知られてはいけない(扉イズ版)

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創設期,成人向,長編,原作軸,完結済みオメガバース,オリジナル設定有,シリアス

一族の者

 あれこれと話しかけてくる柱間を適当にあしらいながら来た道を戻る。しかし戻る頃には夜だ。柱間は泊まり込むつもりなんだろうか。
「うちはの民が平和を喜んでいるところを早く見たい、あの河原からそんなに遠くはないのだろう。……また水切りをしていた頃に戻りたいものだ。」
「戻ることはできないな。……うちは一族の者を見ればわかるだろう。」
「おお、そうだ。マダラが和睦について話すのを避け続けているのがずっと気がかりでな。……民は納得していないのか。平和になったというのに。」
「それも見たらわかるだろう。お前が言うほど和睦というものは簡単な話ではない。だが俺は出来ることなら若い者が死ぬことのない世界にしたい。その点は柱間の意見に同意している。」
 ただ、それの実現のための手段が和睦か、千手を壊滅させるかの違いはあるが。

 マダラの話通りに夕刻にうちはの敷地を跨ぐ事になった。しかし入る前から視線を感じている。それは好奇心や興味のそれではない、明確な俺への憎しみの視線だった。……なるほど、例えマダラが和睦を望んでいてもこれでは実現が難しいわけだ。
 武装した者もそこここに見かける。停戦中なのに何故。
「俺達の依頼主は心配性でな。停戦で俺達の腕が鈍っては困るといつでも動かせるように準備をしながら若者の鍛錬も欠かさず行なっている。」
 マダラの屋敷らしき中に入る。5人兄弟だっただけに屋敷の中はそれなりに広いようだった。
「どうすればうちはの者が和睦に前向きになってくれるだろうか。」
「難しい話だな。知っているだろうが成人していない者もほとんどが写輪眼を開眼している。……つまり親しい者を千手に殺された者ばかりだ。うちはの者も愛情は強い。その分失った時の憎しみも強い。」
「和睦によって誰も死なない世になると言ってもか。マダラの話では民も停戦を喜んでいると聞いていたが、あまり喜んでいるようには見えなかったぞ。」
「ああ、喜んでいる。しかし柱間の顔を見て憎しみを思い出したのだろう。これまで根回しを続けていたがまた振り出しに戻ってしまったようだ。」
「俺が来たことで逆に、と。」
 柱間は真剣な顔で悩み始めた。……どうせこいつのことだ、千手でしてきたように和睦のメリットを訴えかければ話を聞くとでも思っていたのだろう。
 だが目に見せてやったことで考えが甘かった事を自覚したはずだ。
「あと3ヶ月、民意をどう誘導するかは俺も苦心している。もしも約束の期限までに間に合わなかった場合は、停戦の延長も考えなければならない。俺とて出来ることなら和睦を前向きに、と言いたいところだがこういう実情があってなかなか思うように運ばないわけだ。」
 ため息をつきながら窓の外へ視線を向ける。
 柱間は黙り込んで何やら考えているようだが、うちはに来たところで、何をどう言おうがうちはの感情は変わらないとあの視線に包まれながら身をもって知ったはずだ。
「イズナに関しても千手の元にいる事は全員知っている。半年もの間姿を見せないのは不自然だ、言わざるを得ない。お前はいい事を思いついたつもりでいたのかもしれんがうちはにとってはイズナを人質に有利な条件を引き出そうとしている卑怯者としか映っていない。」
 神妙な面持ちのまま、柱間は普段の元気はどこかに置き忘れてきたらしい。
 この際だ、言いたいだけ言っておこう。
「イズナに命を救われた者は多い。若い者達の面倒もよく見ていた。そのイズナが千手に囚われている、という状況に俺だけでなく多くの者が怒りに震えた。停戦明け……3ヶ月後までイズナは返ってこない。返ってこない限りそいつらが溜飲を下げる事はない。柱間、お前がとった手段はそういうものだ。」
 まだ押し黙ったままだ。しかし柱間には和睦の可能性を……希望を持たせておかなければならない。地に叩きつけた上で手を差し伸べてやろう。
「独断専行で一族が皆着いてくるなんてのはお前のやり方が強引すぎるだけだ。一族同士の話とならば一族の者の話にも耳を傾けるのが普通でお前がやっているのは暴君と変わらん。俺はイズナももちろんだが一族を大事にしている。……和睦は俺さえ頷かせればそれでいいなんて単純な話ではない。」
 ……言い返す気力もないのかそれとも何か変な事を企んでいるのか、柱間はやはり俯いて黙ったままだ。
「こういう状況だ、泊めてやりたいのは山々だがお前の夢とやらを実現させたいならばさっさと立ち去った方がいいぞ。千手を恨んでいる者ばかりだ、お前がこの場にいるというだけで殺気立っているのを感じているだろう。」
 柱間を泊めれば……いや、こいつは油断しないだろう。これだけの殺気に囲まれながら熟睡するとも思えん。寝首をかいて首をとりたいところだが実現する可能性は低い。
 次にどう言ってやろうかと柱間を見下ろすと俯いたまま口を開いたようだった。
「……俺はマダラさえ説得できればと思っておった……考えが甘かったのは理解した。少なくともイズナを無事に返すまではうちは一族の意思は変わらんという事だな……。」
 当たり前だ、イズナを人質に取り何かすれば殺すなどとほざいてきた報いだ馬鹿め。しかしこいつがすんなり理解するとは、よほど思い描いていたものと現実の差が大きかったのだろう。
「そうだな。だが本当にイズナが扉間と想い合っているというのなら、イズナと共に一族の説得を試みるつもりではある。だから停戦期間が明けたとしても千手も戦を断れ。戦になれば少なからず人は死ぬ。イズナが帰ってきたとしてもまた人が死ねばうちはの民意が和睦を選ぶ事はなくなるだろう。」
「内情は……わかった。ただマダラが頑なに拒んでいるだけかと思っていたが、……一族というものを俺は軽んじ過ぎていたようだ。マダラの話の通りに、今日はもう切り上げることとする。……だが俺と同じ想いを抱いているならばマダラ、俺がこの先うちは一族に対してどう振る舞ったらいいのかを教えてくれ。……和睦を諦めたくない。うちはも千手も、もう誰も死ぬことがない世にしたいのだ。頼む。」
 馬鹿正直なのはこいつのいいところでもあり悪いところでもある。素直に引き下がる判断をしたのは褒めてやろう。また殺気が込められた視線を全方位から浴びながら帰るのだろう。和睦とやらがいかに実現の可能性が低いのか理解したはずだ。しかしイズナと扉間はこいつの中では夫婦のように仲睦まじい認識だ。そのイズナがうちはに戻る事で和睦の実現が近づくのであれば約束よりも早期にイズナは戻ってくるかもしれない。
 しかしこのタイミングは少し中途半端だ。イズナも完全に扉間を落とせてはいないだろう。……いや、離れる事で扉間側が執着を見せるかもしれない。ただ仲睦まじいだけではない、イズナの胎には扉間の子がいる。
 3ヶ月。この期間で千手を落とす準備をしっかり整える。イズナは扉間を。俺は柱間の相手を。そして若い者達には復讐心を。それぞれ少しずつ育てていけばいい。

