知られてはいけない(扉イズ版)

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創設期,成人向,長編,原作軸,完結済みオメガバース,オリジナル設定有,シリアス

平和の中で

 半年後に兄さんの元へ、うちはへ帰れる……!
 でもその半年後に何が起きるかはわからない。何せ千手柱間、あいつの考えは全く読めない。俺に子を産ませるのを諦めているとも思えない。
 ただ、うちはに帰すと言って血判まで押したのを裏切るとも考えづらい。半年後までは堕胎を試みずに様子を見ながら千手の中で暮らすしかない。
 俺の存在はやはり他の千手には伏せられているようでまた扉間の部屋で過ごす日々に戻った。まあ、吐き気がしたらすぐに洗面器と水を用意する便利な奴だと思えばそれほど苦でもない。扉間に近づくふりも続けよう。半年後に何かが起きた場合にその方が有利な状況を生みやすい。
 俺に騙されながら勝手に懐柔できていると思わせておけば、この身体でも隙を見せた時に殺すことも出来るかもしれない。
 座れば肩が触れ合うように隣に座り、本を読み始めたら一緒にそのページを読みながら会話をして、体調が悪ければ頼り、少しずつ言葉を変えていく。それだけで扉間は勝手に安心する。
「……なぁ、扉間。腹の中、これ。」
 まだ大きくなる様子のない腹を撫でながら扉間に声をかけるとじっと見つめ始める。
「……中でチャクラが動いている。」
「これって子どものチャクラ……だよな。」
 ろくに食べていなくても勝手に育っているらしい。俺はこんなに大変なのに腹の中の奴はいい気なものだ。
 ただそこに確かに命があると思わせるこれは扉間には有効だった。自分の子がすくすくと育っていれば父親であるこいつは喜ぶ。いつかこの子どもが腹から出てくるのを想像でもしているのだろうか。……滑稽だな。こいつは半年後に死ぬ運命にあるのに。
 半年間の平和は千手の奴らに歓迎されているらしかった。そのまま平和ボケして戦い方を忘れてしまえばいい。停戦はしているが戦争が終わったわけじゃない。半年後、俺は解放されて堕胎し、戦線に復帰出来るまで回復したその時には今度こそ扉間を始末してやる。
 それまでの束の間の平和をせいぜい謳歌することだ。

 マダラが兵を引き上げて帰った後、兄者が木遁で燃えた木々を元通りに生やして戦に出かけた者たちは何事もなかったかのように帰ってきた。
 うちはとの間で半年間の停戦が実現したことを告げると最初は戸惑っていたが戦わずに済む事を喜ぶのが大勢だった。それもそうだろう、出かけていた者たちの半分ほどはまだ18にもなっていない子どもばかりだ。
 父は弟が死んで悲しむ兄者の頬を張るような人間だった。肉親が、弟が死んで悲しくないわけがない。こんなのは間違っていると言った兄者の理想に、この停戦で一歩近づくことができた。
 ただイズナを返したら子どもは間違いなく堕胎させられる。兄者は俺とイズナの子を和平の架け橋にと言っていたがその線は諦めたのだろうか。それとも何か策があるのだろうか。
 半年後以降どう転ぶかわからない以上はまたいつでも戦えるよう準備はしておくべきだ。
 ただ俺たちは重要な事を見逃していた。大名からの依頼を停戦を理由に断る事で資金源がなくなったのだ。
 俺達千手が動く、となればうちはに話が行く。千手とうちはが停戦していると知って他の忍一族に打診が行ったようだがどこも千手は相手にできないと断っているようだ。
 束の間の平和を手にすることができたがその代わりに資金不足に悩まされることになった。どうにかして金を得る手段がないか考えるが何分大所帯だ、焼け石に水程度の金で一族を養っていくのは皮肉にも停戦を約束した半年後までが精々だった。
 だが資金難に関してはうちはも同じ状況のはずだ。戦をして金を得ようと考えるかもしれないし、その声は千手の中から上がるかもしれない。
 そういう事情も鑑みると平和が約束されているのはいいことだが内政面では素直に喜べなかった。
 米は農家と直接交渉をして商人から買うよりも安く確保することができたが米だけでは栄養が偏る。野菜は畑がある、それに季節は今から夏に向かう。夏野菜は次から次へと実るから半年間ならなんとかなるだろう。問題は肉や魚の類だ。魚は川に獲りに行くしかないが全員食べられるだけの魚を獲ろうとしたら川から魚が枯渇する。農家から鶏を買って育てることにしたがそれでもヒヨコから鶏になるまで時間がかかるし毎日卵を産むのは助かるが全員分というわけにはいかない。
 食糧事情がこれでは抑制剤も必要な分だけ、つまり俺が飲む分しか買えずうちはの丸薬を早期に研究改良してアルファが飲んでも効くようにしなければならなかった。しかしイズナがつわりの間は研究室に連れて行くにも横になれるスペースを作ってやらなければならない。狭い研究室、壁一面戸棚になっていて中央には台がある。横になれるスペースを作るのは難しかった。
 マダラが多量の薬を送りつけてきたのは幸いだったが問題の薬の解析もまだ終わっていない。課題山積とはまさにこの状況だろう。
 手の空いている者に行商以外のルートで安く物品を買える所がないか探らせながら日々あれこれの在庫を管理して研究も同時並行しながら当然イズナにもつきっきりでいなければならない。
 ただ食料の在庫や研究室にいる時間と比べたらイズナと過ごす時間は安らぎにも似た感覚があった。何せ最近は腹の中でイズナのものとは違うチャクラが動いているのがわかる。きちんと子が育っている証拠だ。
 父がああだったのは母の腹が大きくなり子が生まれる過程を見ることなく過ごしてきたからだろう。勝手に子どもが産まれて大きくなって物心着く頃には武器を握らせる、俺はそれを繰り返してきた父と俺は違う。父親としてきちんと愛したいといつかイズナに言った言葉は本心だった。
 まだイズナの腹が大きくなる気配はないが、もしチャクラだけでなく子が動き始めたらその腹に耳を当ててその様子を感じたいし元気かどうかはわからないが育っている事を喜びたい。
 イズナから腹の中でチャクラが動いていると聞いた時には本当にこの中にいるのだと実感させられて思わず腹を触ってもいいかと尋ねてしまった。
 別にいいよと言うイズナの腹にそっと触れてみたがイズナの身体から筋力が失われていっていることしかわからなかった。
 イズナはこのまま母になり戦士に戻ることはなくなるのだろうか、それとも母になる事を拒否して戦士に戻るのだろうか。
 どちらにしても何とも言えない歯痒さが残る。
 そんな折に、この集落に尋ね人が現れた。うちはマダラだった。

