布が巻かれた。まだ兄さんの名を叫ぼうとしても腹に力が入らない。
「にい、さ……!」
 蚊の鳴くような声は戦闘に集中している兄さんには届かない。いつの間にか影分身も解けてしまっていた。
 ……もう、だめだ。策がなくなった。
 千手に捕まった絶望、それも、丸薬を飲めなくなる。それはつまり……あのオメガの忍のように……。周りがアルファばかりの中に俺は放り込まれる。
 ……兄さん、ごめん、ごめんなさい。見誤った。失敗した。俺がオメガとして産まれたばっかりに……。
 背中と足に手が触れたかと思うとふわっと浮くように抱き抱えられる。……このまま連れて行かれるのだろう。どうすれば兄さんへのダメージを最小限に抑えられる……。扉間を、戦場に出さなければ俺の不在による不利は起きないはずだ。扉間が戦場に行かないように俺が止める。捕まってしまった今、出来ることはそれぐらいしか思いつかなかった。