 夜遅くに兄者が1人で帰って来て何があったのかと思わず駆け寄った。時間的にうちはを訪れるならば泊まるのかと思っていたが、何やら随分落ち込んでいるようだ。兄者は基本あまり落ち込まないが、落ち込み始めると厄介だ。
「兄者、こんな暗い中ひとりで帰るとは何かあったのか。俺が話を聞く。ともかく一旦屋敷に。一族の者がそんな姿を見たら不安がる。」
 兄者は落ち込みながらボソボソと話す。
「……扉間は、きちんと民のことまで見えておるのだな。俺には見えていなかった。……俺は一族の長としての適性はない……。」
 こんな落ち込み方をするとはうちは一族の集落でマダラは何をしたんだ……想像するしかないが……、マダラが民の声をしかと聞いている様子を見たのだろう。しかしそれにしてもここまで落ち込むものだろうか。
「兄者は確かに一族の長としての適性はないかもしれんが、その弱点を補って余りあるカリスマがある。千手一族は皆兄者が向く方向に向かうのが正しいと信じている。得手不得手は誰にでもある。俺は民の様子には機敏だが、それに対してどう行動してみせるかは兄者には敵わん。」
 屋敷の玄関まで来て、上がるように促すが兄者の落ち込みが治る様子はない。
「千手はそれでいいのかもしれんが、うちはは違った。……マダラは正しい。」
 うちはで一体何が……あったのだろうか。
 兄者をなだめすかしながらどうにか部屋まで連れて来て、どかっと座り兄者にも座るよう目配せした。
 落ち込んだままの兄者の話をまとめるとこうだった。
 うちは一族は千手への恨みと憎しみを隠そうともせず兄者に殺気を向け続けていた。イズナを千手の元から手放さなかったことでイズナを慕っていた者は特に怒りを抱えている。その状況ではいかにマダラが和睦をと思ったところで民が納得しない。イズナを返さなければ話し合いの余地すらない。
 ならば、今のイズナであればイズナを慕う者達に和睦の声をかけるように頼めばいい。平和であることの尊さは誰よりもイズナがよく理解してあるはずだ。平和の象徴である子だっている。……マダラが何を考えているのかはまだ読めないが、仮に民の感情が和睦の阻害となっているのであれば俺たちはその阻害を乗り越えるなり解かすなりしなければならない。しかしあのマダラが実は和睦を望んでいた、というのも違和感がある。……マダラが次に訪れた時に話を聞かなければならなくなった。マダラ自身もまた和睦など望んでいないのであれば、俺たちや兄者が考えていた未来は来ない。