「マダラじゃないか! これは驚いたな、ひとりで来たのか?」
 うちはマダラを笑顔で迎え入れる兄者に皆が後退り何かが起こらなければいいがと不安そうな顔を見せている。
 兄者は多分そんなものは見えていないのだろう、上機嫌で屋敷にマダラを迎え入れて自室に誘った。停戦協定から10日ほどしか経っていないが何の用で訪れたのか。可能であればうちはの懐事情を探りたいところだが兄者がそこまで気を回して確認してくれるだろうか。
 皆が不安に思う中兄者の部屋からは豪快な笑い声以外聞こえてこない。どうもマダラが何を言っているのか兄者にしか伝わらない仕掛けを仕組んでいるようだった。
 だが兄者の声がでかいおかげで何の用事で来たのかは把握できた。どうやらイズナの様子を見たいらしい。今は俺の部屋で休んでいるが、イズナもマダラの姿を見たら恐らく喜ぶだろう。が、この2人を会わせてもいいものなのか。何か内通する可能性もある。しかし兄者の判断に委ねるしかない。
「扉間が言っておったぞ、腹の中で子供のチャクラが動いているとな! すくすくと育っておるようだ! つわりはまだ続いておるが扉間が献身的に世話をしておるから心配は不要ぞ!」
「おお、これは助かる! どのように保管したらよいか」
「芋餅しか口に出来んらしくてな、これならば口にできるかもしれん」
「俺はあの子が産まれるのが楽しみでならん。千手とうちはの間の子だ、きっと賢くて強い子になるぞ!」
 ……兄者はほんの10日前にマダラが産ませる気はないと言ったのを忘れたのか押し切ろうとしているのか……マダラの方が何と言っているのかわからないがそれは悪手だろう……。
 しかしマダラの要求を全て聞き入れたわけではなさそうだった。1時間ほど滞在してイズナには会う事なくうちはマダラは立ち去った。
 兄者の部屋に入り、どんな話をしたのか聞くがうちはの側も半年の停戦に関しては歓迎されているらしい、としか聞き取れなかった。
 もっと聞くべきことがあっただろう兄者……!
 しかし俺がマダラと話をしたところで情報は引き出せないだろう。マダラから見ればイズナを攫ったのは俺なのだから気を許す要素が何もない。
 あんな歩く爆薬庫のような奴がこのように気軽に千手に来られてはたまったものではない。というのは他の者も同じらしい。マダラが完全に立ち去ったのを確認して皆が胸に手を当ててほっと一息ついていた。機嫌がいいのは兄者だけだ。
 その兄者から何やら重い箱を渡された。マダラがイズナのために持ってきたらしい。蓋を開けるときはすぐに中のものを取り出してまた蓋をしなければいけないらしく、イズナの元へ持っていき2人で箱を覗き込む。中にあったのは色のついた氷だった。そしてこの箱は氷が溶けにくい構造らしい。……うちははこんな技術を持っているのか。
 試しに、とイズナがその色のついた氷を口に入れた。
「……果汁だ、果汁入りの水が丸い形に凍ったものだ。」
 そういえば前産婆が氷を口に含ませるといいと言っていたが、マダラも同じように産婆に聞いたのだろうか。
 口の中ですぐに溶けたようだがイズナはこの果汁が含まれた氷を気に入ったようだ。なら最後のひとつまで解けないように保管しなければ。この箱自体を涼しいところに置けばいいだろうか。
「これが食べたくなったら言ってくれ。台所の穴蔵に保管しておく。」
「わかった。温存しておきたいが解けても困るな。加減が難しい。」
 全て食べ終わったら構造を調べてみよう。同じものが作れるかもしれない……が、財政的に果物を買うのは難しい。果汁だけでも安価に手に入るといいのだが、それを丸い形に凍らせるには水遁の応用か、もしくは氷を扱う商人を探すか……。
「また難しいこと考えてるの? 軍師様は大変だね。」
「……その言い方はやめてくれ、普通に扉間でいい。」
「はいはい、わかったよ旦那さま」
 普通に呼ぶ気がないのか、それともこの「旦那さま」というのは……時々口にするが、どういう意図でその言葉を選んでいるのだろうか。
「俺はイズナとは祝言を挙げていない。旦那さまは違うだろう。」
「けど扉間の行動はもう"旦那さま"だよ、気が早いよなほんと。」
 ……この言葉の意図は何だ?
 行動が旦那さまとは……イズナの夫のように振る舞っていると言いたいのだろうか。……俺がイズナの夫になるなどあり得ない。胎の子の父親ではあるが……。
 気が早い……というのも引っかかる。いずれ本当にそうなる、と言いたいのだろうか。わからない。
「どういうところが"旦那さま"なんだ。」
「自分でわかってないなら気にしなくていいよ。しかし氷美味しかったなぁ、久々に味のあるものを口にした気がする。」
 よくはわからないが機嫌が良さそうだから放っておこう。半年後に帰れるとわかってからは平穏で何かしようとする気配もない。またあのチャクラのクナイをいつ作るかと心配していたがもうそうする気はないようだ。

