知られてはいけない(扉イズ版)

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創設期,成人向,長編,原作軸,完結済みオメガバース,オリジナル設定有,シリアス

「イズナはまだ見つからないのか!!」
 部下に苛立ちをぶつけたところで状況が変わらないのは分かっている。探知型の者ばかり集めて組成した捜索隊に向かわせるも定時連絡は同じ内容ばかり。
 扉間と戦いながら戦線を離脱したところまでは目撃者がいたがそれぞれが戦いの真っ最中でそれ以上先まで見ている余裕はなかった。唯一見つかったのはオメガの忍だけだった。それも遠くからでもわかる発情期のフェロモンでわかった程度だ。抑制剤を何倍も飲んでその者に話を聞いたが、扉間から逃れるために発情を促す薬を飲んだ後のことは覚えていなかった。
 発情期のオメガをそのままうちはに連れ帰ることはできず荒屋で安全の確保だけ行い引き続き捜索を続けさせているが、俺たちの元へ逃げたはずのイズナはどこを探しても見つからない。薬を飲まなければオメガのフェロモンももう出てしまっているだろう。千手に捕まったと考えるのが妥当だが、丸薬を6つしか持っていないイズナが薬を飲めたとしても残された猶予はあと5日。5日経てばイズナはオメガだと露見するだろうし何より胎の中には扉間との子がいる。
 扉間がそれに気がつくだろう、あいつは聡い。そうなったらイズナと胎の子両方とも千手が何かしらに利用しようとするのは火を見るより明らかだった。
 ただひとつ幸いなのはまだ死体が見つかっていない事だけで他の状況は最悪だ。
 自ら探しに出たいところをぐっと堪えて屋敷の前をうろうろしながら心中は荒れていた。他に人材がいないからとイズナに背負わせ過ぎてしまっていた事、扉間に対してもっと警戒すべきだった事、何もかも俺のせいだ。イズナを先陣に復帰させるべきではなかった。いかにイズナが希望したとしても扉間と戦わせるべきではなかった。
「マダラ様! 千手から書簡です!」
 走ってきた部下から奪うようにそれを手に取りその場で中を確かめる。柱間からだ。内容はいつもの和睦の呼びかけ。しかし最後に一行いつもはない文面が記されていた。
『うちはイズナは預かったが、丁重に扱うので安心して欲しい。』
 やはり千手に……! 弟を攫っておいて何が和睦だ……!
「……書簡の返事を書く、持ってきた奴を待たせておけ。」
 部下はすぐに戻って行った。
 今日から飲むはずだった堕胎の薬、丸薬の予備。この二種類は見た目や臭いで見分けるのは難しい。これをイズナに渡せたら……!
 作ってある薬を全て袋に詰め込んだ。堕胎の薬も混ざっている。これを書簡と一緒にイズナに渡すように言いつければいい。
 これまで直接千手の棲家を狙うなどした事はなかったがイズナが囚われているならば乗り込んで片っ端から叩き斬ってやりたい。だが千手はイズナを人質に取るだろう。奴らも馬鹿ではない。特に柱間は俺がイズナをどれだけ大切にしているか知っているはずだ。
 イズナを預かったとしか書かれていない書簡、普通こういう人質を得た時は「返して欲しければ」と続くものだがその記述はなかった。返すつもりはない、という意志を感じる。何故か、……十中八九妊娠のせいだ。扉間の子がいる事を分かっていやがる。産ませるつもりだ。
 ……絶対に阻止しなければならない。
 イズナを利用することも、その胎の中の子を利用することも許さない。
 絶対にイズナは助ける、どんな手を使おうと……!