 どうも台風に何かあったらしい。チャクラが乱れている。兄さんが何か仕掛けたのだろうか。……まあ、俺がやるべき事は変わらない。扉間の懐柔……しかし兄さんから油断するなと言われたからには先入観を捨てて観察し直した方がいい。俺のやり方のどこかに危うい部分があるはずだ。それはどこだ。基本に立ち返って考え直す必要がある。……ここでの生活に慣れ過ぎて油断している部分は確かにあったかもしれない。
 ひとつひとつの細かい動作と反応をよく見る事、全体を俯瞰して見て不自然がないか確認する事、そして扉間も台風も決して信用はせず常に嘘の可能性がないか確認しながらその時取りうる最良を積み重ねていく事。
 ……油断するな。
 兄さんがそう言った理由がどこかに必ずある。

 ……何かあったとは思ったがどうしてこうなるんだ。次の日の朝から台風と共に食事を囲む事になった。扉間も申し訳ないと言っていたからいつもの思い付きで強引に推し進めたんだろうけど迷惑この上ない。扉間も台風の前では俺といちゃつくのは遠慮しているようだった。
 四角い机に台風、扉間、俺の順に座って、扉間は俺と台風が隣り合わせにならないよう気を遣ったのかもしれないが台風の真向かいで食べる食事はどうしても不味く感じる。
 いつもと違うところがあるとすれば穏やかだったり機嫌が良さそうなところばかり今まで見て来たが今日の台風は嫌に大人しいし言葉数も少ない。台風が喋らないから扉間も喋らない。この状況は一体何なんだ。それとなく台風を観察するがどうも……気分が落ちている? 落ち込んでいるのか自信を失ったのか、台風にもそんな感受性が存在したのかと驚きを隠せないがどう観察してもやはり何か滅入っているようだ。
 早々に食べ終えてこの場から立ち去ろうと思ったら、箸を置くと台風が重い沈黙を破った。
「イズナは多くの者から慕われておるとマダラから聞いた。それは確かか?」
 食べ終えるのを待っていたのか。問われたからには答えなければならないが、こいつが聞き出したいのは何だ。落ち込んだ様子、自信……自分が一族の奴等から慕われていないと今思っているのだろうか。
「俺は慕われようとして動いた事なんてない。慕われたいと考える事自体が傲慢だ。慕われるというのはただの結果で、肝要なのは誠実に愛情をもってするべき事をする、その一点だろう。……部屋に戻って昨日の将棋の続きを考えたいんだけど。」
「傲慢……か、なるほど。誠実さと愛情……。」
 どうでもいいから早くこの場から立ち去っても良いと許可を出してくれ……。
 ……いや、これは逆に好機……か。台風に恩を売るための。
「何故俺にそんな事を尋ねるんだ。人心の把握なら一族の長であるあんたの方が長けているだろう。」
 などとはこころにも思っていないが一応持ち上げておく。この様子がたまたま今単にそういう気分なのか今後も続くのかはわからないけど、民からの信頼を得るという点において今自信を喪失しているならば好都合だ。
 台風は一応、自称夫の兄の立場だ。俺にとっても兄と言える。という体で話を聞けば何か引き出せるかもしれないし、あわよくば恩を売れる。親身に話を聞くだけで俺はこいつらの「身内」という立場を確立できる。
「それがなかなか難しいと思っておる。戦闘においてはいいのだが……もううちはと戦闘はしたくない。であれば平時……平和になった今どのようにすれば民から慕われる長となれるのか……。」
「……長の立場でも悩む事があるんだね。ただ俺に聞くのは人選が間違ってる。扉間に聞くのが一番良いんじゃないのか。2人で共に一族を引っ張って来たんだろう。……それにまだ俺は扉間の配偶者の立場じゃない。」
 扉間と柱間が同時に身を乗り出した。
「イズナはもう扉間の妻だ、家族も同然ぞ。俺はイズナは身内のつもりだ。」
「俺達はもう夫婦と変わらん、兄者のことも実の兄とまでは言わないが、義兄と思ってくれ。」
 ……こいつら、何なんだ?
 恐ろしくチョロいのか何か裏があるのか、判断しかねる。……が、前者の可能性がある以上、身内としてその懐に潜り込ませてもらおう。