 俺の訪問に柱間は露骨に喜んでいたがあいつは半年が過ぎたら俺が和睦に応じると思っているのだろう。
 イズナの胎の子に関しては言及を避けたが自ら喋ってくれたおかげで取り敢えずは無事に過ごせている事はわかった。
 扉間が世話を焼いているようだがイズナが扉間を取り入れようとしているのだろうか。もしそうであれば半年後の戦で多少優位を取れる可能性もある。
 ただイズナは堕胎で身体に負担がかかるだろうし運動できない部屋の中にいては体力も動きのキレも持久力も何もかも落ちている。戦はその回復を待って万全の状態になってからでいい。それまでは停戦協定がずるずると伸びているふりをするだけだ。
 しかし千手の奴らの様子。アルファが抑制剤を飲んでいない。それに前回には見かけなかった鶏、米俵……食料の確保に苦心しているように見えた。収入源がなくなり金に困っている……と見て良さそうだ。蓄えが十分あるうちはよりも状況は悪そうだ。停戦が明けたら金のためにすぐ戦を、となるかもしれない。
 用心するに越した事はないな。
 時折様子を見にきてみるか。俺が赴けば柱間は喜んで色々喋る。俺が度々訪れれば停戦明けに和睦となると勝手に勘違いしてくれる事だろう。
 ただ、窮した鼠は何をするか分からない。
 折を見て援助でもしてやるか。あの様子だと肉や魚の入手が一番難しいはずだ。干し肉でも土産に持っていけば和睦を選ぶに違いないと勘違いする奴も増える事だろう。
 停戦明けすぐの戦はイズナがいない分不利だ。和睦を期待させておく方が都合がいい。
 ……この半年、無駄に過ごすと思うなよ。