 最初は布団一組だけでまさか扉間と一緒に寝ろとでも言いたいのかと思ったが、それも読まれたらしくもう一組布団が出された。俺の意思を尊重するというのはその行動を見た限りではそのようだった。何事も起きないまま布団に入り寝たふりを決め込んでいたが扉間も同じ事をしていたらしく、背中を向けていたが声をかけられた。
「戦の後で疲労もしている、何もしないから大人しく寝ておけ。」
 大切な客人と言ったが捕虜の扱いは本当にしないらしい。とはいえ言われた通りに眠ることもできずそのまま朝を迎えた。
 互いに一睡もしないまま布団は片付けられ、影分身を作ってそいつを部屋の外に出してからしばらく、同じ部屋の中で一言も話さないまま俺は膝を抱えて座っていた。
 兄さんはきっと心配しているだろう、何か連絡を取る手立てはないだろうか。
 伝令用の鴉もうちはの屋敷にいる。扉間が四六時中見張っている中で隙を見て、というのは出来なさそうだ。少なくとも一週間程度はこの見張りが緩む事はない。今は連絡を取るのは諦めて次の戦に扉間が行かないように仕向ける事に集中すべき。
「厠に行くがお前……イズナも来い。」
 用を足すときでさえ俺を一人にするつもりはないらしい。その執着自体は歓迎するべきだった。もっと俺から目を離せないようにすれば俺を置いて戦に行くこともないだろう。扉間が用を足すのを待って俺も厠に入った。扉が閉められたのを確認して簡素な内鍵を閉め、用を足してから俺は腹を思い切り殴った。
 当然扉間が鍵ごと引っこ抜いて扉を開けて俺を羽交締めにしてやめさせようとする。少しでも油断したらこうなるぞと言外に秘めながら羽交締めにする扉間に全力で抵抗した。
「そんな事をするなら用を足す間も見張らざるを得ない、そんな生活を望んでいるのか……!」
「俺は捕虜だ。そんな生活こそが捕虜には相応しいんじゃないのか?」
「イズナは捕虜ではないと、言ったはずだ。疑っているのならこれから証明する。だから馬鹿な真似はやめろ!」
 そんなやりとりをしていると、ふたつの気配が近づいてくる。扉間の影分身と……千手柱間か。
「随分と威勢がいいの。ふたりとも落ち着いて朝飯でも食おうぞ。」
 言葉は穏やかだが有無を言わせぬ強い威圧を感じて思わず抵抗の手を止めた。兄さんと渡り合う千手の長だ、言う通りにしなければ最悪。
「……抵抗しないから離せ。」
 扉間も素直に拘束を解いて、扉間の部屋で三人で飯を食う事になった。
 昨日あれだけ扉間に子宮を突かせたのに期待した効果はなかったようだ。まだ妊娠初期だ……やはり堕胎の薬でなければ簡単には下ろせない。
 ごく普通の食事を出されたが食べる気にはなれなかった。むしろ白米の匂いに吐き気がする。
「俺はいい」
 食事が盛り付けられた皿を遠くに押しやり後ずさった。……気持ち悪い。しかし吐くにしても厠にひとりでは行かせてもらえない。
「……妊娠しているのは確かなようだの。扉間、厠に連れて行ってやれ。」
 扉間は箸を揃えて置いて、俺の腕を引いた。連れて行かれるがままに先程の厠に、扉は開けたまま入れられた。吐くものなど胃の中に何もなく、胃液だけをえずきながら吐いて肩で息をする。いつの間に用意していたのか水の入った湯呑みを差し出されて、口の中をゆすいで吐き出した。
「……落ち着いたか。悪かった、その身体に配慮するべきだったな。」
 しかし千手柱間は何故三人で食卓を囲もうとしたのか。元々扉間とは食事を共にしているのかもしれないが、俺までそこに加えられるのは居心地が悪い。扉間と二人の方が余程良かった。
 部屋に戻ると食事は片付けられていた。扉間はほとんど食べていなかった気がするが、こいつの事はいい。問題は千手柱間がまだそこにいる事だった。
「そう警戒するな、取り敢えず座ってくれ。」
 威圧ではなく今度は柔らかい物言いだ。だが有無を言わせない圧を感じるのは変わらない。
「……何の用で会いに来た。」
「マダラが大事にしておる弟が同じ屋敷におるのだ、顔を見たいと思うのは普通だろう。」
 戦場で兄さんとやり合っている姿しか見たことがないがどうやら穏やかに話をするつもりらしい。こっちは話すことなど何もないが扉間と少し離れて腰を下ろした。
「して、イズナ。俺の望みを言っておこう。扉間と愛し合えとまでは言わんが、歩み寄る事は出来んか。知っておると思うが俺はうちはとの戦をやめて手を取り合いたい。イズナと扉間がその先駆けとなってくれたら嬉しいのだが。」
 ……和睦と煩かったのはこいつ、まさか本気でそんな事を考えているのか。うちはの者がどれだけ千手に殺されていると思っている。手を取り合うなどあり得ない。扉間に歩み寄るのもまたあり得ない。
 この男は何を言っているのか自分でわかっているのか。
「そんな顔をされても仕方がない、俺の考えは千手の中でも歓迎はされておらん。だからこそお主ら二人には、と思ったが。胎の中の子のこともある。……もし和睦が実現しないならば、イズナはこの先の一生この屋敷で過ごしてもらう事になる。よく考えてくれ。」
 穏やかな声で言ってる事は無茶苦茶だ……扉間と手を取り合えと、でなければ一生ここで? 兄さんと会う事はもう叶わないと……そういう意味だ。これは明確な脅しだ。
「……兄者、少し言い過ぎではないか。」
「事実を述べたまでだ。イズナ、くれぐれもよく考えてこの先の身の振り方を決めてくれ。……俺もマダラの大切な弟に手荒な真似はしたくない。イズナの無事はマダラに伝えておくからそこは安心してくれ。」
 そんな事を伝えたところで兄さんがどんな行動を取るのか……多分こいつ何も考えていない。千手柱間は頭がおかしい。しかもおそらくそれを本人が自覚していない。なのに馬鹿みたいに強い。どんな突拍子もない命令でも千手の奴らは従うしかない。……だからその弟の扉間はこんな奴になったのか。
 静かに立ち上がり、千手柱間は扉間の部屋から出て行った。
 千手の内情を垣間見て何とも言えない気持ちになったがこの男の意見が千手の総意である以上、真逆の事を……扉間と邪険になっては次はどんな脅しをかけてくるのか予想もできない。
 最悪なのは俺が死ぬ事だ、それだけは避けなければならない。しかし千手柱間は俺をそのようにする気は今のところはない。屋敷の中に囲い続ける方針のようだ。
「不安に思わせたと思うが悪かった。見ての通り、兄者は極端でかつ思いつきで物を言う上に真剣で頑固だ。……だが兄者が長である以上ある程度従わなければならん。だから俺はイズナとは歩み寄る必要がある。イズナがどう受け取ったかはさておき、俺達の考えは伝わったと思う。」
「……少なくとも暴れたり屋敷を壊したりそういう事をする気は失せた。その点は安心しろ。」
 扉間はふう、と息を吐いた。ほっとしたのか、それとも別の意味なのかはわからないが。
「お前……ろくに食えなかっただろ。何か食ってこいよ。」
「……俺を気遣っている風に見せてひとりで何かやろうとしているだろう。飯はいい、昼に食う。それより丸薬だ。屋敷の外にある俺の研究室に行く。適当に変化して着いて来い。」
 ……関係を、一見良くなっているように見せかければもしかしたら出し抜ける油断が生まれるんじゃないか。扉間に協力的な姿勢を見せながら、堕胎の方法を考えつつ、かつ扉間が俺から目を離せなくなる状況を作る……俺に死なれたら困るのは千手とて同じだ。子が死ぬのも都合が悪いはず。子が死ねば発情期になれる。いくらここが隔離された場所とは言え発情期のフェロモンは外の他の奴らまで届くだろう。……千手を崩す好機になる。それまでに兄さんと連絡を取り合う方法を何か考えなければならない。
 千手柱間は兄さんに伝えると言った。あいつは連絡方法を知っている。扉間もずっとそばにいたのであれば知っている可能性がある。扉間からそれを聞き出すにはやはり歩み寄ったふりをして何気ない会話の中で確認するしかない。知らないと言われればそれまでだ、他の手段を考える。
 しかし……扉間も少し気の毒ではある。あんなのが兄で長な訳で、千手柱間が突拍子もない事を言い出しては現実的な話をして宥めるのを今まで繰り返してきたんじゃないのか。宥めたところで止まらないかもしれないが、"言い過ぎではないか"と言える程度にはものを言える関係だ。
 戦場では厄介な相手だったがこの屋敷では、というよりあの兄の前では苦労人のように見える。おかしな兄を持つと大変なものだな。
「変化しろと言われても、千手の奴らの装束を知らない。それともうちはのように決まった装束はないのか。」
「……ああ、そうか。大体上は白の着物で下は袴だ。着物の背にはお前らうちはと同じように千手の家紋がある。袴の色は……灰色か黒が無難だな。」
 聞いた通りに変化して見せた。問題ないらしい。
「見かけない者だと声をかけられるかもしれんが俺が適当に誤魔化す。こっちだ。」
 扉間から手を差し出される。手を取れ、ということか。その手に俺の右手を載せると、指を絡めて手を繋ぐ形になり、そのまま歩き始めた。
 いくら兄から言われているとはいえ、こいつ順応するのが早いな……まあ、扉間が積極的な方がこちらも演技はしやすい。
 嘘を見破るのは得意らしいが、……必ず出し抜いてやる。